海風通信 after season...

route26 「ランチタイムのこと」



 『ランプ』でのお昼休み。「肉を喰らいたい」すーちゃんは、お気に入りの“まかないB”を差し置いてでも、最近話題のランチのお店へと向かいます。その場所は、『ランプ』からはビミョーに回り道となる高台の別荘跡地の向こう側。この別荘跡地は所謂「なんとかスポット」なのですが、早くお店に着きたいすーちゃんは、よせばいいのに跡地内を抜けてショートカットを試みます。そしてお約束の不思議タイム…というか、不気味タイム。「影が来た」というくだりが、何気にもの凄く怖いと感じたお話でした。
 このエピソードは、作品の舞台地検証においては非常に重要な回であると言えます。と言うのも、今回登場した舞台地を突き詰めて判明させていくと、最終的には『ランプ』の大まかな所在地までもが判明してしまうのですね。これまでの『ランプ』周辺の風景描写って、「これだ!」と特定できるだけの物証が、まずほとんど見つけられなかったと思います。そこに今回のお話なのですよ。このお店や別荘跡地を特定できれば、その高台の階段を下りて程ない場所に、『ランプ』があるということになりますよね?これは非常に大きな手掛かりとなり得るものでしょう。
 が!しかし、ここで白状してしまいますが、今回の舞台地検証は本当に降参状態です。じっくりと長い時間を割いて推測と検証を重ねてきましたが、結局のところ決定的な確証を掴むには至りませんでした。まぁ、以前からたびたび同じ泣き言を書いてますが、芦奈野作品って『提示されているヒントが多いものほど、舞台地を確定させることが難しい』のです。
 この定義に沿って見てみると、今回のエピソードはその極致です。「『ランプ』から歩いて行ける距離」・「ランチで話題の大通りに面したお店」・「高台にあり、けっこう長い階段がある」・「20年前まで昭和初期の洋館があった別荘跡地」・「今は公園となった跡地だが、トイレがヤバい」などなど、舞台地検証のヒントとなるものが目白押し。更には御丁寧に地図まで示されているのに、手掛かりとなる糸口が杳として見つけられないのですね。
 ここでざっくりとイメージした推測を挙げさせてもらえば、これは横須賀の中心部・深田台か田戸台あたりだと思うんですよね。突然に台地状となっている地形も似ていますし、その台地上に大通りが走っている点でも合致しています。ランチのできるお店ももちろんたくさんあるでしょうし、長い階段もあちこちに見つけられます。……でも、何だろう?何かしっくりと来ないものがあるのです。そもそも『ランプ』ってこんな繁華街にあるものなのだろうか?とか、「なんとかスポット」として噂の立つような別荘跡の公園なんて、リアルに描くものかな?などなど……。そう考えると、これはおそらく芦奈野センセイの想像上の舞台地構成なのだと思います。(そう思わせて下さい。)
 というわけで、以下の考察は作品に描写された一場面を、個人的感覚から「まぁ、似ているのでは?」と推測した極私的舞台地報告となりますことをご了承ください。
▲本当に長い階段。20〜28段が7セット分続いている。 ▲階段最上からの展望。尾根の形状や突起物が似ている?
 まずは、すーちゃんが肉を喰らうために最短距離で攻めた階段。
 階段を上りながらの、すーちゃんの脳内思考での呟きが6コマにも及ぶことから、かなりの長くてツラい階段だということが窺い知れます。のちのエピソード(第28話「黒い森のこと」)での、「店長 この階段がヤなんだな」という呟きからも、その大変さが分かりますね。こうした長い階段は横須賀中心部にもたくさんありましたが、気になったのは第3巻 P.149の1コマ目のシーン。背後に山並みが描かれていることに気付くと思います。ところが、深田台・田戸台あたりでは方角的に背景が海になってしまうため、このようなロケーションにはならないのですね。
 この山並みの配置は、もしや三浦半島の背骨とも言える大楠山の尾根なのではあるまいか?と言うことで、辿り着いたのが佐島の丘です。
 佐島の丘温水プールの傍にある『佐島の丘第4公園』、そのすぐ横から長坂へと下りる階段が何気に良い感じで、実は前々から気になっていました。まぁ、階段の細かなディティールは結構違うのですが、上るのを躊躇うような長い行程と、上りきった背後に拡がる眺望がとてもよく似ているのです。さらには公園を抜けた(と言うか、敷地に入らず横を通り抜けるだけで良いんだけど)先には、ちゃんとランチをいただけるお店も存在するのですよ。
 惜しむらくは、この公園がグラウンドのみで、あまりにもサッパリとし過ぎていること。ここには元、洋館があって……なんていう曰くでもあったら完璧だったんですけどね。そうなったら、『ランプ』の場所は長坂に確定!ということにもなったのですが……。
▲P.152の1コマ目のアングルと似ている気が……。 ▲実際作中の洋館とは全然違うのですが、雰囲気はある。
 さてお次は、不思議タイムの中で出てきた洋館。これはもう、完全にイメージだけの写真採用です。作品世界でも存在していないものが、現実世界にあろうハズもありません。ここはドラマのロケハウスとしても使用されている有名な洋館なので、知っている人は知っていると思いますが、コトノバドライブの作品世界とは縁も所縁も関係も全く無いということをご承知おき下さい。あくまで私が直感的にイメージしてしまったというだけのハナシです。
 それにしてもこういう「雰囲気」のある洋館って、少なくなってきてますね。横須賀の中心部や三浦市にも以前は相当数の洋館があったと聞きますが、今や数えるほどになってしまいました。だから今、公園となっている地に、かつて洋館があったという謂れのある場所も存在するのかも知れません。
 すーちゃんの記憶に残る「黒い森の洋館」は、そんな過去の痕跡をモデルとしたエピソードという可能性も否定できなくはありませんね。


2019/06/25