メディアとつきあうツール  更新:2005-11-05
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

BSデジタル放送
1000日1000万台が"絶望的"な10の理由

≪リード≫
BSデジタルがついに発進する。地上波、BS、CS三つどもえの多チャンネル時代の到来だ。ところが現実はバラ色とはいえない。「3年で1000万普及」の根拠は、どこをどう探しても見つからないからだ。取材を進めれば進めるほど、不安要素が浮上する。ハード先行ソフト無策、国と業界の都合優先……BSデジタルの厳しい未来を予言する。(「GALAC」2000年12月号 特集「発信!! BSデジタルの『吉凶』」 取材協力/川島正)

≪このページの目次≫

※この文章中「絶望的な理由―6」の「既存のラジオを流すのなら、BSデジタルラジオは無意味で、電波の無駄使い」という主張に対して、新潟の方から「そう言い切るのはいかがなものか」とのメール(2002年12月)をいただきました。ありがとうございます。BSデジタルラジオやBSデジタル放送の問題点をよく示す話だと思いますので、文末の≪付記≫BSデジタルラジオは意味があるか?で触れさせていただきます。(2003年3月)
≪付記≫BSデジタルラジオは意味があるか?へのショートカット

BSデジタル放送2000年12月スタートだが、
先行きは厳しく不透明

 いよいよ2000年12月1日から、BSデジタル放送がスタートする。

 HDTV(BS各社はハイビジョンと称しているが、普及に大失敗して停波の年まで決定済みのミューズ方式ハイビジョンと紛らわしいので、ここではこう呼ぶ)、局によって複数のSDTV(標準画質テレビ)、独立型または番組連動型のデータ放送、さらにBSデジタルラジオと、てんこ盛り状態の発進だ。特集冒頭で紹介したように、各局とも開局記念スペシャルを並べ、表面的には豪華絢爛《ごうかけんらん》)と見える。

 しかし、開局が迫り、実際の放送内容が明らかになればなるほど、BSデジタルの先行きはますます厳しく不透明になってきたと、いわざるを得ない。取材すればするほど、光明が失われていくという印象を受けるのだ。

 郵政省、メーカー、NHKはじめBS新局は「3年で1000万普及」なる何の根拠もない数字を喧伝して前景気を煽ってきたが、これも冗談では済まされない状況になってきた。

 額面通り急速に普及するすばらしいメディアと信じて、高価な受信機セットを購入した消費者が、とんでもない無駄な出費をさせられたと怒り出しかねない事態が、いま進行中である。

 少なくとも、周囲に「BSデジタルチューナーを買おうと思うが」という人がいたら、私は「10万円ドブに捨てる覚悟がないなら、今は絶対に買うな」と忠告する。そのくらい、今回のBSデジタル発進は拙速にすぎるのだ。

 「3年で1000万」など端《はな》から絶望だが、私にはBSデジタル放送というメディアそのものが絶望的ではないかとすら感じられる。

 BSデジタルのテレビ、ラジオ、データ放送などのうち、ものによっては、傷が拡大しないうちに撤退の準備を始めておいたほうがよい。その理由を10項目にまとめて提示しよう。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―1
「高画質」では、テレビは普及しない。

 BSデジタルは、世界に先駆けてミューズ方式(アナログ)ハイビジョンを開発・実用化したNHKを筆頭に、各局がHDTVを流す。

 とくにNHKは「ハイビジョン」を全面的に打ち出し、ミューズ方式ハイビジョンとの連続性を強調する。使う技術は共通でも、伝送方式が異なり互換性がないのだから、かつてのハイビジョンとは別のメディアなのだが。

 民放BSもHDTVを流すが、これはSDTV3チャンネル分のソフトなど到底手当てできないから。アナログハイビジョンに不熱心だった民放は、HDTVにも熱い思い入れはない。

 だからNHKと民放では思惑は異なるが、とにかくBSデジタルの基本はHDTVである。

 しかし、アナログハイビジョンは、国策として推進した郵政省によって「時代遅れ」の烙印を押され、2007年の放送停止が決まった。高画質が最大の売り物だったが、これまでに本来の高画質受像機が100万、NTSC方式に変換して見る受像機が100万しか普及しなかった。日本にあるテレビ受像機は1億数千万台だから、100台のテレビのうち99台以上までがハイビジョンテレビでない。これは、日本の視聴者が高画質に興味がないことを示す有力な証拠だ。

 ベータ方式VTR、LD(レーザーディスク)、S−VHS方式VTRなど、高画質のテレビ関連機器やテープ、ソフトの普及が鈍いことも、視聴者の多くが高画質質に興味がないことを強く示唆する。とりわけS−VHSは、ビデオ録画方式の主流であるVHSと上位互換性があり、価格もそう高くないのに、遅々として普及しない。

 私は高画質は魅力的だと思うから、S−VHSに標準スピードでしか録画しないが、テープがものすごい勢いでたまるのと、録画済みテープを貸しても視聴できない(Sでなく、Sの簡易再生機能もない)VTRを持っている人ばかりなので、困っている。聞くとVHSを3倍スピードで録画する人がとても多い。そんな画質でよく見るなあと思うが、大部分の人はまったく不満を感じていないのだ。

