海風通信 after season...

長井ノ給水塔ニ関スル覚エ書キ


2019/03/05(新給水塔撮影)・2023/10/16(本稿加筆)

あの時の あの給水塔の姿を しっかりとこの眼に焼き付けておくべきでした。

 記憶には確かに鮮明に焼き付いているのに、記録や写真が全く見つからない旅の思い出があります。
 それが、1996年の横須賀市・長井の訪問記。これは私がその当時に旅先で出会った人々の考えやモノの見方に影響を受けたこともあるでしょうし、なによりヨコハマ買い出し紀行・第12話の『ナビ』でのアルファさんの行動に強く感化されたということが容易に想像できます。
 【旅の思い出は、写真ではなく心の中に残すもの】。一時期、そんな思いで旅をしていたことがあったのです。それでも、全く写真を撮らなかったということはなくて、カメラは常に携行していました。そのような中でも、この長井紀行は特別な部類だったでしょうか?「撮ろうと思って、撮らなかった」ということを意識していたのを、今でもハッキリと覚えています。特に、旧米軍住宅『長井ハイツ』の跡地の丘に立っていた給水塔にいたっては、その間近に立ち、ファインダーを覗き込み、シャッターボタンに手をかける…までになっていながら、何故か「撮らなかった。撮れなかった。」のです。
 もちろんこれは、デジカメや携帯カメラが普及していなかった、銀塩フィルムカメラの時代の話。今では何のためらいもなくパシャパシャとデータとして撮ってしまうでしょうが、銀塩フィルムしかなかった頃は、一枚の写真を撮るのにもいろいろな想いや期待、不安が錯綜していたものです。結果、ファインダー越しに給水塔を見ているうちに、「これは果たして撮っておいて良いものなのだろうか?」という不思議な不安感が頭によぎり、撮影を止めてしまったのです。
 このことに一抹の後悔はあったものの、アルファさんばりに「写してやる!って時 撮れなかったのは 正解だったかもしれない」と思い込むようにして、旅を終えたという記憶があります。(確かに、こうすることによってこの時の思い出が心の中に強く刻み込まれたということは事実なのですけれど…。)
 その後も何度か長井を訪れる機会はあったものの、やはり何故か間近でこの給水塔を撮っておこうという気分にはならず、辛うじて僅かに写っているのはロングに引いた小さな画像ばかり。そうこうしているうちに1997年の11月、インターネットもまだ一般的には普及していない世においては、地元の人以外には(地元の人でも?)大して話題にも保存運動も起こらず、この残しておくべき貴重な物件は、静かに解体・消失してしまうのでした。
 私にとっては強烈な印象を与えてくれたこの給水塔ではありますが、こと写真撮影においてはつくづく縁が無かったなぁと痛感します。旧ホムペで公開していた画像(下写真参照)も、それらの小さな画像からあちこち合成・部分除去・圧縮を多用して、本来の事実風景そのものというわけではありませんでしたからね。その元画像も、今年(2023年)の激烈異常猛暑によってネガフィルムがビネガー・シンドロームを発症してしまい、残念ながら修復不可能となってしまいました。これにて私の持つ給水塔の生データは失われてしまいましたが、ある意味これすらも運命だったような気がしてしまいます。
▲稲村ジェーン風に。電波塔群を消したりと、実は相当弄ってます。 ▲ヨコハマ第95話『緑』風に。これも合成しまくりです。

 そしてふと顧みてみると、今やインターネット上の画像の海からも、この給水塔のデータが消失しつつあることに気付かされました。ヨコハマ・ファンページはもとより、個人ホームページの急激な減少とともに、長井の給水塔の情報は現・「ソレイユの丘」に付随する新給水塔(※実際はサイロを模した物置小屋だと言われていますが、便宜上こう呼びます。)へと置き換わり、その経緯がほとんど辿れなくなりました。これはちょっと恐るべきことですね。2000年代初頭まで、ネットの情報は盤石、これからどんどん歴史が積み重なっていくのだ!と信じて疑わず、安心しきっていたものでしたが、こんなにも情報の維持・保全が脆いものだったとは……。1990年代から2010年くらいで書籍・映像化していない情報は、そのうちゴッソリ消えて無くなってしまうかも知れません。
 そのような懸念から、この旧給水塔においては一般的に広く認知された画像・映像作品から、当時の姿を窺い知れるものを以下にピックアップしておこうという気持ちになったのです。新規に『ヨコハマ買い出し紀行』や『カブのイサキ』のファンになった人にとっては、「給水塔が一体何の関連があるの?」ということを知る上でも、良い手掛かりにもなるかと思われます。ぜひ一度、以下の作品群をご覧になって見てはいかがでしょうか?

