メディアとつきあうツール  更新:2003-10-01
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

「地上テレビのデジタル化を考える」
地上デジタル放送・地デジ 緊急国会シンポジウム

≪シンポジウムの概要≫
名称 緊急国会シンポジウム「地上波テレビのデジタル化を考える」
日時 2003年3月7日15:00〜17:00
場所 衆議院第二議員会館 第四会議室
コーディネーター 須藤春夫 法政大教授/メディア総研所長
パネリスト
     上瀬千春 フジテレビ技術局専任局長
     坂本 衛 ジャーナリスト/「GALAC」編集長
     吉村英二 日本消費者連盟
     碓氷和哉 民放労連委員長
主催 民放労連/メディア総合研究所
問い合わせ先 民放労連 Tel.03-3355-0461
※各党派にデジタル化についての見解報告(16:45〜)をしてもらうように要請中です。
※事前申し込みは不要、入り口で配布する通行証を受け取って入場してください。

≪参考リンク≫
民放労連の関連ページ

当日配布資料(坂本分)

緊急国会シンポジウム「地上波テレビのデジタル化を考える」
2003年3月7日 衆議院第2議員会館 第4会議室

参 考 資 料

坂本 衛 ジャーナリスト/放送専門誌「GALAC」編集長

※2時間と短いシンポジウムのため、坂本の主張、参照していただきたい資料などについてまとめました。
※以下は坂本の個人的な見解であり、シンポジウム主催者や他のパネリストの見解とは関係ありません。

1)地上放送デジタル化の問題点

●最大の問題は視聴者不在。国民共有の財産であるテレビ電波の使い方を根本的に変更して、国民・視聴者に新たな負担を強いるのに、計画は国民・視聴者に何の相談もなく進められた。総務省予算・放送局売り上げ・家電メーカー売り上げはすべて国民・視聴者が負担しているのに、国民・視聴者だけが計画の立案に関与できなかった。

●国民・視聴者の大多数は「高画質」に興味がない。高いカネを出してそれを見る受信機を買うつもりもない。にもかかわらずハイビジョン中心で流すことが大問題。興味がないから、地上デジタル放送の受信機の普及は進まない。

※高画質に興味がない証拠
・90年代を通じて高画質ビデオのシェアは1割前後で一定
・BSデジタル開始後のハイビジョン出荷シェアは3〜5%
・同横長(ワイド+ハイビジョン)出荷シェアは1.5〜2割

●日本にあるテレビの過半数は小型テレビ(2002年国内出荷843万台のうち21型以下が486万台で6割弱。海外メーカー製を含めればさらに高率)。しかし、ハイビジョンは「大型で迫力あるキメ細かいテレビ」として開発され、小型化になじまない。10年たっても小型ハイビジョンが現行14型の水準(9800円)まで安くなる見通しはまったく立たない。計画は、小型テレビの存在を無視した極めて杜撰《ずさん》な空論である。

※30年近く昔に発売され、現在では世界市場にむけに量産化されているパソコンすら、まだ10万円近い価格。小型ハイビジョンが10年で数万円以下になることなど、ありえない。

●現在の見込みでは、2011年段階で4800万世帯のうち1〜2割(数百万〜1000万弱の世帯)に地上デジタル放送を届ける手段がない(届けるために鉄塔を立てれば全地方局が倒産)。光ファイバーは無理、新たなBS計画もなく、あまねく普及義務のNHKも約束していない。それなのに2011年で現行アナログ放送打ち切りとは、あまりにデタラメな計画である。

●計画は、インターネット(パソコンや携帯)その他で実現できることを盛り込んでおり、放送以外のメディアとの棲み分けや役割分担を考慮していない

●そのほかの小さな(?)問題

・ハード至上でソフト無視、技術先行で生活無視の箱モノ行政。

・放送の実情を無視して、無定見に米英の計画(全然うまくいっていない)に追随。

・机上の計算に基づくアナアナ変換は、やってみなければ問題が顕在化しない。対象世帯数、予算、スケジュールなど計画通りに収まるか不明。事業所(人が住む住居以外)は自己負担だが、相当数の事業所が不服を申し立てたときどうなるかは不明。

・関東地区では600メートル級電波塔が必要だが、建設計画が進んでいない。

・不振のBSデジタルのキー局化が進むうえに、ハイビジョン中心の地上デジタルでキー局主導が強まる。地方局や新規参入者による放送の多様化が望めない。

・デジタル放送の目玉の一つ、データ放送は、テレビ放送との両立が難しい。
・同じく、双方向番組は、もの珍しいお遊び以上のものにはならない。

・同じく、携帯での低画質放送受信は技術的には可能だが、MPEG技術のライセンス問題に決着がつかず、当面は実現できない。

2)2011年の地上アナログ放送停止は、絶対に不可能
  この意味で、計画の破綻・失敗は明らか

●日本にはテレビが少なくとも1億台以上、おそらくは1億数千万台ある。これ以外にビデオも数千万台ある。これらすべてを8年4か月で新しい地上デジタル放送対応テレビに置き換えることは物理的にできない。2011年段階では地上アナログ放送を見ている世帯のほうが多く、放送を止めることは絶対にできない。

