メディアとつきあうツール  更新:2005-04-07
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

NHKに政治介入。
政府高官が圧力・干渉、
番組内容を改変。
受信料問題に影響も。
ETV「裁かれた戦時性暴力」で

≪緊急のリード≫
2005年1月、NHK不祥事と視聴者無視の居丈高な姿勢から受信料の不払い(支払い拒否)・保留が拡大するなか、NHKの政治的な偏向を示す大スキャンダルが発覚。放送直前に番組内容が改変され、訴訟沙汰となっていたETV「裁かれた戦時性暴力」問題で、当時の内閣官房副長官・安倍晋三らが、NHKに圧力をかけていたことがわかったのだ。政府高官からの番組内容に関する事前申し入れは、どんな言葉であれ、放送法が禁じる放送番組への干渉で放送法違反。そもそも表現の自由や言論・報道の自由を謳う日本国憲法違反だ。ここは北朝鮮やロシアや中国でもなければ、戦前の軍事国家でもない。21世紀の日本で、政権与党が特定の番組を狙い撃ちにする政治介入、政治的圧力の行使を許してはおけない。全放送局・全新聞・全出版社をはじめ言論・表現活動にかかわるすべての人びとは、強く抗議すべきである。(2005年01月13日 このサイト用に執筆)

※4月13日頃「徹底検証! NHKの真相」が発売。「月刊民放」4月号巻頭特集は「まもろう!放送法」に執筆の 「元政府高官の番組干渉はなぜダメか?」も合わせて、ぜひご一読を!!

≪このページの目次≫

NHK番組ETV「裁かれた戦時性暴力」への
政治介入の概要

今回判明したNHKへ政府高官の圧力
 NHKのETV「裁かれた戦時性暴力」の放送前に、当時(森喜朗内閣)の内閣官房副長官・安倍晋三らは、NHK関係者と接触し、番組について「公正中立な立場で放送すべきだ」などと指摘。結果的に、これが圧力となって、NHKは番組の内容を一部変えて放送した。

 自民党の安倍晋三幹事長代理は2005年1月12日、事務所を通じて、

「(模擬裁判の『女性国際戦犯法廷』は)裁判官役と検事役はいても弁護側証人はいないなど、明確に偏った内容であることが分かり、私はNHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」

 と、コメント。NHK幹部と接触し、番組内容について放送前に注文をつけたことを認めた。

 なお、現在の経済産業大臣・中川昭一も、NHK幹部に対して同じように番組内容について事前の注文をつけていたことが報じられた。中川昭一(当時、自民党国会議員)は「公正中立の立場で放送すべきであることを指摘した」とコメントしている。(以上は2005年01月12日付「東京新聞」による)

 【1月14日追記】「毎日新聞」2005年1月14日1時12分の記事によれば、13日、パリで記者会見した中川昭一は「NHK関係者との面談は『放送後の(01年)2月2日だった』と述べた」。「朝日新聞」2005年1月14日2時45分の記事によれば、10日の段階では、朝日新聞の取材に対し、放送前日に面会した事実を認めたうえで、「NHK側があれこれ直すと説明し、それでもやると言うから『だめだ』と言った」と答えたという。上の段落の「事前に」を削除しようと思ったが、やめておくする。【16日くつろいでいるところに強引な取材があったとの情報を得たので削除】

ETV「裁かれた戦時性暴力」の内容改変問題
 ETV2001特集「裁かれた戦時性暴力」については、放送直前に内容が改変され、訴訟問題に発展していた。これまでは、政治的な圧力が疑われていたものの、NHK関係者はそれを否定し、「編集権の問題」と説明していた。

 ETV2001特集「裁かれた戦時性暴力」放送前後の経緯については、朝日新聞の本田雅和・柏木友紀記者による2001年3月2日付朝刊の記事を、インターネットで読むことができる。そちらを参照していただきたい。

 慰安婦法廷」めぐる特集番組 NHK、直前に大改変(検証)

 ここでは新聞報道その他を参考に、事実経過を簡単に紹介しておく。

 2000年12月、「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW−NETジャパン、代表は松井やより)などが日本軍慰安婦制度をめぐって民間の模擬法廷「女性国際戦犯法廷」を開催。「判事」役が慰安婦制度について日本国の責任を認め、昭和天皇を「有罪」と結論づけた。

 これに先立ち、2000年秋以前の段階で、NHKエンタープライズ21と制作会社ドキュメンタリージャパンは、同法廷のNHK教育テレビETV2001特集での放映を企画していた。

 2001年1月中旬頃から、インターネットの掲示板などで「放送反対」の意見が流れ、NHKにも直接、電話、ファクス、Eメールなどで「放送中止」の要求が寄せられた。歴史研究者らや右翼団体による申し入れもあり、抗議の街宣車も登場。

 2001年1月30日午後10時から、ETV2001特集「問われる戦時性暴力」が放送。4夜連続シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2回として。番組では、判決部分、民間法廷を評価する識者の意見、「法廷」で強姦などの加害証言をした旧日本軍兵士の話などが削られ、民間法廷の問題点を指摘する識者の意見が追加された、とされる。

 なお、当時のNHKNHK広報局経営広報部長は、朝日新聞に対して「制作過程については編集権の問題であり答えられない。この番組はNHKとして自主的判断で編集したもので、いかなる外部勢力の影響も受けていない」とコメントしている。(このコメントは、2001年3月2日付「朝日新聞」による)

今回の政治的圧力の行使・
放送番組への干渉を、
どう考えるべきか?

番組内容に関する干渉は放送法違反
 放送法は第3条で「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めている。政務担当の内閣官房副長官・安倍晋三が放送前に放送局幹部と接触し、事前につかんだ番組の中身に注文をつけ、実際に番組が改変のうえ放送されたのだから、NHKの特定の番組が、日本政府高官から干渉され、規律されたことは明らかだ。これは放送法違反である。

 安倍晋三事務所から出されたコメントを読むと、当時の内閣官房副長官は「公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」だけで、介入や干渉には当たらないと考えているようだ。

 しかし、「公正中立の立場」かどうかを判断すべきなのは、この場合はNHKであって、内閣官房副長官ではない。にもかかわらず、内閣官房副長官が、放送前でまだ制作中の番組についてNHK関係者に説明を求め、「明確に偏った内容である」(これは東京新聞が伝える安倍晋三のコメントの一部)との判断のもと、意見を述べたのである。表面的には「公正中立の立場で報道すべき」という差し障りのない言葉(それだけを見れば正しい言葉)を使ったとしても、それが「NHKが制作中の番組は、偏った内容だから、改変すべき」という意味の「干渉」であったことは、安倍晋三本人の証言から明らかだ。

 しかも、番組は一部改変のうえ放送されたのだから、NHKは内閣官房副長官の意見を受け入れたことになる。つまり、NHKの番組は内閣官房副長官によって「規律」されたわけである。

 内閣官房副長官という公人ではなく、安倍晋三「個人として」申し入れただけだ、などという詭弁も通用しない。日本国政府中枢で内閣官房副長官という要職にあり、自由民主党の国会議員を務める有力政治家でもある人物が、言論・報道機関の幹部と接触し、個別の番組について「××すべき」といえば、それは政府・政権与党が個別の番組の内容について「××すべき」といったのと同じこと。政府・政権与党による放送への不当な介入に決まっているではないか。

 それは、安倍晋三が盛んに批判する北朝鮮のような国ならいざしらず、先進的な民主主義国を標榜する日本では、断じてやってはいけないことである。

 なお、放送法の第3条(放送番組の編集等に関する通則)は、一種の「精神的・倫理的な規定」と考えられており、それに反する行為があったからただちに罰則が適用されるというものではない(罰則規定はない)。ハッキリしているのは、政府高官による特定の番組への政治的な圧力は、放送法の精神にまったく反することで、放送法が原則として掲げる「放送による表現の自由を確保すること」や、「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」を危うくする「よくない行為」であるということだ。「自由」「民主」を看板に掲げる政党の政治家に、その自覚がないのでは、「自由」「民主主義」が泣く。

 以下に、放送法の関係条文を掲げておく。

放送法
昭和二十五年五月二日法律第百三十二号 最終改正:平成一六年六月九日法律第八八号

第一章 総則

(目的)
第一条 この法律は、左に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。

一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。

二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

第一章の二 放送番組の編集等に関する通則

(放送番組編集の自由)
第三条 放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。

(国内放送の放送番組の編集等)
第三条の二 放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

番組内容に関する干渉は憲法違反
 日本国憲法は第21条の1で「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と定めている。NHKの特定の番組が、日本政府高官から干渉され、規律されたことは、日本最大の放送局であるNHKの言論・報道の自由が侵されたことを意味する。これは憲法違反である。

 この国では、憲法違反はそう珍しいことではない。というより、よくある話である。むろん、「一切の表現の自由」などというものが保障されたためしはなく、この憲法第21条も、戦前の日本で集会、結社及び言論、出版その他の表現の自由が抑圧されていたことへの反省に基づく、一種の精神的な規定と考えるべきだろう。だから、憲法違反だからといって、ただちに何がどうだという話ではない。

 だが、今回判明した問題が、少なくとも欧米先進国であれば、放送、新聞、出版を問わず、すべての表現・言論活動にかかわる者が一斉に批判と抗議の声を上げても不思議ではない「メディアに対する政治的な圧力の行使」であることは、間違いない。

 なお、日本国憲法は第21条の2で「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」とも規定している。

 今回の政府高官による番組介入は、事前に番組の内容を察知してNHKに注文を付けたのだから、「憲法が禁止している事前検閲に極めて近い行為が、政府高官の手によっておこなわれた」と見るべきである。日本には、制度としての検閲は原則としては存在しないが、似たようなことが白昼堂々とおこなわれ、実際に番組を改変したうえでの放送に結びついたこと――しかも、その事実が4年もの長きにわたって隠蔽《いんぺい》され続けたことは、極めて重大で深刻な問題だ。

政治(政府・与党)に極めて弱いNHKの最大の問題が露呈
 NHKは、政治家である政府高官からの政治的な圧力に屈して、番組を改変した。ETV2001特集の「問われる戦時性暴力」の改変問題が訴訟沙汰になっても、なお、政府高官からの番組への干渉を隠していた。これは政治――政府や政権与党に弱く、その御用放送機関となってしまっているNHKの最大の問題点を浮き彫りにした。受信料不払いへの影響も避けられないだろう。

