メディアとつきあうツール  更新:2003-07-10
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

参院選直前
政治の「テレビ脅し」を
許すな!!

≪リード≫
衆議院逓信委員会。
ここでテレビ局トップを呼びつけた番組干渉が
公然とおこなわれている。
「ニュースステーション」「ギフト」が
俎上《そじょう》に載せられる。
こんな政治家の暴挙を許すな!!
(「GALAC」1998年08月号)

白昼堂々、前代未聞のテレビ脅し

 政治による前代未聞の「テレビ脅し」が、白昼堂々、国会を舞台に繰り広げられた。

 時は1998年5月27日、場所は第142回国会衆議院逓信《ていしん》委員会。

 出席委員は、委員長坂上富男、野田聖子、古屋圭司、山口俊一、小沢鋭仁、永井英慈、石田勝之、西田猛(以上理事)ほか22名。

 委員以外の出席者は、いずれも参考人として呼ばれたNHK会長海老沢勝二、民放連会長・日本テレビ社長氏家齊一郎、TBS社長砂原幸雄、フジテレビ社長日枝久、テレビ朝日社長伊藤邦男、テレビ東京社長一木豊、NHK理事酒井治盛。(注1)

 この日の会議は「放送法の一部を改正する法律案」を審議し採決するために開かれた。2000年末に打ち上げ予定のBS−4後発機はデジタル化される。その際、NHKが先発機と同じサイマル放送を行うには、NHKが委託放送業務を手がけることができるよう法整備が必要。これが改正の趣旨である。

 そのために参考人が必要であるというならば、NHK会長と民放連会長を呼べばよい。

 しかし、この日は在京民放キー局の社長4人も呼ばれた。民放連会長は日テレ社長だ。NHKと民放5系列の代表者がすべて参考人として呼ばれたのは、日本に国会が開設されて以来、初めてのことである。(注2)

 そして、衆議院逓信委員会では、放送法の改正とはなんの関係もない具体的な番組名、具体的なキャスター名、さらには番組におけるキャスターの具体的な発言内容までもが、話題に上った。国会議員が個別の番組内容に踏み込み、問題ではないかと、放送局トップを問い質《ただ》したのだ。

 もちろん、これまでも国会逓信委員会や自民党通信部会といった席で、個別的・具体的な番組やキャスターが話題とされたことはあった。局に対する政治的な圧力は、公式・非公式を問わず日常茶飯事。そんなものは言論報道機関ならば承知のうえ、ともいえる。

 しかし、NHKを含めて日本のテレビ全系列の責任者を国会に呼び、国会議員が個別的・具体的な番組やキャスターを問題視した例はなかった。これは、国会史上にも放送史上にも残る、きわめて重大な「事件」だ。(こんな重大事件が新聞でもテレビでも一切報じられないのは、新聞やテレビの政治・マスコミ担当記者たちが何が重大かをまったくわかっていないことを示している)

 逓信委員会は、いつでもテレビ局のトップを国会に呼び出し、番組の内容について文句をつけることができる――言論・報道の自由という観点から、決して許してはならない前例が、作られてしまったのである。

参考人のテレビ局トップが暴走

 逓信委員会の坂上委員長は会議冒頭、「参考人各位におかれましては、このたび、御出席していただくに当たりいろいろな経緯がございましたが……」と述べた。

 ナイフ問題やVチップ問題などを背景に、逓信委員会(の理事会)が民放五社長を呼びたいという内々の意向に対し、5月21日の在京五社長会は、一致団結して断り、民放連会長だけを出すと決めた。決定はその日のうちに委員会へ伝わったが、これに自民党委員が強く反発。坂上委員長はじめ他の理事も、国会の要請を断るとはなんたる事か、国会の権威を汚《けが》すものだと同調。正式に参考人としての出席要請が出されたのだった。

 委員会は、NHK会長と民放連会長がデジタル放送について見解を述べたあと、参考人に対する質疑に移った。特筆すべき委員と参考人のやりとりは、こんな具合である。

 山口俊一委員(自由民主党)「放送法、不偏不党という部分でありますが、この放送法に関して、いわゆる解釈というか、放送法に抵触をしているかどうかという判断の基準、これもおのずと変わってくるのではないか」

 誌面の都合上要約すれば、テレビは言葉以外に、資料映像の意図的な使用などでメッセージを伝えることができる。その部分も、放送法に抵触するかどうかの判断に含める必要があるのでは、という質問である。

 ところが、山口委員から「先般来《せんぱんらい》我が党が御迷惑をおかけしておりますテレ朝さん」と指名されたテレ朝の伊藤邦男社長は、あろうことかあるまいことか、自分から番組名とキャスター名を出し、暴走する。

 テレ朝伊藤社長「いろいろと個別については申しませんけれども(中略)しばしば『ニュースステーション』あるいは『サンデープロジェクト』などでいろいろと激しい議論なども行われております。(中略)久米さんにも折に触れて、放送法の考え方、理念、それを十分念頭に置いてほしいということを言っております。(中略)久米さんも四十歳から今や五十三歳でございますので、そういう熟年の味みたいなものを出してほしいなというのを折に触れて注文をつけている」

 個別について申しているではないか!

