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菊名の飴屋踊り
三浦半島の歴史や郷土史等を紐解くと、たいてい「虎踊り」とともに出てくる伝承芸能がこの「飴屋踊り」なのでありますが、まさか私のホームページで、このようなガクジュツ的な記事を扱うとは思いもよりませんでしたよ。事の発端は、ここのページの読者である皆さんは既にご存知の通り、『コトノバドライブ』第8話の「トンネルのこと」に出てきた、あの「花飾り棒」を実際に検証するためです。 「飴屋踊り」で、花飾り棒はどのような位置づけをされているのでしょうか?それを確かめるためには、現在も唯一例祭日に奉納芸能が行われているという三浦市の菊名地区を調査してみる必要がありそうです。そこでいろいろ調べて見ると、この祭礼はガクジュツ的とかそういう小難しい話は抜きにして、とても素朴で手作り感満載の催事であることが解りました。これは是非とも実際に行って、体感してみる他はありません。
祭礼の開催時間は例年10月23日の午後7時からと決まっていますが、ここは準備段階の様子も体験・取材しておきたかったため、3時過ぎに現地へと向かうことにしました。場所は、菊名区民会館横にある農協作物出荷所の木造倉庫。会館とともに趣のある雰囲気を醸し出した建物で、私が『三浦七福神めぐり』をする際には必ず立ち寄るお気に入りの場所でもあります。普段はとても静かで郷愁を誘う風景が広がっているのですが、今回ばかりはサスガに様子が違います。会場前は既におおかたの準備が整い、華やかな飾り付けも施されていました。道路脇には縁日の露店が8軒、こちらも既に準備は万端という感じ。早めに来たと思ってたのですが、どうやら遅すぎたくらいです。 実際、祭礼の実行委員である『あめや踊り保存会』の方に伺うと、この例祭は菊名の総鎮守である白山神社に奉納されるという意味合いから、正式には2時に境内で執り行われる式典斎行の『湯立神楽』からが始まりだということでした。
「あぁこれ、お祭り終わったらお願いして、1本いただけないだろうか?」ふとそんなヨコシマな考えがよぎりましたが、今、そんなコトを言うと、ヘンな奴と思われかねません。第一、まだ踊りの本番すら見ていないのです。ここはグッと堪えて、お祭りの取材を続けましょう。 (※ここまでの記事、『コトノバドライブ』第8話を知らない人には??ですね。申し訳ありません。)
「これは・・・人やって来るのだろうか?もしかして本当の意味で地区の人しか集まらないシークレット・ギグなの?」 そんな思いから、菊名地区では最も交通量の多いであろう「県道・上宮田金田三崎港線」に出てみるも、車の通りはまばら、『菊名あめや踊り』の幟が立っているものの、これから祭りが始まるであろう人の流れが全くありません。束の間、不安に駆られましたが、次第に、「かえってそれが良いのでは?」と思うようにもなりました。こんな営利観光にまみれてない素朴な祭りっていうのも、そうそうあるものでもないですからね。 その土地の人間だけで、気負わずのんびりと芸能を楽しむ・・・そんな祭りも悪くないと思いつつ、開演30分前の会場に戻ってくると、なんとビックリ!いつの間にやら会場前は、多くの人が集まり出していました。あぁ、やっぱり県道からがメインというわけでもないんですね。人々は、地区中のいろいろな小道から姿を現してきて、ようやくお祭りらしい賑やかさになってきました。いよいよ、『飴屋踊り』の始まりです。
