海風通信 after season...

『ぴょん!』の塔


▲元NHK運動場から見る、杉並清掃工場の煙突。
現地調査日:2018年11月27日〜2019年01月29日
対象所在地:杉並区高井戸東・世田谷区八幡山・三浦市南下浦町上宮田
調査の目的:塔構造をした建造物探し
備    考:月刊アフタヌーン97年8月号表紙もしくは、
        『芦奈野ひとし画集』38ページ、ポストカードブック2枚目参照のこと。









◆白塔 武蔵野編!?

 『ぴょん!の塔』? のっけから何このタイトル?と思われるかも知れませんが、備考欄の参考文献を見る限り、これしか言いようが無いのですよ。
 アフタヌーンの表紙を飾った当時のコピーは「OVA化で ぴょん!」だし、画集で芦奈野センセイ自らが述べたコメントも「あ ぴょん…ですね。」これだけだったのです…。何かこう、もうちょっとヒントが欲しいなァとは思いつつも、これほど特徴的なランドマークなのだから、いずれ誰かが場所を特定するだろうと棚上げしていたら、気付けば20年近くもスルー状態…。あれ?皆さんそんなに気にしてなかった…のかな?
 まぁ、良いでしょう。22年前の案件を今さら掘り下げようとする『時効警察』の霧山修一朗のような人間もいないだろうし、ここはやはり私が動くしかないようですな。(←それをヒマジンと人は言う。ダメジンとも。)まぁ、やる気になっちゃったからしょうがないのです。