 私は、自民党郵政族の大物政治家(すでに引退)をよく知る人物から、「その大物政治家が、ある人物をNHKに出してほしいと、どこかに電話しているのを目の前で聞いた。その日の夜7時のNHKニュースを見ていたら、実際にその人物が出てきたので、電話の効果があったのだなと思った。そんなことをやっている放送局は、ジャーナリズムとしての機能を果たしているとはいえない」と聞いたことがある(政治家の名前は、ここでは匿名とする)。

 電話1本で、その日の夜ニュースを改変する(予定になかった、自民党に都合のよい人物を出す)くらいだから、電話1本で、ある番組を改変する(予定されていた、自民党から批判のあった箇所を削除する)くらいのことも、NHKは当然やるだろう。

 実は、今回のような個別番組への政治介入は、1960年代から70年代にかけて、NHK・民放を問わず頻発していた。

 放送お騒が史1960〜1969
――局や局員の事件事故・規制・放送中止・不祥事・テレビ珍事件を読む放送年表

 民放で記憶に新しいのは、TBSが放送素材を放送前にオウム関係者に見せていた、いわゆるTBSビデオ事件。これは政治権力の介入ではないが、宗教勢力が放送に介入し、結果的に殺人事件まで招いてしまった大事件だった。今回のNHKの問題は、まだ放送していない映像素材についての抗議(または指摘)を受け入れた点では、TBSビデオ事件と同じ構図。ある意味で、TBSビデオ事件に匹敵する不祥事といえる。

 NHKは、予算を国会で通してもらう必要から、民放と比べると政治に対して極端に弱い。だから、NHKに対する政治的な圧力は、民放以上に有形無形いろいろとあったはずである。しかし、田中角栄がらみで問題になったようなケースを除き、これまであまり話題に上らなかった。これは、そもそもNHKの自主規制が進み、政府や与党から抗議がくるかもしれないような番組や報道を、初めから流さないようにしているからである。

 イラク報道を見ても、開戦時のNHKニュースはアメリカ大本営発表報道そのものだった。ファルージャ情勢でも、香田証生惨殺事件でも、イラクに自衛隊を派遣している政府に都合の悪そうなニュースは、ほとんど報じられない。新潟中越地震の初期報道でも、政府や地元自治体の対応を問う問題意識は、まるで欠如していた。

 この意味で、私はNHKのニュース報道は「偏向している」「一部の事実を隠して伝えている」「対立する多様な意見を十分伝えていない」と考えており、そのように書いてもきた。しかし、その多くはあくまで自主規制(実は露骨な政治介入より、わかりにくいぶん、始末に悪いのだが)によるのであって、「イラク報道はこんな方向で」と、政府がNHKの報道や番組に事前に注文をつけた証拠はない。「地震のときは、自衛隊災害派遣のタイミングは聞かないように」とも、誰も伝えてはいないだろう。

 だから、NHKの自主規制の枠を超えて、今回のような政府高官による露骨な番組干渉が露呈したのは、極めて異例なことだといえる。それは今回の番組が、NHK教育テレビのETV特集という、NHKのメインストリートからは外れた番組で、しかもNHK本体ではないNHKエンタープライズ21に加えて、企画段階から制作会社ドキュメンタリージャパンが深く関与していたからだ。NHKの正統である報道部門が、「従軍慰安婦」「女性国際戦犯法廷」などという企画を取り上げること自体、そもそもありえないことなのである。

 なお、ETV「裁かれた戦時性暴力」が問題になった後、NHK教育からはETV特集という枠自体がなくなったし、現執行部下では、外部プロダクション制作のドキュメンタリーを教育テレビで流すということ自体、禁令が出されている。かつて教育テレビでは、アジアプレスなどが制作したドキュメンタリーなどを放送していたが、現在は放送していない。

 政権与党に都合の悪いニュースを流さないNHKの自主規制は、中立公正であるべきNHKの立場から大きく逸脱し、NHKが政権与党の意向だけをうかがう「御用言論報道機関」「御用放送局」となっていることを示している。そこに、今回の番組干渉の受け入れ・隠蔽が露呈したわけだ。

 原則としてテレビ受像機を設置したすべての人びとから受信料を徴収するNHKは、民放放送局よりもなお、政治的な公平を期さなければならない。民放テレビは気にくわなければ見なければよいが、NHKは見ても見なくても受信料を取るからだ。それが政府高官の言いなりになっていたことは、NHKの根幹に関わる大問題である。

 世の中には、与党支持者が多いが(多いから与党なわけだが)、野党支持者も少なからずいる。野党に個人的に政治献金をするような人びとは、政権与党の言いなりになっている放送局の受信料など払いたくないと思って当然ではないか。今回露呈した放送番組介入事件で、NHK受信料の不払い(支払い拒否)・保留は、ますます増大するだろう。野党は、与党の言いなりになっている放送局の予算を、国会ですんなり通すわけにはいかないと考えるだろうから、NHKをめぐる国会論議は紛糾すると思われる。NHKは文字通り、これまで経験したことのない最大の危機を迎えている。

ETV「裁かれた戦時性暴力」という番組そのものの評価
 今回の問題は、ETV2001特集「問われる戦時性暴力」という番組の出来不出来や評価とは、基本的に関係がない。そもそも「女性国際戦犯法廷」には、弁護側証人がいないなど不備があったとの指摘があるが、これとも別の話。右の番組だろうが左の番組だろうが、番組が紹介する模擬法廷判決が戦争責任あり・なしをどう結論しようが、それには関係なく、政府高官が事前に放送番組に干渉してはダメなのである。

 私は、問題のETV2001特集「問われる戦時性暴力」という番組をちゃんと見ていないから、その評価は差し控える。ただし、確実にいえるのは、番組が取り上げた「女性国際戦犯法廷」にどんな不備があれ、また判決がどうであれ、それは、女性たちが戦時の闇の部分に光を当てようとした現代社会の出来事として報じる意味があるということだ。その報道を見て、「女性国際戦犯法廷」に問題があると思えば、抗議すればよい。あまりにも一方的な結論だと思えば、違う見方の番組を作れと、NHKに申し入れればよい。「男性日本無罪法廷」という模擬裁判をやって、放送せよと迫っても一向に構わない。

 私個人は、大日本帝国憲法で「第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」「第十一条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」「第十三条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス」と規定されている以上、昭和天皇には戦争責任があったと考える。しかし、「戦争責任」と「戦争犯罪への責任」は違う。「第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とされた天皇にどんな情報が上げられていたかを考慮すれば、天皇の戦時性暴力に対する責任など問えないし、問うべきではないと考えている。それを問うなら、自分の祖父や曾祖父たちのやったことを調べてからにせよ、と思っている。だから、「女性国際戦犯法廷」の出した判決をエグイ判決だと思う。また、いま目の前にある少女売春(援助交際)や売春ツアーを黙認して、戦時性暴力の責任追及でもあるまいに、とも思っている。しかし、だからといって、番組制作に干渉しようとは思わないし、まして事前に政治的圧力をかけてよいとは全然思わない。【この段落は1月15日に追記】

 放送されてもいない段階で、政府高官が事前に局に意見を伝えて左右するのは、放送局の「自主」や「自律」を損ねるから、ダメなのだ。そのことは、番組の中身とは関係ない。

 そんなことは、政治的な立場にかかわらず当たり前の話。仮に、日本に非自民党政権ができたとして、その政府高官が「自民党の応援になりそうな番組」に対して「中立公正であるべきだ」と政治的な圧力をかけ、内容を改変のうえ放送させたら、自民党は怒って当然だろう。そのとき、そんな政治介入はダメだと否定するためには、現在でもダメだといわなければ、筋が通らない。

政治家とNHKの接触の経緯など、事実の異同について
 NHKの内部告発者の証言と安倍晋三・元内閣官房副長官の証言には、NHK幹部との接触の経緯など、いくつかの異同(不一致)がある。しかし、安倍晋三は、放送日の前日にNHK幹部と会ったこと、その際「公平公正な報道を行ってもらいたい」と述べたこと、その段階で「偏った内容と認識していたこと」は認めている。政府高官からNHKに事前に政治的な圧力がかかったと判断するには、以上の本人の証言があれば十分である。呼びつけたか出向いたかなどという経緯は末梢的な問題であり、政治介入の有無を判断する材料にも、政治介入を否定する材料にもならない。

 2005年1月13日午後、安倍晋三・元内閣官房副長官は記者団に対し、(1)問題の放送があった前日にNHK幹部と会ったこと、(2)その際「公平公正な報道を行ってもらいたい」と述べたことを、認めている(このページ末尾に引用した「読売新聞」記事ほか)。それより前、1月12日に事務所を通じて出したコメントで(3)「明確に偏った内容であることが分かり」と、放送前に把握していたことを明らかにしている(「東京新聞」記事ほか)。13日午後の段階で、記者団に対して否定していないのだから、以上は確かな話だろう。

 つまり、この政府高官は、放送日より前に、自分では内容が偏っていると思う番組を制作中の放送局幹部と会い、その番組について「公平公正な報道をしてほしい」と述べた(自分でそういっている)。

 そのことが、すでにして、軽率すぎた誤りである。その後、NHKは翌日夜の放送直前までに番組内容を改変したのだから、内閣官房副長官・安倍晋三とNHK幹部の接触の結果そうなった、あるいは、安倍晋三の言葉は政治的な圧力としてNHKに伝わったということを、否定できない。政府高官がそのように疑われても仕方がない行動をとったことは、遺憾ながら認めざるをえない。

 NHKが自ら出向いたか呼びつけられたか、面会の主要な話題は何であったか、実際にどのような言葉が交わされたかなどは、安倍晋三が自ら認めた(1)〜(3)の事実に、何ら影響をもたらさない。「政府高官が、放送前に放送局幹部と会い、番組について話し、放送局がその後に放送番組を改変した」という大筋は、呼びつけたか出向いたかなどという末梢的な問題がどうであれ、否定することはできないのだ。

 このページ末尾に引用した「読売新聞」記事によれば、安倍晋三・元内閣官房副長官は「公平公正な報道を行ってもらいたい、と述べたのが真実。それ以前に私が圧力をかけたり、接触したりということは全くない。私が呼びつけたという事実もない」と主張したそうだが、この主張は「放送番組への干渉がなかった」(または政治的な圧力はかからなかった、政治介入はなかった)ことへの、何の証明にもなっていない。

 政治的な圧力は、ニコニコしながら一言「よろしく」といっても、あるいは一言もいわず渋い表情で文書の一箇所を指さすだけでも、かけることができる。そんなことは、政治のイロハである。

