海風通信 after season...


 
 今回はいきなりの結論。↓

▲『なげやり』(*1)風に、筆ペンで一気に描きました。たぶん直筆画はWeb上で初公開?酔ったイキオイって、怖い…。
(*1)桜 玉吉 氏のマンガ『ームをろうじゃないか!!』。略して『なげやり』のこと。「り」が無い?そんなことは知らん。

 第15話『砂の道』で、若き日の子海石先生とおじさんが待ち合せをしていた海沿いのコンビニ『オレンジフット』(ORANGE FOOT)。これの元ネタが、どうやら『オレンジハット』なのではあるまいか!?というのが、今回の検証です。
 『オレンジハット』というのは、オートレストラン・オートパーラー…と言っても、今の若人には通じるのかどうか…?いわゆる自動販売機ばかりがズラリと立ち並んだロードサイドのドライブインのような施設のグループ・チェーン名で、かつては元祖コンビニ的存在として全国に展開されていました。セブンやローソン・ファミマなど、今で言うコンビニエンスストアがまだ少なかった時代、深夜時間帯で飲食できる店というのは貴重であり、私も夜通し強行弾丸ツーリングなどの無茶をしていた頃には、よくお世話になったものです。ここで小腹を満たしつつ、外のパーキングエリアで缶コーヒーを飲みながら「夜の空気感」を味わうというのが、なんとも言えぬ、独特の「浸れる」気分でした。
 芦奈野センセイも、きっとこのクチなのではないでしょうか。『カブのイサキ』の#11「深夜16号」はまさにそれでしょうし、あの感覚を好きじゃないと作品エピソードにまでわざわざ落とし込むことはなかったはずです。また、他にも作品発表時に誌面の隅に掲載される作者近況コメ欄にも、随所にそれが見て取れることが分かります。そのいくつかを例に挙げてみると……
夜中、メシ食いに吉野家行って、霧の駐車場で缶コーヒーをすすってると、バイクでうろうろしてた20代のころを思い出します。昔のジャイブが飲みたい。
『PositioN』/P:3「すきやけいこ」 より

私、昔から「夜中のにおい」って好きなんですけど、あれ、なんのにおいなんでしょうね。あの、自然のモノとも人工のモノとも言えない毎日ちがう妙なにおい。数年に1回のにおい、なんてときは、いきなりなつかしくなったりします。
『ヨコハマ買い出し紀行』/第22話「ヨコスカ巡航」 より

15年ぶりにギアつきのバイクに乗りはじめて、また一度に走る距離がのびました。すると15年ぶりに埼玉の街道沿いによくある「山田うどん」にまた寄るようになったので。15年ぶりの味がしました。
『カブのイサキ』/#24「小山」 より

真夜中に腹が減ったとき、車で街のはずれの牛丼屋に行きます。他にお客はいないか、いても一人、一組。妙に静かでほったらかしの、その時間と場が良いです。
『コトノバドライブ』/route02「風おやじのこと」 より

 おぉ!これは完全に深夜の、そして街道沿いのドライブインが好きなカンジです!…っていうか、よくよく思い出してみると、ヨコハマ買い出し紀行の第46話「レコード」において、砧児童館の寄贈図書コーナーの書棚の中にも、決定的なモノがあったではないですか!
 それは、『ツーリング野郎 街道無宿 命のオレンジハッ〇』という書籍。これ、絶対オレンジハットのことだよね!?第15話『砂の道』では、それとなく具体的名称を濁していたけれど、書棚の蔵書群の一部に忍ばせた描写では思わず遊び心が出てしまった、と。「コンビニエンスストア」という点も、元祖コンビニ的存在という要件で相通ずるものがありますし、街道沿いという立地にも合致します。レトロな自販機が並び、昭和を彷彿とさせるノスタルジーなドライブインの雰囲気が味わえるという情景からも、きっと芦奈野センセイもお気に入りだったことでしょう。そこで、今さらながらではあるものの、この『オレンジハット』に改めて訪れてみようということになったのです。
▲オレンジハット沖之郷店。何とは無しに昭和時代の熱き心を思い起こさせてくれる、正しきドライブインであります。 

