海風通信 after season...

route01 「霧の夜のこと」



 第1話は、バイト先から家までの途中にあるコンビニで遭遇する気象(?)現象のお話。
 のっけから主人公の愛称、バイト先の名前などが判明しますが、10話を過ぎて現在もなお、主人公の正式な名前は分かっていません。このあたりからしてまずフシギなのですが、(ちなみに芦奈野作品をくまなく見ている人は「これは『PositioN』の続編なのでは?」と感じられた方もいると思います。)しかし、それはまた後々のお話で。
 今回の舞台は、バイトを終えて家に帰る途中に立ち寄るコンビニの駐車場。「少し前まで本当に海だった」所で、「入り江が奥深く入っていた」場所。この2つのフレーズで真っ先に思いつくのは、初声町入江地区です。史実的にも本当に入り江だった所で、昭和30年代に西武鉄道が一帯を埋め立て、ヨットハーバーを造り、周辺にレジャー施設を建設する計画だったようです。これが何らかの理由で頓挫し、今に至るまでほったらかしの状態だったのですね。黒崎の鼻を訪れたことのある人だったら、その寂寥とした原野を目にしている人も多いかと思います。
▲バイト明けで立ち寄ったコンビニ。 ▲このあたりで缶コーヒーのプルタブを「カコ」と開ける。
 「確かあのあたりにコンビニがあって、それっぽい雰囲気の風景あったよなぁ・・・。」
 そんな思いで実際に現地に訪れて見ると、その設定の合致具合にちょっと驚きました。私の記憶では、その場所はファミマだったような気がしていたのですが、いつの間にやら南側にセブンが出来ていたのです。そして看板の位置とかもピッタリです。思わず缶コーヒーを購入して、「カコ!」とやってしまったのは言うまでもありません。しかしそれよりも驚いたのは、さらに南側に拓けていた原野の変貌ぶりでした。
 そう、あの寂寥の原野が見えないのです。その空間を埋めていたのはガソリンスタンド、流行りのコーヒーチェーン店、巨大なホームセンターでした。
▲こんな店まで進出する時代に・・・。 ▲入り江の原野と、かつてのヨットハーバー跡。
 最近、地方でこうした開発が、ホントに目立つようになりました。地元の人にとっては便利になって嬉しい限りなのでしょうが、日本全体がこのように見たようなチェーン店で風景が均一化していくという風潮は、なんだか寂しくも感じます。しかし、これもれっきとした時代の流れ。こうした光景を目の当たりにしたとき、いつも思い出すのは『ヨコハマ買い出し紀行』5巻の巻末に添えられたメッセージです。
昔、「あの時もっとしっかり見とくんだったな」と思ってた場所に10年ぶりに行って思うのは
10年前のその日にこそ、よく見とけばよかったということです。
今見なければ、きっと10年後もそうなんだろうなあとも思います。

 最近の三浦半島への旅は、実際こうしたことを心に留めて訪れているのですが、やはり後悔することもしばしばです。
 幸いなことに、入り江の原野は、ホームセンターの裏手に回ればまだ広範囲に確認することが出来ました。しかしここも早晩、開発の波にさらされてしまうようです。入り江の雰囲気を感じ取ることが出来るのは、本当にすーちゃんくらいしかいなくなってしまうのかも知れませんね。


2015/02/24