 番組責任者が職と生活をかけて、政治介入を受け入れたとNHKの腐敗を告発したとき、政府高官が口にすべきは、政治介入の疑いを招く行為をして軽率だったという反省のはず。問題は一切ないと開き直り、内部告発者を個人攻撃するのでは、腐敗したNHKの上層部と同じ側に立っていると思われてしまう。【この項目は2005年1月14日未明に追加】

テレビ朝日「報道ステーション」の安倍晋三発言について
 元内閣官房副長官の安倍晋三は1月13日夜、テレビ朝日「報道ステーション」に登場し、朝日新聞記事に反論。その発言から安倍晋三は、「NHKに対して圧力をかけた」という自覚がない、「自らの発言がNHKに圧力として伝わる可能性」についての想像力もない、NHK幹部が放送前の特定番組について内閣官房副長官たる自分のところに説明に来ても全然おかしいとは思っていない、などがわかる。この安倍発言によって、公共放送NHKと政権与党の異常な関係――内容が取り沙汰される番組について局幹部が政府高官に説明に出向き、それを政府高官も受け入れるという関係が、ハッキリ露呈した。公共放送NHKの独立が侵され、政権与党の御用機関に成り下がっていた事実が、政府高官側の証言からも明らかになったわけだ。

 元内閣官房副長官の安倍晋三は、1月13日夜のテレビ朝日「報道ステーション」に登場し、朝日新聞記事に反論した。以下のサイトで、その文字おこしを読むことができる(まず、テキスト起しで糞疲れた「オレ」氏はエライ!! と誉めておきたい)。テレビでの説明を聞くと、安倍晋三には、「NHKに対して圧力をかけた」という自覚がないことはもちろん、「自らの発言がNHKに圧力として伝わる可能性」についての想像力がないこともわかる。

 Irregular Expression(嘘吐きは誰だ?!NHK問題の真相)

 番組で安倍晋三は「向こう側が説明に来たいといって、で説明に来て、それに対して公平公正にお願いしますよと私は申し上げたわけですね。それが介入になるのかという事だと思うんですね」と語っているが、むろん、それが政治介入になるのである。

 番組は放送直前に3分間のカットという改変がなされた。これが安倍晋三とNHKの接触の結果なのか、それともまだ知られていない別の圧力(たとえば別の政治家からの圧力とか、右翼の脅迫とか)によるのか、あるいは何日か前から進んでいた番組改変がNHK上層部によってダメ押しされたのかは、わからない。わからないが、現時点では放送前日にNHK関係者と会った政府高官は安倍晋三だと判明しているから、その圧力が疑われている。そのことに特段の不思議も、不自然な点もない。

 さらに安倍発言が極めて問題なのは、内閣官房副長官という政府の中枢にある政治家が、放送局幹部が放送日前の特定の番組について説明に来るのを、なんの抵抗もなく当然のこととして受け入れていた事実である。北朝鮮や中国やロシアならしらず、どこの先進民主主義国の公共放送が、制作中の特定の番組について、政府高官や与党有力政治家のところへわざわざ出向いて説明するか? BBCがそんなことをやっているだろうか? それは、政権与党の事前検閲を受け入れるのと紙一重の行為であって、放送局が政権与党の御用機関であることの証明だから、普通はやらないはずである。もちろんNHKも表立っては、やらなかったし、4年間わからなかった。

 だから、安倍晋三という政治家が、民主主義社会におけるメディアの役割をまともに理解していれば、NHK幹部が放送前の特定の番組について「説明に来たい」といった段階で、「自分のところに来るなど筋違い」と断らなければおかしい。ところが、断らずに面会し、注文をつけた。本人が、テレビ朝日の番組で堂々とそう語っている。これは、当時の内閣官房副長官が「NHKは自分のところに番組の説明に来ても当たり前」と思っていたことを、強く疑わせる。

 だとすれば、面会でどんな言葉を使ったなど、もはや関係ないとすらいえる。時の内閣官房副長官が「NHKは自分のところに番組の説明に来るのが当たり前」という感覚であるならば、それは政権与党からの政治的な圧力がNHKに常時かかり、しかもNHKがそれを受け入れている状態を意味する。日本最大の放送メディアと政治の距離、緊張感が著しく失われ、弛緩しきっている。これは民主社会の危機的な状況というべきだろう。NHKと朝日の泥仕合などといった低次元の話に、問題を矮小化してはならない。

 安倍晋三は、「政治家、特に与党の議員であり当時私は官房副長官ですから、所謂事前の検閲とかですね、圧力を絶対にかけてはいけないと、こりゃもう政治家にとって当然のイロハだと思いますね」といいながら、口頭で番組内容の説明を受ければ事前検閲と紙一重だということが、全然わかっていない。検閲とは「放送内容を公権力が審査し、公権力が不適当と認めれば発表を禁止し、適当と認めれば発表を許す」ことだ。今回は「放送内容をNHKが公権力に自主的に説明し、公権力は『公平公正によろしくね』というようなことをいって発表を許した」。ならば、事前検閲制度下で発禁にならなかった場合と、ほとんど同じことが起こったというべきである。

 なお、次のようなことを、安倍晋三という政治家はどう考えているのだろうか。今後、万が一、安倍晋三と実際に会ったNHK幹部が、「安倍さんは確かに『公平公正にお願いします』といった。私はそれを番組を改変せよという重い示唆だと受け止めた」とでも証言すれば、その証言がたとえ真っ赤な嘘だったとしても、政治介入があったと証明されてしまう。ということは、現時点で安倍晋三が番組干渉・政治介入をやったかどうかは、一NHK幹部の胸先三寸で決まってしまうわけだ。将来の総理大臣候補の一人と目される政治家が、そんな危ない橋を渡ってどうするのだ? 先輩政治家は、もっと慎重にとアドバイスしたほうがよいのではないかと思う。【この項目は2005年1月16日未明に追加】

テレビ朝日「サンデープロジェクト」の安倍晋三発言について
 元内閣官房副長官の安倍晋三は1月16日朝、テレビ朝日「サンデープロジェクト」に登場。田原総一朗のインタビューに答え、朝日新聞記事に反論した。いくつかの点を指摘しておく。

 基本的に、安倍晋三のコメントは、1月13日夜のテレビ朝日「報道ステーション」と同じ。要約「放送前日にNHK側と会ったのは、親しいNHK政治部(出身)記者の紹介・同道による。4年前のことで詳しく覚えていないが、NHK側は『できあがったものはちゃんとしている』『反論も入っているし、バランスよくなっている』と説明し、それに対して『公平公正に』という話をした」ということ。「事実無根の捏造で、キツネにつままれたよう。朝日記事は、北朝鮮問題で厳しい立場の2人(安倍・中川)を狙い撃ちにする意図を感じる」とも。

 ひとつ確認できたのは、安倍晋三が放送法第3条の4「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という規定を、単独の番組の中で実現されなければならないと考えているらしいことである。2003年11月のテレビ朝日「ニュースステーション」に対する批判でも、そのような考えだったと思われるが、この考え方は改めてもらわなければ困る。

 政治的な公平や偏向の有無は、1番組の中だけでうんぬんすべきではなく、一連の番組、シリーズ番組、ある期間に流れた番組全体などを見て、判断しなければならない。総務省(旧郵政省)もそのような見解だし、そもそも1月16日朝のサンプロは、真相を追及するといいながら、意見が対立する2者(NHK・安倍)のうち安倍晋三の一方的な言い分しか聞いていないではないか(冒頭45分は安倍インタビュー)。放送番組は、それでいいのだ。1週間とか10日間とかテレビ朝日の番組を見て、安倍晋三の言い分もNHKの言い分も番組担当プロデューサーの言い分もバランスよく紹介されていれば、偏向とはいわないのである。

 「政治的公平」の議論は番組で深めよ

 田原総一朗は、(1)制作会社ドキュメンタリージャパン(DJ)は当初、より客観的でバランスの取れた番組を作ろうとした。それを、もっと民間法廷の流れに沿ってと、より「過激」にしたのはNHK側(永田氏、長井氏)。(2)途中、2001年1月19日に突如、よりバランスを取る方向への修正が始まった(DJも寝耳に水の話)。(3)26日には秦・日大教授の追加コメントも収録。28日までには、ひとまず修正が済んでいた。(4)29日に安倍・NHKが会ったあと、さらに最終的な修正(3分カットなど)がなされた。(5)NHKとDJは民間法廷の主宰者側から訴えられた共同被告だが、今回の内部告発会見まで、長井側からDJに安倍・中川から政治的圧力があったという話は一切出ていない。などを明らかにした。これは14日に坂本が田原に会ったときに聞いた話と同様。

 まだハッキリしないのは、安倍晋三は「放送日前日に会ったのはたまたま」というが、NHKは「予算説明に行く」といって内閣官房副長官に会い、そこで突如として予定になかった番組の話を出したのか、それともNHKは「予算説明とともに番組説明をしたい」といって内閣官房副長官に会ったのかという点(番組では誰も突っ込まなかった)。常識的には、わざわざ放送総局長が出向いて番組について説明する際に、放送総局長が行くことを事前に先方に伝えないのは不自然。官房副長官はNHK番組の説明があることを知っていて、NHKと会ったのだと思う。それをしてはダメである。NHK側が予算説明の後、突如として番組説明を始めたとしても、官房副長官は「ちょっと待て。私にその話をするのは筋違いだ」とさえぎるべきで、それをしなかったのはダメである。

 ようするに、私の見解は前項(テレビ朝日「報道ステーション」の安倍晋三発言について)に書いたことと変わらない。放送日前にNHK幹部と会い、特定の番組について「反論も入れ、ちゃんとしている」というNHK側の説明・報告を聞き、なおも「公平公正に」と注文したことは、安倍晋三に政治的な圧力をかける意図がなかったとしても、政治的な圧力であり、政治介入であり、番組干渉である。もちろんそれは、放送法違反であり、憲法違反である。

 当時、内閣官房副長官だった安倍晋三は、「政治的な圧力をかける意図はまったくなかった。しかし、放送日前に局幹部と会って話したことが、結果的にその疑い、ひいては放送法違反の疑いを招いたことは遺憾だ。今後は気をつける」というべきである。そのことと「事実と違う報道をされた。訂正・謝罪を求める」という主張は、分けなければならない。