◆『稲村ジェーン』<邦画>
 本ホームページではもはやお馴染み、私がこの給水塔に執着するきっかけとなった作品です。ヒロシとマサシが鴨川に波乗りに行く途中で通り過ぎ
る風景の一部として、また「希望の轍」の挿入歌にあわせてミゼットを走らせる印象的な丘陵地のロケーションとして登場します。


◆スピッツ『ロビンソン』<Video Clip>
 長井の給水塔および長井ハイツをロケ地としたMVとして、おそらく最も知られているであろう作品。長井ハイツ周辺の侘び寂び感たっぷりの風景や
道路、荒崎や長浜海岸までを写し込んでいて、作品の芸術的完成度はもとより、当時のロケーションを知る上でも貴重な資料と言えます。


◆横山輝一『ALWAYS』<Video Clip>
 意外と知られていないのが残念なくらい良いMV。給水塔とともに長井ハイツ内の建物も映っています。スピッツのロビンソンと同じ家屋であることか
ら、当時から撮影許可がOKだったのは、一部の限られた場所だけだったのかも知れないですね。


◆epo『DANCE』<CD>
 こちらは動画ではなく、CDジャケット兼ブックレット画像から。ブックレット全般に給水塔および長井ハイツの運動場跡地(?)の草原が使用されてお
り、かなりの思い入れが感じられます。なんかPVでも作られていそうな雰囲気が伺えますが、実存するのかな?確認はできませんでした。


◆安川千秋『沈黙の丘』<写真集>
 当時、長井の給水塔を世に知らしめた代表的な写真集。『風景の棲む場所』という写真集の表紙にも給水塔が確認できます。どちらも現在で
は入手困難のため、私も今や現物を手にとって目にしたという記憶自体が曖昧です。(桜木町の有隣堂だった…?と、思いますが、確かに紙媒体
で見た記憶はあるんですよねぇ。)横浜や横須賀の図書館・郷土資料室だったら、あるいは見つけられるかも?


[番外編]◆たむらぱん『ちゃりんこ』<Video Clip>
 ついでに、「ソレイユの丘」になって以降の長井の台地をロケ地としたMVはないかと思って探して見たところ、見つけた作品。新給水塔は映っていま
せんでしたが、長井周辺の広々とした景色が映し出されています。でもここまで撮っておいて、何故に給水塔の丘は採用しなかったのでしょう?ロケ
地の即バレを避けたかったのかな?それでいて、「ソレイユの丘」の正面エントランスは映ってるんですよね。ともあれ、これも映像・音楽としてはとても
良い作品。そして、これをきっかけとしてさらに見つけてしまったのが、まさかの…これです!↓↓

 ◆スピッツ『ときめきpart1』<Video Clip>(※スピッツ・オフィシャルHPにてMV公開)
 2023年5月17日発売のアルバム『ひみつスタジオ』に収録されている楽曲のMV。とくにスピッツの熱烈なファンでもない私が(そもそもスピッツの曲を改めて聴いたのは1年以上ぶりくらいだし。)、アルバム発売の3日後くらいにこれに気付いたのは、何か運命の巡り会わせなのでしょうか?(←おおげさ。)
 このMVのロケ地の1つが、なんと新給水塔の立つ長井の丘なのです!(※ちなみに室内演奏での撮影地は、葉山の加地邸が使用されています。ここもドラマ『岸辺露伴は動かない』の岸辺露伴邸のモデル地ですよ!何という因縁か…!やはり、スタンド使いはスタン…←うるせぇ!
 話の腰が折れました。それにしても1995年リリースの『ロビンソン』から、28年の時を越えて再び同じ場所でのMV撮影!スピッツのメンバーの皆さんは、どのような想いを抱いてこの撮影に臨んだのでしょう?コメント等は見つけられませんでしたが、きっと感慨深いものだったことと思われます。MVの最後に、メンバーを中心として周りの景色をぐるりと映し出すシーンがあり、そこでの彼らの表情に、なんとも言えぬ懐かしさを感じているように私には見えました。
 それにしても、スピッツの作風は良い意味で全然変わりませんねぇ。この曲が1995年当時のアルバムに混ぜ込んであっても、全然違和感無く受け容れられるくらいのイメージを保持しています。初めて聴いたのに何故か懐かしくて、サビの部分で思わずゾワゾワと鳥肌が立ってしまいました。これは久々にMV付き特別限定版CDを購入するかな!?と意気込んでいたら、何故か『ときめきpart1』のMVは収録してないんですね…。(←でも通常版は買いました。)
 これは新たな『ソラトビデオ』の発売が待たれるところ。もう10年以上も出してないんだから、そろそろリリースして下さい!
 
【オマケ】
 旧ホムペでボツとなっていた『ロビンソン』ロケ地訪問記の写真を復刻掲載。結局私が調べ始めた頃(2004年9月)にはもう時既に遅しの感があり、そのほとんどが消失風景となって、マトモなレポ―トにもなりませんでした。
 それでも『丸大ハム』(丸大食品)のコンテナが映り込んでいる写真というのは、ちょっと貴重かも?(←分かる人には分かりますよね?)この写真撮影後ほどなくして、コンテナは撤去されてしまいました。ちなみに『ロビンソン』のMV撮影当時って、長井の台地にICPOの電波塔群が建てられるという計画が持ち上がった直前の時期だったんですね。あれはレトロとも侘び寂びともそぐわない、ちょっと風景的に中途半端な建造物でしたので、建てられてしまう前に撮影できたのは幸運だったと思います。
 その電波塔群も、通信技術の進展とともにその役目を終え、2017年には完全消失することに。変わらないようでいて、意外にいろいろと変わっている場所なのです。しかしこの場所に観覧車が出来ようとは、よもや夢にも思いませんでしたけどね。
▲住吉神社のこの場所から…→ ▲坂道を駆け下りてバスに乗り込んだ場所です。