聖書は易学〜聖書の作者は古代中国の易学者だった!〜
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Y ノアの箱舟神話は、「新しい時代の始まり」を告げていた
〜洪水神話の易学的構成〜
@ノアの家族構成が示すもの A絶妙な連動性
@ノアの家族構成が示すもの
☆方舟→箱舟
「創世記」では天地創造神話に続いて、最初の人間アダムがエバ(英語ではイブ)と共にエデンの園から追放される経過を語った上で、アダム以降の系図を述べている。そして、十代目ノアが500歳になって三人の息子をもうけたことを述べてから、洪水について延々と語る。
ノアの箱舟神話は、天地創造神話で見てきたように、易学の序次どおりの展開になっている。
こう書けば、前ページ「X 天地創造六日間は……」で神話を易学的に解読する経験を経た読者諸氏の中には、自分の手で易学的に読み解いてみようとお考えになる方もおられよう。見よう見まねでも、けっこう出来るはずだから、是非やってみてほしい。
なお、箱舟は訳によっては「方舟」とも表記されるが、新共同訳では「箱舟」となっている。解説によると、ノアが造ったものは舟というよりも箱であったとしている。本稿も新共同訳にしたがった。そもそも方舟の方は、方形=丸味のない箱型を指すのだが、現代ではあまり使われない表現なので、あえて箱舟と書くようにしたのだろう。
☆ストーリーの要点
まず、ノアの箱舟神話のおおよそを確認しておこう。長いので所々省略した。それでも長いものになる。「 」の部分は、部分的に改行しないまま引用した。その他の部分は要点の紹介である。原典を確認されたい場合は、ネット上には新共同訳がないので、多少翻訳が異なるが、「創世記」(口語訳=外部サイト)をどうぞ。
ノアはセム、ハム、ヤフェトの三人の子を産んだ。時に世は神の前に乱れて、暴虐が地に満ちた。
神はこの世が罪悪に満たされたことを嘆き、大洪水によって人間たちを滅ぼし、信心深いノアの家族から新たな人間社会を作ろう考え、次のようにノアに命じた。
「わたしは地もろとも彼らを滅ぼす。あなたはゴフェルの木の箱舟を造りなさい。箱舟には小部屋をいくつも造り、内側にも外側にもタールを塗りなさい。次のようにしてそれを造りなさい。箱舟の長さを300アンマ、幅を50アンマ、高さを30アンマにし、箱舟に明り取りを造り、上から1アンマにして、それを仕上げなさい。箱舟の側面には戸口を造りなさい。また、一階と二階と三階を造りなさい。
見よ、わたしは地上に洪水をもたらし、命の霊をもつ、すべて肉なるものを天の下から滅ぼす。地上のすべてのものは息絶える。わたしはあなたと契約を立てる。あなたは妻子や嫁たちと共に箱舟に入りなさい。また、すべて命あるもの、すべて肉なるものから、二つずつ箱舟に連れて入り、あなたと共に生き延びるようにしなさい。それらは、雄と雌でなければならない。それぞれの鳥、それぞれの家畜、それぞれの地を這うものが、二つずつあなたのところに来て、生き延びるようにしなさい。さらに、食べられる物はすべてあなたのところに集め、あなたと彼らの食糧としなさい。」
ノアが、命じられたことをすべてそのとおりに行うと、神は、
「七日の後、わたしは40日40夜地上に雨を降らせ、わたしが造ったすべての生き物を地の面からぬぐい去ることにした。」
と告げ、そのとおりになった。
大洪水が起こったとき、ノアは600歳であった。すなわちノアの生涯の600年目の第2の月の17日に、大深淵のあらゆる水源が破れ、天の窓が開いたのだ。大雨と大洪水は、地上で40日間続き、やがて水かさが増し、箱舟は地から浮き上がり、水の面をただよっていた。水は地上でますます勢いを増し、高い山々までも、みな覆い、地の面で動く生き物は、飛ぶものも、家畜も、野の獣も、大地を這うものも、あらゆる人間も死に絶えた。そして、水は150日間、地上で猛威をふるった。
地の面のすべてのものが滅ぼしつくされると、神はノアと箱舟のことを思い出し、地上に風を吹かせたので、水は減り始めた。また、深淵の源と天の窓が閉じられたので、天からの雨はやみ、水は次第にひき、150日後に水かさは減り、第7の月の17日に、箱舟はアララトの山の上に漂着した。水はますます減って第10の月の1日には山々の頂きが現れた。