 これには山口委員もさすがに、「別に私は『ニュースステーション』のお話を申し上げたわけじゃございませんので、念のために申し上げておきます」と付け加えた。

テレ朝久米・菅沼発言を論詰

 平和・改革を代表する改革クラブの石田勝之委員は、はっきり具体例を出した。

 石田委員「放送法の第一条、不偏不党の理念に照らして若干一方的な報道内容にかたよってはいないかなというふうに思われる部分がありました」

 「(ニュースステーションが)所沢高校の入学式の問題を取り上げた際に(中略)その入学を祝う会のビデオを流して、校長が体育館の中をうろちょろしているけれども、堂々と前に出て新入生を祝う言葉を述べるべきだ云々とか、あるいは県教委が頭のかたい校長さんを学校に送り込んだのではなかろう云々とか、あるいはちょっとこれは逸脱し過ぎているのじゃないかと思ったのは、それらの放送の後、いわゆる校長側から校長の悪口を言っておいて、校長先生、テレビに物を投げないでください、こういうコメントが最後に言われているわけですね。以上のように、学校長をやゆする発言、あるいは校長が頑迷な人柄である旨の発言をされている。(中略)最後にキャスターが一方的なコメントを行って、結果として視聴者の印象、評価を決定づけているものと思われる」

 テレ朝社長は、「校長は自分の信念を訴え、生徒と議論すべきである、試行錯誤の中からよりよい関係が生まれる、頑張ってほしいという趣旨のことを言った」と反論。

 対して石田委員は、「ちょっと激励という意味とは違うのではなかろうかと思いますが、その点、いかがですか」「もっと違う言葉遣いというものがあるのではなかろうか、その点はやはり自重されるべきではないか」と二度に渡ってキャスターの発言に文句をつけ、軽々な発言をするなと注文。テレ朝社長は、「きょうの御指摘などもあわせて、また話し合ってみることにいたします」と、対応を約束した。

 もう一人、番組名を出した議員がいる。

 石垣一夫委員(自由党)「『聖者の行進』、この中における知的障害者に対する残虐な行為、最も陰惨なのは知的障害者役である雛形あきこさんがレイプされるシーン、その描写は決してレイプなんという表現ではなくして、見るものが思わず目を背けたくなるような残虐な行為。あるいはまた、フジテレビが取り扱ったところの『ギフト』、いわゆるキムタクのバタフライナイフであります」

 知的障害者の厳しい状況を問題提起したというTBS、ナイフを使った人間がダメだと主張するドラマというフジの反論に、石垣委員は、「プラス面を強調されますけれども、マイナス面の方がはるかに影響が多い」と述べ、放送基準を守っているかどうかを全員に問い質した。さらに全員に、Vチップ導入にイエスかノーかとたずねた。

放送番組への不当な干渉だ!!

 いったいなにが問題なのか。

 第一の問題は、国会という公の場で国会議員が、参考人という立場の放送局トップに対して、個別の番組内容について批判し、注文をつければ、それは明白に放送番組への干渉になるということだ。

 「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定めた放送法第三条に触れる行為を、逓信委員自らが、白昼堂々、国会でやったのである。番組を名指しした議員の発言は、放送番組へのいわれなき干渉である。

 国会議員はテレビ批判をするなとはいわない。演説でもビラでもホームページでも、どんどんやればよい。抗議するのも、シンポジウムを開くのもよい。しかし、発言の制限を受けた参考人を相手に、逓信委員会の委員として、具体的な番組批判をすべきではない。それは、放送の自律を危うくする。

 第二の問題は、逓信委員会の国会議員たちが、放送法を誤って読んでいることだ。

 議事録を読むと、三議員とも放送法第一条の「不偏不党」や「健全な民主主義の発達に質するようにする」を、放送局の義務と誤解している。いうまでもなく、第一条は放送法の「目的」を定めた条文。誰がそれを守るかといえば、第一義的には、法律を作った国会であり、法律を運用する国(政府)であり、法律を享受する国民である。放送局の義務が書いてあるのは第三条だ。(注3 注4)

 そんなことも知らず、なんの逓信委員か。「放送法に抵触するか」など口にする前に、もっと自分の専門分野を勉強をすべきだ。

 個別の番組の表現だけをあげつらい、放送法第三条違反を云々するのも、誤りである。自由とは、振り子のように振れるもの、ある一定の幅をもつものだ。その幅を許容せず、突出する表現をすべて摘み取りたいならば、多チャンネル化の推進などやめるがいい。

 第三の問題は、放送局トップのふがいのなさだ。聞かれてもいない番組名、キャスター名を出して、いつも注文をつけていると、問題があることを認めるとは。なぜ、「個別の番組については、番組干渉につながりかねないので遠慮する」といえないか。こんなことで、まともな政治報道ができると思うのか。

 参院選を間近に控え、今回の政治によるテレビ脅しは、「わかってるよな、選挙報道ちゃんとやれよ」という圧力と思える。テレビは、この脅しを許してよいだろうか。

≪注≫
注1)このほか、出席国務大臣は郵政大臣自見庄三郎、出席政府委員は郵政大臣官房長天野定功と郵政省放送行政局長品川萬里、委員外の出席者として逓信委員会専門員1名。 ▲もどる

注2)参考人は、議院の委員会が審査や調査のために必要と認めた場合に、意見を求められる学識経験者など(衆議院規則85条、参議院規則186条)。議院の委員会が強制的に出頭させる証人(衆議院規則53条など)と異なり、不出頭や供述拒否に対して制裁を科せられることはない。ただし、発言に際して委員長の許可を受けるなど、制限が課せられている。 ▲もどる

注3)放送法第一条 この法律は、左に掲げる原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
 一 放送が国民に最大限普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
 二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること。
 三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に質するようにすること。 ▲もどる

注4)放送法第三条の二1 放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
 一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 二 政治的に公平であること。
 三 報道は事実をまげないですること。
 四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。 ▲もどる