海風通信 after season...

route03 「夜の農道のこと」



 暗闇に包まれた農道の向こう、今は廃道となっている先に見つけた自販機のお話。
 踏み跡も見えない夜の廃道を、一人で探っちゃうすーちゃんてどうなの?と思いつつも、実は単行本第1巻の発売現在、私が一番好きな話でもあります。たぶん、自分自身もこういうことやっちゃうんだろうなー、という独特のシンクロ感を味わいました。「動くのかな 一回試そうか」というセリフも絶妙。あり得ないオカルトっぽい話なのに、なんだかもの凄い臨場感がありました。
 こんな場所も当然、実際には存在しないんだろうなぁとは思いましたが、ひとまずストーリー上の設定から検証してみましょう。
 「あそこは中世の古戦場・館のあと」というセリフから、城、それも『居城』跡地であるという要素がまず挙げられます。ここで第一に思い浮かぶのは衣笠城あたりだと思いますが、三浦半島にはまだまだ居城と呼べるものがいくつもあるのですね。すーちゃんがバイトの帰りに立ち寄れる、という設定に近い地域にある居城だけを挙げてみても、新井城・和田城・芦名城・長井城と盛り沢山です。
 さらに、「あの廃道は昔 山の上にあった新興住宅地への道だ」という条件を満たすとなると、これはもう長井城くらい(長井ハイツ(*1)を新興住宅地と見立てたとして)になってしまいます(*2)。が、当然のことながら、周辺には「鉄クズ同然の自販機」なんてものは、もはやありません。(※ここで「もはや」と書いたのは、あるいはかつて実在していたのかも?という気になるエピソードが、ヨコハマ買い出し紀行第100話『ふたり』の中に見つけられるからです。)どちらにしても、長井の丘が大々的に再開発され尽くしてしまった現在、その片鱗を見つけることは不可能に近いでしょう。
 念の為、その他の各居城、特に衣笠城周辺も小道を中心にいろいろと調べてみましたが、やはりそのようなものは見つかりませんでした。
▲自販機の先に続く道。廃道とは言えないが、趣はある。 ▲小網代の森・白髭神社側の入口にかつてあった自販機。
 そもそも、三浦半島で自販機のスクラップとか見たことあったかな?と思いを巡らしたところで、過去の一つの記憶に行きあたりました。
 それが、白髭神社の脇から『小網代の森』へと続く小道の入口にあった、この自販機です。残念ながら、今では既に消失風景。私が最後に撮った写真データが2000年でしたから、もう10年以上も前の話なのですね。それでも、この光景がつい数年前のように強く記憶に焼き付いているのは、やはりその存在が異質だったからでしょう。見た目に明らかに壊れていたので「試そうか?」とはならなかったのが悔やまれますが、当時にして既にローカルな風合いを醸し出していたその機械は、森を訪れるたびに気になる存在ではありました。
 願わくば、この自販機がかろうじて稼動していた時代の「夜の光景」というものを見てみたかったですね。
 ―――いや、すーちゃんだったら、今も可能なのかも・・・・?
▲動くのかな、一回、試そうか?電源コードついてるし ▲ここまできたら…ひとくち…いってみっか?



 (*1) 長井にあった旧米軍住宅地は『長井ハイツ』もしくは『長井ハウス』という2つの呼称でしばしば混同されていますが、当サイトではかつて存在していた施設内の売店〔NAGAI HEIGHTS COMMISARY STORE〕の看板を基準とし、『長井ハイツ』という呼び方に統一しています。
 (*2) 長井城は荒崎公園内にあり、距離的に少し強引に解釈しています。理想はかつて給水塔のあった『経塚』あたりなのですが、あの場所はかつて長井寺があったという事実以外は歴史的に曖昧で、少なくとも居城があったという話は無いようです。