メディアとつきあうツール  更新:2005-04-07
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

NHK受信料問題とは?
曖昧・受信料をどうする?
NHK不祥事と「受信料不払い」(支払い拒否)拡大の経緯

≪緊急のリード≫
2005年3月、受信料の「不払い(支払い拒否)・解約」は止まらず、NHKがこれまで3800万と公称していた契約数は3400万まで激減した。このままでは3000万契約に近づくだろう。NHKは文字通り創設以来、最大の危機を迎えた。改めて「みなさまのNHK」を支える受信料の問題点をまとめておく。(2004年12月05日 このサイト用に執筆) さらに、NHK不祥事と「受信料不払い」拡大の経緯(参考リンク付き時系列表)を付す。(2004年12月20日 同) さらになお、NHK受信契約率の実態(札幌市では事業所を無視しても5割台)を付す。(2005年01月09日 同)

≪初出時のリード≫
事業所を中心に依然上がらない契約率。専門化・有料化が進むCSデジタル多チャンネル。政府規制緩和小委員会のBSデジタル有料化への提言。スタートから半世紀がたとうとしている受信料制度が、大きな曲がり角を迎えていることは確かである。受信料制度を通してNHKのあり方を考えよう。(「GALAC」1998年05月号 特集「NHKはだれのもの」)

※4月13日頃「徹底検証! NHKの真相」が発売。「月刊民放」4月号巻頭特集は「まもろう!放送法」に執筆の 「元政府高官の番組干渉はなぜダメか?」も合わせて、ぜひご一読を!!

≪このページの目次≫

NHK受信料不払いは、なお拡大する!!

――NHKへの政治介入がNHKを滅ぼす理由(2005年2月)

NHKへの政治介入と受信料不払いの拡大
NHK教育テレビ制作者の内部告発で疑われた政治介入(政治家が制作中の番組について「××すべき」と放送局の制作責任者に意見を述べたこと)は、当時の政府高官自らの証言によって、到底否定することのできない事実と判明した。しかしNHK側は、なおも「政治介入はなかった」「(NHKが政治家に)事前に番組説明に行くのは当然」と強弁する。このことに批判的な視聴者が相当数(1000万単位で)いると思われるので、NHK受信料の不払い(支払い拒否、保留、解約などを含む)はさらに拡大する。

 NHK教育テレビ制作者の内部告発で疑われた政治介入(政治家が制作中の番組について「××すべき」と放送局の制作責任者―今回はNHK放送総局長―に意見を述べたこと)が、当時の政府高官自らの証言によって、到底否定することのできない事実と判明したことについては、当サイトの次のページを参照してほしい。

 NHKに政治介入。政府高官が圧力・干渉、番組内容を改変。
   受信料問題に影響も。ETV「裁かれた戦時性暴力」で

 もっともNHK側は、「政治介入はなかった」という姿勢を崩していない。「特定の政治家(今回判明したのは与党政治家である政府高官)のもとに、特定の番組内容を説明しに出向き、政治家の意見を聞くことは当然」とNHK首脳が考えているのだから、NHKは与党政治家の御用伺いを務める御用放送局、御用言論報道機関といわざるをえない。

 しかし、世の中には与党政治家と意見を異にする多数の人びとがいる。通常、この人びとは野党支持者や無党派層として数えられ、国内に1000万単位で存在することは確実だ。彼らは、NHKが特定の政治家や政権与党の御用放送局であることに批判的なはずだろう。とりわけ、選挙の際に野党候補や無党派候補に投票したり個人的に政治献金・カンパなどを行う人びとが、NHKに対して受信料を支払いたくないと考えるのは、無理もないことであると思われる。

 したがって、NHKが「政治勢力(政府や政治家)とは距離を置く」という姿勢を鮮明にしない限り、政権与党と考えを異にする人びとの受信料不払い(支払い拒否、保留、解約などを含む)は、さらに拡大すると思われる。

受信契約数は、NHK発表より170万件前後も少ない!!
現時点(2005年2月)でのNHK受信契約数は3650万件前後で、NHKが発表している最新の数字(ホームページに掲載中の昨年11月末の数字)の3823万件をすでに170万件前後も下回っている。1998年(平成10年)の水準とほぼ同じ契約件数だ。これは、4800万世帯と650万事業所にテレビが1台ずつしかないとして(実際にはもっとある)、受信料を支払うべき世帯・事業所の3分の1が払っていないことを示す。

 NHKの受信契約数は、昨秋には3800万件以上と発表されていた。現在でもNHKのホームページは、最新の数字として2004年11月末の3823万を掲げている。しかし、これは滞納または不払い120〜130万程度を含む「水増しデータ」であることがわかっている。その後、さらに受信料不払い・保留・解約が拡大し、04年11月末に11万以上、05年1月末に40万前後(直近2か月の不払い純増は30万前後)に膨らんだと見られる。ごく控えめなNHK自らの見込みでも3月末に40〜50万に達する勢いである。

 したがって、2月初旬時点でのNHK受信契約数は3650万件前後である。「前後」とは、±10万件程度のズレを見込んでいると考えていただきたい。これは1998年(平成10年)の水準とほぼ同じ契約件数である。すると、「3650万÷(4800万+650万)×100=66.9%」であるから、受信料を支払うべき世帯・事業所の少なくとも3分の1が払っていないことがわかる。全国650万事業所に置かれた受信料を支払うべきテレビの数が、650万台ですむはずがないことは、いうまでもない。

 受信料を支払うべき事業所の契約件数は、ホテル・旅館の客室150万、テレビ付き病床100万(テレビリース業者側は「25〜30万契約」といい、対してNHK経営広報部は「数億円の収入(つまり数万契約)しかない」と全然まともに徴収できていないことを認めた――2005年2月3日毎日記事)、飲食店80万、学校のテレビ数十万などに、日本全国の企業・工場・役所・店舗その他のテレビが置かれた「部屋数」――事業所の数ではない!!――を加えた数だから、650万より少ないことは断じてありえない。

将来は、契約数3000万割れもありうる!!
NHKは、野党支持者や無党派層など国内に1000万単位で存在することが確実な人びとに、受信料不払いの口実を与えたも同然だから、NHK受信料の不払いは、今後200万、300万と増えるだろう。さらに、中長期的には、NHK受信料をちゃんと払う高齢者・高齢世帯が減ると思われる。したがって、デジタル放送全面移行の年とされる2011年、あるいは現実的な移行終了期と見られる2015〜2020年までに、NHK受信契約数は3000万件を割り込む可能性すらある。

 NHKは、野党支持者や無党派層など、国内に1000万単位で存在することが確実な人びとに、受信料不払いの口実を与えたも同然のふるまいを続けている。したがって、NHK受信料の不払いは、今後200万、300万……と増えるだろう、と考えるのが自然である。

 忘れてならないのは、受信契約数の200万や300万はどうでもよくても、きちんと受信料を払っている高齢者・高齢世帯(地方に多い)が、残念なことに自然に減少していくことである。もちろん、高齢化によって高齢者・高齢世帯そのものは増えるのだが、NHK受信料を払わない高齢者・高齢世帯への入れ替わりが進むわけだ。

 だから、2011年(国策によればデジタル放送全面移行の年)や2015〜2020年(まずまずそのあたりでデジタル放送全面移行が可能なのでは、と思われる時期)に、NHK受信契約者数が3000万を割り込んでも、何の不思議もない。今後、NHKの受信料収入が減少すると思われることは、日本の地上デジタル放送計画にとって極めて深刻な問題である。

 2011年段階でエリア内中継局のデジタル化を100%終了する見込みの民放局は、現時点でたったの2割(04年11月、NHK放文研の民放127社アンケート調査による)にすぎない。民放は人口集中地域からデジタル化を始めて末端まで行き届かないからで、現在見ている民放テレビを2011年に見ることのできない世帯は4800万世帯の最大2割程度、おそらくは数百万世帯に達する(これは2011年にアナログ停波ができない理由の1つである)。NHKのカネや公的資金(国や自治体のカネ、つまり国民の税金)を投入し民放が映らないエリアを減らしたいところに、NHKのカネが先細るのだから、国も民放もメーカーも困るのだ。

NHK民営化について

――NHKを民営化しても、日本の放送にプラスは、ほとんどない(2005年2月)

「NHK民営化論」は是か非か!?
公共放送NHKが受信料収入で立ち行かなくなれば、NHKを国営化するか民営化するか、道は2つに1つである。しかし、いまどき国営放送など、まるで流行らない。NHKを民放にする民営化も極めて問題が多い。NHKは特定政治勢力の御用機関から脱却し、公共放送としての道を進むべきである。

 まず「NHK国営化」論については、そんなものはまっぴら御免だ、というほかはない。大本営発表しか流さない放送局など、21世紀の日本には必要ない。現在のNHKは、過去に受信契約者が支払った受信料でここまで大きくなったのだから、NHKの国営化は人びとがカネを出して育てた放送局を国が接収する(横取りする)という話であって、認めることはできない。

 一方、最近、無責任に氾濫している「NHK民営化」は、日本に世界最大規模の民放(商業放送局)が新しく登場することを意味する(厳密にいえば、民営化は分割を含むと思われるので、世界最大規模の放送局をバラした民放が複数登場する)。

 NHK民営化によるマイナスは、(1)日本の広告費はNHKが民営化してもあまり増えないから、現在の「民放売上高+α」をNHKと民放で分けることになり、NHKと民放のすべての放送局が減収となる。(2)したがって、すべての局の多くの番組で制作費が削られ、内容の劣化が起こる(現在より貧弱なものになる)。(3)民放の収入は(ごく単純にいえば)視聴率で決まるので、広告効果が薄いと思われる高齢者むけ番組、視聴者が少ないと思われる番組(ニュースはじめ硬派の番組)などが減る。(4)うるさいコマーシャルが入らない(うるさい番宣は入るが)チャンネルが2つほど消滅する。(5)全国放送としてのNHKが消滅しすべてローカル局(注:東京民放キー局は関東ローカル局)となるので、災害・有事・国際放送その他で不都合が生じるほか、立ち行かないNHKローカル局が出る恐れがある。(6)BSデジタル放送と地上デジタル放送が、いよいよ本格的に破綻する。――などである。つまり、日本の放送全体にとってロクなことがない。

 NHK民営化によるプラスは、(1)受信料をきちんと払っている人は、NHKに対する負担額が減る。(2)不公平で曖昧な受信料制度がなくなり、みんなスッキリする。(3)NHKと政治の距離が、現在の主要民放と同程度に広がる――くらいである。

 いうまでもなく、国民は広告企業を通じて民放テレビにカネを出しているのであって、NHKを民営化すれば国民の負担額(民放の維持費)は、NHKが加わったぶん増える(ただし、広告企業があまり広告費を増やさないから、受信料分まるごとは増えない。だから番組劣化が起こる)。その結果、何がどうなるかといえば、いま受信料を払っている人は、それより少ない額を広告企業経由でNHKに払うことになる。そして、いま受信料を払っていない人は、それ(ゼロ円)より多い額を広告企業経由でNHKに払うことになる。

