海風通信 after season...

route07 「カナブンのこと」



 気の向くまま、海岸線をひたすらバイクで走り続けるすーちゃん。
 おしりの限界(!?)を感じたところで、激甘のマキシマムコーヒーを飲みながらひと呼吸。そのコーヒーに執拗にまとわりついてきたカナブンから始まる、不思議なストーリー。これ、短篇作品『くまばちのこと』や、後に発表される第27話『アブドライバーのこと』によって、薄ぼんやりとその謎が解明されていくのですが、現時点では本当に不可解なお話ですよね。けれども、何となくそんな意味合いを持たせているのかな?という推測を抱かせるに充分な、どこか寂しく儚げな雰囲気も持ち合わせているエピソードでもありました。詳細はネタバレとなるので、第27話のほうで採り上げたいと思います。

 ところで、私がこのエピソードをまとめるのは、実は相当後になってからであろうと思っていました。ネタの内容も内容ですし、舞台地検証もほとんど特定できるような場所や要素がないからなのですね。(勝手な思い込みですが、海岸道路は江奈湾〜毘沙門あたり?のような気がします。)それなのに今、こうして書いているのは、他のエピソードのページ更新作業中に、偶然コガネムシが仕事場に飛び込んできたからです。
 ただでさえ虫を見かけることの少ない都心の23区内、しかも夏も終わりかけている9月の下旬に、さらには室内にまで入り込んでくるとは、地域的にはちょっと珍しいことでした。なんだか全然逃げるそぶりも見せないところが余計に不思議。この状況…、実にアレではないですか!
 そこで突如浮かんだのが、このコガネムシにコーヒーを振る舞ってあげよう!ということ。カナブンではなかったことがちょっと残念ではありますが、まぁ、分類的には同じコガネムシ科の仲間ですから良しとしましょう。
 さっそく棚の上からマックスコーヒーを取り出すと……って、何故そんなに都合よくマックスコーヒーを用意できるのか!?と突っ込まれそうですが、これはヨコハマファンなら当然理解できますよね?ファンたるもの、常にマックスコーヒーは手元にあるのです!……というのは冗談で、旧サイトの『海風通信』で歴代マックスコーヒーの系譜を調べたコラムを書いた際の、当時の現物資料がそっくりそのまま残っていたのです。だから中身は、賞味期限をゆうに10年以上過ぎたものばかり。開缶するのが恐ろしくもありましたが、今処理しておかないと、もっと恐ろしいことになるやも知れません。
 ただし、こんな賞味期限切れのものを飲ませるなんて動物虐待だ!と、『日本コガネムシLOVE協会』あたりから苦情を言われると困るので、一応、私自身が身を挺して味見をしてみました。……うん、全然大丈夫です!日本の缶密閉保存技術は大したものですよ。
▲原作と似たデザインの缶ではありませんが、これもレアでしょう? ▲ひたすら飲み続ける。「糖分がもう切れかかってたんでねえ」
 というわけで、コガネムシにもお裾分けしましょう。作中のように缶の上にコガネムシを乗せると、触角を盛んに振りながら興味津々の様子。けれど、穴に落っこちるのが嫌なのか、それほど積極的に行動を示しません。そこで、ティッシュにコーヒーを数滴吸わせて置いてみると、これには見事に反応しました。がっしりとティッシュに頭部をうずめ、みるみる吸い上げていきます。コガネムシはマックスコーヒーが大好きなことが、今ここに判明しました!
 その後もしばらく見ていましたが、コガネムシは一向に顔を上げる様子もなく、一心にコーヒーを吸い続けています。さすがにこちらも用事があるので、いつまでも呑気に見ているわけにもいきません。そこでベランダにティッシュごとコガネムシを持っていき、風に飛ばされないように植木鉢の重しをのせて固定し、自らが自然に帰っていくよう促しながらその場をあとにしました。
 その日の晩、ベランダに出てみると、コーヒー色のティッシュだけが残り、あの虫の姿はもうありません。コガネムシだけに、せめて金粉の混ざったフンでも残していってくれたら、それこそファンタジー(そうなのか?)だったのですが、まぁそんなコトはありませんね。
 あのコガネムシは、果たして感謝してくれたのかな?ともあれ、なんだかほっこりとさせてもらえる一日でもありました。 

 ※執筆終了後、本種の同定に若干の疑問を感じ調べてみたところ、この虫はコガネムシではなく『アオドウガネ』というものらしいです。(同じくコガネムシ科に属するものですが、『コガネムシ』そのものではないとのこと。紛らわしいですね。)
 アオドウガネは園芸や農業の世界ではかなりの厄介者らしく、幼虫は根を、成虫は葉をモリモリと食べてしまう害虫で、フンをそこら中にしたり、臭い体液を放出したりと、ロクなことが書かれていません。ひょっとして私は、余計なコトをしてしまったのかもですね。でも私が出会ったアオドウガネは、撮影のためにあちこち弄り回したにもかかわらず、一粒のフンも、ましてや臭い匂いも出しませんでした。たまたま性格の穏やかな虫だったのかも知れませんが、ひょっとしたら互いの思いが通じ合ったのかも知れません!?そう考えた方が、コトノバらしくて良いではありませんか。


2017/09/22