ポリプテルス:からだの特徴

古生代 シルル紀後期。海水域の捕食者から逃れて潟や湿地帯の浅瀬に移り住んだ魚類がいました。そこは豊かな海水域とは異なり天候や環境などによって変化する過酷な水域。 そのような環境に適応した彼らはその骨格構造から硬骨魚類とよばれています。硬骨魚類たちは初期の段階で筋肉と関節のヒレを持つ肉鰭(にくき)類、鰭条のヒレを持つ条鰭類の2系統へと分岐してそれぞれの道へ進みました。

ポリプテルスは両生類へのミッシングリンクとなる特徴が多くみられ肉鰭類と同様な存在として関連付けされる傾向がありますが、条鰭類の姉妹群のひとつ腕鰭(わんき)亜綱です。 つまり陸上進出の一歩手前のような肺魚やユーステノプテロンEusthenopteron、ティクターリクTiktaalikなどとは全くの別系統です。 ポリプテルスの化石記録は中生代 白亜紀までしか遡ることができず、すでにこの時代には恐竜もいれば哺乳類もいる時代。いつ頃 どの魚類群から派生したのかはっきりとした詳細が解明できていない不思議な存在で、原始的な特徴と派生的な特徴を併せ持つ条鰭類の中で特異的な存在です。

ウロコ

ポリプテルスのウロコ

ポリプテルスのウロコは、体の中でもっとも硬度が高い歯とほぼ同じ構造の厚さが2㎜ほどの硬鱗(こうりん)で体表面を覆っています。

シルル紀後期に登場した硬骨魚類は捕食者からの防御手段として頑丈で厚く硬い硬鱗で体全体を覆って身を守っていました。 初期型の硬鱗はコズミン鱗cosmoid scaleとよばれ、その構造は表面層に歯のエナメル質に似た透明で硬い光沢のあるエナメロイド層、歯質に似た象牙質のコズミン層、脈管を含んだ海綿状の多孔性骨質層、下層部に層板状骨質のイソペディン層ispedinの4層で構成しています。 肉鰭類のウロコはコズミン鱗ですが、現生する肺魚やシーラカンスは薄いものに変化しています。

条鰭綱のウロコ化石

コズミン鱗の進化形がガノイン鱗ganoid scale コズミン層が退化して、表面層に硬鱗質のガノインとよばれる厚いエナメロイド層、中層に顕著な脈管系を伴う歯質層、多数の脈管が横走する層板状骨質のイソペディンの3層で構成しています。 ガノイン鱗にはエナメロイド層とイソペディン層との間にコズミン層に似た層が存在するパレオニスクス鱗もあります。 初期の条鰭類パレオニスクス類Palaeonisciの特徴的なウロコで、古生代の淡水域で最も多種多様化したグループです。 ガノイン鱗をもつ現存種には チョウザメ類、ガー類、アミアなどがいますが、パレオニスクス鱗はポリプテルスのみとなります。

Paramblypterus credneri
パレオニスクスの一種
Paramblypterus credneriPalaeonisci
ペルム紀 / 国立科学博物館

ガノイン鱗は1枚1枚が菱形で、ウロコ同士を前縁の関節突起が強固に連結し、その表面を粘膜質の表皮が重なり皮膚と同化してるため、剥がれることのない一続きの重厚構造となります。 硬すぎて包丁で捌けないらしいですが、ガッチリ噛合っているため丸焼きすると中が蒸し焼き状態になるらしくツルンとずる剥けできるらしい。 ウロコの成長は内層と外層の全体が同心円状に大きさを増すため、ウロコ乱れは治らない可能性が高いです。

胸ビレ

ポリプテルスの胸ビレ
シーラカンスの胸ビレ

海水域の捕食者から逃れるかのように大陸内部の淡水域へ移り住んだ魚類の中で、避難場所として また待ち伏せ型の捕食が行いやすい潟や湿地帯の浅瀬に生息するグループがいました。 このような地帯は落ち葉や枯死体の沈殿物、水中に茂る植物や藻などが広がる水中ジャングル。この環境で生き抜くには掻き分けて遊泳移動しやすい肉鰭の方が都合がよかったのかもしれません。 また環境が激変しやすい大陸内部は、気候変動により雨期と乾期の差が激しいものでした。 雨が全く降らない乾期は、上流からの水が断たれて停滞し干上がって水溜りに取り残されてしまう事が幾度となく起こります。わずかに残る水辺を探して湿地を移動していた可能性もあります。この環境が肉鰭類を陸上進出させた要因の1つとも考えられています。

四肢動物の前足のように水中で体を支えられる筋肉と関節で構成した肉鰭の胸ビレも持つ魚類には肺魚やシーラカンスが現生しています。 ポリプテルスの胸ビレも外見上は同等に見えますが、内部構造は発達した筋肉と扇状の鰭条骨格で構成しているため条鰭類になります。この特異的な胸ビレ構造から腕鰭亜綱Cladistiaとして分類され、現生種はポリプテルスのみとなります。