 「見ていないNHKの受信料など払うか。自分は集金人に『見ないから払わない』と堂々と宣言し、払っていない。こんないいかげんな制度はやめて、サッサと民営化すればよいのだ」という人が少なくないようだ。私に言わせれば、その人は「自分は現在、NHK受信料を1銭も払っていないが、NHKのスポンサー企業の製品価格に含むようにしてくれれば喜んで払う。NHK番組はもちろん、全民放番組が現在よりダメになっても、自分はそうしたいのだ」と主張しているのも同然だ。もっぱら自分が見ている民放番組が総じて貧弱でつまらなくなったうえに、なお、現在は払っていないNHKへのカネを(間接的に)払いたいというのだから、このような人を何と形容すべきだろうか。

 以上のようなことは放送局にとって「常識」だから、全放送局(NHKと全民放)がNHK民営化に反対である。民放は新聞と系列化しているから、全新聞も反対である。政権与党は「御用放送局」を失いたくないから、政府も与党も反対である。デジタル化にマイナスだからメーカーも反対で、テレビ広告費を増やしたくない経済界の多くも反対だろう。政府与党とすべての新聞・放送局と経済界が反対ということは、NHK民営化は当面、実現の見込みがゼロである(NHK民営化は、与党や一部新聞が賛成している憲法改正よりも反対が多いといえる)。ただし、部分的な民営化や国営化については検討の余地が十分あることを、付け加えておく。

 なお、以上のような問題を指摘せずに「NHK民営化」論を口にするメディア関係者・研究者は、素人同然であるから信用しないほうがよい。テレビでキャスターが口をすべらせたり、大手新聞の社説あたりに載らないとも限らないから、ご注意まで。

 余談だが、旧ソ連・東欧諸国の政府は、かつて「わが国には資本家による労働者の搾取はない。むろん教育も医療費もタダで高福祉。資本主義国よりもよかろう」と胸を張っていたが、大ウソがバレて崩壊した。労働者から税金を取って教育も医療費もタダにしたが、欧米や日本の労働者よりひどい生活をさせていたからだ。「労働者からの搾取」と呼ぼうが「政府の税金」と呼ぼうが、搾り取ることに変わりはない。労働者にとっては、資本家が(余禄をかすめ取るのもありで)搾り取るほうが、政府や党が搾り取るより、はるかに幸せだっただけのことである。

 受信料はダメだが製品価格に含めるならよいといって貧弱な番組を見る人は、資本家の搾取はダメだが政府の税金ならいいといって貧しい暮らしをしていた東側の人びとを、私に思い起こさせる。東側では大ウソが数十年通用したのだ、日本にウソと気づかない人が大勢いても無理はないとも、私は思う。

 まとめると、NHKの国営化も民営化も問題がありすぎる。だから、NHKは公共放送、それもこれまでの傲慢不遜で独善的な放送でなく、よりよい公共放送を目指すべきである。その際、受信料不払いが際限なく拡大すると困るから、一刻も早く隠蔽体質を改め、政治的な偏向も改めて政治と距離を置くべきだ、というのが私の考えである。

「NHK民営化によるマイナス」について補足
――NHKの「民営・無料広告放送化」論ついて

※以下のカッコの数字は、上記「NHK民営化によるマイナス」の箇条書きに対応しています。

(1)企業が支出する広告費は、ふつう企業の売上高に比例する。売上高から人件費、仕入れ費、水道光熱費、地代や賃借料、運賃、「広告費を除く」販売費、設備投資費、租税公課などのコストを除いた残りから、広告費を出すからだ(残りが利益。つまり、売上高=コスト+利益=広告費を除くコスト+広告費+利益)。いうまでもなく「広告費を除くコスト」は、テレビとは関係ない事情(景気のよしあし、ヒット商品の有無、取引先の好不調、原材料価格の変動……などなど)によって決まってしまう。だから、急成長もせず倒産もしない多くの企業が来年度に支出する広告費は、前年度よりちょっと多いかちょっと少ないかである。急成長する企業の広告費は前年度より大幅に伸びるが、倒産寸前に追い込まれる企業の広告費は前年度より大幅に減る。

 結局、企業全体ではGDPのほぼ一定の割合をテレビ広告費に振り向けることになる。「総広告費=GDPの1%強」「総広告費に占めるテレビ広告費のシェア=35%前後」「テレビ広告費=GDPの0.4%前後」は、来年も再来年も、NHKが民営化される年でも、その10年後でも、あまり変わらない。テレビ広告費は少しずつ増える(以前は「GDPの0.35%」が目安だった)が、日本の人口減少は確実でGDP減少も確実だから、ようするに中長期的には増えない。

 日本の放送業界は「テレビ広告費+受信料+その他」のカネで運営されているのだから、NHKを民営化し「テレビ広告費+その他」のカネで運営するように改めれば、放送業界全体の収入が減り、全放送局の収入が減るのは、子どもでもわかる理屈だろう。

(2)たとえば「シルクロード」「家族の肖像」などの大型シリーズ、アマゾンの奥地で何か月も取材する「自然・紀行番組」などは、カネがかかりすぎ、商業放送局には作ることができない。だから民放では、やらない。民営NHKでも作ることができなくなり、番組内容が劣化する。「NHK大河」の合戦シーンに出てくる馬や足軽の数が減る、ロケ地の数は縮小されロケ期間も短縮されるという話である。広告収入の一部を民営NHKに奪われる民放でも、給与や制作費が削られ、現在より貧弱な番組が流れるようになる。

(3)多くの企業が高齢者むけ番組のスポンサーになりたがらないのは、高齢者むけに商売する企業を除けば、「高齢者はあまりカネを持っていない」(例:月10万円の年金暮らしの高齢者にベンツやプラズマテレビを広告しても無意味)か、「高齢者は新しいモノを買わない」(例:すでに持ち家がある高齢者に家やマンションを広告しても無意味)か、「高齢者は新しいモノを買うときこれと決めたモノを買う」(例:クルマを持っている高齢者は、うちはトヨタと決めているから、ホンダの広告をしても無意味)と考えているからである。

 だから、NHKが現在流す高齢者むけの「演歌中心の歌謡ショー」はスポンサーに高く売れない。商業放送局では、高く売れない番組が減るのは当然。定時ニュース、NHK教育が流すアート・クラシック音楽・趣味といった地味な番組も、高く売れないから減って当然だ。

(5)NHKの現在の視聴率を見れば、関東広域民営NHKはフジ・日テレの収入を稼ぐことすら難しいだろう。NHKネットワークは最強だから、地方ではローカル民営NHKが地域一番局になる可能性もあるが、地域と分割の仕方によっては立ち行かないケースがあっても不思議はない。民営後は、視聴者は僻地までいっぱい建っている鉄塔にカネを出すのでなく(公的負担金である受信料制度下では、その意味合いがあった)、広告企業を通じて番組にカネを出すようになるからだ。

 費用対効果を考える広告企業(とりわけナショナル・スポンサー)は、「少数が見ている僻地まで番組が届く」ことを重視してカネを出すわけではない。ローカル民営NHKが、フジ・日テレより視聴率が低いであろう関東広域民営NHKのネット受けと、地元スポンサーの広告で運営されるのであれば、その惨状は目に見えている。現在のNHKが地方で強いから、民営化後も地方で強いはずだと思うのは、誤った類推である。

 ローカル民営NHKは、いま僻地に建っているNHKのテレビ塔(小規模中継局)を維持・保守するコストがかさんで大変だと予測するのが、真っ当なものの見方というものだ。ローカル民営NHKは、その鉄塔の更新費用を負担できないから、10年後20年後にはNHKが視聴できなくなる地域が出てくることを、心配しなければならない。

(6)NHKがBSデジタルや地上デジタルを熱心に推進しているのは、高い受信料の設定によって、「日々送り出す番組づくりと人件費」以外に使えるカネが余っているからである。カネが余らなければ、出せない。「デジタル化などやめてしまえ」という論者が「NHKを民営化せよ」というのは首尾一貫しているが、「デジタル化はおおむね順調。なんとかなる」という論者が「NHKを民営化せよ」というのは支離滅裂である(後者で首尾一貫するのは「デジタル化が順調」も「NHK民営化」もデタラメだ、という点だけである)。

 なお、筆者は「デジタル化などやめてしまえ」とも「NHKを民営化せよ」とも主張したことがない。「デジタル化の現行計画は失敗するから見直すべきである」「NHKは公共放送として徹底的に改革すべきである」と考えている。

補足の補足
――NHKの「民営・有料放送化」論ついて

 NHK民営化論のうち「民営の有料放送にせよ」という議論は、地上デジタル放送が普及していない現時点では、意味がない。NHKは現時点でも有料放送なのだから、民営と公営の違いを語らなければダメだが、アナログ放送のままでは「民営の有料放送」(WOWOWやスカパー)の大前提であるスクランブルがかけられないからだ。(有料放送は、スクランブル放送と呼ばれる一種の暗号放送を送信し、料金を払った人だけに暗号を解く鍵を与えて、視聴できるようにする仕組み。だから有料放送のチューナー[=受信機]をデコーダー[=暗号解読機]とも呼ぶ)

 「切符を買わなくても3人に1人は改札を自由に通過できる国鉄」があったとして「改札はそのままに国鉄を民営化しJRにせよ」と主張するのは、ものすごくマヌケであろう。「自らつくった製品の3分の1や2分の1がタダで持っていかれてもよい民間企業」など成立しない。誰も株主にならないし、すぐ潰れてしまう。

 「地上デジタル放送が普及した段階で(たとえば2020年頃に)、NHKを民営の有料放送にせよ」というのは、まだましな議論だが、見ない者は加入しないから、民営NHKの視聴者は激減するだろう。激減して立ち行かなくなれば、民営NHKは有料放送を止めて無料放送に移行するか、倒産するかだろう。ようするに私たちは、「NHKは民営化せよ」とまではいえるが、「NHKは民営化し、しかも(未来永劫《えいごう》)有料放送を流さなければならない」とはいえない。民間放送局が有料放送を流そうが無料広告放送を流そうが、そんなことは放送局の勝手だからだ。

 「NHK受信料の不払いに罰則を設けよ。そうすればスクランブルをかける必要はない」という議論は、「NHK民営化」論ではなく「公共放送NHKのあり方」論だ。ある会社が「勝手に」日本全国の全世帯にビラを配ったり電波を送信したりして、そのことをもって各家庭に料金を請求し、不払い者に罰則を与えるためには、「法律」が必要である。法律を作った段階で、その会社は民間企業ではない。その会社は国営企業か公共企業と呼ばれる。

 言い換えれば、NHK受信料に罰則規定を設けるには放送法に「1条または1項だけを追加」すればよいが、NHKを民営化するには放送法の「第2章 日本放送協会 第7条〜第50条をすべて削除・修正」しなければならない。放送法のその他箇所も修正が必要だし、放送法以外のNHK関連法もすべて修正して国会に出さなければならないから、法律をいじるだけでも2〜3年やそこらかかる。話のレベルがまるで違うのだ。

NHK受信料問題とは?

