海風通信 after season...

〔追記調査〕おしょうろ流し〜おしょうろさま入手経路を辿る

【おしょうろさま取扱商店調査】
 調査地域:三浦市初声町三戸・南下浦町松輪・南下浦町毘沙門
 対象商店:農協売店・地域の個人商店・日用雑貨店

 [取材日:2017年08月08日]

 
  ▲おしょうろさまは、集落内のお店で売られているらしい?

 本編でも気に掛かっていた、『お盆の前、集落内の日用雑貨店で「おしょうろさま」が販売される』という光景をどうしても見てみたくて、翌年の夏に再び取材調査を試みました。訪れた日は、お盆の始まる5日前。このタイミングならば、商店にはお盆用品が充実しているはずです。果たして、下記の文献にも記されているような、三浦ならではの風物詩的情景を見ることはできるのでしょうか?

【参考文献:『三戸のおしょうろ流し』神奈川県民俗シリーズ(3)】より抜粋
 三戸の「オショウロナガシ」は盆に仏壇にそなえられたすべてのものを流すのであるが、その中に仏壇にかざられるオショウロサマと呼ばれるものがある。ナスの牛・キウリの馬の背に立てられて仏壇の上段にならべてかざられるところをみると、盆行事の中心的位置を占めるものと考えなくてはならない。オショウロサマは御精霊様であることは当然であるから、祖先の御霊がのりうつって仏壇に来ているものとの考えになるものであろう。即ち御霊の依代(よりしろ)と考えられているものである。
 オショウロサマは盆の前日、部落内の何でも屋である店から買ってくるのである。どれも同じ形であるが二個を一対として買ってくる。オガラの心棒をさして、オガラ四本足をつけたナスとキウリの牛馬の背に立てられるとできあがりである。オショウロサマは売っている店によって幾分の違いはあるが、大体大きさも形も似たものである。違いのあるのは製作者が幾人かいるためである。
 (中略)…何としても粗朴な民芸品ではある。
 まず初めに訪れたのは、まさに『おしょうろ流し』が行なわれる浜のすぐ横に位置する「三浦農協三戸支店」の売店。飾らない素朴なその外観は、昭和生まれの世代の人にとっては、郷愁すら覚える雰囲気のあるお店です。まるで子どもの頃に誰しも体験した、親の帰省先にある田舎の日用雑貨店を訪れたような懐かしい記憶…と言えば分かってもらえるでしょうか?現代の子どもは、ここらへんの思い出がコンビニとかに置き換わっちゃってるんでしょうかね。なんだかちょっと悲しいことです。そうならないためにも、こうしたお店や個人商店には頑張ってもらいたいもの。なので私は三浦半島を訪れた際には、積極的にこうしたお店を利用するようにしています。意外な商品ラインナップの発見もあったりして、けっこう楽しめますよ。あ、話が逸れつつありますね?
 というわけで、さっそく店内で話を伺うと、なんと「おしょうろさま」はすでに売り切れてしまっていると言います。聞くところによると、7月中には既に店内に並べられて、8月の頭くらいには売り切ってしまうそう。そもそも、訪問販売などをする業者さんがあらかた各戸に売ってしまうため、お店に買いに来る人は、たまたまその場に居合わせなかったり、うっかり買い忘れた人だけなので、それほどの数は置かないということ。う〜ん…「おしょうろさま」が店内に並べられているという「異の場」的な様相をイメージし、写真に収めたいと思っていただけに、最初からアテが外れるとは残念でなりません。
 この情況に納得のいかなかった私は、周辺に住む年輩の方々に改めて聞き込みを行いました。結果、やはり三戸地区内において「おしょうろさま」を売る店は、もはや現代においては農協売店以外には無いということが判明しました。しかし、代わりに行商(いわゆる訪問販売)にくる人は、「松輪の人」であるということも分かりました。この人は、「おしょうろさまを製作する人」でもあるようです。行商に来る時期は7月初旬の夕方(人々が家に戻ってくる時間に合わせている)から、軽トラの荷台に「おしょうろさま」を積んで各戸をまわって売り歩くのだといいます。価格は500円〜600円が相場とのこと。
 皆さんが「松輪の人」と呼ぶ方の、それ以上の詳しい素性は分からないということでしたが、松輪地区も文献によればお盆に「おしょうろさま」を飾る風習があるようです。松輪の日用雑貨店を訪ねてみれば、何か手掛かりが得られるかも知れません。
▲こうしたお盆用品を目にすることは珍しくもありませんが…。 ▲農協三戸支店の売店。最有力だった…ハズなのに。
 松輪には数軒の日用品を扱う商店がありました。しかし残念ながら、そのどこにも「おしょうろさま」は見つかりませんでした。そもそも松輪では、「おしょうろさま」を商店で売るような形態は昔からなかったらしいです。「松輪はおしょうろさまを自分で作れる人が多かったからね。たいてい、親類や知り合いに作っている人がいたので、そういう人からもらってましたよ。私の家なんかもそう。店では売ったことはないですね。」と、海沿いの商店の人は話します。
 この地域が駄目となると、もはや今年は諦めざるを得ないのかも知れません。しかしふと、毘沙門地区にも昔ながらの農協売店があったことを思い出しました。いやいや!それだけでなく、慈雲寺そばにも良い感じの商店があるではないですか。大変失礼な話ですが、駄目元でもという気持ちで後者の商店へと伺いに訪れてみたところ、実に私の描いたイメージに近い、素朴な陳列形態で販売されている「おしょうろさま」が、そこにありました!
▲毘沙門の商店。時期にはハバノリなども売っていたりする。 ついに、店頭に並んでいる様子を捉えることができました!
 「おしょうろさま」は簡素な発泡スチロールの箱に入れられているものの、丁寧に、そして綺麗に並べられており、その心遣いを感じることが出来、なんだかほっこりとさせられます。値段は二個一対で600円。思わず手に入れたい衝動に駆られましたが、こういうものは徒に所持するのも気が咎められますので、購入はあえて控えせて頂きました。(代わりに食糧を買い込んで、写真撮影だけお願いさせていただきました。)
 お店のおかみさんの話では、毘沙門地区は、今でもお盆に「おしょうろさま」を飾る風習は色濃く残っているとのこと。ただし、三戸のように海に流すということはなく、一般的な盆送りと同じようにお焚き上げをして送り出すようです。やはり三戸地区に残された風習は、特異なものなのですね。
 それにしても、こうした風習が三浦の各地にひっそりと、しかし確かに根強く残っているという事実を確認できたことだけでも大きな収穫です。思いもよらぬ遭遇に興奮するあまり、細かな民俗調査を行なうことは失念してしまいましたが、それはまた、いずれかの機会にて。うん、多分そんなに急がなくても大丈夫。きっと10年20年先にも、「おしょうろさま」はこの三浦の地に息づいていることでしょう。今回の取材で出会った人々の言葉から、そんな安心感を抱くことが出来ました。……そして、去年の夏に出会った子供たちの行動からも。

参考文献:神奈川県民俗シリーズ[3] 三戸のおしょうろ流し/赤橋尚太郎 著
三浦市民俗シリーズ[IV] 海辺の暮らし -三戸民俗誌-/田辺 悟 編著