背ビレ

学名のポリプテルスPolypterusとはギリシャ語由来の2つの単語を合わせ「多くのヒレ」という意味を持っています。 背部に一列に連なる特徴的な小離鰭(しょうりき)から名付けられたもので、古称および中国語も同じ理由から多鰭魚(たきぎょ)と呼ばれています。 雑もの情報だとウロコの古称は「いろくず」なので古めかしく言い換えたら「たきぎょの いろくずは こうりん」ってなるのかな。

小離鰭の本数は種によって異なるため分類するにあたり、手掛かりのひとつに用いられます。

小離鰭 poly 原意は古典ギリシア語で πολύς、polús
多くの、たくさんのなど複数を表した英語の接頭辞polyにあたります。
多数の島々からなるポリネシア(Polynesia)、赤ワインに含まれるポリフェノール(polyphenol)、多角形(polygon)その他にもポリエチレン(polyethylene)などポリが付くプラスチック製品もほぼ同意味。
pterus原意は古典ギリシア語の接頭語 πτερόν、pterón
訳すとヒレ。翼・羽・翅 などの意味もあり、現代英語でいうところのwingにあたります。
pteronを使って付けられた有名どころは翼竜プテラノドン(Pteranodon)とかヘリコプター(helico-pter)とか。これらはヒレでなく翼を意味しています。

小離鰭そのものはサバ・マグロなどのサバ科・アジ科やサンマ科など回遊魚の多くに見られるヒレで、特に珍しくもなく、急激な方向転換の補助や水流を一定に整える整流板の役割があります。 遊泳力の高いサバ科は背ビレとは別に尾部付近にノコギリ歯のように連なって存在しています。ポリプテルスの小離鰭は ひとつひとつが1本の棘と1本~数本の軟条で構成し、連なった背ビレとして存在しているため、魚類として特異的とされています。

尾ヒレ

魚類の起源となる無顎類をはじめ、絶滅した棘魚類や板皮類、サメやエイなどの軟骨魚類、初期の硬骨魚類など古い系統の魚類群の共通点である上下非対称に歪形した異尾(いび) 脊椎が尾ヒレの上半分である上葉まで延長しているため、一振りで力強く後ろ下方へ押し出し、前と上への揚力機能があります。 ポリプテルスの外見上は上下対称に見えて分かり難いですが、同じく脊椎が上葉に延長した異尾になります。

進化した系統の条鰭類は浮力調節のウキブクロを手に入れたため、尾ヒレの揚力は必要としなくなり、前進運動特化型の脊椎を中心に鰭条だけで構成した上下対称の正尾になりました。

内骨格

最初期の魚類の体構成は頭部~尾を支持する脊索、体表面の皮骨、ひだ状の背ビレと腹ビレといったシンプルなものでしたが、やがて柔軟な動きを可能にしたまま軟骨の脊柱で筋肉を支えて遊泳効率を高め、防御力として重い頑丈なウロコで体表面を覆うようになりました。

しかし、これは魚類群が誕生した海水域での話。 海水に含まれるはリンやカルシウムなどのミネラル分は、タンパク質の合成を調節・筋肉の動きを調整・神経の鎮静化のように生命の維持に欠かせない必要不可欠な存在ですが、 淡水域ではミネラルが環境によって変動、ときには不足する問題に直面します。 けれど体内は常に海水域で生活していたときと同じ量を必要としました。 そこで必要となる時がきたとき、すぐに供給できるよう内骨格を硬骨化させカルシウムを体内に蓄える貯蔵庫となりました。 進化とともに硬骨化が進むと、突然 重力がのしかかる陸上生活を強いられても体を支えて内蔵機能を守り、河川の激しい水流にも耐え、急激で活発な運動を行う筋肉をも支えられるようにもなりました。

ところでポリプテルスは内骨格のほとんどが軟質骨で構成する やや初期タイプ。

鼻 管

2014.09.08 噛まれて暴れてフタ激突
2015.08.27 新しいの生えた

視界の悪い環境下でも敏感に匂いを感じ取り、餌を見つけ出す嗅覚性捕食のポリプテルス。鋭い嗅覚はこの突き出た細いチューブ状の鼻管にあります。鼻管はスレやケンカなどによって切れることがありますが再生します。 しかし水質管理を怠ると先端がほどけた組み紐のように広がり、そうなると元に戻ることはあまりないようです。

硬骨魚類はヒレで条鰭類・肉鰭類の2つに分類できるように、鼻器でも分類できます。条鰭類の多くは外部に開口した外鼻孔で、トンネル状のものが皮下にあります。 前方の入水孔から水を取り入れ、出水孔から流れ出るとき、鼻嚢を水が通過することによって含まれる匂いを感じ取ります。

これに対し肺魚は入水孔が上唇前部の下外側にあるため口腔内の臭いまでも感じ取ることができます。 出水孔が口腔内に開いた内鼻孔ではありますが、哺乳類など四肢動物の鼻器も内鼻孔なので若干違うような。やや内鼻孔っぽいといった感じかな。