――いまNHKが最大の危機を迎えている理由(2004年12月)

NHK受信料の問題―【1】
NHKは、受信料を取りやすいところからしか取っておらず、その契約率は7〜6割以下である。沖縄、大阪、東京などでは契約率4〜3割以下の地域もあると思われる。

 放送法上、NHKと受信料契約を結ばなければならない者は、(a)テレビを設置した一般家庭(1世帯1契約)、(b)テレビを設置した事業所(テレビのある部屋ごとに1契約)である。まず、その概数を示そう。

 (a)の一般家庭は約4800万契約。テレビのない家庭は、まずない(普及率99%以上)。別荘(全国25万戸)所有者など2契約が必要な世帯もあるが、ここでは総世帯数4800万と推定する。

 (b)の事業所は約650万だが、テレビが0台の零細事業所(事務所の実体がない、事務所にテレビがない、「1階が店で2階が住居」「住居の1部屋が仕事部屋」など世帯・事業所の区別がつかない)、テレビが1〜2台の中小事業所(事務所や店)、テレビが数台以上の中〜大規模事業所(従業員食堂・寮・休憩室・守衛室・会議室・待合いロビーがあるような会社・工場・役所など)、テレビが十〜数十台以上の特殊な事業所(旅館・ホテル・病院・養護施設・学校・公共施設・バスやタクシーやトラックはじめテレビ搭載の営業車をもつ会社など)がある。

 1事業所平均1台とすれば650万契約、平均2台ならば1300万契約、平均3台ならば2000万契約と見積もらなければならない。どれが現実に近いかは確たる判断材料がない(それを調べるのはNHKの仕事だ)が、客室数150万、病床数130万(テレビ付きは約100万)、病院・診療所数10万、学校数4万(免除だった小中学校は99年から生徒用以外を徴収)というような数から考えて、事業所分の契約件数が650万で済むとは、まったく思えない。

 したがって(a)+(b)=五千数百万〜六千数百万というような数である。受信料免除件数(百数十万)を差し引いても、それは誤差の範囲内。一方、NHKが公表している契約件数は3800万(2004年10月末)にすぎない。(a)+(b)=6000万とすれば、契約率は63%程度となる。ようするに、現在のNHK受信料の契約率は7〜6割以下と見るのが妥当である。

 東日本の農村などは契約率が高く、ほぼ100%に迫るといわれている。訪問集金は郵便局員や部落区長などが代行する場合があり、顔見知りが集金するため不払い世帯が生じにくい。契約率が低いのは、沖縄、大阪、東京など(以上の都市部の一部)といわれており、そのような場所の契約率は4〜3割以下だろう。

NHK受信料の問題―【2】
仮に契約率が7割とすれば、現行の受信料は高すぎる設定だ。月額2000円は月額1200円、いや、取るべきところからすべて取れば月額1000〜900円で十分である。

 まるめた数字で、考え方を示そう。

 NHKは現在、年間で3800万契約から6500億円の受信料収入を得ている(6500億円÷3800万契約=1契約あたり年間1万7000円)。その契約率を7割と仮定すれば、契約率10割の場合は5400万契約(3800万÷0.7)から9000億円以上(5400万×1万7000円)の収入が得られる計算である。しかし、現在の放送を維持するためには6500億円あればよいから、契約率を10割にした暁には、1契約あたり年間1万2000円(6500億円÷5400万契約)、つまり月1000円だけ集めればよい。したがって、現在の受信料は3割値下げする余地がある、または現在の受信料は契約率が低いために3割高く設定されている([1万7000円−1万2000円]÷17000円=0.3)。

 現在の契約率が6割そこそこて本来払うべき契約数が6000万であれば、月900円だけ集めればよい(6500億円÷6000万÷12)。

 もちろん本当の契約率が5割ならば、契約率を10割に上げて、受信料を半額にまける余地がある。この場合は、現在の受信料は「必要額の2倍という法外な割増料金」になる。現在の1契約あたり平均年額1万7000円は月額1400円だから、月額2340円払っている人は、すでに「払っている人全体の平均額」より毎月1000円近く余計に払っているのだ。なおNHKの発表では、いまだに白黒契約世帯が40万近く(衛星白黒契約というワケワカメも若干数=2〜3万)おり、法外な割引料金が現実にまかり通っている。

 NHKが地上デジタル放送の投資を楽々できるが、民放(とりわけ地方局)がそうはいかないのは、第1にNHK受信料がもともと極端に高く設定されているからである。とくに衛星受信契約は、1万人に衛星放送を流すのも1億人に衛星放送を流すのもコストは同じ(衛星打ち上げ・番組制作・電波送出のコストは受信者数にまるで関係ない。郵政省が衛星国産化にこだわっていた時代から比べ、衛星コストは大幅に値下がりしている)。だから、NHKはコストに見合って徴収しているわけでは全然ない。衛星契約料は、わざわざ高い衛星放送受信機器を買ってくれた人が、新たなコスト負担を何もしないのにNHKに払ってくれるという、とてつもなくありがたいカネ(「濡れ手に泡」というか「ドル箱」というか「打ち出の小槌」というか、そのようなカネ)。第2に特殊法人で税金を支払っていないからである。

 もっとも、現実には収納コストが契約者数に比例して増大する(限界に近づくほど急激に増大する)から、必ず上のシミュレーション(収納コストの増大を見込んでいない)通りに値下げできるという話にはならない。月1000円にするのは無理で、月1200円程度がせいぜいかもしれないが、しかし、値下げの余地が皆無ということもありえない。なお、以上の考え方では、3800万の契約者がちゃんと受信料を支払っていることを前提としている。3800万の中に支払っていない者がいれば、現行の受信料は上の計算よりもなお割高となる(次の項目を参照)。

NHK受信料の問題―【3】
NHKが公表している受信契約数3800万は、実は「実際に支払っている者の数」ではない。契約率と収納率は異なる概念である。

 NHKが公表している契約数3800万は、「実際に支払っている数」ではなく、文字通り契約数(いわば登録者数)であって、「支払いが滞っているが解約はしていない」という契約を含んでいる。それがどのくらいの数・割合なのか、そして、5年前から支払い停止、あるいは3年前から、2年前から、1年前から停止という契約の全部を含むのか、古いものは除外してあるかどうかも不明である。NHKは一切公表してこなかった。

 最近、3800万のうち「滞納が120万」(笠井鉄夫NHK副会長)と言及したが、この「滞納の定義」は、相変わらずハッキリしない。

 ようするに、契約率と収納率は異なるのである。たとえば、放送法上「受信料を納めるべき者」が5400万で、「受信契約件数」が3800万だったとしよう。つまり契約率は70%だ。このとき「受信契約件数を母数とする収納率」が80%ならば、「実際に支払っている数」は3040万(3800万×0.8)であるから、「受信料を納めるべき者を母数とする収納率」は、56%(3040万÷5400万×100)に下がってしまう。

 この場合、母数(分母)を明示しなければ、「収納率は80%」といっても「収納率は56%」といっても「契約率は70%」といっても、どれも嘘をついたことにならない。ここがミソなのだ。

NHK受信料の問題―【4】
受信料の実態が受信契約者や視聴者に公開されておらず、割高のものを払わされていることが隠蔽されている。NHK受信料は「払う人・払わない人」で不公平だが、実は「払う人」の中でも不公平があるのだ。

 【1】と【2】は、ごく常識的で妥当な計算であると思われるが、NHKは言及したことがない。NHK以外のテレビや新聞などマスコミもほとんど報じたことがない。もともと割高であるものを隠して「NHKはみなさまの受信料で支えられている。この金額を払ってほしい」とだけいうのは、受信契約者に対する背信行為であると思う。NHKは「契約率を上げれば、値下げの余地がある。そのようにするから、払ってほしい」と頼むべきだろう。

 現在のNHK受信料が、二重の意味で不公平であることも大問題だ。第1に払っている人と払っていない人が不公平であり、第2に払っている人の中で高い人(衛星カラー契約の訪問集金ならば年2万8080円)・平均的な人(地上カラー契約の訪問集金ならば年1万6740円)・安い人(普通契約―いわゆる白黒契約―の口座振替12か月前払いならば年9550円)という不公平があるからだ。

 放送法上の規定もNHKの説明でも、NHK受信料は放送番組を受け取ることに対する「対価」ではなく、受信機を設置した者が支払うべき「公的負担金」という位置づけだが、にもかかわらず、NHKは「BSを見ている人は衛星契約」「映りが悪い人は普通契約」などと受信料が放送の「対価」であるような取り方をしてきた。だから不公平が生まれたわけである。

 なお、事業所から放送法の規定通りに受信料を取ろうとすると、たとえば中小企業の社長は「うちには確かにテレビが3台ある。だが、ここは仕事をする場所で、昼休みくらいしかテレビを見ない。自分を含めて社員全員が、家に帰れば受信料を払っている。3台分払えとは酷ではないか」というだろう。東京都庁のような巨大ビルの1フロアにテレビが20台あっても1台と数える(1部屋と見なす)のに、中小企業の2階に4畳半の部屋が3つあるから3台と数えれば、やっぱり「酷だ」というだろう。

 ならば、きちんと割引料金を設定すべきである。それはせず、黙って取らないか、いいかげんな割引料金(たとえば温泉地では旅館組合を相手に、実際のテレビ台数とは無関係に1軒何契約分と決める。事業所では、テレビが10台くらいあるオフィスだから2契約分などと決める)を取ることにして、地方の高齢者世帯など取りやすいところからだけ割増料金を取るのでは、視聴者は納得しないだろう。

NHK受信料の問題―【5】
放送法の制定(1950年)から長い年月をへて、受信料の意義が変わっている。50年前と同様に払ってほしいと、視聴者を説得することが難しくなってきた。

 受信料は、NHKのいわゆる「あまねく普及義務」(放送局のなかでNHKだけが、放送をあまねく全国に普及させるという目的を、放送法で明記されている)を背景にしている。ところが、現在では衛星放送に参入しさえすれば全国に放送を届けることができる。年間数億円のコストを負担すれば、CSで全国放送ができる。だから「あまねく普及義務」が、ある意味で変質し、それを根拠として受信料を徴収するという必然性・正当性が失われてきたといえる。

 また、受信料は半ば税金に近い(準「税金」的な)負担金として支払われてきたが、若い層を中心に「自分が必要なものにしか支出しない」という考え方(「対価」主義的な考え方)が強まっている。自分が必要と思うケータイ料金はアルバイトをしてでも払うが、見ない放送には払わないという人の割合が増えている。

 以上から、受信料制度は明らかに曲がり角を迎えており、払ってもらうためには、新たな動機づけ(説得の材料、払うしかるべき理由)が必要である。

 地上デジタル放送計画を視聴者大衆の意見を聞いたうえで立案すれば、それが新しい理由の1つとなりえたが、NHKはそうしなかった。これも救いようのない経営の判断ミスである。

NHK受信料の問題―【6】
新たな理由や動機づけがなければ払ってもらいにくいところ、NHKは受信料をムダづかいした不祥事を隠蔽したり、反省するどころか経営陣の傲慢不遜な態度を見せつけた。だから、受信料の不払い(支払い拒否)はますます増えるだろう。そのことが経営の根幹を揺るがす事態になれば、それは現NHK経営陣の責任である。

 2004年12月時点で、NHKの不祥事への対応を不満とする「受信料不払い・保留」(支払い拒否)は11万3000件に達した。NHKによれば、これは「NHKの不祥事への対応が不満だから払わない、または保留とする」と理由を明示したものの公表件数である。理由を明示せず、ただ黙って払わない、口座を抹消した、口座に残金がないなどの不払いは、その数倍に達すると見られる(複数のNHK関係者からそう聞いている)。9月末時点で不払い3万件と公表されたときは、内部では「実際は30万件規模ではないか」といっていた。