 かつては全国展開していたオレンジハットも、現在では大手コンビニエンスストアの台頭とともに急激にその数を減少させていき、今や群馬県内だけの稀少な存在となってしまいました。(※看板などの痕跡は今も日本各地に残っているようです。)
 その中で私が向かったのは、オレンジハットの総本山(!?)とも呼べる『沖之郷店』。稼働しているレトロ自販機の数が充実しているという点でもそうなのですが、何よりも『砂の道』の作品内で描かれた建物の外観に「どことなく」似ているということも考慮に入れての選択でした。(※あくまでも存在している店舗を比較してでのチョイスですよ。そもそもが完全なる合致は、最初から期待していません。)
▲街道沿いに立つ看板もシブい、オレンジハット全景。 ▲ズラリと並んだ自動販売機群が、店内でアナタを待ち受ける。

 外観の様相は、ドライブインというよりかは、昭和時代によくあったゲーセンやビリヤード場等の遊戯施設といった趣き。入るのが少し躊躇われるような雰囲気ですが、一歩勇気を出して踏み込んでしまえば、そこは懐かしき80'sパラダイス!(←年バレるって。)
 店内にはスロットや対戦麻雀のアーケード筐体、クレーンキャッチャーなどが賑やかに稼働し、そしてその奥には、ズラリと並んだ懐かしの食品自動販売機群が!そのどれもがかつて見たことのある、記憶を鮮烈に蘇らせるレトロなスタイルを維持し続けていました。
 「これこれ!このコックさんの絵とかねー、それとトーストサンドの看板写真。たしかにこんなカンジだったよなぁ…。」
 そして昔の学食やユースホステルの食堂を想起させる、簡素に設置されたテーブルとイス。イイですね〜。この小ざっぱり感が気取らなくて、なんとも落ち着くのですよ。実は沖之郷店に来たのは今回が初めてでしたが、いきなり常連店のような居心地を感じて、思わず寛いでしまいました。
▲ハンバーガー、トーストサンド…何十年ぶりの再会だろう? ▲これは知ってても食べたことはない。今こそトライだ!

 さて、いよいよ何十年ぶりかの自販機にての購入です。特に「うどん・そば」の自販機に関しては、知ってはいても購入するのは今回が初めて。
 興味津々にコインを投入し『きつねうどん』を選ぶと、ニキシー管を使用したタイマーが点灯し、出来上がりまでの時間を表示しました。この光り方の感じが、デジタルなんだかアナログなんだか分からない曖昧さで良いですねー。LEDや液晶表示では出せない、なんとも言えない味があります。久しく忘れていた光の記憶を思い出させてくれるよう…。そう感慨にふけっているうちに、自販機取出口からボフッ!という音が聞こえてきました。
 …冷静に考えてみれば、熱っつい汁物が自販機の取り出し口からフタもせずに出てくるというのは信じ難い光景なのですが、それは確かに下写真のような『きつねうどん』の状態で出てきていました。ある程度分かっていたこととは言え、やはり現物を目の当たりにすると衝撃です。
 外装フィルムやラップも無く、裸同然でうどんが出てくるのは、昭和の豪快さがあって決して嫌いではありません。けれどこれって、令和の現代では衛生的にどうなのでしょう?特に訪問した時点ではコロナ警戒もまだ緩和されてはいませんでしたし、巷ではおバカさんの外食店での炎上動画が騒動となっていた最中でもありましたから、殊更そう感じてしまったのです。
 ふと見ると、うどん取出口のすぐ横のスリットには、お箸やトウガラシなどの薬味が無造作に突っ込まれ、完璧に性善説に全振りした「ご自由にお使いください」的システムになっています。これだって、実にアバウトでほったらかしなサービス提供ですよ?(この感じ、もちろん好きなんだけど。)
 う〜ん…、私が神経質なだけなのかな?しかしこれは、食べた後にまったくの杞憂であるということが分かりました。
▲デジタル?なのにアナログっぽい調理経過表示盤。良い。 ▲「たるたるみーーとバーガー」と「きつねうどん」の昼下がり。