 S−VHSが登場して十数年たつから、BSデジタルを買おうというくらい高画質に興味がある人は、たぶんS−VHSその他の高画質VTRを持っている人に違いないという推論は、ある程度合理的だろう。

 ところが、日本の民生用VTR国内出荷に占める高画質VTRの比率は、93年から99年まで11%から13%の間にピタリと収まる。台数にして53〜91万台(平均74万)。これには、企業や学校の購入分や海外持ち出し分が大量に含まれる。実際に高画質テレビ関連機器を買った人びとの一部が、ぼちぼちBSデジタル受信機に手を出すのだとすれば、結論は明らかだ。

 BSデジタルが流すHDTVの高画質に惹かれる人は、ミューズ方式ハイビジョンを買った100万人をはじめ、毎年数十万人くらいはいるだろう。しかし、それは3年で1000万というような数では、絶対にありえない。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―2
現在の地上波テレビは、十分すぎるほど高画質だ。

 BSデジタルで流されるHDTVの高画質と現在の標準画質テレビの差は、初期のミューズ方式ハイビジョンと当時のテレビの差より、はるかに小さい。このことも、BSデジタルの高画質のインパクトを弱める理由の一つだ。

 ここ10年ほどの技術の進歩――とりわけワイドテレビへのアナログハイビジョン用ブラウン管の使用、ゴーストリダクション技術の進展などによって、テレビの映りはとてもよくなった。家電量販店の店頭で、どれがデジタルハイビジョンでどれがそうでないかと聞かれても、多くの人が判別できないのではないか。

 しかも、BSデジタルはHDTVといってもSDTV素材を変換しただけの番組が多数含まれるから、当然画質は落ちる。フレームの縦横比率が異なるのを変換する違和感が強ければ、メリットはさらに失われてしまう。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―3
チューナーとテレビで50万円は、高すぎる。

 BSデジタルチューナーは、価格10万円程度。パソコン普及機の価格10万円前後や、200チャンネル以上映るCSチューナーの価格2〜3万円と比べると、無茶苦茶に高すぎる。メーカーは「中身は定価十数万円」といい、もともと出血価格だから、一挙に5万円まで値下がりするというようなことは考えにくい。

 しかも、チューナーだけではBSデジタルの最大の売り物であるHDTVを、本来の高画質で視聴できない。そのためのデジタルテレビは30万円とか40万円。すると、BSデジタル放送を楽しむには、ざっと40〜50万円のコストがかかってしまう。

 これをポンと購入できる高額所得者が、200〜300万世帯やそこらいることは確か。どんな家電製品でもすぐ飛びつく層が数十万人ほどいることは経験上明らかだから、その程度までは簡単に普及するだろう。だが、それ以外の人が、たかがテレビに40〜50万円などという巨額のカネを簡単に投じるとは到底思えない。

 ミューズ方式ハイビジョンは、最初の受像機が400万円で、50万円まで下がれば爆発的に普及するといわれた。NHKもメーカーも郵政省も、そう断言していたのだ。ところが、結局は40万円程度まで下がったのに、目立った普及の伸びは見られなかった。

 BSデジタルHDTVは、命脈尽きたそのミューズ方式ハイビジョンと同価格なのである。同じように売れないと考えるのが自然だ。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―4
コンテンツがあまりに貧弱で、魅力がない。

 BSデジタルの最大の問題の一つは、番組などコンテンツの魅力に欠けることだ。

 受信料6500億円で運営される世界最大の放送局NHKはひとまずおき、民放各局は地上波との競合を避けて、地上波と異なる内容の番組をHDTVで流す。

 当然、1000万世帯以上がチャンネルを合わせるような見応えある番組は、民放BSには流れない。それはスポンサーがつく地上波に回す。たとえば日テレは、最強のキラー・コンテンツであるジャイアンツ戦を流さない。

 各局は社員50人ほどの小さな所帯だから番組制作力は皆無に等しく、番組は系列(地方やCS)から調達するか、海外などから買うか、制作プロダクションに発注するかしかない。

 しかも、最初は視聴者ゼロ。視聴者が100万人に増えても、どこかの地方局がカバーする程度の数だ。その段階でBSデジタルを見るのは余程の金持ちだから、スポンサーによってはそれなりの金額を払うだろうが、それも高が知れている。「単位時間当たりの制作費は、BSデジタルが地上波の10分の1、CSデジタルが地上波の100分の1」(あるキー局関係者)が相場なのだ。

 すると、ソフト購入といっても、あまりよいものは買えない。外注番組も、ギャラが高いタレントは使えないからドラマは諦め、あちこち取材しないで済むドキュメンタリー、スタジオで知名度の低いタレントを使う情報番組などが中心になる。しかも同じ番組を繰り返し放映せざるをえない。これではCSから姿を消していったいくつかのチャンネルと同じではないか。

 しかも、CSは「専門性」を売り物に生き残る余地があったが、BSデジタルはファミリー視聴が前提。だから、家族そろって見るとは到底思えない骨太の二時間ドキュメンタリーがゴールデンタイムに流れるというような、中途半端で、狙いの定まらない編成になっている。

