ポリプテルス:からだの特徴

肺(ウキブクロ)

条鰭類が遊泳を自在に行うための浮力調節器官=ウキブクロ。その起源は肺のような機能をもつ器官であったというが現在の一般的な考えです。

海水域で登場した初期の硬骨魚類は、潟や湿地帯の浅瀬、さらに大陸内部へ移り住みはじめますが、そこは広大で常に安定した水量の海水域と異なり干潮の影響や気候環境によって激変する淡水域。 ときには厳しい乾期で溶存酸素量が全くなくなる環境でも、すでに上陸を果たしていた植物たちの光合成副産物として大気中は高い酸素濃度になっていました。 少ない溶存酸素は大気から直接吸い込んで補っていると食道器官の腹側に大気を貯めこめれる突起ができました。その突起に血管を張り巡らせたると より多く体内へ酸素を取り込めるようになり、さらに浮力が得られにくい淡水域でも役目を果たすようになります。 やがて硬骨魚類は肉鰭類と条鰭類に分岐し、肉鰭類の突起は酸素の吸収量を増やせるよう大きく袋状に膨らむ肺に、条鰭類は遊泳に特化した進化とともにウキブクロとして変化していきました。

この器官を肺として使うポリプテルスは左右の長さが異なり、左肺は短く、右肺は尾側部まであります。 構造的にも四肢動物と同じで、気道が消化器官の腹側に開き、肺動脈が静派洞に直接つながっています。 腹側に位置するのは初期の条鰭類パレオニスクス類Palaeonisciにも確認できますが、現存する中では肉鰭類の肺魚やシーラカンス・条鰭類などは背方に位置するため特異とされています。 取り込まれた酸素は肺に送られ そこでガス交換を行います。肉鰭類や四肢動物の肺に比べると不完全で100%依存した呼吸は行えませんが、大気から取り込めない環境下ではいずれ酸欠で死亡します。二酸化炭素の放出は、二酸化炭素の性質が空気中より水中のほうが溶け込みやすいことから、エラを通して水中で行います。

呼吸孔

空気呼吸を行うポリプテルスは、大気中の酸素をクチからではなく頭頂部にある呼吸孔spiracleから取り込む。 オーストラリア フリンダース大学 古生物学者ジョン・ロング(John Long)、サンディエゴ海洋学研究所の共同チームによりNature Communicationsにて発表しています。

分かりやすく要約すると、呼吸のたび水面に上がる動作の分だけ捕食者の目に留まりやすくなります。呼吸孔が頭頂にあることで発見され難く呼吸できること、また 水深が浅すぎて頭を上げるのも難しい環境ですら呼吸できるなどの利点をもたらしました。

同様の呼吸孔はデボン紀の原始的魚類群で四肢様動物の特徴もあわせ持つゴゴナススGogonasus、肉鰭類のティクターリク、および初期の四肢動物に広く存在しています。 上陸進化とともにエラ呼吸器官は、呼吸孔は鼓膜に、鰓裂は外耳に、内耳骨や咽頭弓へと変化しました。 条鰭類の聴覚器官は、魚体全体が共鳴体となってウキブクロで集音したものがWeber骨を介して内耳に伝える構造で別物です。ポリプテルスにも陸上生活に不可欠な初期段階の器官あるから凄いねってことかな。

Nature Communications volume 5, Article number: 3022 (2014)

原著論文:Spiracular air breathing in polypterid fishes and its implications for aerial respiration in stem tetrapods

doi:10.1038/ncomms4022

内 鰓

鰓

鰓蓋の内側にある内鰓の構成は、クチから吸い込んだ餌や小石・水に分ける濾過器官 鰓耙(さいは)と、呼吸器官 鰓葉(さいよう)が弓状の骨 鰓弓に支えられています。 鰓葉にはフサフサとした無数の細長い櫛状の鰓弁(さいべん)があり、さらに鰓弁には0.03mmほどの細いヒダが囲み埋め尽しているため、ここに流れる毛細血管が透けてエラは赤く見えています。 呼吸を効率よく行えるよう、クチと鰓蓋を交互に開閉させて能動的に水流を起こし、鰓葉で酸素を取り込み二酸化炭素を排出しています。一般的に、これら内鰓構造の鰓弓は5対ありますが、最後方の第5鰓弓には鰓弁が無く周辺組織に埋在して ノドにある下咽頭歯とつながっています。しかしポリプテルスの場合、第5鰓弓は欠損し鰓弓は4対しかなく、鰓膜を支えて鰓蓋下を構成する鰓条骨もありません。

