SHALONE SAGA

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ロッド・アスフィールドの章6




「その姿は常に剣を携えている。それはあの方の身の一部であり、女神を守るものだった。

普通の剣ではない。自らの意思を持ち、持ち手を選ぶ。

 ・・・その名をグランビークという」

 リューは立ち上がると、満天の空を見上げた。

「私や聖王はレイティ様と共にその剣は失われたものと思っていた。

 だが、どうも違うようだ。彼女は自分の娘を守るものとして剣を封印していたのかも知れないな。 

 この珠はレイティ様の封印の筈。これらが揃えばその封印は解かれる。恐らく現れるのは・・・」

「その、グランビークとやら・・・か」

「女神の剣はこの世界を制するという話を聞いたことがあります」

 にやりっとリューは笑った。

「そう・・・ならば、正面から行こう」

「はあ、何言っている。あそこは危ないんだろ」

「確かに。だが、奴らの目的がグランビークであるならば、こそこそ隠れてもしょうがない。行こう。ローダンに」

 ロッドは徐に立ち上がった。

「待てよ。意味わかんねえ。じゃあこいつの親父が必死にこれを守った意味がないだろ。

 奴らに渡さない為に守ったんじゃないのか? それは本望じゃないだろ!」

 ロッドに睨み付けられてもリューは全く動じない。それどころか冷ややかな視線を投げつける。

 大人の姿をしているだけあって、迫力が違う。

「人間の事など知らぬ。私はファウラ様を守りに来ただけだ。

 奴らの目的がファウラ様で無く、グランビークを手に入れるものだとしたら、我々にとってはその方が都合がいい。
 
 ファウラ様はまだ大きな力を持っていない。私達が危惧していたのは彼女を依憑にしてレイティ様の力を引出される事。

 もしそれが目的ならば、何も全ての珠を揃える必要はない筈。ファウラ様が持っているもので十分だ。

 だが、奴らはお前達まで狙ってきた。封印を揃え、剣を現すつもりなのだろう。
 
 だったらグランビークを呼び出した方が余程良い。この珠以上の力を持つ剣だが、意外と厄介な代物だ」

「何だよそれって」

「ただの剣ではないんだ。自らその持ち手を選ぶ。奴らはおろか、人に扱えるものではないんだよ。

 昔、欲に眩んで剣を奪おうとした馬鹿者がいてな。持った瞬間に灰と化したそうだ」

 少し、意味深げな笑みをリューは浮かべた。

「あの剣の何処が人を惹きつけるのかは知らないが、刀身を抜いた瞬間に人間は剣に食われてしまうんだよ。

 この世界での利用価値などない。せいぜい神棚の飾りになる程度。

 ならば、剣が出現した時にこちらの物にしてしまえば良い。勿論この封印は消え、レイティ様の力は守られる」

「・・・・」

 ロッドは納得がいかない。

「おい! ナガル。貴様はそれでいいのか?」

 突然に振られて目を大きく開く。

「いや・・・僕は・・・」

 二人をゆっくりと見回し、暫く考え込んだ。

「父が本当に守りたかったのは、この珠ではなかったのだと思います。この珠を守ることによって厄災を避けようとしたのだと思います。

 だからといっておいそれと手放すわけにはいかない。それ程危険なものと承知していたのかも。

 女神が何の為にそのような危険なものを父達に預けたなんて知る由もありませんが、

少なくとも僕らに必要なものでもないと思います。無力になってしまったほうが良いかも知れない。

 ・・・ただ、一つ教えてください。

 持ち手を選ぶその剣とやら、どのようにして手に入れればいいのですか? 僕もロッドさんも扱えないのでしょう?」

「なるほど。この馬鹿者よりは話が判るな。・・・グランビークは人がその手にしてしまえば霞と化してしまう。

 影も同様。奴らはレイティ様達と対峙するものだから。だが人で無いものがここにいる」

 二人の視線がリューを捕らえる。リューはゆっくりと頷いた。

「聖王が私を此処に送り込んだのも頷ける。速やかに回収しろということなのだろう。

 剣が自らの意思を示さない限りは、今此処で扱えるのは私だけだ。だから問題ない」

「いや、ファウラがいるだろ。元々はあいつを守る為の封印じゃないのか? だったら、剣のすぐ側にいるあいつを操れば・・・」

「それは違う。多分、ファウラ様は持てないよ。あの方は半神だからな。人の血が邪魔をする。

 どうだ? グランビークが出現したところで危険な要因はないんだよ。お前はファウラ様を守れ、私はグランビークを確保する」 

「・・・・」

 自信に満ちたリューの笑顔に不審げに見る。

 本当にそうなのだろうか・・・。

「・・・判ったよ。その代わり少しでもファウラを傷つけてみろ。一生恨んでやるからな」

 捨て台詞とも言えるような言葉を吐き、ロッドはさっさと横になってしまった。

「・・・・」

 その様子をリューは楽しそうに見ている。ナガルは只々不安げに交互を眺めるだけだった。





 朝日がゆっくりと城壁を照らし出した。

 徹夜明けの警備兵が大きな欠伸を漏らしながら周囲に目を配る。

「・・・ん?」

 堀にかかる橋の向こうから歩いてくる人影が見えてくる。姿は三つ。うち二つは小さい。

「・・・何か用ですか?」

 先頭に立ったリューは門番を見上げると、にっこりと微笑んだ。

「領主に会いたい。言えば判る」

 しげしげと門番は三人を眺めた。