SHALONE SAGA

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フォースの章3−8




 フォースは金山の入り口に現れた。勿論扉の内側だ。

 闇と静寂が支配している世界。だが、奥の方から奇妙な音が聞こえてくる。

 ゆっくりとフォースは近づく。

 どのくらい奥まで進んだのか、やがて信じられない光景がフォースの目に飛び込んできた。

 何人ものアウトサイダーが群がっている。その中には、あの泉で見た者と同じような化物が何人もいた。

 元々人間であった者達・・・彼女たちはフォースが近づくのも気がつかない。

 彼女たちの体から一本の管が奥まで続いている。

 フォースはその一本を掴むと、そのまま切断する。管の先にいた化物が叫び声をあげると、そのまま干からびてしまった。

「やはり、助けることは出来ぬ・・・か」

 不思議と、周囲のアウトサイダーは襲ってくることは無かった。

 フォースは奥に足を進めた。

 大きくえぐられた岩に、アウトサイダーはいた。だが、体の半分は落盤によって潰されているようだ。

「全く、自分の情けなさにあきれ果てるな」

 アウトサイダーは頭をもたげながらフォースに話しかけた。

「こんな岩ごときに身動きが取れないとは」

「だから、子を成してここから抜け出そうとしたのか?」

「ああ、最初はな。だが今はそんな気はない。子供らは人間どもの取引の為に金を掘らせている。

 わしはここで人間がわしによこした雌を抱ければそれでいい。あとは要らぬ。放っておいてくれないか?

 わしはお前との戦いから手を引く」

「そうもゆかぬ。目的が何であれ、お前は人々に対しての悪害には違いない」

 ぐふっとアウトサイダーは笑った。

「そういうと思ったよ」

 突然、周囲から鋭い剣先のようなものがフォースの立っていた場所に何本も突き出された。

 フォースは素早く剣を抜き、それらを切り捨てる。

「人間がなんだというのだ。己の欲の為に、何も知らぬ者を平然と差し出すのだぞ。あいつらが言い出したのだ。

 わしは何も要求していなかったのに! あいつらの心の中にこそ本当の邪神が生きているのではないのか?

 アイーンよ! そうではないか?」

 絶叫に近いアウトサイダーの声が響き渡る。

「・・・そうかも知れない。だが、それは我々が決める事ではない。この世界は我々のものではないのだよ。

 善悪の判断は俺達が決めることではない。彼ら自身が自分達で決めることだ」

 フォースは軽々と飛び上がると、アウトサイダーの眉間に剣を突き立てた。

 金山を揺るがすような絶叫が響き渡る。

「・・・アイーンよ。ならば我々は一体何の為に生きているのか? 我々には己の未来を決する権利すらないのか?」

「俺達は何も持っちゃいない。元々この世界にいてはいけない存在なのだから。・・・残念ではあるがな」

「そうか・・・だがアイーンよ、お前はまだいい。人の中に生きてゆくことが出来る。わしらはそれさえ出来ない。

せめて・・・人前に出れるだけの体さえ・・・あれば・・・」

「・・・?」

 何が言いたいのか。見上げたフォースの目の前で、アウトサイダーの体がゆっくりと崩れ始めた。

 ふと、その体の下にぽっかりと空間が広がっているのが見えた。その中にあったのは小さな塊・・・。人の遺体だ。

 相当古いのか、ミイラ化して干からびている。

 フォースが確認しようと一歩踏み出したとたん、そのミイラの上に瓦礫が振りそそいだ。

 呆然と、フォースは天井を見上げた。

「まさか。あの遺体を守っていたのか?」

(人の中で生きて・・・)

 先のアウトサイダーの声が蘇る。

 一体何があったのか、誰も答えを知るものはいない。

「・・・そうだな。アウトサイダーよ。俺達だって心を持っているんだものな・・・」

 フォースはゆっくりとその場を去っていった。





 闇に響く咆哮が周囲の山々を覆った。

 サリーが反射的に顔を上げる。

「ん・・・」

 ライルがゆっくりと目を開けた。

「気がついた?」

「サリー・・・ここは?」

「水車小屋よ。もう大丈夫」

 ゆっくりと辺りを見回す。

「・・・フォースは?」

 サリーは首を振った。

「そっか、行ってしまったのね」

「フォースから伝言を頼まれているの。その痣はシャルーンという神様の印なんですって。

 今はアイーンという名の一族の印だそうよ」    

 ライルはじっと自分の痣を見つめた。

「・・・そういえば、アウトサイダーが言っていた。私がそのアイーンの妻だと・・・どういう事かしら」

「妻・・・ねえ」

 ライルは自分とフォースの関係を知らされていないらしい。

「そうだ、フォースに助けてもらった時同じものを見たような気がするんだけど、何処で見たんだっけ・・・」

 朦朧としていた記憶を必死に探す。

「・・・アル・・ザック。そう、アルザックという村に私が住んでいる筈だって言っていた」

「アルザック?・・ああ、西の方にある村かな。有名な医者のいる村って聞いたことがあるけど」

 ライルの頬に僅かに赤みが増してきた。

「私・・・そこに行ってみる。そこに行けば自分の事がわかるかも知れない」

 サリーは頷いた。何にせよ彼女が目的を持つことはいいことだ。

「サリー、ごめんね。私、村には戻らない」

「判っている。その方がいいと思う。ねえ、ライル、私もこの村を出て行くことにした。

 都の学校の奨学生に推薦してもらえそうなの。私、都に行くからいつでも訪ねてきて」

「サリー・・」

「何かあったら躊躇わずに頼ってきてよね。私たち友達なんだから」

ライルは泣きながら小さく頷いた。



 朝日の中、ライルは思い切り手を振った。

 小屋の側からサリーが応える。

「あの人の所に戻れるといいね。祈っているよライル」

 サリーも自分の家に向かって歩き出した。

「そういえば、報酬・・・どうするのかしら」

 今更思い出したようにサリーは呟いた。