 ということは、すでに2004年12月上旬時点で、受信料不払いが数十万件に達している可能性が大きい。理由を明示する「不払い・保留」が、引越シーズンが終わった来春以降に20万〜50万件というような数であれば、実際の受信料不払い(支払い拒否)は100万〜300万件かもしれず、文字通りNHKの経営の根幹を揺るがす事態に陥る恐れがある。

 そのときは、受信料収入の数%〜1割近くが得られないわけだから、番組制作、給与の支払い、設備の更新、新規投資などに影響が出るかもしれない。地上デジタル放送や24時間ニュースといった将来計画にも影響する可能性がある。私が強く懸念するのは、そのような段階で経営トップが交代したとしても、1度離れてしまった受信契約者に再び払ってもらうことは非常に困難だろう、ということだ。

 NHKでは副会長が「11万3000件は0.3%(=11万3000÷3800万×100)。経営努力で吸収できる額」と発言した。そのような認識ならば、残りの99.7%が「じゃ、払うのをやめよう。うちの分も経営努力で吸収してくれ」と思うのは当たり前。受信料不払い(支払い拒否)が増えるのは時間の問題だと思われる。NHKに残された時間は、半年もないだろう。

 NHKが、設立以来最大の危機に直面しているのは、以上のような理由によるのである。

NHK受信料の問題―【7】(ご注意!)
2004年12月19日のNHK番組によれば、NHK受信料の契約総数は3694万件。これは、NHKが公表してきたデータを、いきなり(何の注釈もなしに)130万件ほど下方修正した数字だ。そのこと自体、企業経営の常識からまったく逸脱した異常事態で、普通の会社ならば担当取締役はクビ(降格)だろう。

 【1】〜【8】では、NHKの受信契約数を、NHKがこれまでに公表した最新の数値をまるめて3800万件としている。ところが、NHKはNHK会長が登場した19日の特番「NHKに言いたい」で、何の断りもなく3700万件弱という新しい数値を公表した。

 しかも、おかしなことに、NHKホームページの数字は3800万件のままである(22日現在)。東京電力が契約者数をいきなり100万以上少なく公表したら、そのこと自体が「不祥事」であると思うが、NHKにそんな自覚はないらしい。番組とホームページが矛盾したことを伝えていても、別に問題とは感じていないようだ。

 そんなわけだから、上記の「3800万件」は「3700万件」と読み替えていただいてもかまわない。その場合でも文章の趣旨は変わらないが、指摘している問題はより深刻化する。そのことは【2】の末尾にすでに書いてある。(2004年12月05日 07日一部加筆 22日一部修正)

NHKはだれのもの 50年目の曲がり角
曖昧・受信料をどうする?

――GALAC特集「NHKはだれのもの」より(1998年05月)

公共放送の理念
受信料制度の現実

 日本放送協会、つまりNHKと、日本にあるその他の放送局とは、なにをもって明確に区別できるだろうか。局の規模か、放送される番組の質や傾向か、それとも視聴者層だろうか。

 いうまでもなくそれは、NHKが、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行」う(放送法第7条)ことを主な目的として、放送法に基づき設立された特殊法人だ、ということである。

 だから、NHKは「営利を目的としてはならない」(同第9条)と規定されている。つまり、カネ儲けを目的としてはならない。営利の追求を主な目的として、放送に企業コマーシャルを入れ、収入を得ている民間放送(商業放送)と決定的に異なるのだ。

 しかし、「あまねく」「豊かで、かつ、良い」番組による国内放送を行い、そのうえ、放送やその受信の進歩発達に必要な仕事をし、合わせて国際放送まで手がける(以上の目的も第7条に出てくる)ともなれば、先立つものはカネである。

 カネ――どのように運営コストをまかなうかについては、「受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」(放送法第32条)とされ、NHKはあらかじめ郵政大臣の認可を受けた基準による場合を除いて、「契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない」(同)とされる。

 郵政大臣がマケてよいと認めた例外を除き、受信料は万人《ばんにん》から必ず取らなければならない。

 このように放送法を読んでくると、「NHKは公共放送である」という目的と、「NHKは受信料によってまかなわれる」という手段は、もともと不可分の大原則としてNHKを規定していることがわかる。

 放送法の「第2章 日本放送協会」に、直接そんな言葉が出てくるわけではないが、実は目的を達成する手段は唯一に限られると書いてあるわけだ。

 目的と手段は、「公共放送という理念」と「受信料制度という現実」と言い換えてもよい。公共放送を問うことは、受信料制度を問うことであり、逆もまた真である。

 両者は不可分な存在なのだから当たり前の話だが、受信料制度が始まったのは、放送法が施行され、NHKが戦後の再スタートを切った昭和25年(1950年)6月のことである。

 そして、当時から、もう半世紀がたとうとしている!!

 これは、冗談ではない時の流れというべきだ。日本を含む列強が中国分割に躍起となり続々と軍隊を送り込んでいた当時から放送法ができるまで、あるいは日本に初めて自動車が輪入された日から放送法ができるまでと、放送法施行から今日までとで、同じ年月が経過しているのだ。

 理念も現実も、変わらないほうが不思議である。そして、どんな世界でも(とりわけ官僚制度下では)最初の目的が忘れ去られ手段が目的と化すというのが常識、いや大原則だ。

 公共放送NHKの「理念」を問うために、受信料制度という「現実」の検証から始めよう。

NHK受信料制度
その変遷と現状

 まず、受信料制度の変遷を追おう。

 制度が始まった昭和25年(1950年)には、テレビ放送はまだなく、ラジオの受信料が月50円だった。昭和28年2月からテレビ放送が始まると、月200円のテレビ料金が設定された。昭和37年にはラ・テ包括料金が月330円となったが、ラジオしかない世帯の受信料は据え置かれた。

 放送の主流がテレビに移り、モータリゼーションの進展でカーラジオからの受信料徴収も非現実的になったことから、昭和43年にはラジオ受信料が撤廃されている。同時にカラー契約が月465円、普通契約(白黒契約)が月225円となった。

 ちなみに昭和40年(1965年)の品目別小売価格(東京区部)のデータには、うるち米(上)1キロ120円、清酒(2級)1升536円、ラーメン63円、喫茶店のコーヒー72円、大人の風呂代26円、タタシー初乗り100円、新聞代月483円などとある。上米4キロ分は、現在の衛星を含めた受信料にも当てはまるのがおもしろい。

 その後、昭和51、55、59年の料金改定をへて、平成元年(1989年)8月に衛星料金が設定された。地上カラー契約が1070円、衛星付加料金が930円で、合わせて月2000円である。翌年には地上カラーが2270円に改定されたが、衛星料金は据え置かれた。

 これ以降は消費税分(内税)が3%から5%に値上げされただけ。現在、衛星・カラー契約の受信料は月2340円である。口座引き落としの場合は50円引きで、半年払いや1年払い割引もある。普通契約は月905円となっている。

 一方、NHKの受信契約者数は3525万件。内訳は衛星契約(衛星・カラー契約)884万件、カラー契約(衛星なし)2569万件、普通契約(白黒)72万件。この契約者から得られる受信料収入は5945億円である。(数字はいずれも平成9年度末の計画ベース)

NHK地域スタッフの
悪戦苦闘

 では、受信契約はどう結ばれ、受信料はどう収納されるのか。

 NHK内部で、視聴者との受信契約の締結と受信料の収納を担当しているのはNHK営業総局。これを項点として、拠点放送局(たとえば東北では仙台)と都内5か所に営業推進センターが、各放送局には営業部がある。このビラミッド型営業組織に働くNHK職員は総勢1640人である。(注1)

 実際に各家庭や事業所を回り、新規に契約を取ったり受信料を収納しているのは、NHK職員ではない。NHKと委託契約を結んだ「地域スタッフ」と呼ばれる個人事業主だ。以前は「委託集金人」「訪問集金人」などとも呼ばれていた。各地のNHKの営業部隊が彼らをたばね、指導している。

 もっとも多かったのは昭和59年度の4300人だが、現在(平成6年度以降)は3167人に減っている。その動き方はこうだ。

 「簡単にいえば、全国を3167の地域に分け、1人が約1万2000世帯を担当する。平成7年の国勢調査時のデータでは契約率は83%だから、約1万世帯が契約済み。そのまた83%が口座振替、3%が自分で金融機関やコンビニなどに払いにいく。それ以外の人から受信料を直接いただいて訪問領収証を渡し、契約をしていない世帯に新規契約をお願いするのが地域スタッフの仕事です。仕事は2か月で1サイクルになっていて、2か月に渡す領収証は1人平均800〜900枚ですね」
(NHK営業総局計画管理部・稲永新悟副部長)

 東京、大阪など大都市圏では、契約取次と受信料収納を分業(担当者が別々)にしているところもある。人口の出入りが激しく、共稼ぎ・単身者・若者・外国人世帯も多い都会では、訪問したとき住人に会える率(面接率)が極端に低下してしまい、両立は難しいからだ。

 ある地域スタッフはいう。
 「集金のウェイトが高いエリアだと1人の受け持ちは1500〜1600世帯くらい。これを2か月で回る。地域が広いからバイクは必需品。契約担当だと毎月の目標は、住所変更も含めて200〜300件かな。もちろん、無理に決まってる数字だけど」

 NHKの話では、彼らの平均年収は600万円程度だそうだが、現場では「月30〜40万円ならば上出来」という。地方など収納率が高い、あるいは口座振替率が高いエリアは、地域スタッフにとっては「おいしい」わけだが、そういう場所は契約1件あたりの単価を安く設定してバランスを取っている。固定給の部分は3割で、残り7割程度が出来高制といわれる。

 かつては、夜遅く帰宅する人を狙って契約を取る専門職もあり、「ふくろう部隊」と呼ばれた。いまは、夜10時以降の訪問は避ける、夜遅く訪ねるときは電話して約束を取りつけるなどの指導がなされている。もっとも現場では、夜12時までの仕事は当然との雰囲気。高齢化のせいもあるが、毎年800人が入れ替わる難しい仕事だ。

 それでも契約は、おいそれとは取れない。NHKによると、受信契約をせず受信料も払わない理由には「テレビを見ないから」「NHKの番組を見ないから」「払わない人がいるから、自分も払わない」などが多いという。

 3つめの理由をいわれたら、NHKでは「その人の名前を教えてほしい」と頼み、近所の不払い者とまとめて払ってもらう作戦を展開している。

 NHKの見積もりでは、「契約しない」「受信料を支払わない」とはっきり意思表示をしている人、つまり確信犯は、全国に41万人程度である。

NHKのいう
「受信契約率83%」はほんとうか?