40日後にノアは、箱舟の窓を開き、カラスを放した。カラスは出ていって、地上の水が乾くまで、行ったり来たりしていた。ノアは地の面の水が減ったかどうか確かめるために、鳩を放って、地の面から水がひいたかどうかを確かめようとした。しかし、鳩は止まれる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰ってきた。地上はまだ水に覆われていたのである。
そこでさらに七日間待ち、再び鳩を放った。鳩は夕方になってノアのもとに帰ってきた。鳩はくちばしにオリーブの葉をくわえていた。ノアは地上から水がひいたことを知った。さらに七日待って鳩を放した。すると、鳩はもはやノアのもとに帰ってこなかった。
ノアが601歳のとき、第1の月の1日に、地上の水は乾いた。ノアは箱舟の覆いを取り外して眺めた。すると地の面は乾いていた。しかし、地が完全に乾いたのは、第2の月の27日目であった。
神は、ノアに言った。
「あなたもあなたの妻も、息子もその妻も、皆一緒に箱舟から出なさい。すべて肉なるもののうちからあなたのもとに来たすべての動物、鳥も家畜も地を這うものも一緒に連れ出し、地に群がり、地上で子を産み、増えるようにしなさい。」
こうして、ノアたちは箱舟から出た。
☆「ギルガメシュ叙事詩」が下敷き
学説にしたがえば、この箱舟神話はシュメールやバビロニアで語り継がれていた「ギルガメシュ叙事詩」を下敷きにしている。
箱舟の大きさは、1アンマ=45cm(人間の肘から中指の先までの長さ)だから、船体は長さ135m、幅22.5m、高さ13.5mとなる。排水量1万5000tの大ぶりな船体である。太古にそんな大船の建造ができるか。そういう検討は無意味である。40日間の降雨とあるが、その40という数は、モーセがシナイ山に滞在した日数、イエスが断食した日数、イエスが復活してから昇天するまでの日数と同じであって、『聖書』にしばしば登場する象徴的な期間を示している。
チェックしてみたが、船体についての数値も日数も、易学の対象になっていないことがわかった。
☆残されたサイン
易学に熟練した人が、あるストーリーを易学的に組み立てたり、仕掛けをほどこしていく場合、その組み立てたり仕掛けたりした内容を「わかる人にはわかってほしい」と期待するならば、ストーリーの導入部分に必ずサインを残す。易学的仕掛けを知られたくなければ、そういうサインはむしろ徹底的に消すようにする。あるいははぐらかす。
これは易学を承知する者同士のマナー、不文律、あるいは"仁義"のようなものである。"仁義"に背いたからといって指を詰めることはないが……。
ノアの箱舟神話の"易学で組み立てましたヨ"というサインは、ノアの家族構成を説明した部分である。ノア夫妻、息子三人がそれである。後の文章から、息子たちには妻がいるとわかる。計八人、八卦である。親を意味するのは乾=父(ノア)と坤=母(ノアの妻)、息子を意味するのは震=長男セム、坎=中男ハム、艮=少男ヤフェト、娘を意味するのは巽=長女(長男の妻)、離=中女(中男の妻)、兌=少女(少男の妻)である。息子の妻はノア夫婦の義理の娘である。したがって、ノア一家の家族構成と一致している。八卦と家族との関係は次の図4を御覧たぐさい(WーDの図4再掲)。
☆序次29から始まる
序次29坎為水の中心的な意義は「大洪水で右往左往」である。水を意味するがダブっているのであるから、世の中が水に覆われて居場所がない状態、つまり大洪水を意味している。六十四卦の中でこのように洪水を意味する卦は、序次29だけである。ノアの箱舟神話が、序次の推移にしたがって加工されているのであれば、次に来る序次30離為火にしたがって、ストーリーは展開していなければならない。離為火の中心的な意義は「火を扱うときの心掛け」となる。なるほど火を意味するがダブっている。火は水をなくす(蒸発させる)ものでもあるので、「洪水が終わり、地表から水が乾いてなくなる」となる。
「これで、私は易学で神話を解読できたゾ」
と、鼻高々になった人がいるかもしれない。その人が初心者なら100点、多少易学をかじった経験のある人ならば、10点しか与えられない。易学記号の解釈は、こんな大味なもので終わらない。もっと絶妙である。
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