海風通信 after season...




P:1 「南沢さんのこと」

 オールカラーページで掲載された記念すべき第1回は、「ちぬ」というインコの少女(??)と出会う衝撃(!?)のお話。
 おいおい、ロボットの次はトリかよ〜、しかも何で名前はサカナみたいなんだぁ?と眩暈でよろめきましたが、ちぬのキャラが良さげだったので不問といたしました。実際、このエピソードにおいては主人公のキャラがというよりも、ちぬの魅力で作品が成り立っていたという感じですね。そのためにも、ちぬの性格とは対照的な設定として描かれた鮮烈な頭髪の色彩構成は、フルカラーページでの表現が必須であったとも言えます。
 今回は舞台地検証に魅力的な要素が無かったので、この謎のインコ少女について考察を進めていくことにしましょう。また、本エピソードだけではあまりにも検証要素に乏しいことから、作品の垣根を飛び越え、コトノバドライブの第5話・第28話をも絡めて考えていきたいと思います。
 まずは作品上から分かる、ちぬの外見的特徴から。これは言うまでもなく、「奇抜なヘアスタイルとカラーリング」のひと言に尽きるでしょう。まるでトサカのように立った前頭部中央の髪の毛はピンク色、そこから淡い茶色→瑠璃色へと変化していき、襟足あたりからは尾羽のような細く長い髪が伸びています。その毛先から半分くらいのところまでも、若干のピンク色を帯びている様子。コトノバではこれを「赤毛のふわふわ髪」・「濃い紅色」と表現し、ほぼそのイメージは似たような感じですが、モノクロ掲載だったために詳しい描写は分かりません。それ故に『PositioN』でのカラー掲載は、貴重かつ有力な検証資料となり得たのですね。
 では、この奇抜な髪のカラーから連想されるインコとは、どのようなものが考えられるでしょう?直感的にベニコンゴウインコのカラーパターンがピッタリなのでは?とも思いましたが、ちょっとイメージ的にゴツ過ぎるんですよね。ましてや、あんなデカいインコから華奢な少女をイメージするかなぁ?ということで、ひとまず却下。その他に似たような配色のインコはいないのかと調べて見ると、キンショウジョウインコクサインコ系のものが見つかりました。
▲ベニコンゴウインコ。ビビッドな色合いはこの鳥が一番! ▲キンショウジョウインコ。でも、実はコイツはオスなのです。
 このキンショウジョウインコの赤系統が非常にイメージに合う色彩パターンを構成していて、「もうこれでいいや、これに決めちまおう!」と、半ば強引に結論付けようとしていたら、なんとこのキンショウジョウインコは雌雄で頭部の羽根色が異なり、オスは・メスはになるのだそう。うわ〜、なんってこったい。これでは彼女が実は「男の娘(コ)」だったという、更なる謎設定に陥ってしまいます。なので、これも泣く泣く却下。
 残されたのはクサインコ系。これには様々な色彩パターンの種類がいて、推測を立てるにはある意味一番無難な候補でしょうか。特にアカクサインコナナクサインコあたりがいい感じです。余談ですが、この系統の仲間にはアキクサインコという全身パステルピンクのとってもラブリーなインコもいて、私的にはこれが一番「ちぬ」のイメージっぽいなぁ、と思いました。作品との色設定を完全にムシしてますけどね。(←それでもコトノバの第28話では「うす紅色の羽根」という表現があるので、多分私はこれに引っ張られたのだと思います。)
 (※クサインコ系は本稿UPまでに適当な写真を撮ることが出来ませんでした。ネット上の画像検索では簡単に見つけられますので、気になる方はそちらをチェックしてみて下さい。今後写真が撮れ次第、このページでも追加掲載する予定です。)