 地域スタッフの苦労からもわかるように、現行の受信料制度の最大の問題は、払う人と払わない人か存在するということだ。

 NHKは、一般家庭では83%、事業所では80%が受信契約を結んでいると主張する。前者は平成7年(1995年)の国勢調査の際の調査、後者は平成4年(1992年)のNHKの独自調査による。国会にもこの数字が提出されている。

 ところが今回、筆者の周囲で三十代後半〜四十代前半の世帯持ち20人近く(東京区部在住)に聞いてみたら、受信料不払いの家庭が過半数を超えてしまった。二十代〜三十代前半の独身連中6人に聞いたら、全員が払っていないと答えた。「取りに釆ないから」という理由がほとんどだった。

 そりゃ手前《てめえ》の知人にタチの悪い連中が多いことを示すデータだ、といわれればそれまで。だが、電話代や水道光熱費は全員が支払っていることも考え合わせると、東京に住む二十〜四十代に「受信料は払わなくても済む」と思っている者が多いのは確かだろう。

 どうも主催者側発表の契約率80%以上というのは、にわかに信じ難い。

 簡単にシミュレーションしてみる。総務庁統計局によると、平成7年(1995年)の国勢調査時点で、全国の総世帯数は4411万(1000の位で四捨五入、以下同じ)。うち一般世帯4390万、施設等10万、残りが世帯種別不詳である。残りが世帯種別不詳である。「施設等」とは、病院、養護施設、学生寮などで、入居者が50人いようが100人いようが1棟《ひとむね/いっとう》を1世帯と数える。

 NHKの「放送受信規約」によれば、一般世帯はテレビが2台、3台とあっても(車載も含めて)1契約でよい。同じ世帯でも、長男が近所に下宿とか、別荘があるという場合は、別々の契約が必要。病院や寮などでは、テレビのある部屋ごとに1契約が必要である。

 まず、一般世帯4390万のうちテレビ普及世帯数だが、テレビ普及率は電子機械工業界などの調べでは99%を超えているから、丸めた数字を乗じて4346万となる。別荘うんぬんは無視する。施設等は、1か所あたり少なすぎるだろうが5部屋(テレビ5台)として、50万と見積もる。世帯不詳も無視。ここまでで、放送法上NHKと契約が必要な世帯数は4400万に近づいてしまう。

 次に事業所数は平成8年(1996年)10月1日現在で672万。こちらは受信機の設置場所(部屋や自動車単位)ごとに1契約が必要だ。ホテルや旅館や料理屋ではテレビのある部屋ごと。タクシーや長距離トラックのテレビは1台ずつ。工場の同一敷地内に多数の棟《むね》があり、そのそれぞれに部屋があって、テレビが何百台かある場合は、何百契約かが必要という決まりだ。

 百歩譲って、どんな巨大なホテルでもテレビは1台、何千人働いている工場でも1台、東京都庁でも1台と見積もろう。テレビを置いていない小規模な事業所も少なくないはずだが、それでも事業所に置かれ受信契約が必要なテレビの合計が672万台以下に収まるとは、まったく信じられない。

 ここまでで、受信契約が必要なテレビ台数は、世帯4396万と事業所672万を合わせて5068万となる。

 一方で、放送法に規定された受信料免除の施設・世帯がある。

 児童館など児童福祉施設、授産所など生活保護施設、リハビリセンターなど身体障害者更生援護施設、老人ホームなど社会福祉事業施設、刑期を終えた人のための更生保護事業施設、小中学校などが全額免除施設。(注2)

 生活保護世帯など生活困窮《こんきゅう》者、貧困な身体障害者、社会福祉事業施設入居者、重度の精神薄弱者、災害被災者(阪神・淡路大震災では半年間28万件が該当)などが全額免除世帯である。(注3)

 さらに、世帯主が視覚障害者、聴覚障害者、重度の肢体不自由者、重度の戦傷病者であれば、受信料が半額免除となる。(注4) (注5)

 NHKは、これら免除施設・世帯を140万契約(免除総額200億円)と算定している。これを先の5068万から引くと、4928万。現在のNHK受信契約数3525万件は、その72%に満たない。上のような控えめな見積もり(後からの注 繰り返すが、どんな巨大企業やホテル・旅館・病院でも1事業所テレビ1台と見なし、さらに別荘も、営業車の車載テレビも数えない見積もり!)でも、3割方は取りっぱぐれていることになる。

 テレビの国内出荷台数、耐用年数、1家庭内の台数などから考えると、事業所にあってNHKと契約が必要なテレビは、実際は2000〜3000万台以上の規模になるだろう。とすれば、受信契約率は7割どころか、5割を切っている可能性すら否定できないと思う。

NHK受信料は、
偉大なる「いいかげん」制度

 NHKは17%と申告し、控えめな見積もりでたぶん3割、ヘタすると5割以上も取りっぱぐれているかもしれない「受信科制度」とは、なんなのか。

 物やサービスを売るふつうの全社で、客の3割や5割から代金が回収できなければ、経営責任が問われよう。

 支払った客からも文句が来る。

 現在、NHKは3525万の顧客から5945億円のカネを集めている。1契約あたり年間1万6865円だ。NHKのいう契約率は83%だから、本来ならは4247万人(これが100%)から集めるはずだった。だが、4247万人からなら、1万4000円ずつ集めれば5945億円になる。年に2865円も割高ではないか、という話になる。

 同様の考え方をすれば、契約率が7割なら約43%割増の料金を、契約率が5割なら倍額料金を払わされているのと同じことになる。(注6)

 にもかかわらず、NHK全長が受信料問題で経営責任を問われたという話は聞かない。「お前んとこの料金は、2割高いじゃないか」と文句をいう視聴者の話もあまり開いたことがない。存在するはずのない白黒契約者72万が、それに近いのかもしれないが。

 NHKが受信料制度導入の際に参考にしたイギリスBBCでは、受信料を支払わない者を、毎年100人単位で刑務所に送り込んでいる。だが、NHKはそこまでやらない。地域スタッフは「見ないものは払わない」とか「いずれ、親父やせがれとも相談のうえで」とかいわれれば、帰るほかはない。

 NHK受信料制度とは、そんな、実にいいかげんで曖昧なシステムなのだ。

 この受信料制度を、NHKは次のように評価する。
 「受信料制度は、NHKという公共放送を支えるもっともふさわしい制度であると考えている。それは、公正で質の高い放送を可能とし、財政面での自立を保証する。そのことによって、NHKは公共放送の責任を果たすことができる」(NHK総合企画室[経営計画]三枝武・担当局長)

 海老沢勝二NHK会長もいう。
 「NHKは受信料で支えられています。払わなくても罰則規定がない世界に例のない制度で、受信料は、職員と委託集金の方々が一軒一軒回って、公共放送を支えるために払ってくださいと説得して集めてきたもの。NHKが質の高い豊かな番組を提供していることに対する信頼を示すものです」(1998年1月年頭挨拶)

 ただし、NHKは受信料制度に課題があることも認めている。「受信料は一種の公的な負担金、分担金であり、視聴者全員に、平等に、公平に負担していただきたい。そのためにさまざまな対応や対策を講じている」(三枝担当局長)というのである。

 最近は、この受信料制度をデジタル多チャンネル化の波が直撃している。100チャンネル規模のCS多チャンネルが実現し、アンテナとチューナーさえ設置すれば「あまねく日本全国において受信できる」有料放送が、続々と登場してきたのだ。

 また、政府の規制緩和小委員会は、NHKの衛星放送(2000年から始まるとされるBSデジタル放送)について、スクランブル方式による有料化を検討したらどうかと指摘した。

 これを受けて、NHKが1998年1月末に出した経営ビジョン「より豊かな公共放送のために」は次のように書く。

 「NHKは、(中略)受信料制度を基本にしつつ、スクランブル方式の活用などデジタル時代の新しい料金システムの可能性についても、公共放送の使命、視聴者の意向、技術面での開発状況、財政への影響などを考慮しながら、引き続き慎重に検討していきます」

 現行の受信料を分担金として理解しにくい若者が多くなってきたことも、NHKは認識している。

 50年たって理念も現実も変わらないほうが不思議だ、と冒頭に書いた。歴代NHK会長は「受信料制度堅持」というが、50年続いたNHKの受信料制度が、大きな曲がり角を迎えていることは確かなのだ。

いいかげんで曖昧な受信料システム
だからこそ、存続させるべき

 私たちは、公共放送NHKを、どうすべきだろうか。罰則規定も強制徴収規定もなく、実際に不公平が生じている、実にいいかげんで、曖昧な受信料制度を、どうすべきなのだろうか。

 とりあえずいえることは、この問題を当事者のNHKだけ、さらには郵政族や郵政官僚や規制緩和小委員会といった一部勢力だけの「内輪の議論」にしてはならないということである。

 そのうえで、筆者の見解を付け加えるとすれば、実にいいかげんで曖昧なNHKの受信料制度は、実にいいかげんで曖昧なシステムだからこそ、これを存続させるべきであると思う。

 受信料制度の「取りっぱぐれ」、つまりは不公平を取り除くための手っ取り早い方法は、罰則規定を設け、不払い者を減らすことである。しかし、それはNHKが限りなく「国営放送」に近づく道でしかない。国や政府や政治家がこの50年間なにをやってきたかを振り返れば、そんなもの――国営放送はいらないというほかはない。

 BSと地上波のデジタル化が終われぱ、スクランブル方式と受信料制度を併用して、不払い者の受信を不可能にし、不公平を取り除くことはできる。しかし、それはNHKが限りなく「商業放送」(従来型の民間放送ではなく、CSやBSの有料商業放送)に近づく道でしかない。CSでNHKチャンネルが2000円というのと同じだからだ。

 不公平でも、仕方がないから、いやいや受信料を払う。払ったからには、しっかり監視し、文句をつける。そんなのが私たちの公共放送ではないか。

 もっとも、控えめに見て7割程度という受信契約率を放っておいてよいとも思わない。とくに200万件に満たない事業所契約は少なすぎる。事業所は仕事をする場所だから見ている時間は少ないはず、とでも理屈をつけて割引料金を設定し、徴収率を引き上げる算段をしたほうがよいと思う。

脚注

注1) 営業総局は、受信契約の締結や受信料の収納以外に、ビル陰によるゴーストなど受信対応・対策や受信技術も担当している。 ▲もどる

注2) 児童福祉施設は5万、生活保護施設は2000、身体障害者構成援護施設は6000、社会福祉事業施設は7万、更生保護事業施設は1000、小中学校は63万件。 ▲もどる

注3) 生活困窮者は19万、貧困な身体障害者は8万、社会福祉事業施設入居者は1万、重度の精神薄弱者は5000件(いずれも全額免除の世帯数)、災害被災者は大雨などで毎年若干数。 ▲もどる

注4) 視覚・聴覚障害者は15万、重度の肢体不自由者は19万、重度の戦傷病者は2万。視覚障害者は全額免除のほうがよいと思うのだけれど。 ▲もどる

注5) このほか大使館・公使館や領事館など治外法権の施設と、放送を送出するテレビ局(NHKはもちろん民放全局)が免除。また、米軍関係は実質的に1円も徴収できていない。 ▲もどる

注6) 「契約率7割で43%割増」の算出方法。
3000万人*X円=6000億円……契約率70%の場合
(3000万/0.7)人*Y円=6000億円……契約率100%の場合
の2つの式から、X/Y=1/ 0.7
よって、(X−Y)/Y=X/Y−1=0.43 
つまり、何%割増かは、契約率によって決まり、3000万人や6000億円の数字とは関係ない。 ▲もどる

参考リンク

≪NHK関係≫

≪そのほか≫

≪坂本がコメントなどしたもの(の一部)、または当サイト≫

NHK不祥事と
「受信料不払い」(支払い拒否)拡大の経緯

――参考リンク付き時系列表(2004年07月〜)