外 鰓

外鰓
デルヘジィの外鰓

ポリプテルスの幼魚期は外鰓(がいさい)が1対だけ伸びます。捕食者から狙われる危険性の高い幼魚期は、成魚のように空気呼吸のたび水面まで泳いで移動するには身の危険が伴います。 水中での呼吸補助として絶えず新鮮な水と触れられる呼吸器官として発達しました。 ただし外鰓は内鰓構造の基部である鰓弓の外面から鰓蓋外側の体表面上に突出したもので、酸素の取り込みは能動的な内鰓と異なり、受動的に行われるため、環境によっては排出した二酸化炭素の再循環が起こる可能性もあります。

外鰓
アホロートルの外鰓

外鰓はポリプテルス独特の特徴ではなく、肺魚の幼魚期や両生類の幼生期にもみられる同様の構造機能で、形状や対数・消失時期など異なります。 カエル類の外鰓は孵化後の数日間のみであるのに対し、アホロートルは成熟しても外鰓が残る幼形成熟(ネオテニー)として有名です。 アホロートルの細菌感染症例ではエロモナス感染によって外鰓が消失するらしく、ポリプテルスも同様の感染症が起るか曖昧ですが水質管理は怠らないようにしましょう。

残り続けるウィークシーの外鰓
20cm超えウィークシーの外鰓

外鰓の広がり具合や大きさは、健康状態・成長速度・環境や種によって違いがあり、一般的に餌の摂取量が多く 健康状態がよいと より大きく広がると言われています。 外鰓は幼魚期限定のものなので成長とともに発達する肺に関係して縮小、やがて消失します。消失時期も飼育環境や種で異なり、成長速度が早いエンドリケリー エンドリケリーは約半年、ウィークシーのように遅い種では5年以上といった違いがみられます。 また、幼魚期に消失したとしても直接的な問題はなく、きちんと飼育すれば問題なく成魚になります。

たまご

イクラ
イクラの軍艦巻き

卵は1つの細胞で体の中で一番大きい細胞。学校授業で習う話。

受精すると全体の大きさはほぼ一定のまま細胞分裂を始め、1個が分裂して2個に、2個が分裂して4個に、さらにそれぞれが分裂して未分化の細胞が多数増え続けます。このときの分裂が割れて見えることから卵割(らんかつ)と言います。

分裂する細胞とは別に、生物構造の元となる胚発生時や孵化後しばらく過ごせるまでの栄養分 卵黄も卵に存在しています。 成長過程に必要な栄養分量は、哺乳類や両生類、魚類など生物によって異なるため、卵黄量も生物により違いがみられます。卵黄が多ければ多いほど卵割を妨げるのでそれに伴い卵割形式も異なります。

等黄卵 - 全割

ほぼ卵黄成分を必要としない生物。卵黄量が少ないため全体が均等に卵割する。母体の胎盤で成長する哺乳類、体構造が簡単なウニ・ヒトデなどの棘皮動物、ナメクジウオなど

端黄卵 - 全割

初期は均等に卵割を始める全割をするが、卵黄量がやや多く次第に卵割が妨げられ不等割になる。オタマジャクシのような幼生期間を経て成長する両生類など

端黄卵 - 部分割

胎盤、幼生期間がなく成体の姿で孵化するために充分な卵黄の栄養分を必要とする生物。卵黄成分が極端に多いため一部分のみ卵割する。魚類(硬骨魚類)・爬虫類・鳥類など

ポリプテルスの初期発生は全割で両生類との類似がみられます。 ところが分割を繰り返し、構造ごとに異なる胚葉が複雑な体の組織を作り出す頃には 魚類らしい成長を遂げます。このような両生類型を行うものに、無顎類のヤツメウナギ、肉鰭類の肺魚・条鰭類チョウザメなどの原始的な硬骨魚類にもみられます。 現生する肉鰭類シーラカンスの卵割は不明ですが胎生で生まれてきます。

鳴き声

魚類が鳴くなんて!と思うところですが、それほど珍しいことでもありません。ポリプテルスの場合は威嚇のような低音の唸り声を発します。 水槽内の掃除で手を入れたとき、飼育水槽の入れ替えで捕まえるとき、餌の争奪で驚いたときに鳴き声を発します。どのような感じと表現するなら「ブーン」だと思う。もしかしたら聞く人によっては違うかもしれない。

100-200Hzの周波数範囲で最も強く、1秒あたり最大3パルスであることまでは判明しているようですが、どのように発しているかまでは不明らしい。