海風通信 after season...

おりょうさんとアルファさんと月琴


▲本物の月琴を、この目で初めて見ました。
現地調査日:2018年10月30日
対象所在地:横須賀市大津町 〔宮谷山 信楽寺(しんぎょうじ)〕
調査の目的:信楽寺参拝と実物の月琴見学
備    考:下記本文にて列挙した作品内の登場箇所および
        ラジオドラマCD・OVA・画集・フィギュアなどなど
        ※ラジオドラマCDのリーフレット内では、アルファさんの月琴と同様に
          三弦しかない本物の月琴の写真を見ることができます。







◆月琴+α !?

 アルファさんを象徴する……もしくは、アルファさんと共にあるアイテムと言えば、どんなものが挙げられるでしょう?
 バイク、コーヒーカップ、カメラ…意外なところでは、卓上ラジオなども物語を構成する要所にたびたび登場してきますが、やはり真っ先に思いつくものは、『月琴』なのではないでしょうか。これは【アルファさん+月琴】という構図が、物語を展開する上でのキャラ設定のみならず、『ヨコハマ買い出し紀行』という作品全体をイメージするヴィジョンとして、見事にハマった結果であると言えます。事実、CDやOVAの表紙、画集の裏表紙、フィギュアの付属品など、実に様々な展開物のアイキャッチに使用されていることからも分かります。
 しかしながら作品本編では、月琴が登場するエピソードは全140話中、たったの5話(厳密には4話)しかありません。これにはちょっと驚き……というか、意外ですよね?以下にカンタンな概要をまとめて見ると……
   ・第1話「鋼の香る夜」で、オーナーの趣味であるという月琴の演奏を、おじさんとタカヒロに初披露。
   ・第10話「カマスのアヤセ」のエピソード終盤で、即興曲とともに月琴を弾く。
   ・第17話「波」で、月琴の曲に合わせてハミングするココネとアルファの心がシンクロ。
   ・第62話「颱風」では、月琴を背負って避難。その後被害を受けて消失したお店を偲んで月琴を奏でる。
   ・第139話「夕凪通信」では表紙のみ。物語収束に向け時間は流れていくも、『私』や好きなモノは「変わらず、ここに」という感じで。
 …これだけなのです。それにも関わらず強烈なイメージとして定着しているのは、それだけ月琴登場回のエピソード群が、『ヨコハマ買い出し紀行』全体の空気感を印象的かつ抒情的に表現した傑出作であったということでしょう。
 そんな重要なウェイトを占める月琴、実はアルファさんだけでなく、三浦半島にも深い所縁のある場所があるということをご存知でしょうか?
 横須賀市大津にある信楽寺(しんぎょうじ)。そこには、あの坂本龍馬の妻であった「おりょうさん」の眠るお墓があります。おりょうさんは生前に月琴を習い、愛奏した人物とされ、堂内には位牌と共に月琴が祀られているというのです。
 実際の月琴を目にすることができる機会というのもなかなかありません。そこで、おりょうさんとの関りと併せて訪ねてみることにしましょう。
▲信楽寺本堂。堂内左手に木彫座像と月琴がある。 ▲墓地中央の山側斜面にある龍子(おりょう)の墓。
 信楽寺山門を抜け、本堂前にて一礼。件の月琴は、堂内に「龍馬・おりょう夫婦等身大木彫座像」とともに奉納されているということですが、まずは左手墓地にある、おりょうさんの墓前に手を合わせることを忘れないよう、参拝を済ませておきましょう。(と言いつつも、私は逸る気持ちから堂内をチラリと確認してしまったのですが……。)
 そして本堂内へ。堂内前方中央には、見事なまでの内陣に祀られた御本尊の阿弥陀如来像が迎えてくれます。ふたたび一礼をして左側に目を向けると、そこにはこれまた存在感のある木像が仲睦まじく並んでいるのが、すぐに確認できると思います。そして、月琴も……!
 これが「龍馬・おりょう夫婦等身大木彫座像」なのですね。一段高くなった畳敷きの台上に安置され、とくに仕切りやガラス張りで囲われているわけでもなく、ホントに間近で見ることが出来ることが驚きでした。
 こういうのって「写真禁止・進入禁止・触れるな・屁をこくな」とかって色々貼り紙がしてあったりすると、萎えるんですよね。それがここでは、参拝者のマナーに委ねているところが好感を持てました。まぁ、それもひとえに今までの参拝者に不届者がいなかったということの表れなのでしょう。龍馬がらみのファンはモラルが高いのかも知れません。おかげでじっくりと月琴を観察することができましたよ。
 全体的にかなり年季の入ったシロモノのようですが、まさかこれ、おりょうさん自身が所持していた月琴そのものというワケでもないのでしょうね。 それでもどことなく可愛らしい趣きがあり、女性が持つにはお似合いの感じもします。柱(フレット)の間にある扇型の飾り(?)には、なにやら亀のような彫刻があり、どことなくラブリー。この部分が特に私も気に入ってしまいました。
▲龍馬・おりょう夫婦等身大木彫座像。 ▲波間に漂う亀(!?)のような扇型の飾りもの。
 おりょうさんと月琴との出会いは、坂本龍馬が寺田屋騒動で負った傷を癒すために各地を転々としたその旅路(いわゆる日本最初の新婚旅行とか言われてるヤツです)の終盤、長崎の小曾根家に暫く身を寄せた際に月琴を習ったと言われています。教えてもらったのは小曾根家の一人娘のキクさんからということですが、小曾根家は代々月琴の名手であったということなので、おりょうさんもかなりの腕前にまで上達したのでしょうね。
 ここでお寺の寺務所にいた方とお会いすることが出来たのでお話を伺うと、展示してある月琴は、やはりおりょうさんが実際に所持していたものではなく、何回忌かの記念式典の際に『よこすか龍馬会』の方々によって奉納されたものだということです。う〜ん…やっぱりそうですよねぇ、そんな貴重なものが、ここまで無防備に置かれているハズはないのでした。
 ちなみに、おりょうさんが使用したとされる月琴は、今も小曾根家子孫のお宅に代々受け継がれていて、現存しているということですよ。この月琴がおりょうさんの墓前で、再びご対面できる時が来れば良いですね。その際は、是非ともまたこの地を訪れてみたいと思います。

 ※後日、本レポートを書くために月琴について色々と調べていたところ、この信楽寺の月琴は、『月のあしび』というブログを書かれている方の手によって修復されているという事実が判明しました。『月のあしび』と言えば、なんとあの『アルファさんの月琴』を一から作り上げ、再現させてしまったというツワモノとして、ヨコハマ・ファンの間でも昔から知られた有名なサイトですよ!
 こんなところでも繋がりが生まれてしまうなんて、やはり『ヨコハマ…』を取り巻く世間は、広いようで狭いです。