 以下の「NHK不祥事と『受信料不払い』(支払い拒否)拡大の経緯」(時系列表)は、坂本の取材・資料に加え、NHKの報道・サイト、日放労の資料・サイトをはじめ、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、スポニチ、サンスポ、デイリースポーツ、日刊スポーツの報道・サイトなどを参考にして作成。なお、各紙が報道したNHK関係者の発言は、NHKサイトの記録などではカットされる場合が(しばしば)あります。ある項目の内容が、必ずしも参考リンク先のページに載っているわけではありませんので、ご注意ください。

2004 できごと(参考リンク)
7/20 7月22日発売「週刊文春」が、芸能番組不正事件を掲載することを受けて、NHK関根昭義・放送総局長が緊急記者会見。放送総局所属のチーフ・プロデューサーが番組構成料の名目でイベント企画会社に支払っていた制作費約1900万円の一部を私的流用のためキックバックさせていたことが明るみに。
7/21 日放労(日本放送労働組合。管理職以外の8500人が所属するNHKの組合)の長村中委員長が番組経費流用の不祥事について談話を発表。 日放労「番組経費流用の不祥事に対する日放労委員長談話」
7/22 NHK芸能番組のチーフプロデューサーによる番組費不正流用事件を報じた「週刊文春」が発売。記事タイトルは「衝撃の内部告発 NHK紅白プロデューサーが制作費8000万円を横領していた! みなさまの受信料で甘い汁」。 「週刊文春」2004年7月29日号
7/23 NHK海老沢勝二会長が謝罪会見。チーフプロデューサーの懲戒免職、上司、役員、会長の処分を発表。NHKトップトーク「職員不祥事についての会長会見の要旨」 NHK「視聴者のみなさまへ」
7/26 NHKが「業務総点検実施本部」などの設置を発表。 NHK「不正再発防止のために」
7/28 朝日新聞が、NHK「宇宙新時代」プロジェクトのプロデューサーによるカラ出張問題を報道。
8/4 「週刊新潮」が、NHKソウル支局長が、外部プロダクションへの毎月の支払いに金額を上乗せ請求していた不正経理処理問題を報道。NHKが問題を把握した際(1997年)には、口頭による厳重注意だけで済ませていた。
8/25 NHK臨時経営委員会が開かれる(通常8月は夏休みで開かれず)。NHK業務点検・経理適正化委員会の設置が決まる。 経営委員会委員一覧 第977回経営委員会議事録
9/2 NHK海老沢勝二会長が定例会見で、平成9〜13年に職員4人が総額およそ970万円の公金着服・私的流用で懲戒免職処分になっていたと公表。ただし、「免職処分となり全額弁済。社会的制裁を受け“時の経過”もへている。個人を特定する情報などの発表はプライバシー保護の観点から差し控えさせていただく」とした。9月9日に予定されている国会参考人招致については「生中継しないのは『編集権』の問題」と説明。 NHKトップトーク「今回の不祥事について/受信料徴収への影響について」
9/6 日放労の中央執行委員会が、9月9日の衆議院・総務委員会の模様を放送で中継することを会長宛文書で申し入れ。 日放労「申し入れ」
9/7 NHK経営委員会が開かれ、NHKは「不正支出問題等に関する調査報告書」を報告。その後、NHK海老沢勝二会長・関根昭義・放送総局長が記者会見し、同報告の内容、「コンプライアンス(法令遵守)推進委員会」とその事務局となる「推進室」を9月7日付けで設置したこと、役員らの追加処分などを発表。 第978回経営委員会議事録 「須田経営委員長談話」 NHKトップトーク「番組制作費の不正支出問題等に関する記者会見要旨」 NHK「『芸能番組制作費不正支出問題』等に関する調査と適正化の取り組みについて」
9/9 衆議院・総務委員会(閉会中審査)にNHK海老沢勝二会長ほかが参考人招致される。NHK側の参考人は、日本放送協会会長・海老沢勝二、日本放送協会専務理事・関根昭義、日本放送協会理事・宮下宣裕、同・和崎信哉、同・野島直樹、同・中山壮介、同・出田幸彦。この模様は東京MXテレビ、神奈川TVKテレビ、BS日テレが生中継(ただし、院内固定カメラ映像で、終了直前で尻切れトンボに。BS日テレの放送時間は未確認)したが、NHKは当日のニュースで報じただけで中継せず。9日午後から10日にかけて視聴者から「なぜ中継しなかったのか」という苦情が相次ぐ。 国会会議録その1 国会会議録その2
↑その1は全文です。その2は[簡単検索]を選び、[期間指定]を平成16年09月09日から平成16年09月09日、[会議指定]を院名:衆議院、会議名:総務委員会として[検索]ボタンを押してください。[発言者指定]や[検索語指定]で絞り込むこともできます。
9/11 NHKが、一連の不正事件に関する特別番組『芸能番組制作費不正支出問題等に関する調査と適正化』を午後2時から1時間放送。2日前の国会参考人招致については、都合のよい箇所をダイジェストでわかりやすく伝えた。
9/30 「NHK倫理・行動憲章」制定。 NHK「NHK倫理・行動憲章」「行動指針」
10/7 NHK海老沢勝二会長・笠井鉄夫副会長が定例会見で、9月末までの受信料支払い拒否・保留が約3万1000件に上ったと発表。会長は自らの進退について「辞める気はまったくない」と明言。自らへの批判については「いろいろな意見があり、深く受け止めている。反省し一から出直す考えだ」と述べた。不払い表明世帯に対しては今後1か月間、幹部約1000人を動員して各戸を訪問し理解を求めていくとした。 NHKトップトーク「会長会見」
10/13 地域スタッフの一部で作る全日本放送受信料労働組合(全受労、約200人)がNHK海老沢勝二会長の辞任を要求する文書を提出。なおNHKの地域スタッフは全国で約5700人。その組織には全受労のほか日本放送協会集金労働組合(N集労、約3100人)がある。NHKと委託契約を結んでいる地域スタッフは、契約上は個人事業主。
10/19 NHK経営委員会が開かれ、須田寛・委員長が経営委員と監事のみで開いた勉強会の意見を紹介。経営委員会がより積極的な問題提起や提案を行うべきではないか(これまではNHK執行部からの提案・付議を受けて審議していた、つまり執行部が話してもらいたいことだけを話しあっていた)、議事録の内容は執行部との意見や質疑のやりとりがわかるように詳しく掲載してはどうか、などの意見があった。 第981回経営委員会議事録
10/26 日放労が闘争方針案「『04秋』わたしたちの決断」(要求案)を提起。 日放労「『04秋』わたしたちの決断」
10/27 NHKが、放送技術局制作技術センターの音響デザイン担当職員が約512万円を不正請求し着服していたと発表。懲戒免職処分に。
11/4 NHK海老沢勝二会長の定例会見。日放労が会長辞任要求の方針を固めたことに対しては「何も聞いておりません」と一蹴し、要求書が提出された場合の対応も「仮定の質問には答えません」。さらに(組合がトップの辞任要求をするのは)「私も長くこの商売しておりますが、聞いたことがない」、(届いているのは)「どちらかといえば、頑張れという声援ばかり」と強気の姿勢に終始。6〜7日の中越地震関連24時間番組が日放労フォーラムと重なり「組合つぶし」ではとの見方もある件では、「何の関係もないでしょ。なんで、そういう勘繰りするんですか」と発言。 NHKトップトーク「会長会見」
11/7 日放労がNIPPOROフォーラム「信頼を回復するために〜公共放送NHKへの提言〜」を開催。パネリストは笹森清(連合会長)、田原総一朗(ジャーナリスト)、服部孝章(立教大教授)、森達也(映画監督)、長村中(日放労委員長)。経営陣への批判が噴出し。田原総一朗は「海老沢会長は金正日といい勝負」(会長参考人招致の生中継なしを)「傲慢で幼稚」(24時間テレビを)「職員がシンポに来られないようにした言論弾圧」などと述べ、服部孝章は「NHK経営委員会は御用機関」と発言。 日放労の活動報告 岩本太郎によるレポート(当サイト。長い!!)
11/9 日放労が定期中央委員会を開き、NHK海老沢勝二会長に一連の不祥事とその後の対応などの責任を取って辞任を求める要求案を満場一致で可決。記者会見で岡本直美書記長は「NHK最大の危機」と発言。NHK経営委員会が開かれる。 第982回経営委員会議事録
11/10 日放労がNHK海老沢勝二会長の辞任要求案を盛り込んだ要求書をNHKの経営側に提出、受理される。
11/17 NHKは、公金着服で懲戒免職処分となった放送技術局制作センターの音響デザイン担当元職員が、不祥事発覚時の倍額以上の約1120万円を着服していたと発表。
11/17〜19 10日から始まったNHK労使間交渉が中央交渉に移るが、経営側は議論に応じず。日放労は、会長が出席する中央経営協議会を求めるも、経営側は応じられないと回答し、交渉は決裂。日放労は19日をもって秋の闘争にいったん区切りをつけることを決定。 日放労「秋季交渉に区切りをつける組合ニュースより」
11/24 NHKは大晦日恒例「第55回NHK紅白歌合戦」の出場歌手を発表。不祥事の影響が心配されたところ、昨年大トリを務めたSMAPが辞退する大波乱に。NHK経営委員会が開かれる。 第983回経営委員会議事録
11/29 日放労がホームページを開設。 日放労ホームページ
12/2 日放労ホームページの「主な質問と答え」に、「Q.NHKの会長はどうして責任を取って辞めないのですか?」「私たちにも、わかりません。」が掲載され、一部でウケる。 日放労「主な質問と答え」の2問目
12/2 NHK海老沢勝二会長が定例会見で、不祥事を理由に視聴者が受信料支払いを拒否・留保した件数が、11月末時点で約11万3000件に上ったことを明らかにした。NHKの労組(8500人)である日放労が出した辞任要求には、「直接的な辞任要求とは受け取って止めていない」。笠井鉄夫副会長は、件数が総受信契約数の「0・3%くらい」で、金額では「10億円程度。NHKの予算規模からは吸収できる範囲内」と強調。10月から1か月間、管理職が謝罪と説明のため支払い拒否世帯1万1000世帯を訪問したところ、面接できた6700世帯中、支払いを再開したのは7%程度とも説明。 NHKトップトーク「不祥事関連について」
12/4 日放労がフォーラム第2弾を開催。司会は田原総一朗、パネリストは日和佐信子(雪印乳業社外重役)、柳川喜郎(岐阜県御嵩町町長)、坂本衛(ジャーナリスト)。日和佐信子は「雪印再生の鍵はトップ交代。取締役は2回総とっかえした」、柳川喜郎は「NHK職員は『沈黙の共謀』をしてはダメだ。海老沢会長は清く辞めるべき」、坂本衛は「日放労はNHK労組と改名して再出発したら? 政権与党よりの偏向報道、「安否情報」のメディア・マスターベーション、地上デジタルの暴走、取りやすいところからしか取らず高すぎる設定の受信料なども問題。受信料を値下げして視聴者を味方につけるべき」と発言。 当サイト「日録メモ風の更新情報」
12/4 警視庁捜査二課が、イベント企画会社の架空の仕事に対する支払いを装いNHKから現金をだまし取ったとして、詐欺容疑で放送総局の元チーフ・プロデューサー(48)ら2人を逮捕
