海風通信 after season...




P:4 「白い夜のこと」

 第2の主人公、「あきらさん」登場の回。
 え、第2って何?と思われるかもしれませんが、第4話の扉絵アオリ文でも『新・主人公、登場!?』とかって書かれてありますし、実際この後3話にわたって、あきらさんがメインを張る回が続きます。未完とは言え、全7話中3話も彼女のエピソードが占めるのですから、これはもう主人公の一人と呼んでも差し支えないでしょう。役柄上は、すーちゃんのバイト先の先輩社員。『(株)五藤造園設計』で、日付を跨いだ時刻まで仕事をしていることから、ブラック企業でない限り、よほどの技術専門職なのでしょう。今回はその帰り道で遭遇した、謎めいたお話。
▲夕闇迫る長者ヶ崎の印象的なカーブ。 ▲ここは本当によく藤色のフィルターが掛かる。
 夜更け過ぎ、あきらさんが自宅まで自転車で走り抜ける道のりが、印象的な風景描写を交えて展開されていきます。まず真っ先に目に付くのは、長者ヶ崎の有名なあのカーブ。『ヨコハマ買い出し紀行』でもたびたび登場する土地ですが、ここまでハッキリと表現されたことはなかったのではないでしょうか。今回、ここだけはどうしても夜のシーンを撮りたかったので日没まで待つことにしましたが、相変わらず素晴らしく空の色が変化する場所ですね。十数年前、藤色に包まれた「北の大崩れ」を撮影した時の感覚が甦り、改めて見入ってしまいました。
▲あきらさんが自転車で走り抜けた大崩れの歩道。 ▲巨大な船(?)に遭遇したのは秋谷地区?
 長者ヶ崎を越えると、海岸線沿いに道は続きます。この歩道部分も、酷似する場所が描かれています。あきらさんが「空が白い」と感じた地点ですね。「寺前のバス停」というのは、円乗院か妙忍寺のバス停でしょうか?どちらにせよ久留和地区なのですが、ここであきらさんは空に浮かぶ巨大な船(!?)のようなものを目撃します。家並みの向こうにそれを一望できる場所があるようなのですが、そこはどうやら久留和ではないようです。
 では、いったい何処なのでしょう?雑誌掲載時192ページ目に描かれているシーンから判断すると、【かなりの数の家並みがあり・中央に川が流れ・左手にマンションらしき建築物】が見て取れます。これらの条件に合致する場所となると、秋谷地区くらいしか候補は挙がりませんでした。上の写真ではちょっと見えませんが、マンションと一軒家の境には、ちゃんと前田川の流れが蛇行線を描いているんですよ。より高度から俯瞰できれば、もっとそれらしい情景が再現されていると思います。ただ、久留和からは少し距離がありすぎる気もするんですよね。この場所は今回のお話の中心部分でもあるので、是非とも明らかにしておきたかったところなのですが、まぁ私のゆるゆるな見解では、これで良しとします。
▲「……何十年ぶりよ」「節目の船……」 ▲「これからの船……みえたな」「通ったな……」
 さてさて最後は、あの「子産石」。掲載時、まさかここまで子産石をフィーチャーしてくるとは思いませんでしたよ。
 子産石は、バス停名にまでなっているくらい近隣の人々及び『ヨコハマ』ファンの間では有名なスポットですね。バス停すぐそばには、文字通り子産石の模範とも言えるような巨大な丸石が鎮座しているので、実際に見たことのある人も多いかと思います。なので概要は省きますが、この子産石、かつては結構海岸に流れ着いてたようで、一般のお宅にも門柱やガレージ脇の片隅に置かれていたりなんかします。そこで今回は、バス停前の立派な子産石ではなく、よりリアルな原作の設定に近い子産石を探してみることにしました。そこで見つけたのがこの石です。個人宅なので詳細な場所は控えさせていただきますが、複数配置した位置取りとか、穴のブツブツ感とかが良いですよね。
 せっかくなので、ここはひとつ石の声を聴いてみたいと思いましたが、残念ながら、私には何も答えてはくれませんでした……。


2014/12/02