 いまだに、受信契約者はじめ国民に対して、説明すべきことを何も説明していない元凶は、いうまでもなくNHKである。

 当時の政府高官が、頼みもしないのにNHK側が来て、放送前の番組について説明していったと証言している。なぜ、放送総局長は政府長官のところに出向き、放送前の番組の内容を「ちゃんとした。反論も入れた」と報告したのか。放送局の独立や自律を自ら放棄した放送法第3条違反で、「言論・報道機関としての自死」を意味する行為を、なぜNHK放送総局長という立場の者が、しでかしたのか。隠れてそんなことをしながら、どの面さげて「みなさまのNHK」といい、受像機を設置した国民から受信料を取ることができると思うのか。NHKは調査委員会を作り、ただちに検討を開始しなければならない。【この項目は2005年1月16日昼すぎに追加】

安倍晋三ホームページ掲載の本人発言
 2001年に内閣官房副長官だった安倍晋三は、自らのホームページで、朝日新聞記事に反論している。これを読めば、衆議院議員である安倍晋三・自由民主党幹事長代理(党改革推進本部長)が、内閣官房副長官であった2001年1月29日に、NHK幹部に会い、放送前の特定の番組について事実関係を聞き、明確に偏った内容であると判断したうえで、NHK幹部に公正中立の立場で報道すべきではないかと意見を述べたことは、明らかである。政府中枢にいる高官が、放送局の幹部に対して、放送前で制作中の特定の番組について、偏った内容であると判断したうえで「〜すべきではないか」と意見を述べることを、日本国はじめ民主主義社会では「放送番組に対する干渉」と呼ぶ。そして、政府高官が放送番組に対して干渉することを、日本国はじめ民主主義社会では「政治介入する」「政治的圧力をかける」などと表現する。もちろんそれは、放送法違反であり、憲法違反である。

 2001年に内閣官房副長官だった自由民主党国会議員・安倍晋三は、自らのホームページで、朝日新聞記事に反論している。2005年1月17日午前6時現在、3本のコメントが掲載されている。

 安倍晋三ホームページ(ニュースのページ)

≪安倍晋三証言その1≫
4.メディア関連 : 朝日新聞の記事『NHK番組に中川昭・安倍氏「内容偏り」 幹部呼び指摘』に関し
投稿者: webmaster 投稿日時: 2005-1-12 17:04:09 (164 ヒット)
朝日新聞の記事『NHK番組に中川昭・安倍氏「内容偏り」 幹部呼び指摘』に関し、

朝日新聞らしい、偏向した記事である。

この模擬裁判は、傍聴希望者は「法廷の趣旨に賛同する」という誓約書に署名しなければならないなど主催者側の意図通りの報道をしようとしているとの心ある関係者からの情報が寄せられたため、事実関係を聴いた。その結果、裁判官役と検事役はいても弁護士証人はいないなど、明確に偏って内容であることが分かり私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。これは拉致問題に対する鎮静化を図り北朝鮮が被害者としての立場をアピールする工作宣伝活動の一翼も担っていると睨んでいた。告発している人物と朝日新聞とその背景にある体制の薄汚い意図を感じる。

今までも北朝鮮問題への取り組みをはじめとし、誹謗中傷にあってきたが、私は負けない。

安倍晋三

PS
これからも頑張ります。
ご声援・ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。

≪安倍晋三証言その2≫
4.メディア関連 : 朝日新聞H17/1/12記事で「誤って」伝えられている事項
投稿者: webmaster 投稿日時: 2005-1-12 18:08:06 (176 ヒット)
記事に関し、事実と反している部分がありますのでこのHPにおいて明確化しておきたいと思います。

1)朝日新聞の報道では「安倍晋三自民党幹事長代理が…NHK幹部を呼んで…」となっているが、先方から進んで説明に来られたのであって、当方がNHK側を呼びつけた事実は全くない。

2)先方が説明に来たのは、番組放送の前日である1月29日のことであるが、朝日新聞の報道で指摘されている「民衆法廷に批判的立場の専門家のインタビュー」はそれよりも前に完了していたものであり、当方がこうしたインタビューをするようNHK側に求めた事実は全くない。

≪安倍晋三証言その3≫
5.お知らせ : NHKの「模擬裁判」を扱う特集番組に関する報道について
投稿者: webmaster 投稿日時: 2005-1-14 23:26:59 (59 ヒット)
平成17年1月13日(発信のもの)

 報道で問題となっているNHKとの面会は、NHK側の「NHK予算の説明に伺いたい」との要望に応じたもので、こちらからNHKを呼んだ事実は全くない。

 また、この面会では、NHK側から予算の説明後、自主的に番組内容に対する説明がなされたものであって、こちらから「偏った内容だ」などと指摘した事実も全くなく、ましてや番組内容を変更するように申し入れたり、注文をつけたりしたという事実もない。そしてこの番組に関してNHKと話したのは、この時ただ一回だけである。

 「NHKを呼びつけた」「番組内容を変更するように圧力をかけた」という報道や発言は全くの誤りである。昨日私が事実誤認を指摘するコメントを発した後も、引き続きそうした報道が行われているのは、誤りというだけでなく悪意に満ちた捏造と言わざるを得ない。

衆議院議員 安倍 晋三

≪以上の安倍証言に対する坂本の見解≫

 ≪安倍晋三証言その1≫の中の2つの文章(安倍晋三との署名つき)が決定的に重要である。

(1)≪この模擬裁判は、傍聴希望者は「法廷の趣旨に賛同する」という誓約書に署名しなければならないなど主催者側の意図通りの報道をしようとしているとの心ある関係者からの情報が寄せられたため、事実関係を聴いた。≫

 番組の放送前日に、NHK関係者と「接触」し、特定の番組について「事実関係を聴いた」ことを自ら証言している。NHK幹部と面会したことを伝える朝日新聞の記事に対して、上のように書いているのだから、2001年1月29日に会ったNHK幹部にそう「聴いた」のだというほか、判断のしようがない。

(2)≪その結果、裁判官役と検事役はいても弁護士証人はいないなど、明確に偏って内容であることが分かり私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。≫

 文脈から、NHK幹部に話を聞いた結果、NHKが放送しようとしている番組について、「明確に偏った内容である」(注:原文は「偏って内容」となっているが、誤植と解釈するのが妥当である)ことがわかったと、いっている。そのうえで、安倍晋三がNHK幹部に対して「公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」としか、判断のしようがない。

 なお、ある子どもに対して勉強の内容を聞いたうえで「勉強すべきではないか」といえば、それはその子どもの行動を示唆する意見である。その子どもが「子どもは勉強すべき存在だ」という一般論が語られたと受け取るはずもなく、自分が「勉強すべきではないか」といわれたのだと受け取る。同じように、放送局幹部に対して報道の内容を聞いたうえで「公正中立の立場で報道すべきではないか」といえば、それが放送局の行動を示唆する意見であることは、疑いを入れない。この放送局幹部がNHKの番組制作部門の責任者である放送総局長だったことは、すでに判明している。

 以上(1)(2)をまとめると、衆議院議員である安倍晋三・自由民主党幹事長代理(党改革推進本部長)が、内閣官房副長官であった2001年1月29日に、NHK幹部に会い、放送前の特定の番組について事実関係を聞き、明確に偏った内容であると判断したうえで、NHK幹部に「公正中立の立場で報道すべきではないか」と放送局の行動を示唆する意見を述べたことは、本人の証言から明らかである。

 政府中枢にいる高官が、放送局の幹部に対して、放送前で制作中の特定の番組について、偏った内容であると判断したうえで「〜すべきではないか」と放送局の行動を示唆する意見を述べることを、日本国はじめ民主主義社会では「放送番組に対する干渉」と呼ぶ。そして、政府高官が放送番組に対して干渉することを、日本国はじめ民主主義社会では「政治介入する」「政治的圧力をかける」などと表現する。もちろんこれは、放送法違反であり、憲法違反である。

 しつこく繰り返すが、「どのような経緯で放送局幹部と接触したか」「『〜すべきではないか』の〜部分が実際にどんな言葉であったか」は、放送番組に対する干渉の構成要件ではない。言い換えれば、先方から突然かかってきた電話に答えたとしも、あるいは道でバッタリあって話したとしても、(放送前の特定の番組について政府高官が放送局の行動を示唆すれば)干渉は干渉である。「公平にすべきではないか」「おもしろくすべきではないか」「オシャレにすべきではないか」「わかりやすくすべきではないか」と、どのように口にしたとしても、干渉は干渉である。

 安倍晋三が自らのホームページで、署名のうえ証言しているので、以上のことは誰にも否定できない。政治家は、自らの言葉に責任をもつべきである。【この項目は2005年1月17日午前に追加】

2005年1月18日
「NHK問題に関する緊急記者会見アピール」の
お知らせ

「NHK問題に関する緊急記者会見アピール」の呼びかけ

2005年1月17日

 2005年1月13日、NHK番組制作局の長井暁チーフ・プロデューサーがNHKの特集番組で「政治的な介入があった」ことを告発しました。この番組は01年1月30日にNHKテレビで放送された「問われる戦時性暴力」で、自民党の安倍晋三官房副長官(当時)らから「放送前に政治的圧力」を受け、「番組の改変」を行ったというものです。これまで政治の介入と圧力はNHKだけでなく、民放に対しても行われてきたことです。

 報道の自由は民主主義の原則です。報道現場への政治的圧力は許されないことであり、これをメディアが容認することは絶対にあってはなりません。

 NHK幹部と与党である自民党との癒着関係はこれまでもたびたび指摘されており、報道機関としてのNHKへの強い不信感を生み出してきました。このようなNHKのあり方は、受信料を負担し公共放送としてのNHKに知る権利を委託した国民に対する背信行為といえます。

 昨年の夏以降、NHKについては政治権力との癒着ばかりでなく、数々の不祥事が表に出てきました。これらの事件はたんに「一部の不心得者」の問題ではなく、NHKそのものの体質から生じてきたことは明らかです。いまこそ、組織の内部に溜まった膿《うみ》を出し切らねばなりません。

 NHKにはいい番組を作るため、命を削るようにして制作に取り組んできた人びとがいます。いまのNHK経営幹部たちの姿勢は、このような職員の制作者としての「良心」と「誇り」を踏みにじるものです。NHKの心ある人びとにこそ、NHKの再生に向けて声をあげてほしいと思うのです。

 NHKは私たち一人ひとりの文化的な財産です。NHKにおけるジャーナリズム精神の衰退は、権力に対するメディアの敗北を導き、国民の知る権利に致命的な打撃を与えるものです。権力からの干渉をはねのけ、NHKは自らの規範に従って報道の責務を果たさねばなりません。