 ……いろいろと有力な候補を挙げたつもりですが、たぶん皆さんはいまいち納得していませんね?そう、あのトサカみたいに飛び出た髪の形状の説明がまだ付いてないのです。これは鳥好きの人ならば、もう既にお気づきかと思いますが、おそらく冠羽(かんう)を意味しているのだと思います。
 冠羽というのは、一部の鳥類にみられる頭部(あるいは頸部)から伸びる、ひときわ長い羽根のこと。クジャクなどの頭にヒョコッと飛び出てる飾り羽根なんかを想像していただければ、判りやすいでしょうか。ちなみに先程はイメージしやすいように安易な比喩表現として「トサカみたいな」と言ってしまいましたが、冠羽とトサカとは全くの別物ですので、お間違いのないように!
 ちぬ、もしくはインコ少女の立ちあがった前髪が「冠羽」であろうことを裏付ける証拠が、実はコトノバの第28話で描かれています。それは、幼少の頃のすーちゃんの記憶の中で現れた鳥……。明らかに冠羽を持った鳥のようです。そしてこのフォルムは、オカメインコみたいなカンジ?…でも、ちょっと待って下さい。そもそもオカメインコには赤系統の鳥っていないんですよ。そして、ここで新たに判明した驚愕(と言うほどでもないんだけど)の事実が!さきほど「一部の鳥類にみられる」と書いたように、冠羽を持つ鳥はオウムの仲間には見られますが、インコの仲間は冠羽を持たないのです。えぇっ!?じゃあオカメインコは何なのさ?と思われるでしょうが、オカメインコは名前にこそ「インコ」と付けられているものの、実はオウムなのですね。ハイ、話がややこしくなってきましたねー。(ちなみに、モモイロインコというのもピンクで冠羽があってラブリーなのですが、これもオウムの仲間です。)
▲オカメインコ。前髪(!?)の立ちあがり方は、このコがピッタリ。 ▲モモイロインコが冠羽を立てているところ。
 つまり、冠羽を持つインコのような鳥はオウムであり、それはインコではないハズなのに、ちぬやコトノバのインコ少女は「インコなんだけど―」・「インコは いや?」とかって言い張っているのですね。まぁ、名前なんてものは人間が分類上便宜的につけたものなので、ある意味けっこーいい加減なのですが、これによりますます謎が深まるカタチとなってしまいました。
 さらには追い打ちをかけるように、行動上の理由からも新たな事実が。コトノバの第5話『電線に鳥のこと』の検証レポートにおいて推測を立てた、あのワカケホンセイインコ達の行動形態を国立環境研究所(NIES)の『侵入生物データベース』で調べてみたところ、彼らが他の鳥たちと行動を共にすることがあるという報告がなされており、それは「夜間、オオホンセイインコダルマインコと共に集団ねぐらをとることがある。」とあるのです。
 そこで画像検索してみたところ、オオホンセイインコ・ダルマインコ共に当然ながら冠羽は無く、羽根の色もイメージとは少し遠いものでした。
 調べるほどに乖離してゆく設定と事実…。「ちぬ」は一体、何の鳥が化けたものだったのか?これはパンドラの箱を開けてしまったのでしょうか!?


 【追記】:本稿完成後、ベニコンゴウインコを間近に撮影できる動物園があるということで訪ねてみたところ、園内でオオハナインコなる鳥が飼育展示されているという事実を知りました。この鳥、キンショウジョウインコとは真逆のケースで、オスが・メスがをベースとした羽根色をしているのです!さらには首の根元や肩先が瑠璃色を帯びており、「ちぬ」のイメージとしてはこれがピッタリかも?尾羽が短いのは御愛嬌です。
▲オオハナインコのメス。オスは全身緑色の羽根です。 ▲色合いが「ちぬ」に似てるのではと。でも冠羽はありません。

■鳥の撮影地:キャンベルタウン野鳥の森(キンショウジョウインコ・オカメインコ・モモイロインコ)
羽村市動物公園(ベニコンゴウインコ・オオハナインコ)


2019/07/30