海風通信 after season...

route04-EX 「旧道のそのまた先のこと」



 趣きのある海岸道路として、ウチのホムペでもたびたび採り上げてきた三浦半島の小浜バス停から雨崎(東部浄化センター)へと続く管理道路。ここが、いつの間にやらストリートビューで見られるようになっていたのはご存知でしょうか?
 撮影データを見てみると2021年9月とありますから、まぁまぁ最近の道路状況を写したものだと分かります。しかしここ、一般車両は進入禁止のハズ。にもかかわらず、直前のストビュー画像では閉まっていた規制ゲートが進入時には開いているから、これは施設側の許可や依頼を受けて撮影したものなのかも。ここらへん、どうなんでしょうかね?(まさかの東部浄化センター敷地内にまで入り込んでいるのです。)これ、大丈夫なのかな?
 ともあれ、今までこの道が気になっていつつも見られなかった人には朗報でしょう。…ただ!ただ残念なことに、画像上の道路の様子は、以前とは少しばかり様子が違っていました。なんか…雰囲気がサッパリ・スッキリし過ぎているのです。
 この違和感の原因は、すぐに分かりました。あの、錆びだらけのボロボロ・ガードレールが、全て撤去(除去?)されてしまっていたのです!潮風に蝕まれてグズグズにささくれ立ち、焦げ茶に染まったあの佇まいが、最高に侘びしい情感を漂わせていたというのに!まったく持って残念な限りです。
 この一件であの道路に少なからず思い入れを失くしてしまった私は、新たなるロケーションを求めて、route04「旧道の先のこと」でかねてよりの棚上げ課題としていた、南房総方面の海岸道路探索に向かうことにしました。
▲崖沿いにつけられた矢印の部分が今回の目的地。 ▲大沢口始点。最初から錆び錆びのガードレールに心躍る!

 いくつかの候補の中から最も理想的雰囲気に近く、興味深く感じた場所は、『伊南房州通往還(いなんぼうしゅうとおりおうかん)』の一部にもなっている、勝浦市大沢漁港から天津小湊の誕生寺へと抜ける道。いえいえ、現国道128号線のことではなく、そのさらに海側ギリギリの崖線に沿って続いている、明治時代からの歴史ある道のほうです。昭和44年に現国道が完成する以前はこちらが国道128号線であったというので、文字通り、というか今回のタイトル通り、まさしく旧道と呼べる海沿いの場所なのですね。
 今回はカブとともに久里浜港より東京湾フェリーで金谷へ、そして房総半島を横切り、鴨川〜勝浦へ…と、ここまでがある意味もう一つの旅でもあったわけですが、それはまた別の話。話すと長くなるので、一気に現地へとワープしましょう。
 新道(現国道)・旧道・港湾道が立体的に絡まり合う大沢漁港は、「ここに行く!」という目的が無ければ見逃してしまいそうな小さな集落。ここを新道から海側へ分岐する道を集落内や港湾へと入り込まずに道なりに進んで行くと、すぐに目の前に太平洋の眺望が拡がり、爽快な海岸線沿いの道路が姿を現します。ここが伊南房州通往還の「浜ルート」と呼ばれる、一部マニア(!?)の間では有名なスポット。私もかつて何かのバイク雑誌でこの事を知り、いつかは来てみたいと記憶していた積年の想いの地でした。
▲旧道は海に沿う。「廃道マニア」じゃないけど なんか好き。 ▲道路の補修痕もリアリティ&スリリング。寂れ具合も良し。

 旧道と言えど、道はそれほど荒れ果てているというコトでもなく、立派に舗装もされています。ただ、崖沿いの道だけに要所要所に補修の跡が数多く見られ、道路幅が狭いので車での運転はかなり気を遣いそう。バイクにとってはそのへんは何の問題もないので、快適なワインディング・ロードの走行を楽しむことができます。車をやり過ごせるくらいの余裕もあるので、写真撮影とかも気軽に行なえるのもいいですね。(それでも、なるべく迷惑にならない程度のマナーを心掛けましょう。)
 ガードレールも、まんべんなく錆び錆びなのが良い感じ。でも欲を言えば、手で触れればグズグズと崩れ落ちるような状態のものが見られれば良かったのですが…(←それは安全上問題なのでは?)雑誌で見た記憶はそんな感じだったんですけどねー。小浜〜雨崎間のあの道と記憶が混同してしまっているのかも知れません。そうした意味でも、やっぱりあの場所は特殊な環境下にある光景だったのですね。
▲何処を取っても良いロケーションなので、思わず何度も走ってしまう。ここはやはりバイクが最高です!楽しいーーーーーー!