 ジャーナリズムの危機が進行する今だからこそ、テレビメディアの再生とジャーナリズムの覚醒に向けた行動が必要です。

 急ではありますけれども、別紙の要領で記者会見アピールの会を開き、NHKをめぐって露出したさまざまな問題を広く訴えていきたいと思います。

 テレビ関係者、メディア関係者、政治家をはじめ、多くの皆様からの積極的な発言・問題提起を望みます。ぜひご参加ください。

呼びかけ人代表 野中章弘(ジャーナリスト)

Press Release
「NHK問題に関する緊急記者会見アピール」取材のお願い

報道各位

2005年1月17日

NHKへの「政治介入」の問題など、テレビメディアの再生とジャーナリズムの覚醒に向けた緊急の記者会見アピールの会を1月18日(火)に下記の要領で開催します。メディアで活躍する十数名のジャーナリストやメディア関係者がアピールを行います。ぜひ取材をお願いいたします。

※一般の方も入場できます。(入場無料 予約不要 先着順に50名受付)。ただし、会議室が満員になった場合は入場をお断りすることもございます。あらかじめご了承ください。

●会見出席予定者(五十音順)

岩崎貞明(「放送レポート」編集長)、小田桐誠(「GALAC」編集長)、桂敬一(立正大学教員・日本ジャーナリスト会議会員)、北村肇(「週刊金曜日」編集長)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、坂上香(映像ジャーナリスト)、坂本衛(ジャーナリスト)、篠田博之(「創」編集長)、下村健一(市民メディア・アドバイザー)、高橋哲哉(東京大学教授)、土江真樹子(TVディレクター)、服部孝章(立教大学教授)、原寿雄(ジャーナリスト)、広河隆一(ジャーナリスト・「DAYS JAPAN」編集長)、松田浩(元立命館大学教授)、森達也(映画監督)、綿井健陽(ビデオ・ジャーナリスト)他
※出席者は事情により変更する場合があります。あらかじめご了承ください。

●コーディネーター/呼びかけ人代表 野中章弘(ジャーナリスト)

●日時 2005年1月18日(火)午後1時30分〜3時30分(開場1時10分)

※1時から受付を開始し、1時30分には会見を始めますので、スムーズに準備できるようご協力をお願いします。

●会場 参議院議員会館第一会議室 電話03-3581-3111

(地下鉄「永田町」「国会議事堂前」駅下車5分)
※国会にアピールする意味を込めて議員会館にて会見を行うことにしました。
※議員会館へ入館する際に通行証が必要です。会館入り口の階段脇にてスタッフがお待ちしますので、通行証を受け取って入館して下さい。

●問い合わせ先

アジアプレス東京事務所内 担当・綿井健陽
電話03-5465-6605 FAX03-5465-6606

※Press Releaseの土江真樹子さん(当日は欠席)の名前を、間違って真紀子と記載しておりました。申し訳ありませんでした(綿井健陽から1月20日に訂正連絡あり)。

※坂本は、今回の会見アピールについてアジアプレスから事前に意見を求められましたので、開催時期や出席者に関する意見を伝えたほか、呼びかけ文とPress Releaseも草稿段階で目を通し、表現などを一部修正しました。その際、坂本の肩書きが(放送ジャーナリスト)となっている最終稿以前のものがメーリングリストなどに流出したようですが、坂本は「放送を主たる活動の場とするジャーナリスト」または「放送を専門とするジャーナリスト」のどちらでもなく、「放送ジャーナリスト」と自ら名乗ったことはありません。そこのところをよろしく。

「NHK問題に関する緊急記者会見アピール」の報告

≪会見の様子≫

Press Releaseの出席予定者のうち、土江真樹子が欠席。五十音順に1人5分程度で発言したほか、会場からは魚住昭、日放労副中央執行委員長・山越淳、民放労連委員長・碓氷和哉、社民党党首・福島瑞穂、フリーライター・岩本太郎らが発言。さらに1人1分ということで出席者が追加発言を述べたほか、会場からも挙手で意見を求めた。司会の野中章弘が「とくに取材で来ている新聞記者の発言を求めたい」と呼びかけたが、発言した者はなかった。参会者は約150名。

≪坂本衛の発言要旨≫

(1)前提として個人的な意見をいえば、私は女性民間法廷の結論(判決)に必ずしも与《くみ》しない。私は天皇に戦争責任はあったが、戦時性暴力の法的な責任を天皇に問うことなどできないと思っている。今日の出席者や会場のみなさんには、いろいろな意見があるだろう。しかし、さまざまな意見や考えを抱き、あるいは政治的立場、思想的信条を異にする者たちが、今回の政治介入は看過できないとこの場に参集した。このことが極めて重要だと、まず訴えておきたい。

(2)記者のみなさんには、「政治介入」の有無に「?」(はてな)の方もいるだろう。しかし、安倍晋三さんが自らのホームページに書いていること「だけ」に基づいても、安倍さんが内閣官房副長官であった2001年1月29日に、NHK幹部に会い、放送前の特定の番組について事実関係を聞き、明確に偏った内容であると判断したうえで、NHK幹部に「公正中立の立場で報道すべきではないか」と放送局の行動を示唆する意見を述べたことは、明らかである。たとえば、子どもに対して勉強の内容を聞いたうえで「勉強すべきではないか」といえば、それはその子どもの行動を示唆する意見だ。その子どもは「子どもは勉強すべき存在だ」という一般論が語られたと思うはずもなく、自分が「勉強すべきではないか」といわれたのだと受け取る。同じように、放送局幹部に対して報道の内容を聞いたうえで「公正中立の立場で報道すべきではないか」といえば、それが放送局の行動を示唆する意見であることは、疑いを入れない。だから、放送番組に対する事前の干渉はあった。政治介入、政治的な圧力はあった。疑いの余地はない。放送法違反も、憲法違反もあった。メディアは、このことをしっかり報道すべきだ。(以上冒頭の5分)

(3)安倍さんや中川さんは、放送法第3条の2の4「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」を、特定の番組の中で実現しなければならないと考えているようだ。2003年秋の「ニュースステーション」問題のときもそうだった。しかし、その考え方は間違い。ある一方的な見方、別の一方的な見方、また別の一方的な見方……をいろいろと報道することが、多くの角度から論点を明らかにすること。政治的公平でも話は同じ。旧郵政省も総務省も、そのような法解釈である。メディアはこのことを踏まえて報道してほしい(以上終わり頃に1分)

※「坂本が『受信料支払いを拒否せよ』と発言した」とWEB上で書いている者があるそうですが、ただのデマです。デムパを真に受けないようにお願いします。私は「NHK受信料を払うか払わないかは、視聴者一人ひとりが判断すればよい」と思っているので、「払え/払うな」と公に発言したことは過去に一度もないし、今後も発言するつもりがありません。ただし、「多くの人が受信料を払いたくないと考えて当然の事態が、NHKで進行中だ」とは主張しています。

※録音を聞き直したわけではなく記憶で書いていますが、おおむね、以上のようなことをいいました。(2)の終わりに「NHKのやったことは言論報道機関としての自殺行為だ、放置できない」というようなことを付け加えたかも知れません。詳しくは、以下をご参照。引用など正確を期すには、下記の動画から引いてください。

 NHK問題緊急記者会見報告
 (アジアプレスAPN 全発言者=出席予定者で出席した者全員と、会場の主な発言者=日放労関係者、魚住昭、岩本太郎の動画を見ることができます)

 ジャーナリストやメディア関係者によるNHK問題に関する記者会見とアピール(2005年1月18日)
 (ビデオニュース・ドットコム 約2時間)

≪2005年1月18日夕方の「時事通信」速報≫

続く内部告発を呼び掛け=NHK番組改変問題でジャーナリストら
2001年1月に放送されたNHKの番組が放送直前に改変された問題で、同局の長井暁チーフプロデューサーが政治的圧力があったと暴露したことについて、ジャーナリストら十数人が18日、参院議員会館で記者会見し、安倍晋三氏(自民党幹事長代理)の発言だけからみても政治圧力があったのは明らかだとし、「NHKの心ある人は声を上げてほしい」と、長井氏に続く内部告発を呼び掛けた。

「NHK」対「朝日新聞」の対立に巻き込まれるな!!
問題の本質を見失うな!!

 「NHK」対「朝日新聞」の対立が「訴訟も辞さない」という泥仕合になってきたところに、NHK会長の辞任表明が伝えられた。この状況をどのように見るべきか、メディアはどう報じるべきか、今後NHKや政治家に何を求めていくべきかについて、1月22日現在でまとめておく。

【対立に巻き込まれるな】 一連の問題の本質は、「NHK」対「朝日新聞」の対立ではない。メディアは、その衝突を報じるのはよいが、どちらかに荷担するような報道をして両者の対立に巻き込まれるべきではない。また、両者の対立をクローズアップさせるあまり、問題の本質をぼかすような報道も、すべきではない。

【問題の本質とは】 問題の本質とは、NHKの番組のチーフプロデューサーが「番組改変は政治家の政治的圧力によるものだった」と内部告発し、当時の政府高官が「NHKから放送前日に番組内容の説明を受け、偏った内容だと判断して、公正中立の立場で報道すべきではないかと意見を述べた」と自ら語り、NHK首脳も「事前に政治家のところへ番組内容を説明しに行くのは当然」という態度を崩さないことが、公共放送NHKのあり方としてどうなのか、また政治家と放送メディアのあり方としてどうなのか、ということである。

【坂本の見解要約】 私の見解は、当時の政府高官の話だけに基づいても、番組への干渉や政治介入があったと判断でき、それは放送法違反・憲法違反であるから、NHKも政府高官も反省すべきだ、というものである。政府高官の証言だけに基づいてそう結論できる以上、「NHK」対「朝日新聞」の争いにどっちが勝とうが負けようが、そんなことはどうでもよい。

【NHKの問題と責任】 一連の問題に、もっとも責任があるのは、いうまでもなくNHKである。NHKは予算案や事業計画案について政府高官や政治家のところに説明に行ってもよいが、事前に番組内容を説明してはダメである。内容を説明したうえで番組を改変しては、なおダメである。それは放送法違反・憲法違反である。政府高官や政治家に内容を説明済みの番組を放送し、結果的に視聴者をバカにしたこともダメである。テレビ受像機を設置した者すべてから徴収する受信料で成り立つNHKが、特定の政治勢力におもねり、その御用聞きを務めるのは、そのことを許さない人びとからの受信料を失う恐れが強い(その結果、そのことを許す人びとが見る番組も劣化する恐れが強い)からダメである。

