海風通信 after season...

route34 「春日ちゃんのこと」



 雪の降り出しそうな寒い冬のある日、春日ちゃんが不意にフシギ能力に目覚める(というか、思い出す?)お話。春日ちゃんの主観から描かれたという点でも、唯一かつ特殊なエピソードでもありますね。
 あれ?でもこれって何だかヤな予感……。某少年ジャ○プ的な展開だったら、これからドンドンとスタンド使いもとい能力者が現れて、話が混沌かつ長期連載化へと続いていくのでしょうが、芦奈野作品の流れからすると、能力者が複数現われたり、それらがお互いを認め合えたりすると、作品が終わりの方向へと向かって行ってしまうんですよね。『PositioN』のすーちゃんとあきらさんの関係がまさしくそれで、「ひょっとして最終回が近い?」と勘繰っていたら、なんといきなり次号が最終回となってしまうのでありました。
 さて、今回に於いても検証すべきロケーション設定がないことから、ここはまさにタイトル通り『春日ちゃんのこと』について考察を進めていきましょう。
 準レギュラーかと思いきや、実に7エピソードぶりの登場となる春日ちゃん。小はるかちゃんに至っては『ふたつのコーヒーのこと』以来、まったくその姿を見せることが無くなっています。私見ですが、その答えが今回のエピソードには込められているのではないでしょうか。
 突然に、見えないものが見えてくる。ただ、その事実を自分は知っている。見えてはいたけど、見ようとしなかっただけ。すーちゃんの能力にも薄々気付いていたけど、それを認めてしまうのが怖かった。そうした気持ちの抑圧から「ぬるっ」と生み出されてきたのが、「小はるかちゃん」なのかも知れません。今回のお話では、これまで明け透けに忌憚なく話すすーちゃんの姿から、初めてそれらを自分の見る景色=「その人景色」として見えて良いんだということを認識し、加えてすーちゃんとの関係性も改めて認め合えたターニング・ポイントともなったのでしょう。「追い追い話すよ」「追い追い話します」そのやり取りによって、全てがつながったかのような見事な表現でしたね。シンクロしたのち、認め合う。このことによって、以降に小はるかちゃんの出現がなくなったとも考えられます。(※あくまで私個人の推測です。)
 それにしても4巻の巻末あとがきにあった「その人景色」って、このタイミングで示されていたんですね。大雪の予兆をすーちゃんは雪虫(のようなもの)で知り、春日ちゃんは白い布(!?)で知る……と。これらを発展展開させていくと、さすがに話が複雑化していきそう。作品を終息化させていくのは、この辺がいい頃合いだったのかも知れません。

 ところで今一度、小はるかちゃん絡みのエピソードをまとめて読み返してみると、ちょっとフシギなことに気付きます。
 route11・13・16・22の小はるかちゃんを良く観察してから、今回の春日ちゃんの記憶のシーンに出てくる小はるかちゃんを見てみましょう。何か違和感がありませんか?そう、後頭部首筋のあたりにピョコッと出ていた、トゲ(!?)のようなシッポような跳ね毛が無いのですね。そもそも私は、この跳ね毛こそが小はるかちゃんの特徴だと思っていたので、これには少し戸惑いました。回想シーンとの年代差もそれほど無さそうですし、これには何か「敢えて」の意味合いがあるのでしょうか?それともこれも「その人景色」?相変わらず謎を山積みにしていきます。


2019/12/18