海風通信 after season...

はじめに――日本動物学史の探究者、故・磯野直秀氏に捧ぐ

2015/03/10
▲『三崎臨海実験所を去来した人たち』と、頂いた数多くの資料。
「三崎臨海実験所を去来した人たち―日本における動物学の誕生
磯野直秀:著 学会出版センター/1988年刊

 『海風通信』の続編を開設するにあたり、多大なるきっかけを与えてくれたこの一冊を、まずは紹介しておきたいと思います。
 この本は、タイトル通り【動物学】という専門分野の学術書なのですが、腰を据えて読んで見ると意外にも大変に読み易く、またかつての三浦半島の様子を知る上でも、とても興味深い事実がそこかしこに散りばめられています。
 メインは臨海実験所を取り巻く変遷の歴史を辿っていくのですが、そこに三崎・油壺・小網代といった土地が濃厚に絡んでくるのですね。当時の三崎の町並みや油壺の神秘的な描写、小網代湾にあった「ごるごにや洞」、三崎までの交通事情など、まさに私のサイトにとってのネタになりうるトピックが満載なのです。当初私は、実験所の真珠養殖の歴史を調べる参考書程度に手に取ったのですが、気がつくとその内容にどっぷりとハマってしまいました。そればかりでなく、これまであまり興味の向かなかった海洋生物や相模湾のこと、果てはそれにまつわる海洋研究施設や深海にまで興味が及ぶようになってしまったのです。
 こうした熱の入れようから調査やフィールドワークに忙しくなり、素材は揃ったけれど、そのあまりの量にサイトを更新する意欲も起きなくなり、旧サイトは休止となってしまいました。でも、今またこうして復活の機会を与えてくれたのもこの本なのですから、なんとも不思議な因果ですね。とにかく、それくらい私に影響を与えた書物でもあるのです。少なからず私のサイトに興味を持っていただけた方なら、一見、ではなく必見の価値アリです。おそらく絶版で入手することは難しいでしょうが、主要な図書館なら蔵書していると思います。是非とも読んでみて下さいね。そして万が一、というか結構な高確率で(!?)このサイトが再び休眠状態になった時、「あー、コイツはこういうネタをつまみ食いして記事にしたかったんだな」とでも思って下さい。

 最後に、2012年7月9日、この本の著者である磯野直秀氏が惜しくも逝去されました。結局私はついに面識は叶わなかったのですが、こんな素人同然の私に、直筆の手紙にて多数の資料や御教授をいただきましたことを、ここに改めてお礼申し上げます。特に、小網代湾にかつてあった実験所の画像やデータは、他では決して手に入らない貴重なものであり、感激したことを今でも覚えています。こうしたことに謝礼や見返りを一切求めず、頑なに「研究者として当然のことをしたまでです」と自らのポリシーを貫き通したその態度に、ただただ恐縮いたしました。

 ――――御冥福を心よりお祈り申し上げます。