所在地:神奈川県大磯町照ヶ崎 飛来期間:5月〜11月 飛来時間:夜明け〜日没まで。朝方(7時〜9時)までが特に多い。 ◆普段は山中に棲んでいるが、塩分もしくはミネラル摂取のため、沿岸部まで海水を飲みに来るという変わった習性を持つ鳥。(土地によっては山中の鉱泉を飲むものもいる。)関東では大磯照ヶ崎海岸が多数飛来する地として有名。 ※本レポートは、旧ホームページの未掲載記事を復刻・加筆したものです。 「電線に鳥のこと」で紹介したワカケホンセイインコと同様に、綺麗な緑色の羽毛を持つ鳥がいます。 それがこのアオバト。一見してそこいらのドバトと大差ない姿形をしていますが、やはり目を瞠るのはその配色。抹茶のような黄緑色のボディに水色のクチバシ、オスは翼部分が小豆色をしていて、まるで動く創作和菓子のよう。美味しそう。(←そうか?) 「こんな不思議な色をした鳩なんて見たことない!」と思われるかも知れませんが、実はけっこう日本各地にいます。ただ、普段は深い森の山中で暮らしているため、目にする機会がなかなかないのですね。登山やハイキングなどをしていて、「オ〜アオ〜アオアオ〜」なんてヘンな鳴き声がしてきたならコイツです。一度聴いたら忘れようのない特徴的な声なので、ネットの野鳥動画などで一度聴いてみるのも良いかもですね。 さらにこの鳥のヘンなところは、山鳥なのに、わざわざ海まで海水を飲みに飛んでくるのです。しかも静かな入り江や潮だまりとかではなく、荒波打ち寄せ飛沫舞う岩礁地帯に飲みに来るから、荒天の日などでは海水吸引に夢中になるあまり、波にのまれて溺れてしまうこともあるそうなのです。 「なに、そのラブリーな間抜けさは!?狙ってるのか?」(※←一応、誉め言葉です。もちろん生還して欲しいし、遭遇したら助けたい!と思ってます。) こうした奇妙な生態をもつアオバトが多数飛来する場所が、大磯の照ヶ崎という海岸にあります。シーズン中、天気さえ良ければ、ほぼ毎日飛来する姿が見られるそう。これは成功率高し!その目で海水吸引するアオバトの姿を見に行きましょう。
結局、それでも夜明け前には到着なんてことはまるで出来なくて、大磯の照ヶ崎海岸にたどり着けたのは、朝の6時半をまわってしまうことに。海岸ではもう既に、ひと目でバードウォッチャーと思しき人々がカメラ三脚を立てているので、すぐにそれと判ったのがせめてもの幸いでした。その人たちに挨拶を交わし、直近のアオバトの飛来情報を教えてもらいました。 どうやらここ数日間、何の問題もなくアオバトは飛来してきていると言いますが、あたりの岩礁域を見渡してみても、それらしき姿は見えません。時刻はもう7時を過ぎています。事前に仕入れた情報では、7時には飛来の第一ピークが訪れるということだったのですが……? 「大丈夫、この天気ならそのうち来ますよ。大きな集団は分からないけど、小集団はたいてい来ます。」と、観察者の一人はノンビリとした口調。 ホントかな?ハトなんてその辺の電柱とか柵の上でウロウロしてるもんじゃないの?とか思っていましたが、このアオバトに関しては付近の人工物に降り立つことがあまりなく、パーッと飛んできて海水を飲み終えたら、さっさと引き返していってしまうのだそう。同じハトの仲間でも呑気さが随分違いますね。 そんな話をしているうちに、彼方の空より鳥の小集団が。みるみる近づいてくるその姿に、緑色が確認できます!おぉ、ついに、本当に来たぞ!
実際、アオバトの生態がまだよく分かっていない時代には、アオバトは岩虫(フナムシ)を食べにやって来るものと思われていたこともあったそうです。 でも、よくよく見ると、アオバトは一か所に留まったまま、岩場の隙間に潜り込むように頭を下に傾けているのが見て取れます。フナムシとかを狙っているなら、もっと頻繁に動き回っているハズですよね。そして望遠レンズでアオバトが頭を上げた瞬間を凝視すると、クチバシの端から滴のようなものがこぼれ落ちているのが確認できました。(※技術がなくて、写真では撮れませんでした。すみません。) ああ、確かに海水を飲んでいるようです。でも、なんでそんな新鮮そうでもない磯溜まりの海水なんか飲んでるんだろう?せっかくなんだから、波打ち際の新しくてキレイな海水を飲めばいいのに!(←何を期待している?) そんな考えをしているうち、やはり人間同様、 「こ、これは・・・やったか!?(←だから何を?)・・・・あ、あれ?」 私のヘンな期待をよそに、アオバトたちはいとも簡単に波飛沫から脱出して、再び付近の岩場へと降り立ちます。やっぱり彼らも、おどけた顔をしてても、そこは野生種。通常の波くらいでは溺れたりはしないのです。「アオバトが海水を飲みに来て溺れる」というのは、トピックとしては衝撃的なので有名になっていますが、実際は台風が近付いてきている等の荒波の状態でもないと、ほとんど起こらないようです。まぁ、そんな日に磯遊びなんかしてたら、人間だって死んでしまうことだってありますからね。溺れる、というよりかは、波に叩きつけられて意識を失ってしまうのかも知れません。
その後も断続的に姿を見せるアオバトの小集団を眺めつつ、そんな下らないことを考えていると、不意に波間に翻弄され、漂うアオバトを発見!「おぉっ、これはもしや?」と思っていたら、すぐさま岩場にピョコンと飛び乗り、何食わぬ顔でそこいらをウロついています。 「……おいおいおいおい!アンタ、泳げる(浮かべる)んかいっ!?」 私が心の中でそう絶叫したのは、言うまでもありません。 それから昼近くまで観察を続けていましたが、幸いにも?・・・うん、幸いで良いんで・・・す、よ・・・ね?溺れてしまうような個体は現れず、アオバトたちは丹沢方面への青空へと、元気に飛び去ってゆくのでありました。 ◆アオバトの詳しい生態について知りたい方は、『アオバトのふしぎ』/こまたん 著が参考になります。今回観察に来ていた人の中にも、この『こまたん』という野鳥観察グループに所属している方が何人かいらっしゃいました。その節はご助言・ご協力有り難うございました。 参考文献:『アオバトのふしぎ』/こまたん 著(HSK) 『ゆるゆる』/たかみち 著(少年画報社) |