【政治家の問題と責任】 一連の問題に、NHKについで責任があるのは、政府高官や政治家である。彼らは放送法・憲法を守る義務があるから、違反してはダメである。違反を疑われる行為も避けるべきである。また、「民主主義社会におけるメディアが公権力と緊張関係を保ち、公権力を監視しときに批判することが、民主主義社会をより健全なものにする」という見識のない政治家は、ダメである。NHKが自分のところに番組内容を説明に来るのは当然だと思っている政治家も、ダメである。「メディアは自分の考えや主義主張に沿う内容だけを伝えればよい」と思う政治家は、独裁国の政治家と同じ発想だからダメである。

【朝日新聞の問題と責任】 朝日新聞の報道に、間違った点があれば、それは訂正なり謝罪なりをすべきである。しかし、(4)NHKの責任と(5)政府高官や政治家の責任については、朝日新聞はNHKではなく、政府高官や政治家でもないから、責任がない。当たり前だが、朝日新聞に対していくら反論しても、裁判で勝ったとしても、NHKは(4)の、政治家は(5)の責任を免れることはできない。

【NHKはどうすべきか】 NHKは、今後は事前に番組内容を政府高官や政治家に伝えることはしないと、視聴者に対して約束すべきである。会長はじめ誰が辞任しようが、そう約束しなければダメである。予算案や事業計画案については説明に行っても構わないが、個別に訪ねていらぬ誤解(きっと何かおみやげを持参するに違いないとか)を受けたくなければ、国会議員に対する説明会を、議員会館の会議室で何度か開けばよい。必要と思えば、常識の範囲内でおみやげくらい渡してもよい。隠れてやるから疑われるのだ。

【政治家はどうすべきか】 政治家が今後どうすべきかは、すでに、このページに記した。付け加えれば、与野党を問わず総務委員会所属の国会議員が、国会で議論が始まる前にNHK予算案や事業計画案についてどうしても説明を受ける必要があるというのであれば、それは理解しよう。しかし、その説明がどうしてもNHK理事クラスの個別説明でなければ困るなら、それはなぜかという理由を国民の前に明らかにすべきである。与野党を問わず、審議してやるのだから挨拶に来なければけしからんなどと思うのは、時代錯誤もよいところである。

【放送法・憲法違反は】 放送法違反は、憲法違反はどうしてくれる、と思う読者もいるだろう。しかし、すでに記したように、違反にあたると思われる条文に罰則があるわけではなく、精神的・倫理的な規定に反するだけだ。関係者が「もうしない」といえば、とりあえずよしとすべきだろう。この件で議員辞職を求めるなど現実的ではない。

10

【オマケ】 私は、地上デジタル計画の進め方に異議を唱えており、計画が順調には進んでいないのが「事実」で、2011年のデジタル放送完全移行は不可能だと、NHK・総務省・メーカーなどと「対立する意見」を述べている者である。しかし、地上デジタル計画の進め方はおかしいとか、2011年のデジタル放送完全移行は不可能だという主張が、日本の放送で流れたことは、ほとんどない。私が知っているのは、私が出演したCS番組1本だけだ。

 ところで、放送法の第三条の二には「三 報道は事実をまげないですること。」「四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」とある。すると、地上デジタル放送計画の報道に関しては日本の放送局のほとんどが「放送法違反」をしていると、いえないこともない。馬鹿馬鹿しいから、これまで口にしたことはないけれども。

 (「放送法違反」ではないという屁理屈もある。たとえば、地上デジタル放送についての「報道」など一切しておらず、宣伝しているだけだから、三の違反には当たらない。あるいは、地上デジタル放送の進め方に文句をいうのは無視してよいほどごく少数なので、意見が「対立」している状況とはいえず、四の違反には当たらない。以上が屁理屈で話にならないのは、戦前の日本ですべてのメディアが戦争に異議を唱える少数意見を一切報じなかったことを、よしとする考え方だから)

 そして、放送法違反だからといって、どうということもない。2011年段階で放送局は大慌てし、視聴者大衆がひどく迷惑を被るだけのことである。

 なお、NHKがあれだけの不祥事や受信料の実態を隠していたからには、地上デジタル放送でバラ色の未来が描けるというNHKの宣伝を「眉に唾つけて」受け取るべきことは、いうまでもないだろう。興味のある方は以下のページをどうぞ。

 地上デジタル放送現行計画「すでに破綻」の決定的な理由10

 ようするに、報道の自主規制をしているのは、NHKだけではないのだ。番組に事前介入して放送を潰したなどというのも、何十年か前は政府与党は当然ながら、労働組合や野党も盛んにやっていたこと(当サイト「テレビ資料集」を参照)。もちろん、NHK幹部が社民党や共産党の国会議員のところへ事前に番組内容を説明に行き、議員が「公正中立によろしく」というようなことをいって番組が改変されれば、放送法違反で憲法違反。安倍晋三も中川昭一も、まさかそれを「たいへん望ましい結構なこと」と許すはずはあるまい(ただ、社民党や共産党は多数派ではないからNHKが説明に行かず、今回のような問題は生じにくいわけだが)。【この段落は1月23日夜に一部加筆】

 いうまでもなく政府、与党、野党、労働組合、市民団体、どんな勢力が事前に介入してこようとも、干渉をはねのけ、介入をけっ飛ばすのが、ジャーナリズム本来のあり方である。

 聞く耳もたず勝手な番組をつくれというのではない。自ら信じる番組をつくり、批判があれば謙虚に受け止め、自ら信じる新たな番組をつくればいい。放送に詳しい人びとの間では「テレビにジャーナリズムはない」(「必要ない」ではなく「存在していない」)というのが多数意見だが、この状況は、なんとか変えていかなければならない。だからこそ、今回の問題はメディア全体の問題なのである。

テレビ放送への政治的圧力・
政治介入・番組干渉についての参考リンク

当サイト内の「政治介入」参考リンク

坂本が執筆・コメントした新聞・雑誌など(の一部)へのリンク

外部の参考リンク

資料:NHKへの政治介入・番組干渉に
関連する新聞報道

≪おことわり≫
 本来ならばこの項目は、関連する新聞報道を掲載しているウェブページへのリンクとすべきです。しかし、問題が言論・報道機関の番組に対する政府高官からの圧力というもので、全マスコミが共通の危機意識をもって考えるべき重大事件であることに鑑み、また、いち早くこの問題を報じた新聞メディアを高く評価する意味も込めて、あえて、主だった新聞報道を全文引用させていただきたく思います。各社の著作権を侵害する意図は一切ないので、関係各位のご了承をお願いします。(リンク先にジャンプできる記事には、紙名と日付にリンク)

NHK番組に中川昭・安倍氏「内容偏り」
幹部呼び指摘

 01年1月、旧日本軍慰安婦制度の責任者を裁く民衆法廷を扱ったNHKの特集番組で、中川昭一・現経産相、安倍晋三・現自民党幹事長代理が放送前日にNHK幹部を呼んで「偏った内容だ」などと指摘していたことが分かった。NHKはその後、番組内容を変えて放送していた。番組制作にあたった現場責任者が昨年末、NHKの内部告発窓口である「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」に「政治介入を許した」と訴え、調査を求めている。

 今回の事態は、番組編集についての外部からの干渉を排した放送法上、問題となる可能性がある。

 この番組は「戦争をどう裁くか」4回シリーズの第2回として、01年1月30日夜に教育テレビで放送された「問われる戦時性暴力」。00年12月に東京で市民団体が開いた「女性国際戦犯法廷」を素材に企画された。

 ところが01年1月半ば以降、番組内容の一部を知った右翼団体などがNHKに放送中止を求め始めた。番組関係者によると、局内では「より客観的な内容にする作業」が進められた。放送2日前の1月28日夜には44分の番組が完成、教養番組部長が承認したという。

 翌29日午後、当時の松尾武・放送総局長(現NHK出版社長)、国会対策担当の野島直樹・担当局長(現理事)らNHK幹部が、中川、安倍両氏に呼ばれ、議員会館などでそれぞれ面会した。

 中川氏は当時、慰安婦問題などの教科書記述を調べる研究会「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」代表、官房副長官でもあった安倍氏は同会元事務局長だった。

 関係者によると、番組内容の一部を事前に知った両議員は「一方的な放送はするな」「公平で客観的な番組にするように」と求め、中川氏はやりとりの中で「それができないならやめてしまえ」などと放送中止を求める発言もしたという。NHK幹部の一人は「教養番組で事前に呼び出されたのは初めて。圧力と感じた」と話す。

 同日夕、NHKの番組制作局長(当時)が「(国会でNHK予算が審議される)この時期に政治とは闘えない。番組が短くなったらミニ番組で埋めるように」などと伝えて番組内容の変更を指示したと関係者は証言。松尾、野島両氏も参加して「異例の局長試写」が行われた。

 試写後、松尾氏らは(1)民衆法廷に批判的立場の専門家のインタビュー部分を増やす(2)「日本兵による強姦や慰安婦制度は『人道に対する罪』にあたり、天皇に責任がある」とした民衆法廷の結論部分などを大幅にカットすることを求めた。さらに放送当日夕には中国人元慰安婦の証言などのカットを指示。番組は40分の短縮版が放送された。

 このいきさつを巡り、NHKで内部告発をしたのは、当時、同番組の担当デスクだった番組制作局のチーフ・プロデューサー。番組改変指示は、中川、安倍両議員の意向を受けたものだったと当時の上司から聞き、「放送内容への政治介入だ」と訴えている。

 一方、中川氏は朝日新聞社の取材に対し、NHK幹部と面談したことを認めた上で「疑似裁判をやるのは勝手だが、それを公共放送がやるのは放送法上公正ではなく、当然のことを言った」と説明。「やめてしまえ」という言葉も「NHK側があれこれ直すと説明し、それでもやるというから『だめだ』と言った。まあそういう(放送中止の)意味だ」と語った。

 安倍氏は「偏った報道と知り、NHKから話を聞いた。中立的な立場で報道されねばならず、反対側の意見も紹介しなければならないし、時間的配分も中立性が必要だと言った。国会議員として言うべき意見を言った。政治的圧力をかけたこととは違う」としている。

 番組内容を事前に知った経緯について両議員は「仲間から伝わってきた」などとし、具体的には明らかにしていない。

 NHK広報局は「(内部告発に関しては)守秘義務がありコメントできない。番組は、NHKの編集責任者が自主的な判断に基づいて編集したものだ」としている。

 〈憲法21条〉 (1)集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。(2)検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 〈放送法3条〉 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない。

(朝日新聞 2004年1月12日 08時52分)