 ところで、とても気に入りつつも嫌な気持ちになった(どっちなんだよ?)のは、『落石注意』の標識の異常なまでの多さ。このルート、わずか1qにも満たない区間に、崖側車線に9本、海側車線に6本という、合計15本もの落石注意標識が林立しているのです!それほどまでに落石が多いポイントなのか!?と内心ビクビクしながらも、この黄色い標識が空や海の青い背景に映えて良いアクセントとなっているのも事実。そうした「映え」の意味でも、この標識だけは劣化・褪色したものではなく、新品の色鮮やかなものでも良かったかなー?と極めて自分勝手な感想を抱きつつ走り回っていると、気付けば5往復も6往復もしている私がいました。あぁ…この場所が気に入り始めちゃってるよ…。どうしよう?カブで来るの、スゴく大変だったのに。
 未練を残さないようさらに3往復ほどして、最後に雀岩の見える展望スポットで小休止をした後、伊南房州通往還「浜ルート」をあとにしました。
 しかし、レポートはまだ終わりません。今回のルートには旧道の、そのまた先にも興味深い発見が待っていたのです。
▲褪色やあらぬ方向に曲がっていたり、環境の過酷さを示す標識。 ▲入道ヶ岬や雀岩を見渡せる素晴らしい展望スポット。

 これぞシーサイド・ロードの典型と呼んでも差支えなさそうな素晴らしい眺望を展開する「浜ルート」は、突然目の前に現れるトンネルとともに終わりを告げます。(とは言え、私はこのトンネルを確認しつつ、手前で引き返して何往復もしちゃったワケだけども!)
 この『小湊隧道』もなかなか存在感のあるトンネルで、大沢側から入るぶんにはそれほど感じないのですが、小湊側からのトンネル口の風貌が異様な不気味さを醸し出しています。トンネル内の照明も無く、掲出されている道路情報板もかなりのほったらかし具合で、ここホントに通って良い道なんだろうかと躊躇してしまうぐらい。まさしく「異の場」への境界線的雰囲気が溢れ出ているのです。車なら、まぁ大丈夫。バイクでもライトがあるからOK。…でも、自転車や徒歩はどうかな?トンネル内に入ってしまえば出口の光が見えるから安心できるけど、それでも少し怖い気もします。とりあえず、夜には行かないほうが良いでしょう。
▲【道路情報】この先 通行**←何なの? ▲小湊側の隧道口。ここを入るの、ちょっと躊躇うでしょう?

 海岸道路では、そのあまりの爽快さにコトノバドライブのことなど忘れて楽しんでしまいましたが、ここで不意にあの旧道エピソードが思い出されてきました。道路の様子も、先ほどと同一の延長線上とは思えないくらいにガラリと雰囲気を変え、薄暗い山間の寂れた裏道のようになっています。
 ―――旧道の先っぽって 『地の果て食堂』みたいなのが よくあるよね
 「…あるね」
 トンネルを過ぎて数百メートルも走らないうちに、緑濃い林間の道路脇に突如現れる商店風の廃屋。観光地である誕生寺や鯛の浦にもまだ距離があり、まわりには民家すらも無いような場所に存在している状況がすごく奇妙で、思わずバイクを停めてしまいました。
 残念ながらそれは完全なる廃墟で、崩壊寸前。道路に面した外装だけが辛うじて残り、裏側に回ると見る影もなく崩れ去っています。
 ただ、外装の看板部分とおぼしき部分を凝視していくと……「あわび」・「はまぐり」と書かれているのが判別できます。どうやらここは海産物の食材や浜焼きをメインとするお土産屋さんだったのでしょうか?けれど、何故にこんな山の中で…?
 後日、1981年代の住宅地図にまで遡ってこの場所を調べてみましたが、生憎というか予想通り、というか、このエリアは鴨川市と勝浦市(市町村合併以前は天津小湊町と勝浦市)との境界線上にあたり、掲載範囲から漏れ出た不明のエリアとなっていました。またしても、境界線か…。
 願わくば、ここでコーヒーどころか定食あたりまでチャレンジしてみたいところでしたが、……いや、そんな勇気が私にあっただろうか…?
▲「やってないね」(当たり前か)、黄色丸い部分を拡大すると⇒ ▲あわび・はまぐり。それ以外も薄っすらと…?

 廃屋に残された記憶に思いを馳せながら、再び旧道に沿ってバイクを走らせていくと、やがて民家がチラホラと現われ始め、誕生寺の敷地内と思われる建造物が見えてくるにつれ、辺りはようやく観光の町といった様相を呈してきました。平日でありながら、お土産屋さんや料理店、魚や貝の浜焼きのお店なんてのも営業しています。ホントに、この場所にあるのだったら何の違和感もなかったんですけどね。
 あの旧道の途中にあった、山の中の海産物店は何だったのでしょう?近隣の行川アイランドが開業した昭和39年当時、この旧道はまだ国道128号線として第一級の現役道路だったはずです。きっとこのルートは誕生寺、そしてあの海岸道路と併せて一連の観光ロードとなり、その時代は大いなる賑わいを見せていたのかも知れません。
 …あれは、その名残りだったのか?
 残念ながら「すーちゃん」のように、道の記憶に呼び止められることはありませんでしたけれど、その片鱗を少しばかり見てみたい気がしないわけでもない自分に歯痒い思いがしました。せめて、行川アイランドが閉園する以前に来れていれば……。でも、これも時すでに遅し、です。
▲『願満の鯛』という願掛けの奉納物。誕生寺はあちこち鯛づくし。 ▲誕生寺・祖師堂の屋根にある黄金の鯛。


2023/05/09