まずは主催者あいさつ及び来賓のあいさつ、そしてお祭りの御祝儀を頂いた方の名前発表と続きますが、んんん・・・?これって、かつて私も遠い昔に味わった(!?)学校行事の式典のようなノリです。踊りの演目が始まってから確信したのですが、これはまさに集落を挙げての『学芸会』といったところなのでしょう。けっして悪い意味で喩えているのではありません。今や企業スポンサーがしゃしゃり出て映像・音響をハイテク化したり、テレビの演出方法を真似て俄か垢抜け化した祭りが増える一方、ここまで地元の人の手作り感あふれる祭りというのは、ある意味貴重です。 スピーカーもしょっちゅうハウリングを起こしたり、音楽が突然止まってしまうのもご愛嬌。こちらとしても、別に観覧料を取られて観ているワケではないので、怒る理由もありません。むしろ、「頑張れ!」とか「気にしてないぞ!」といった、応援したい気分になります。いつの間にやら、会場全体が運命共同体のような絆が生まれてくる、不思議な魅力を持ったお祭りなのです。
演目には地元の小中学生たちも協力・参加してくれているので、当然、子どもたちも数多く見物にきています。彼らも始めのうちは舞台で演じている友達を応援したり見守ったりと静かに見ているのですが、プログラムも中盤に差し掛かってくると、サスガに飽きてきます。そうなると、道路脇の露店にある『おもちゃクジ』で当たった景品でおもむろに遊び始めるわけですが、今年は『ブーブークッション』が瞬間的なブームになってしまい、会場のあちこちでブブヒョオ〜とかブベボベベェ〜などと、あらぬ音が鳴り響く事態に・・・!まぁ、これとてお祭りのざわめきの中では大して気にならないので、良しとしましょうか。多分、私も子どもの頃だったらこうなっていただろうなぁ、と失笑してしまいました。 けれど、平成も30年に差し掛かろうという世の中にブーブークッションって・・・・。子どもの興味って、いつの時代も大して変わらないのですな。
「ホソダノヤツ」なんて、「おのれ、のび太のヤツめー!」みたいなジャイアン的な演劇なのかな?と、大して興味も示さずにいたら、実際の読み方は「ホソダノヤッコ」だということで、若い娘が旅の途中、出会った男(奴や坊主)を色仕掛けでたぶらかして道案内をさせ、道中を要領良く安全に渡り歩くという、ルパン三世の不二子ちゃん的なストーリーの演目なのです。 そんな内容の出し物なので、ちょっと卑猥な表現手法の所作が入ることから、この演目だけはキョーイク的に無形民俗文化財の指定から除外されています。現在となっては、それほど過激な表現とも思えないのですけどね。そもそも、見ている子どももこの辺あたりになると、ほとんど舞台には目をくれず、露店で買ってきたおもちゃや食べ物に夢中になっているのですよ。あたりにはブボベブブゥ〜!と相変わらずブーブークッションが鳴り続け、子どもたちは目下、こちらの下ネタのほうに興味を奪われているので、全然問題ないのでありました。
そしてそれは、理想的推測に最も近い形で実現されました。 飴屋踊り閉幕の宣言とともに、保存会の方々によって花飾り棒が取り外され、子どもたちに配られ始めたのです!一斉に群がり、花飾り棒を手にはしゃぐ子どもたち。私の見たかった光景が、まさにそこにありました。
聞くところによると、この花飾り棒(注:この名称はあくまで私が名付けたものなので正式名称ではありません。)は、保管しておいても色が褪せて見映えが悪くなってしまうことから、祭りが終わった後にこうして配り、毎年新しいものを作り直すそうです。そう、これは例年行われている、飴屋踊りの知られざる慣習のひとつだったのです。 ◆ これで『コトノバドライブ』第8話の一連の行動は、まさに合点がいきます。ただし作品中では、あくまで「夏のお祭り」なんですよね。長井にもかつてはこのような風習があったのでしょうか?それとも両者を融合させた、作者のフィクションなのでしょうか?興味は尽きません。とりあえずは、花飾り棒を肩に預け、「すーちゃん」よろしく菊名集落の深まる闇夜を歩きます。ワタクシ的には、それで大満足なのでした。 参考文献:三浦市民俗シリーズ[XV] 三浦菊名・あめや踊り/田辺 悟 編著
平成二十七年度『菊名の飴屋踊り』当日配布資料 |
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