 ところで、ここであらためて当該イラストを見返してみると、この風景、どうにも三浦半島の描写とは思えません。土地の起伏もほとんどなく、まっ平な土地が彼方にまで続いているよう。このような光景は、三浦では大規模造成農地くらいしか思い浮かばないのですが、そもそもあの半島には、このような平原に『塔』などというようなモノがほとんど見つけられないのですね。ひょっとしたら、これはまさしくムサシノの国ではあるまいか?とは思いつつも、アルファさんの服装が、どうにもよそ行きの恰好ではないのが気になります。
 ここで、いつもヨコハマの舞台地検証でお世話になっている『夕凪を、見て歩く』のサイト管理者のふきさんにアドバイスを伺うと、思いも寄らなかった心強い意見がいただけました。それは、「この表紙が描かれた97年8月号は、おそらくですが、第36話「町のにおい」が掲載された刊のようです。ということは…この塔の所在地は「ムサシノ」でしょうか!?(驚)」というもの。つまりムサシノ編真っ只中のエピソードだったため、表紙にもムサシノの背景を描いたのでは?と推測していただいたのです。おぉぅ!これは盲点でした。言われて資料を引っ張り出して見ると、確かにその通り。第34話〜第36話にかけては、まさに古都ムサシノを舞台に物語が展開されているのですね。服装やリュックに違和感があるのは謎のままですが、とりあえずはこれでムサシノの線がより濃くなったと言えるでしょう(言えるコトにしてください。) …なんだか「ムサシノのカタクリ編」と同じようなゴーインな畳掛けになってしまいましたが、今回の舞台地検証は「ムサシノ!」ということで話を進めさせていただきます。
 以上のような観点から場所を範囲特定してみると、「ムサシノ」で「白く」て「高い塔」というものは、清掃工場の煙突、あるいは給水塔くらいしか思いつかないのですが、給水塔としてはちょっとスケール的に背が高すぎますよね。ここはやはり清掃工場の煙突の方が、しっくりくる気がします。
 こうした条件を踏まえて考えられるのは、『杉並清掃工場』と『千歳清掃工場』の煙突。なんと、どちらもココネの住む(であろう)地域からも非常に近く、場所によってはどちらも見えているかも知れません。そこでこの2つの煙突を、それぞれの視点からイラストと重ね合わせて見て行きましょう。
▲元財務省久我山運動場周辺から見る杉並煙突。 ▲杉並煙突の拡大写真。2本に見えるが、突起は3本らしい。
 【杉並清掃工場】
 まずはこちらの煙突から。京王井の頭線高井戸駅に隣接する場所にある、円柱状・3本の管状突起が確認できる白塔です。
 すごくキレイな塔だな〜と思ったら、実は2017年に改修工事が完了したばかりとのこと。あれ?となると、97年時点とは煙突の形状が変わってしまっているのでは?と懸念しましたが、当時の写真と見比べても、大まかな形状はほとんど変わってはいなかったので安心しました。
 真下から見上げる塔の存在感は圧巻の迫力!しかしイラストでは少し距離を置いたひらけた場所を描いているようなので、まずは公園や広場的な平地を探します。けれど、いろいろと公園をまわって見るも、どこも、すこーん!と抜けている平地的な開放感は無いのですね。そんな中で見つけたのが、久我山にある広大な空き地。現在は名称が無いようですが、かつては財務省とNHKの運動場があったという場所に辿り着きました。
 財務省の方は農地のようになっていて、ちょっとほったらかし感はあるものの、それがヨコハマ的侘しさがあって良い感じ。NHKの方は、まだ定期的に管理されているのか荒れている様子もなく、キレイな草地が広がっています。どちらも広く周囲を見渡せて、程好い大きさに塔も確認できるという点では合格なのですが、何だろう…地面の感じがやっぱり違うのかな?
▲希望ヶ丘公園より見る千歳煙突。 ▲千歳煙突の拡大写真。突起は一つだけど、六角柱か…。
 【千歳清掃工場】
 一方こちらは、高井戸から環八を南下して八幡山を抜けた先にある煙突。六角柱状で、先端の管状突起が中央に大きく1本ある塔です。
 イラストでは綿密に塔の細部を描き込んでいるわけでもないので何とも言えませんが、先端部は千歳の方が似てて、四角い窓状の配置間隔は杉並の方が似ているのかな?塔本体の形状は四角柱とも取れるし、円柱に影が差してるとも取れるので、ちょっと良く判らないですね。ちなみに、塔の下に描かれている横長の構造物は、清掃工場の本体部分と思われ、どちらの工場でも確認できました。(写真には写ってないけど。)
 ここの煙突もランドマーク的にあちこちから見えるのですが、ひらけた場所からというのは、なかなか見つかりません。蘆花公園なんかも広そうに見えて、意外と起伏があったり、木々が見通しを邪魔していて、思ったほどの眺望が無いのですね。
 いろいろとウロつきまわっていて、ひょっとしたら!と思えたのが……↓
▲イラスト設定に近い位置での千歳煙突。でも逆光かぁ…。 ▲反対側には杉並煙突も見える。グラウンド入りたかったなぁ。
 ネットフェンスで囲われた、某大学の八幡山グラウンド。もちろん現役使用中だから路面も限りなくフラット。アルファさんがピョン!と跳んでいる場所は2段分の段差が見て取れますが、ここのグラウンドも競技種目別のコート間の境目に段差があるのです。さらにイラスト上での、塔の右手前に描かれた骨組みだけの施設は、もしかしたらこのネットフェンスの支柱部分を表しているのかも知れません。
 いろいろと強引なこじつけをしてみましたが、何より素晴らしいのは、ここのグラウンドは二つの工場の煙突を、北を見れば杉並、南を向けば千歳というように、同地点に居ながら見ることが出来るのです!先程、どちらの塔にもそれぞれに一部似たような箇所が見受けられると述べましたが、ひょっとしたらイラストの塔は、この二つの塔をミックスさせた想像上の建造物なのかも…と、これこそが強引な解釈ですね。

 【おまけ】
 三浦半島には特徴的な塔がほとんど無いと書きましたが、実は1つだけ思い出しました。県営上宮田団地そばにある三浦市の給水塔(正式名称不明)です。京急の車窓からもよく見えるので、気付いている人も多いのでは?
▲細長い塔と呼べるものはこれくらい。でもカタチが全然違う。 ▲電柱にのびるツタの絡まり具合が、実にヨコハマ的。