「事実関係承知していない」
NHK2議員指摘で官房長官

 細田官房長官は12日午前の記者会見で、中川昭一経産相と安倍晋三自民党幹事長代理が01年1月、旧日本軍慰安婦問題の責任者を裁く民衆法廷を扱ったNHKの特集番組の放送前に「偏った内容だ」などとNHK幹部に指摘していた問題について、「事実関係を承知していないので、コメントは控えたい」と述べた。当時、安倍氏は官房副長官で、政府による報道への介入にならないか、との指摘に対しては、「そういうことはあり得ないと考えている」と、官邸が介入したことについては否定した。

 安倍氏らの行為が放送法に抵触する可能性がある点については、「よく事実を確認したい」と述べたが、「まず本人が対応すべきで、本人の説明を聞いていただきたい。政府として責任があればコメントするが、まだそこまでいっていない」として、現段階で安倍氏らから事情を聴く考えがないと説明した。

(朝日新聞 2004年1月12日 12時41分)

戦争検証番組
安倍氏、放送前に『指摘』

 従軍慰安婦制度の責任追及などをテーマにNHKが二〇〇一年一月に制作したETVシリーズ「戦争をどう裁くか」の第二回「裁かれた戦時性暴力」の内容が放送直前に変更された問題で、自民党の安倍晋三幹事長代理は十二日、当時、NHK関係者に説明を求め、自分の考えを伝えていた事実を明らかにした。

 一部報道を受け、安倍氏が「(模擬裁判の『女性国際戦犯法廷』は)裁判官役と検事役はいても弁護側証人はいないなど、明確に偏った内容であることが分かり、私はNHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」と、事務所を通じてコメントした。

 市民団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワークなどによると、「女性国際戦犯法廷」などについて団体関係者や研究者らがNHK関連制作会社などの取材を受けたが、同一月三十日に放送された番組ではインタビューなどが大幅カットされ、従軍慰安婦問題追及に批判的な学者の話が追加されたりしていた。当時から政治家の“圧力”の存在がうわさされていた。

 市民団体などは、同年七月にNHKや、制作会社を相手取った損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こし、現在控訴審係争中。

(東京新聞 2004年1月12日 夕刊)

安倍氏、中川昭氏 NHKに『偏向』指摘
『圧力』と市民団体批判

 自民党の安倍晋三幹事長代理と中川昭一経済産業相が二〇〇一年、NHKの従軍慰安婦問題に関する特集番組の放送直前に「偏った内容で、公正中立の立場で報道すべきだ」などとNHKに対し申し入れをしていたことが十二日、分かった。安倍氏は「関係者からの情報があり、事実関係を聞いた結果、明確に偏った内容であることが分かりNHKに指摘した」とコメント。中川氏も「公正中立の立場で放送すべきであることを指摘した。政治的圧力をかけて中止を強制したものではない」とした。

 両氏のコメントなどによると、安倍氏と中川経産相は、〇一年一月に慰安婦制度の責任者を裁く民衆裁判を扱った特集番組の内容を事前に知り、NHK幹部に問題点を指摘。NHKは内容を変更して放送したとされる。

 自民党の安倍晋三幹事長代理と中川昭一経済産業相が、二〇〇一年に放映されたNHKの特集番組の放送直前に、幹部を呼んで「内容が偏っている」などと指摘した問題で、番組をめぐりNHKなどに損害賠償を求める訴訟を起こしている「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(東京)は十二日、抗議声明を発表。「国会議員と公共放送が、市民を欺いて憲法が保障する表現・報道の自由を侵害した。断じて許されない」と厳しく批判した。

 記者会見した西野瑠美子共同代表は「NHKは裁判で外部の圧力はなかったと繰り返し主張してきたが、政治家の関与が明らかになり、偽証だったことが明らかになった」と批判。NHKの海老沢勝二会長の辞任と安倍、中川両氏の議員辞職を求めた。

 ネットワークは二〇〇〇年十二月、旧日本軍の従軍慰安婦問題をテーマにした民衆法廷を開催。NHKは〇一年一月、四回シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二回「問われる戦時性暴力」(教育テレビ)で放送した。

 ネットワークは「番組の制作に多大な協力をしたのに、当初説明した趣旨とは異なる番組を放送した」として同年七月に提訴。東京地裁は昨年三月、制作会社一社に百万円の支払いを命じたため、ネットワークと制作会社双方が控訴している。

(東京新聞 2004年1月12日 夕刊)

NHK特番:
細田官房長官、政府の関与を否定

 

 細田博之官房長官は12日の記者会見で、NHKが01年1月に従軍慰安婦問題の特集番組を放送する直前に自民党の安倍晋三幹事長代理(当時は官房副長官)らが「偏った内容」などと指摘していた問題について「副長官としての立場で組織としてそのようなことが行われたことは全くない」と政府の関与を否定した。一方で「政府が調査する筋合いのものではない。報道の自由の問題でむしろ悪い前例になる」と述べ、政府として事実関係を調査する考えのないことを明らかにした。

(毎日新聞 2005年1月12日 19時25分)

NHK特番:
社民党の福島党首、安倍氏らの責任追及へ

 社民党の福島瑞穂党首は12日の記者会見で、NHKが01年1月に放送した旧日本軍の慰安婦問題の特集番組の直前に、当時官房副長官だった安倍晋三自民党幹事長代理らが「公正中立な立場で放送すべきだ」と指摘した問題で「メディアの編集権への悪質な介入であり、断じて許されるものではない。権力の乱用、悪用だと思う」と厳しく批判、安倍氏らの責任を通常国会で追及する考えを示した。

(毎日新聞 2005年1月12日 19時49分)

NHK特番:
小泉首相、介入を否定しながら報道側に注文

 小泉純一郎首相は12日、自民党の安倍晋三幹事長代理が01年に官房副長官としてNHKの番組内容に介入したとの指摘に対し「そうじゃないでしょ」と否定した。安倍氏は番組放送前に「偏った内容」などとNHKに申し入れたことを認めているが、首相も「報道というのは一方に偏らないで公正な報道を心がけていただきたい」と報道機関側に注文をつけた。首相官邸で記者団の質問に答えた。

(毎日新聞 2005年1月12日 21時14分)

NHK特番:
民衆法廷の主催者が抗議声明 NHKを批判

 旧日本軍の慰安婦問題を裁く民衆法廷を扱った特集番組をNHKが01年1月に放送する直前に、当時、官房副長官だった安倍晋三・自民党幹事長代理が「公正中立な立場で放送すべきだ」などとNHK幹部に指摘していた問題で、中川昭一・経済産業相もほぼ同内容の指摘をNHK幹部にしていたことが分かった。

 民衆法廷を主催した市民団体「VAWW−NETジャパン」の西野瑠美子共同代表らは12日、NHKや安倍氏らにあてた抗議声明を発表後に会見し、「NHKは裁判で政治介入はないと主張し、偽証を続けていた。怒りとともに報道機関としてのNHKに大きな危機感を覚える」と話した。また、東京高裁から17日に予定されていた控訴審の結審の延期も検討しているとの連絡を受けたことを明らかにした。【NHK問題取材班】

 ▼中川氏のコメント 公正中立の立場で放送すべきであることを指摘したものであり、政治的圧力をかけて中止を強制したものではない。また、(NHKによる)説明の前後における番組制作の経緯については関知していない。

 ■「NHKは襟をただせ」田中早苗弁護士

 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送番組委員会副委員長を務める田中早苗弁護士の話 民衆法廷の判決が放送されなかったのはいかにも不自然だと思っていた。NHKは「編集権」を掲げているが、問題なのは政治的な圧力があって屈したのではないかと視聴者に疑われてしまうことだ。この点は、政府と対立した場合、対決姿勢を鮮明にする英国放送協会(BBC)と大きく異なる。公共放送だからといって、政府や政治と緊張関係を持ってこなかった責任は大きい。NHKは襟をただすべきだ。

(毎日新聞 2005年1月12日 21時28分)

※現在では見出しが<NHK:中川経産相も特集番組「偏りある」と指摘−−放送前、幹部に>と変わっています。

NHK番組改変 野党批判、
「国会で追及」

 01年1月、旧日本軍慰安婦問題に関連したNHKの特集番組について中川昭一経産相と自民党の安倍晋三幹事長代理がNHK幹部に問題点を指摘し、その後、番組の内容が変わった問題について野党は12日、「メディアの編集権に対する政治の悪質な介入であり、表現の自由に対する侵害。断じて許されない」(社民党の福島党首)などと批判した。21日召集の通常国会で事実関係の究明を求める構えだ。

 この問題について民主党は「報道の自由に関する重大な問題だ」(国対幹部)としている。また福島氏はこの日の記者会見で「事前検閲以外の何物でもない。NHKは予算との関係で政治家の圧力がかかりやすい」と指摘。01年3月の衆院総務委員会に参考人として出席し、番組への外部からの圧力を否定したNHKの松尾武放送総局長(当時)を参考人として呼ぶこともあり得るとの考えを明らかにした。

 一方、安倍氏は12日、「朝日新聞の報道では『安倍氏がNHK幹部を呼んで』となっているが、先方から進んで説明に来たのであって、当方がNHK側を呼びつけた事実は全くない」などとするコメントを発表した。中川氏も「当方は公正中立の立場で放送すべきであることを指摘したものであり、政治的圧力をかけて中止を強制したものではない」とのコメントを発表した。

(朝日新聞 2004年1月13日 09時05分)

「政治的圧力で番組改変」
NHK担当者が会見

 自民党の安倍晋三幹事長代理と中川昭一経済産業相が従軍慰安婦問題に関する特集番組の放送前にNHKに申し入れをしていた問題で、番組を担当した長井暁チーフプロデューサーが13日、東京都内で記者会見し「放送前に番組の作り変えを命じられた。改変は政治的な圧力を背景としたものだと言わざるを得ない」と語った。

 さらに「中川、安倍両氏の了解を得るために作り変えたことは明白だ。海老沢勝二会長はすべて了解していたと思う」と強調した。

 長井氏は昨年12月、番組編成の自由を定めた放送法第3条に違反するなどとして、NHKの内部告発窓口「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」に調査を要求した。内部告発者が実名を明かして会見するのは異例。

(共同通信 2005年1月13日 13時13分)

「政治介入で番組内容変更」
NHKプロデューサー会見

 NHK番組制作局の長井暁チーフ・プロデューサー(42)が13日、東京都内で会見し、昨年末にNHKの内部告発窓口「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」に、2001年1月に放送した番組で「政治介入を許した」として、調査を求めたことを明らかにした。