12/4 制作費詐取事件による元NHKプロデューサーらの逮捕を受けて、NHKが緊急会見。海老沢勝二会長は欠席で、関根昭義・放送総局長は「私では役不足ですか? なんで会長出てこないといかんの?」と発言。NHKは夜のニュース番組で事件を報じ、午後7時27分から海老沢勝二会長が登場して約2分半、謝罪と再発防止への決意を述べた。事前のVTR収録だったため「原稿の棒読み」「メディア企業のトップがメディアの質問を許さないのはおかしい」と批判が相次ぐ。 NHK「視聴者のみなさまへ」
12/6 NHK東京コールセンターに2000本近い電話がかかり、そのほとんどが不祥事への抗議と受信料不払い。
12/7 NHK経営委員会が開かれ、委員長の須田寛・JR東海相談役が、一連の不祥事についてNHK海老沢勝二会長に「視聴者への説明に格別の配慮を」と注文。ただし、海老沢会長の進退問題は取り上げられず。 第984回経営委員会議事録
12/8 NHK紅白歌合戦の説明会が開かれ、担当部長が「今年の予算は例年の8割以下」と、一連の不祥事の影響で質素な紅白となることを示唆。
12/8 広島東署は8日、暴行と暴力行為法違反の疑いで、広島県府中町の会社員(47)を逮捕。8日午後4時40分ごろ、NHK受信料の集金のため自宅に来た委託職員の男性(43)に腹を立て、殴ったりけったりした上、「帰らんと殺すぞ」などと言い、かまを持って追いかけ回した疑い。
12/10 NHKは、一連の不祥事への視聴者の批判に応える特集番組「NHKに言いたい」を19日午後9時から、総合放送で約2時間生放送すると発表。 NHK「コンプライアンス(法令遵守)の取り組みについて」
12/14 朝日新聞の報道によると、NHKの一連の不祥事について、来年1月の通常国会召集前に衆院総務委員会の閉会中審査が行われる見通しに。衆院総務委員会の民主党理事は「逮捕者まで出ているのに、国会が何も議論しないのでは国民に怒られる」、自民党国対幹部も「閉会中審査をやらざるをえない」と語った。審査は通常国会召集直前の1月20日を軸に調整。
12/14 日放労は、19日の特番「NHKに言いたい」でNHK海老沢勝二会長が辞任表明するべきとして、経営側に申し入れ。岡本直美書記長による。
12/19 NHKは午後9時〜11時15分、特集番組「NHKに言いたい」を放送。討論司会は田中直毅(21世紀政策研究所理事長)、出演者は北城恪太郎(経済同友会代表幹事)、今野勉(テレビマンユニオン副会長)、笹森清(連合会長)、鳥越俊太郎(ジャーナリスト)、日和佐信子(雪印乳業社外取締役)、堀部政男(NHK経営委員・中央大学教授)、海老沢勝二(NHK会長)、番組進行は畠山智之アナウンサー。NHK海老沢勝二会長は辞任しないことだけを具体的に明言したが、あとは空虚な謝罪とあいまいな抽象論・精神論に終始。財界代表が「視聴者の満足度を数値データで把握すべき」と繰り返し提言しても、「前向きに検討」とすらいわず。出席者からは早期辞任を促す強い批判が続出。番組終了までに電話、ファクス、メールで寄せられた意見は2万7000件以上。スタジオに電話100台、ファクシミリ40台を設置し、135人の職員で対応。一部の意見は字幕で流したり読み上げるなど番組中に紹介した。なお、ビデオリサーチ社の調べでは、同番組の視聴率は関東地区で6・5%と低調だった。 NHK「特集番組『NHKに言いたい』 たくさんのご意見をありがとうございました」 当サイト「日録メモ風の更新情報」の評価
12/20 小泉純一郎首相は、NHKの19日番組に関して首相官邸で記者団の質問に答え、「国民の信頼を回復するために努力することが必要だ」と述べた。この月曜日からしばらく、各地の銀行にNHK受信料支払い口座の解約を求める人が殺到。
12/21 NHK経営委員会が開かれ、任期満了で退任した須田寛前委員長に代わり、新委員長に石原邦夫・東京海上日動火災保険社長、委員長職務代行者に堀部政男・中央大学大学院教授を選出。新委員長は記者会見で、会長の進退について「会長自身が厳しい改革をするということを踏まえ、別途考える」、経営委員会のあり方について「幅広く議論する必要がある」と述べた。 NHK「経営委員長記者会見要旨」 NHK「経営委員会委員一覧」
12/26 北海道の芦別市議会が、各会派の議員控室に設置してあるテレビ7台を来年3月末までに撤去することを決めた。芦別市は財政難にあえぎ、職員給料の3%削減、職員定数の削減、福祉バスの有料化などの財政再建策を打ち出している。その市が負担する年間のNHK受信料10万5000円を節約するため。議員の出席日数は年間60〜70日で、控室でテレビを見る時間は少ないという。
12/27 NHKが、職員不祥事で2件の懲戒処分を発表。NHKによると、2001年7月に受信料集金中の地域スタッフが交通事故に遭い、NHKから治療給付金185万円が支払われた。地域スタッフはその後、別の保険金が支払われたとして110万円を返金のため職員(副部長)に渡したが、職員は処理を忘れ、昨夏に気づいた。また職員は先月、110万円のうち90万円を私的に使い、翌日に返したと話しているという。NHKは「職員は『横領するつもりはなかった』と説明しているが、公金取り扱いがずさん」として27日付で停職3か月、上司3人もけん責や訓告処分とした。NHK経営広報部は「職員の勤務先や年齢などの個人情報は明らかにできない」とした。また、熊本放送局の男性記者が11月26日、熊本市内の喫茶店で女性の体を触るなどし、準強制わいせつなどの疑いで逮捕された。記者は同容疑では不起訴となったが、NHKは28日付で停職1か月にし、記者は依願退職を申し出ているため同日付で受理し、1月4日に退職処分とする。熊本放送局長ら上司3人は21日付でけん責処分とした。 NHK「職員の処分について」
12/29 NHK経営委員会の新委員長、石原邦夫・東京海上日動火災保険社長が、共同通信のインタビューに応じ、受信料支払い拒否・保留が約11万3000件(11月末現在)に上ったことについて「深刻にとらえなければならない数字だ」と強調。
12/29 NHK紅白歌合戦のリハーサルが東京・渋谷のNHKホールでスタート。例年リハーサルは原則公開で、出演者の意向などで部分的に写真撮影がNGとなる程度だったが、今年は取材規制が厳しく報道陣から不満の声も。夜ニュースでは取材NGだった松平健「マツケンサンバ」の音合わせ風景が紹介されたため、自局ニュースで映像を独占するためと判明。歌手の和田アキ子は、「トリの発表もきょうでしょ。後手後手だよね。なんでそんなにシークレットなの? 秘密主義の意味がわかんない」「私も謝罪番組見ましたけど、潔さも必要ですよね。名前は言ってないですよ……」「こういう時だからこそ、もっと明るく楽しくできないか。覇気がない。祭りなら祭りとしてやらなきゃ」などと、NHK会長の進退に触れる大胆な発言。
12/31 NHK海老沢勝二会長は午後、東京・渋谷のNHKホールで紅白歌合戦のリハーサルを見た後、記者団に「不祥事もあって、真摯《しんし》に取り組むスタッフ1人ひとりの気持ちが前向きに出ている。史上最高の紅白になる」と話した。視聴率については「多くの人に見てほしいが、何%というのはない」と具体的な数字には言及せず。この日のNHK定時ニュースは、昼も夜もニュース項目の中に「紅白のリハーサル風景」を入れ、他の報道を削ってなりふり構わず宣伝。
12/31 NHKは恒例の紅白歌合戦を午後7時30分〜11時45分に放送。白組応援で「第55回紅白歌合戦。紅白に分かれて頑張りますって、いうじゃな〜い。でも、紅組が勝とうが白組が勝とうが興味ありませんから! 残念!! 『その時、格闘技の結果に夢中』斬り!」と「ギター侍」波田陽区。
2005 できごと(参考リンク)
1/2 大みそかのNHK紅白歌合戦の平均視聴率がビデオリサーチから発表され、史上最低の39.3%(関東地区。関西地区は38.6%)とわかった。なお、過去最低だった2003年は45.9%。民放は、TBS「K-1 Dynamite!!」が紅白の裏番組としては史上最高の20.1%をマーク、フジ「PRIDE男祭り」も18.3%(第2部)と健闘。 ビデオリサーチ「NHK総合『紅白歌合戦』の視聴率」 ビデオリサーチ「2004年 年間高視聴率番組30(関東地区)」
1/4 2004年大みそかに放送されたNHK紅白歌合戦の瞬間最高視聴率が47.1%(関東地区)だったことが、ビデオリサーチの調べでわかった。記録した場面は大トリの小林幸子が歌い終わり、涙を流した直後。なお、一昨年の最高視聴率はSMAPの57.1%。
1/4 NHK海老沢勝二会長は、東京・渋谷のNHKホールに職員を集め、恒例の年頭あいさつを約1時間にわたり行った。進退問題については「改革の道筋がついた段階で判断」と強調。新しい予算案については「これまでになく厳しい編成になる。収支均衡を堅持するが、収入が減れば支出を抑えなければならない。質を落とさないことが大前提だが、番組経費も削減せざるを得ない」などと述べた。なお、この挨拶は「職員向け」で、報道陣には非公開。 NHK海老沢勝二会長「年頭挨拶」
1/6 NHK経営委員会は、NHK執行部から独立した専属の事務局を新設したと発表。事務局は委員会直属でNHK内に設置。専任は4人で、NHK職員2人が事務局長と担当部長、東京海上日動火災保険とJR四国からの出向者各1人が担当部長と副部長に就任するほか、事務スタッフは1人。
1/6 NHK海老沢勝二会長は定例会見で、「平成17年度の事業計画と予算編成をきちんとさせた段階で、身の処し方を決めたい」と、今年度予算が国会で承認された後に辞任することを事実上表明。時期については「いつになるかは皆さんの解釈。作業段階で申し上げるわけにはいかない。どこの社長でも時期を言ったらそれで終わり」と明言しなかったが、来年7月の任期満了を待たず、3月末までに辞任する見込み。経営陣全体の責任については「私(だけ)です」とした。12月の特集番組「NHKに言いたい」については「こちらの意が十分には伝わらなかったと思う。適当な時期に改めて番組を作るつもりだ」、受信料不払いについては「出演した後も、支払い拒否・保留が増えている。深刻に受け止めている」、職員の賃金カットについては「賃金をカットせざるを得ない。どこまでカットするかは、もう少し、収入を見てから」、紅白の低視聴率については「史上最高のものになると申し上げたが、今でもそう思っている」などと語った。 NHKトップトーク「新年にあたっての抱負/「紅白歌合戦」の感想/不祥事関連」
1/7 NHK元職員の番組制作費詐取事件で、警視庁捜査二課は、詐欺の疑いで同局の元チーフプロデューサー(懲戒免職、詐欺罪で起訴)、イベント企画会社社長を再逮捕。2000年11月から2001年3月にかけて「紅白歌合戦」「BSジュニアのど自慢」などの番組構成委託料の名目で、同局から計約740万円をだまし取った疑い。うち四百数十万円が同容疑者にキックバックされ、知人女性との海外旅行などに使われたとみられる。立件額は起訴された約270万円と合わせて1000万円超。1997〜2001年にNHKから企画会社社長に振り込まれた総額は4900万円に上るとみられる。
1/7 NHK経営委員会の石原邦夫委員長(東京海上日動火災保険社長)は、NHK海老沢勝二会長の進退について「執行部から予算審議案、経営改善計画が出されてから、経営委としても検討していきたい」と語った。民主党の川端達夫幹事長は記者会見で、「不信を招いたNHKがどうあるべきかの中に、会長の進退問題も含まれる」との認識を示した。
1/11〜12 NHK経営委員会が開催予定。