 少し不安になりつつも、それでもせっかくここまで来たのだからと、さらにオーダーを追加。あと一つは、やっぱり高校時代から好きだったハンバーガーは外せないということで、『たるたるみーーとバーガー』なる不思議な名称のモノを購入。ようはタルタルソースとミートソースのミックス味なのですが、何故『みーーと』と長音記号(伸ばし棒)を2つ並べるのかは不明。まぁ、私もけっこう多用したりしているので、気持ちはわからなくもありませんけど。
 ということで、質素なように見えて意外とヘビーな昼食の準備が完了。トーストサンドも購入しようかと迷いましたが、ジャンクフード3連発はサスガに胃に堪えそうなので自重しました。いや、イケたとは思いますけどね。サッパリ系の料理が無いことに、少し不安を感じてセーブしたのです。
 お味の方はというと、「きつねうどん」はまぁ、給食に出てきたソフト麺のような感じにインスタントっぽさをプラスした感触で、スープの味付けは少し濃いめ。「自販機から出るのだったら、まぁこれくらいだろう」という、だいたい想像していた通りの味でした。そしてハンバーガーのほうは、これがまさに当時食べたものとイメージ通り!というか、むしろ旨くなってないか?これ!? タルタルとミートソースってこれまで一緒に食べたことはありませんでしたが、意外と合うものなんですねー。そして肉部分も厚くてジューシー。思い出補正を考慮にいれなくても充分な味とクオリティー、これはおススメです!
▲うどんそば自販機の内部構造。複雑なような単純なような…? ▲トーストサンド自販機の内部。今も現役なのがスゴイ!

 『たるたるみーーと』の余韻に浸っていると、お店の従業員の人が現われ、先ほど私が購入した自販機の点検と取出口まわりの拭き取り清掃を始めました。初めはさほど気にも留めていませんでしたが、その後も店内でしばらく過ごしていると、この作業はどうやらお客さんが自販機を利用するごとに行なわれているようです。これは一体どういうことなのでしょう?私はこの自販機の内部も別件で見てみたいという観点からも、従業員の方に声を掛けると、とても興味深いお話を伺うことができました。
 どうやらそれは、自販機の動作が年代物で不安定なために、一つ売れるごとに次の商品がちゃんと送り出せるような状態になっているかをチェックしているのだということです。そしてこのコロナ禍の状況、取出口のまわりに汁などが飛び散って不衛生・不快感を与えないよう、こまめに拭き取り作業を行なっていたのでした。あぁ、食べる前にこの事を知っていたなら、もっと気分よく食事が出来ただろうになぁ…。でもまぁ、この施設が予想以上に衛生面に気を遣っているのが窺い知れて、好印象を持つことができました。それにしても、ここまで機械に人員と手間と神経を使うのなら、素直に人間が料理を提供した方がラクなのでは?…って、それじゃあ自動販売機の挙動を目当てに来た人にとっては、ミもフタも無い話なんですけどね。
 その従業員の方は、私がお願いするまでもなく「中も見てみる?」と言って、うどん・バーガー・トーストの、全てのレトロ自販機の内部を見せてくれました。「これ、壊れると大変なのよー。茨城のほうから修理に来てもらうらしいからね。部品も替えがあるうちはいいけど、なくなっちゃったら、もうどうにもならないみたいだし。」
 確かに、それはそうでしょうね。機械と言えども、永遠不滅のモノではないのですから。故障や部品不足に直面すると、無限の時を与えられたという存在が、途端にアヤしい立ち位置になってきます。そう考えたとき、『ヨコハマ買い出し紀行』の第100話が、ふと思い出されました。
 あのエピソードの最後の場面で、「ふたり」という表現によって、アルファさんは自動販売機を「ロボット」の一員として認識、接してしています。それはつまり、ロボットもまた寿命のある存在と言えるもの。いや、あるいは機械の寿命というのは、人間よりも短いのかも?例えば2014年3月末で修理対応を打ち切られてしまったペット型ロボットの「AIBO」(第1世代)などは、その象徴的な例と言えるのではないでしょうか。対岸から眺めているだけの存在だと思われていたロボットも、実は『みんなの船』に乗っているのかも知れません。これは果たして嬉しいことなのか、悲しいことなのか…。
 出来ることならそうならぬよう、ここの自販機たちにも、なるべく長く愛され手を掛けられて、命を繋ぎとめていって欲しいものです。

 ―――「たとえ20年後になっても、あの自販機たちはハンバーガーやトーストを売っているだろう。そういう店だ。」
 そんな具合になっていると、私も嬉しいなぁ……。その時まだ、私がいればだが……(←それは禁句。)
▲オレンジハットのシンボルが青空に映える。 ▲ハット型のパイロン。色褪せちゃって、これじゃイ〇ローハットだよ?
2023/03/26(初稿):2023/03/14(撮影)