 この番組は「戦争をどう裁くか」。民間団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が開催した「女性国際戦犯法廷」を取材したが、同法廷が昭和天皇と日本国家の責任を認める判決を出した点などに触れなかった。

 バウネット側は同年7月に「事前説明と異なる内容に変更された」として東京地裁に提訴。昨年3月、制作会社に「事前説明通りの番組になるとの期待を抱かせた過失がある」と賠償命令を下す判決が出ている。

 番組を手掛けた長井プロデューサーによると、中川昭一衆院議員、安倍晋三官房副長官(当時)らが、放送直前に同局の国会対策担当だった総合企画室の野島直樹担当局長(現・理事)らを呼び出し、番組の放送中止を要請。NHKでは、当時の松尾武放送総局長の指示で一部をカットし、通常44分の番組を40分に短縮して放送した。

 長井プロデューサーは「不利益を被るかもしれないと、この4年間悩んできた」とした上で、「NHKは独自の判断で編集したと説明しているが、現場の声を無視し、政治的圧力を背景に番組を変更した。幹部の責任は重大」と語った。

 この問題について、中川氏は「公正中立の立場で放送すべきと指摘したもので、政治的圧力をかけて中止を強制したのではない」、安倍氏は「明確に偏った(放送)内容と分かり、公正中立の立場で報道すべきと指摘した」とする談話を、それぞれ発表している。

(読売新聞 2005年1月13日 14時01分)

NHK番組改変問題
「会長了承していた」と告発者会見

 NHK番組の放送前に、自民党の有力政治家がNHK幹部と面談し、番組内容がその後、大幅に改変された問題で、内部告発をしていたNHKの幹部職員が13日午前、東京都内のホテルで記者会見した。内部告発者が実名を明かして会見するのはきわめて異例。この幹部は「放送現場への政治介入を許した海老沢勝二会長らの責任は重大。退陣すべきだ」と訴えた。

 会見をしたのは、番組制作局教育番組センターのチーフ・プロデューサー長井暁さん(42)。問題の番組は、旧日本軍慰安婦問題の責任者を裁く市民団体開催の民衆法廷を取り上げたもの。01年1月30日に放送され、長井さんは同番組の担当デスクだった。

 長井さんによると、番組を企画した下請け会社の視点が主催団体に近かったため、「戦争を裁くことの難しさ」や歴史的な位置づけ、客観性を強調して現場を取りまとめてきたという。事前に右翼団体などから「放送中止」の要請はあったが、放送2日前の夜には通常の編集作業を終え、番組はほぼ完成していた。

 長井さんによると、01年1月下旬、中川昭一・現経産相らが当時のNHKの国会担当の担当局長らを呼び、番組の放送中止を求めた。NHKの予算審議前だったこともあり、担当局長は放送前日の午後、NHK放送総局長を伴って再度、中川氏や安倍晋三・現自民党幹事長代理を訪ね、番組について説明。放送総局長は「番組内容を変更するので、放送させてほしい」と述べた。

 同日夜、ほぼ完成した番組をNHK局内で局長らが試写。その後、長井さんらに対し、番組内容の変更が指示された。

 さらに翌日には、元慰安婦の証言部分など3分間のカットが指示され、通常44分の番組は40分という異例の形で放送されたという。

 番組改変の指示について、長井さんは「これまでの現場の議論とはまったく違う内容。現場の意向を無視していた。政治家の圧力を背景にしたものだったことは間違いない」と述べた。

 また、長井さんは「海老沢会長はすべて了承していた。信頼すべき上司によると、担当局長が逐一、海老沢会長に報告していた。会長あてに作成された報告書も存在している」と説明した。その上で、「制作現場への政治介入を許した海老沢会長や役員、幹部の責任は重大です」と訴えた。

 長井さんは、NHKの「コンプライアンス(法令順守)通報制度」に基づき、昨年12月9日に内部告発した。だが「通報から1カ月以上たった今日にいたっても、聞き取り調査さえなされていない」と話した。

 長井さんは87年に入局。ディレクターやデスクとして、NHKスペシャル「朝鮮戦争」「毛沢東とその時代」「街道をゆく」などを手がけてきた。

 中川経産相と安倍幹事長代理は「偏った内容だ。公正な番組にするように」などと指摘したことは認めているが、安倍氏は「NHK側を呼びつけた事実はない。番組の中止などは求めていない」としている。

 また、NHK広報局は海老沢会長が了承していたとの指摘について「そうした事実はない」とコメントした。

 〈NHK広報局の話〉 当時の担当者が様々な国会議員に対して、事業内容などを説明した際に、この番組について話題になったことは事実。しかし、これによって、番組の公正さ・公平さが損なわれたということはない。編集責任者が自主的な判断に基づいて編集して放送した。コンプライアンス推進室は通常の手続きに従って調査をしている。調査の途中経過については通報者に知らせている。

 「私もサラリーマン。家族を路頭に迷わすわけにはいかない。告発するかどうか、この4年間悩んできた。しかし、やはり真実を述べる義務があると決断するに至りました」。そう言って長井さんは涙声になり、言葉を詰まらせ、ハンカチで目をぬぐった。

 「告発による不利益はないか」と尋ねられ、「不利益はあるでしょう」と答えてからだった。

 現場のスタッフ全員が反対したという、放送直前の3分間の番組カット。その中には中国人元慰安婦の証言も含まれていた。「被害者の声だけは何とか守りたかった。最後まで闘えなかったことを反省している」。そう言って長井さんは、再び目を赤くし、唇をかんだ。

 〈NHKのコンプライアンス(法令順守)通報制度〉 放送法などの法令やNHK倫理・行動憲章などの内部規範に違反または違反しそうな事実があるとき、職員らが通報できるようNHKが04年9月から整備した内部告発制度。一連の不祥事を受けて整備された。通報窓口は外部の法律事務所に置かれている。通報があるとNHKの専門部署がその内容を調査し、必要な場合には不正行為の停止を命じることができる。職員は調査に協力する義務を負い、通報者に不利益な取り扱いは行わないとの規定がある。

(朝日新聞 2005年1月13日 14時27分)

NHK「政治介入」で変更指示
…プロデューサーが会見

 NHK番組制作局のプロデューサーが13日、東京都内で会見し、戦争報道番組で「政治介入」を受けたほか、別の番組についても「政治家に批判されたため再放送が中止になった」と述べた。

 これに対し、NHKや、指摘を受けた政治家はそれぞれ、「政治的圧力はない」と真っ向から否定した。不祥事に揺れ続けるNHK。「公平・公正」と「不偏不党」を掲げる公共放送のあり方を問う告発だけに、真相の早期解明が求められている。

◆安倍、中川氏は反論◆

 「私もサラリーマン。家族を路頭に迷わすわけにはいかないと4年間非常に悩んだが……」。13日、都内のホテルで会見したNHKの長井暁チーフ・プロデューサー(42)は涙をぬぐいながら語った。

 問題となっているのは、2001年1月に放映された「戦争をどう裁くか」シリーズ2回目の「問われる戦時性暴力」。

 会見によると、番組放映前日の1月29日、番組制作局長から、「この時期に政治とは闘えない」と切り出され、番組内容を変更するよう指示された。理由は明かされなかったが、自民党総務部会で、NHKの新年度予算の説明を控えていたことから「政治の介入」と直感したという。VTRは翌日夕方にかけてカットされ、通常44分の番組は40分で放映された。

 放送法では、「放送番組編集の自由」として、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない、と規定している。

 長井プロデューサーは昨年12月9日、NHKが不祥事を受けて同年9月に設置した「コンプライアンス推進委員会」に内部告発した。委員会からは8日後に「調査する」との回答があったが、関係者への聞き取り調査も行われないため、会見に踏み切ったという。

 長井プロデューサーはさらに、2001年9月に担当したBSE(牛海綿状脳症)を巡るNHKスペシャルの番組についても、「反響が大きく再放送も決まっていたのに、自民党農林部会で批判が出たという理由で再放送が中止になった」と語った。

 一方、番組改変に介入したと指摘された中川昭一衆院議員、安倍晋三官房副長官(当時)のうち、安倍氏は13日、記者団に「事実と全く違う」と反論した。安倍氏は、放送前日にNHK側から番組の説明を受けたことを認めたうえで、「公平公正な報道を行ってもらいたい、と述べたのが真実。それ以前に私が圧力をかけたり、接触したりということは全くない。私が呼びつけたという事実もない」と主張した。

 中川氏も13日、「当方から、放送内容の変更や放送中止に関しては一切言っていない」などとするコメントを出した。

◆NHK「圧力で変更ない」◆

 NHK広報局は13日夜、関根昭義・放送総局長の「見解」とするコメントを発表。安倍、中川両氏から「政治的圧力を受けて番組の内容が変更された事実はない」と、長井プロデューサーの主張を全面否定した。

 その中では、中川氏について、「NHK幹部が面会したのは放送3日後の2月2日が最初で、放送前に面会したことはない」と指摘。一方、安倍氏には「予算の説明を行う際に番組の趣旨などを説明した」と面談の事実を認めた上で、「その段階で編集作業は最終段階に入っており、多角的な意見を反映させるために追加インタビューも終わっていた。(安倍氏との)面会によって内容を変更したという事実はない」と説明している。

 さらに、当時のNHK内部の状況に触れ、「追加インタビューは、安倍氏に面会する数日前から進めていた」「内容や構成に手を加えながら、放送直前まで検討を続けることは通常の『編集』であり、『改変』ではない」「放送総局長や番組制作局長が、現場の責任者に意見を述べるのは、むしろ当然のこと」などとしている。

◆「問われる戦時性暴力」=2000年12月に東京で開催された「女性国際戦犯法廷」などを取材し、従軍慰安婦など戦時性暴力の責任問題を取り上げた。番組を巡っては、同法廷を開催した民間団体などが、「事前の説明とは異なる番組を放送され、信頼を裏切られた」として、NHKと制作会社2社に賠償を求めて提訴。東京地裁は昨年3月、制作会社1社に100万円の賠償を命じたが、NHKについては「編集の自由の範囲内」として責任を認めなかった。原告側によると、控訴審では東京高裁が17日の口頭弁論で結審する意向を示していたが、今回の問題が発覚したため、審理が継続される見通しとなった。

(読売新聞 2005年1月13日 23時34分)

※その後、各メディアが報道を始め、一部報道だけで看過される懸念はなくなりましたので、新聞記事の引用はここまでにします。