NHK受信契約率の実態

――札幌市では事業所を無視しても「契約率が5割台」である。
もちろん事業所を考えればなお低く、「収納率」はさらに低い。

公表された数値に基づいて
北海道札幌市のNHK受信契約率を計算すると……

 NHKは、受信料を取りやすいところからしか取っておらず、その契約率は7〜6割以下である。沖縄、大阪、東京などでは契約率4〜3割以下の地域もあると思われる。

 これについては、6年以上前に執筆したGALAC「NHKはだれのもの」で「受信契約率は7割どころか、5割を切っている可能性すら否定できないと思う」と書いた。この記事はNHK総合企画室[経営計画]担当局長に取材しているが、NHK広報からとくに抗議もなかった(広報担当者は困った顔をしていたが、受信料制度は存続させるべきとの結論に、「仕方ないか」という口振りだった)。「大都市では4〜3割の地域も」という推定の根拠は、冒頭の「NHK受信料問題とは? ――いまNHKが最大の危機を迎えている理由(2004年12月) NHK受信料の問題―【1】」で書いた通りである。

 論証は以上で十分だと思うが、念のため、NHKその他の公的機関が公表した数値に基づいて計算しても、大都市の受信契約率は5割台になるという実例を示しておこう。

 北海道の札幌市は毎年「札幌市統計書」を公表しており、その平成15年版「教育及び文化」の項に、「テレビジョンの受信状況」というデータがある。これは、NHKが札幌市に提供した受信契約件数である。インターネットで入手できるデータを以下に示す。なお、もとのデータは年度ごとに年度末現在の数字を掲げているが、わかりやすく西暦年月末の表示に改める。

札幌市のテレビジョンの受信状況
年月 放送受信契約数 (受信契約数の
うち衛星契約数)
ケーブルテレビ
加入者件数
(うちインターネット
加入者件数)
1998年3月末464,795(102,141)22,288(―)
1999年3月末465,617(109,448)26,685(―)
2000年3月末462,323(114,163)25,979(―)
2001年3月末467,313(119,689)28,441(151)
2002年3月末475,999(128,016)47,987(2,169)
2003年3月末478,859(134,278)69,200(11,700)

注)衛星契約は、衛星カラー契約、衛星普通契約、特別契約の総称である。ケーブルテレビ加入者件数は、ホームターミナル設置台数である。 <資料>日本放送協会、ジェイコム札幌(株)

 同じ「札幌市統計書」に「人口」の項があり、このなかに「区別世帯数・人口の推移」というデータがある。直近7年間の全市(札幌市全体)の世帯数を以下に示す。なお、もとのデータは平成の年を掲げて「各年10月1日現在」と注記しているが、わかりやすく西暦年月日の表示に改める。

札幌市の世帯数の推移
年月日 世帯数
1997年10月1日747,028
1998年10月1日758,654
1999年10月1日769,257
2000年10月1日781,948
2001年10月1日796,622
2002年10月1日812,610
2003年10月1日830,040

注) <資料>札幌市企画部企画調査課

 北海道札幌市のNHK放送受信契約件数と、札幌市の世帯数がわかるのだから、割り算をすれば札幌市におけるNHK受信契約率がわかる。ただし、事業所を無視した「世帯だけ」の契約率であることに注意してほしい。受信契約件数は各年3月31日現在のデータ、世帯数は各年10月1日現在のデータとズレがあるから、各年度末の受信契約数を、その時点における最新データである前年10月の世帯数で割り、パーセンテージを求めて以下に掲げよう。この数字は逓減傾向にあり、明らかに60%を割り込んでいる。

札幌市におけるNHK受信契約率
年月 放送受信契約数(a) 前年10月1日時点の
世帯数(b)
事業所を無視した
受信契約率(a/b*100)
1998年3月末464,795747,02862.2%
1999年3月末465,617758,65461.4%
2000年3月末462,323769,25760.1%
2001年3月末467,313781,94859.8%
2002年3月末475,999796,62259.8%
2003年3月末478,859812,61059.0%

注)札幌市統計書のデータから坂本が作成。%は小数点以下第2位を四捨五入(以下同じ)。

事業所を無視すれば、契約率は6割以下
事業所平均2契約なら、契約率は5割前後

 ところで、NHKの放送受信料は、放送法の規定によれば事業所からも徴収しなければならない。NHKの放送受信規約に従えば、事業所の受信料は「テレビがおいてある部屋の数」と等しい件数を徴収する必要がある。同じ「札幌市統計書」に「事業所」の項があり、このなかの「産業(大分類)別事業所数及び従業員数の推移」というデータから、事業所の数はわかる。しかし、部屋数やテレビ台数については統計が存在しない。

 そこで、ここでは「1事業所につき平均2契約」と仮定する(現実には、1事業所につき平均1契約かもしれないし、平均3契約かもしれないから、あくまで参考データとお考えいただきたい)。この事業所契約数(事業所数の2倍)と世帯数を加えた数字を、札幌市でNHKが受信料を徴収すべき件数と推定して、その場合の契約率を算出してみる。

 この結果、2002年3月末現在の推定では、北海道札幌市におけるNHK受信契約率はおよそ50%となる(現実には、この数字は、48%かもしれないし53%かもしれない)。東京、大阪などの大都市圏や沖縄の受信契約率が、この数字を割り込み、5割を切っていることは間違いないだろう。

札幌市のNHK受信契約率の、より妥当な推定値(2002年3月末)
2002年3月末の
放送受信契約数(a)
2001年10月1日の
世帯数(b)
2001年10月1日の
事業所数(c)
事業所を無視した
受信契約率(a/b*100)
事業所平均2契約と
仮定した受信契約率
(a/(b+c*2)*100)
475,999796,62277,60559.8%50.0%

注)札幌市統計書のデータから坂本が作成。事業所数は2001年の数字が最新である。

 なお、以上の計算では受信料減免世帯を数えていないではないか、と指摘する方もあるだろう。同じ「札幌市統計書」の「社会福祉」の項に「生活保護状況」のデータがあり、札幌市で生活扶助(いわゆる生活保護)を受けている人の数は4万人程度と見られる。だが、これだけを数えても、聴覚障害者割引が抜けているというような話になってしまう。

 そこで、日本の総人口(2004年8月1日の確定値1億2761万人)に対して、NHKの発表している受信料免除件数(平成16年度末見込み)169万2000件が発生するならば、札幌市の人口(2003年10月1日の推計値1,859,035人)に対しては、どの程度の受信料免除件数が発生するかを計算してみる。するとおよそ2万4700件。上の表の(b+c*2)を、(b+c*2-24700)と置き換えて計算すれば、受信料減免世帯を勘定に入れた札幌のNHK受信契約率はおよそ51.5%となる。受信料減免世帯を計算に入れても、受信契約率がほぼ5割であることには、変わりがない。

 これまでNHKは予算を審議する国会総務委員会で、受信契約率は8割程度と説明してきた。しかし今回は、そんないい加減な数字では、済まされないだろうと思われる。総務委員がこのページを読んでいるからである。

 ところで、Googleに「テレビ 受信契約数」「放送 受信契約数」と入力して検索すると、多くの自治体で地元のNHK放送局から受信契約数データの提供を受け、自治体ごとの統計情報の一つとして公表していることがわかる。その統計情報では世帯数や事業所数を公表しているのが普通だから、計算さえ厭《いと》わなければ、そこそこ正確な受信契約率を見積もることができる。このページでは札幌市を例に取り上げたが、多くの自治体で同じことが可能なのである。

参考資料:「北海道新聞」2002年6月27日付夕刊の関連記事

 実は札幌市は、以上のようなNHK受信契約率を、かつて発表統計に含めていた。NHKからの「抗議」を受け、パーセンテージを計算して発表することはやめたようである。以下に北海道新聞の関連記事を掲げておく。この記事の存在は「素晴らしき世界」サイトで知り、引用もさせていただいた(次に図書館に行くとき記事コピーを入手予定)。

 なお、記事中にある札幌市が出していた数値は、計算に使った数字が違うため、坂本の試算数値とは微妙に異なっている。記事の「NHKの『公式見解』よりも、市の数字の方が『より実態に近いのでは』との指摘」は正しく、NHK札幌放送局のいう「札幌市のデータは受信料を払っていない割合が、四割もいるとの誤解」は、別に誤解ではない。それは妥当な認識というべきである。札幌市が出したのは事業所を無視したデータだから、正確にいえば、「受信料を払っていない割合が、確実に四割を超える」わけだ。

受信料支払い〜札幌市の統計では6割
NHK「誤解与える」と抗議

 札幌市内でNHKの受信料を支払っている家庭は六割――。札幌市が今月発行した二〇〇一年版市統計書の中で、そう受け取れるデータを掲載、NHK札幌放送局が「誤解を与えかねない」と、同市に抗議していたことが二十七日分かった。NHKは全国ベースの世帯契約率について「八割以上」としており、市がはじいた数字との差が極めて大きいためだ。

 抗議を受け、同市は来年度の統計書からこのデータを削除する方針を決めたが、NHKの「公式見解」よりも、市の数字の方が「より実態に近いのでは」との指摘もある。

 問題のデータは「テレビジョンの受信状況」。NHKが市側に提供した市内の受信契約数と、国勢調査ベースの世帯数を一つの表にまとめ、受信契約数を世帯数で割った数字を「普及率」として記載している。

 それによると、二〇〇〇年度の市内の受信契約数は四十六万七千三百十三件。これを市内七十八万三千六百五十一世帯で割った「普及率」は59・6%となった。

 札幌市の「普及率」算出は一九五〇年代にスタート。かつては「文化のバロメータ」といわれたテレビ普及状況を知る手段だった。だが、ほぼ全世帯に普及した現在は、市の出した「普及率」が「受信契約率」と近い数字であると類推できる。

 これに気づいたNHK札幌放送局は「全国ベースの契約率は二〇〇〇年度で82%あり、札幌市のデータは受信料を払っていない割合が、四割もいるとの誤解を与える」などとして、市側に厳重抗議。市は来年度からこのデータを統計書に掲載しないことを伝えた。

 「受信契約率」も札幌市の「普及率」と同様に、受信契約数を国勢調査の世帯数で割って算出するが、同放送局は「国勢調査の世帯数から、生活保護などの受信料支払免除世帯は除いて計算する。さらに事業所などの法人契約もあり、算出法が複雑なため、都道府県や市区町村単位の数字は把握していない」と説明する。

 これに対し、放送評論家大森幸男さんは「NHKの受信契約率は地域ごとではかなりバラつきがある。北海道には強い民放があるのに加え、札幌のような都市では独身者や単身赴任の世帯も多く、受信契約が思うように伸びない実態がある。それだけに、NHKは公表とかけ離れた数字が出ることに神経質にならざるを得ないのだろう」と指摘している。(「北海道新聞」2002年6月27日付夕刊)