更新日: 2003/10/01
日曜日。
ひさびさに遠出してみるか、ということで渋谷方面へ。
ちょうど、神宮球場で「東京六大学野球」というものをやっていた。
早稲田、慶応、明治、法政、立教、東大の6大学が競い合っているリーグだ。
ちなみに「早慶戦」というのも六大学野球の試合のひとつ。
その六大学野球というものは、一般席と学生席とに分かれる。
一般席は、普通の客が座るところ。
学生席は、甲子園でいうアルプス席みたいな所で、料金は安めになっているが、応援を
半ば強制される。
私が大学時代に在籍していたサークル(慶応鉄研)には、なぜか六大学野球のファンが
多く、いつ行っても必ず応援席に誰かがいる。
自分も球場に行けば、現役の連中にひさびさに会えるかもしれない。
この日の第1試合は、慶応×東大、の試合。
大学の名前だけを見ると、いかにも圧倒されそうなカードだ。
実際は最下位争いなのだが。
これを見ることにした。
とはいうものの、出ている選手の名前など、ほとんど知らない。
球場の前まで歩いて、サークル内の六大学フリークな方々に一応電話をかけてみる。
誰かが来てたら、その人と一緒に見ようと思った。
一人目。「今日は忙しくて行けない」とのこと。残念。
二人目。「いま球場にいます。」
居ました居ました!さすが六大学好きが多いサークルだ。
この人と一緒に見ることにした。
「これから東大の応援席に入る所なんですけど・・・」
お前それでも慶応の学生かよ。
「すみませんね、愛校心がなくて・・」とは彼の弁。
まさにその通りだ。
まあ自分としてはどうでもいいのだけども。どうせ慶応からカープに入る選手はいない
だろうし。
かくして、東大の応援席に連行されることになった。
球場の中に入ってさらに驚いたことには、
サークルの人は、全員東大の応援席にいた
のだ。
慶応の応援席に行った人は誰もいないということだ。
なんなんだこの集団は。
六大学野球は6チームあるけれど、東大だけが圧倒的に弱い。
東大にはスポーツ推薦入学の制度がなく、野球部であろうとあの超難関の入学試験を
受けないと入れないからだ。
なので、ほとんどのシーズンで「全敗」して終わる。
当然といえば当然だ。
だから、そんな東大が勝ちでもすると、東大応援席は大変なことになるのだそうだ。
そんな東大応援席には、本物の東大生はほとんどいないらしい。
他大学の学生が大半なのだそうだ。
東大生なのは応援団の団員だけ、かもしれない。
さて試合のほうであるが、これが落ち着いて見られない。
黙って見ていると応援団が寄ってきて、「さあ今日は勝ちますよー!」などと言って
我々を鼓舞しに来る。
自軍が守備についている時でも、だ。
これは、どの大学の応援席でも同じことなので仕方がない。
仕方なく、私も先発投手の名前を叫ぶ。
このときは「松家(まつか)」という選手が先発投手だったので、「松家〜〜〜」と
何度も叫んだ。
もちろん、顔も名前も、その存在すらも私は知らなかった。
全然知らない選手に声援を飛ばすというのも、けっこう面白いものだ。
まあ1回に4点くらい取られて終わりだろ、と心の中で思っていたが、この投手は
意外にもできがよく慶応を4回まで、なんと0点に抑えた。
東大の応援席は、普通とはちょっと違う。
あまりに負けまくっているから、独特の応援方法があったりする。
「あと一人! あとひっとり!」
という声援も、その一つ。
この声援自体は、いろんなところで耳にする。
優勝が決まる直前とか、ゲームセットまであと一人のとき、勝ってるチームが使うものだ。
ところが、東大の場合は、
各イニングの2アウトになった時
に、いちいち使うのだ。
それほど、アウトひとつ取るのに苦労するチームなんだ、ということが痛いほど分かる。
捕手(キャッチャー)も、また情けなかった。
慶応がヒットで1塁に出ると必ず盗塁されるのだ。
ピッチャーもよく分かっていて、何度も何度も1塁ランナーを牽制する。
それでも、簡単に走られる。
慶応は、この試合だけで7個も盗塁を決めている。
こんなチーム降格させて、東洋大学とか駒沢とか入れればいいのに、とか思ったりもした。
しかし、それは大きな間違いだとわかったのは、慶応1−0でリードの6回表。
東大がなんと、1点を取ったのだ。
そのとき。200人くらいの応援席の人たちが、いっせいに狂喜乱舞した。
もちろん、慶応も早稲田も明治も、得点をすれば応援席は盛り上がる。
しかし東大応援席の盛り上がりようは、他大学のそれとは明らかに違った。
その様、鬼の首をとったかのごとし。
これは「宗教」だ。
東大というチームは、もちろん優勝などできるはずがなく、応援しても結局いつも
10−0で負けてションボリ、というチーム。
日本で一番、応援のしがいがないチームかもしれない。
そんな東大ですごいのは、出ている選手の出身高校名だけ。(開成、武蔵、灘etc..)
しかし、そんな東大を心から応援している人たちの気持ちが分かったような気がした。
結局、慶応が4−1で勝った試合だったが、応援席は一様にみな満足していた。
しかし、隣で応援していたサークルの人はションボリしていた。
「今日と明日慶応が負ければ、慶応の最下位がほぼ確定だったのに・・・」
お前それでも慶応の学生かよ。
東大が最下位脱出することを、心から願っていたらしい。
ここまでくれば、もう重度の中毒患者である。
もし、
リーグに1チームだけ、ずばぬけて強いチームがあったら。
そんなリーグつまんないから見ないよ、となるだろう。
ではリーグに1チームだけ、ずばぬけて弱いチームがあったら。
そう、六大学野球の東大のようなチーム。
そんなチーム排除しちゃえよ、と思うだろう。
ところがどっこい、負けると分かってながらも東大の応援席に来るような人は、六大学の
ファンの中でも特に、熱狂的な中毒患者だったりするのだ。
明治の10点より、東大の1点。
早稲田の優勝より、東大の1勝。
そんなマニアックな人たちがいるから、六大学野球は面白いのかもしれない。