※2011年7月24日までには3000日しかない。BSデジタルでは総務省・NHK・民放・メーカーすべてが「1000日1000万台」普及といいマスコミもそう書いたが、現状は「1000日200万」ペース(300万普及は誤り)。地上波「3000日1億台」達成の見込みはゼロである。

※2002年の日本のテレビ出荷台数(カラー・PDP・液晶含む。日本社海外工場からの日本むけ出荷も含む)は963万台。ということは、明日から国内で売るすべてのテレビを地上デジタル放送対応にしても、2011年7月24日までに8000万台にしかならない計算(停止される放送しか受信できない2000万〜数千万台のテレビが残る)。

●マスコミ・家電業界などには、地上デジタル化は国会の議決を経た「国策」だからその通りになると信じている者が少なくない。しかし、総務省の政策・放送局の方針・メーカーの期待にかかわらず、地上デジタル放送の成否は国民・視聴者だけが決める。国民・視聴者が見るか見ないか(新しいテレビを買うか買わないか)によってだけ、決まるのである。国全体が勝つと信じた戦争に負けたように、国ができるという計画も失敗することがある。郵政省のニューメディア政策はほとんど失敗に終わったことを忘れてはならない。

3)坂本衛の提案

●どう考えても2011年の地上アナログ停波は不可能なのに、そうするという「国策」を掲げ続けるのは馬鹿げている。しかも、不可能な目標を目指してさまざまな政策や対策が打ち出される結果、それがムダ(税金のムダづかい、事業者のムダな投資)になる恐れも強い。現行計画は、今後のスケジュールや進め方や内容を抜本的に見直すべきである。

●見直しにおいては、とくに次の3点が重要である。

(1)見直しを検討する組織に国民・視聴者の立場を代表する者を入れる、国民・視聴者の意向、ニーズ、視聴環境や経済的条件などについて客観的な調査をおこない参考にするなど、これまでの「視聴者不在」を徹底的に改める必要がある。

(2)地上放送のデジタル化は国のIT戦略の柱。放送局やメーカーだけが関与して済む問題ではなく、放送以外のメディア動向も視野に入れた総合的な計画が必要だ。見直しは、省庁の枠を越えたより高次の国家レベルで検討されるべきである。

(3)過去日本では、国の失政や企業の失敗が顕在化する頃には担当者がおらず、誰も責任を取らないまま税金を投入して尻ぬぐいするというパターンが繰り返されてきた(例:ムダな公共事業やバブル崩壊の後処理)。同じことを繰り返えしてはならず、実現不能な計画が立案され国会まで通ってしまった経緯を、真剣に検証し反省する必要がある。

●2003年12月に地上デジタル放送が始まるが、その準備まで中止するのは現実的でない。また、2020〜30年までといった長期レンジで見ればデジタル化は必須である。だが、8年後の〆切は間近すぎるからこれを遅らせ、まだ着手していない項目も遅らせつつ、無理のない(実現可能な、売れる、国民全体が幸せになる)計画を再検討すべきだ。

●マスコミは役所・放送局・メーカーなどの「主催者側発表」をそのまま伝えるだけでなく、国民・視聴者の立場を考えて取材を重ね、正確な実情を報道すべきである。

4)ご参考

GALAC4月号(発売中)に、平井卓也・衆議院議員インタビュー「地上デジタル計画を見直せ!!」(聞き手/坂本)を掲載。

潮4月号(発売中)に、坂本論考「8年後テレビが粗大ゴミ?」(10P)を掲載。

●以下は坂本ホームページ(http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/)でお読みいただけます。Googleの検索窓に「坂本衛」と入れれば出てきます。メールもこちらからどうぞ。

↑10年前に批判したことが、いま確かに繰り返されようとしています!!

以 上

「視聴者不在」厳しく指摘
「東京新聞」(2003年3月8日付朝刊)から

「東京新聞」(2003年3月8日付朝刊)の芸能・テレビ面に関連記事が掲載されました。取材ありがとうございます。次のような見出しで、地上デジタル放送の問題点を指摘しています。おお、岩本太郎も発見!!

白熱!「地上波テレビのデジタル化を考える」シンポ
「視聴者不在」厳しく指摘
国主導に異議、見直し提案
新たな負担、不法廃棄物化の恐れ

白熱!「地上波テレビのデジタル化を考える」シンポ「視聴者不在」厳しく指摘……「東京新聞」(2003年3月8日付朝刊)