 以上は有料放送のWOWOWとスター・チャンネルでは事情が異なる。また、受信料で運営され、デジタルBSにそもそもいくら投じるかすら明確に算定できないNHKも、大きく事情が異なる。NHKだけは、地上波と遜色がないか、場合によって地上波以上に付加価値(高画質、優先放映、データサービス付きなど)をつけた番組を流すことができ、コンテンツが貧弱とはいえない。もっとも、NHKと民放は視聴者層も番組テイストも異なるから、互いに補い合う関係にはならないのが辛いところだ。 

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―5
局数で最大勢力となった民放BS局に「ヤル気」がない。

 これは、前項と半分重なる話である。

 そもそもBS放送は、78年に八チャンネルを使うと決まって以来、民放が盛んに参入を画策してきた。だが、民放が乗りたかったのは、NHKが苦労して獲得した視聴世帯何百万かつきのアナログBS。視聴者つきだから魅力を感じたのであって、視聴者ゼロのBSデジタル、それもコストのかかるHDTVなど、全然ヤル気はなかった。

 それでもBSデジタルに出た理由は、局以外の強力な競争相手が参入するよりはマシというたんなる「席取り」。だからキー局は「死んだふりをしろ」と指示を出す。各社250〜300億円程度積んだ資本金は、最初から食いつぶす予定の「席料」なのである。

 各社の予定では、毎年70〜80億円を使うことになるから、早ければ3〜4年で資本金が底をつく可能性がある。そのときどうするか。

 撤退すれば新たな競争者が登場して、過去の投資が無駄になる。増資して持ちこたえるなら、さらにカネが消えていく。進んでも退いても、民放BSにバラ色の未来は描けそうにない。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―6
BSラジオはソフトが壊滅状態。しかもテレビと両立しない。

 BSデジタルラジオはコンテンツがあまりに乏(とぼ)しい。各局は、既存ラジオ局やレコード会社などに、ほぼ丸投げ状態でスタートする。

 既存のラジオを流すのなら、BSデジタルラジオは無意味で、電波の無駄使いである。レコード会社に丸投げする局がCDをタレ流すことになれば、すでにCSでスターデジオが100チャンネルを放送しているから、これまた無意味。しかも、CDのタレ流しは訴訟案件になっており、レコードの二次使用料など著作権料の高騰を招きかねない。

 さらにBSラジオは、中身は既存ラジオと同じでも、10万円也のチューナーと数十万円也のテレビの電源を入れ、テレビのスピーカーで聞くから、電気代だけでも大変な無駄。当然いつもテレビを見る位置で聞くわけだが、そんなラジオが普及すると思うのは、まったく馬鹿げている。暖炉の上のラジオを皆で聞いたルーズベルト大統領の時代とは違うのだ。

 もしそんなものが普及するなら、セイント・ギガの失敗はなかっただろうし、第一メーカーが(液晶・携帯型以外の)既存テレビに、AMやFMラジオを組み込むはずではないか。

 BSラジオ局からは「到底やっていけない」という声が続出している。「2〜3年もやったら撤退して、空いた電波は容量が足りないらしいデータ放送に回せばいい」とは、某局担当者の本音。BSラジオの将来に明るさは見えない。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―7
データ放送はバグだらけ。見通しも不透明すぎる。

 BSデジタル放送の売り物の一つであるデータ放送にも、問題が山積している。

 放送局とメーカーが作る「受信機テストセンター」で試験放送を受けて検証するのだが、チューナーの仕様が少しずつ異なるうえ、突貫工事で開発したソフトウエアには不備が多く、次から次へとバグが噴出している状態だ。

 しかも、BSデータ放送に使う特殊な言語を使える技術者と、その技術者を擁する会社の絶対数が不足している。バグ取りが間に合わないどころか、データ放送を開局時に始められないところも続出。

 局によっては容量が足りず、マーケティング調査やバンキングなど予定のサービスができない恐れが出てきた。道幅が2.5mと思って幅2mのクルマを設計していたら道は1.8mだったのと同じで、設計のやり直しが必要。呆れて降りる出資者すら出かねない状況だ。

 出張先の天気を知るのに、郵便番号簿で調べた郵便番号をリモコンで打ち込むというような使い勝手の悪さも、到底実用には耐えない。

 今後、登場するであろうデータ放送が、まだどういうものかもわからないから、今発売中のチューナーで受かるかどうかも確信は持てない。

 明らかに不具合があるというチューナーも見つかり、メーカーでは1台につき1万円のコストをすでに見込んでいる状態だ。

 私の持っているデジタルCS受信機は同じ型の3台目。2台は初期不良でメーカーが交換した。3台目のときは「店頭展示品でいいから、しばらく受信や操作を繰り返して、これなら大丈夫という製品を持ってきてくれ」と頼んだ。

 BSデジタルチューナーは、CSの何倍か複雑な機械のはずである。何度も交換する労を厭わない人以外は、半年か1年は絶対に購入しないほうがよいと警告しておく。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―8
CATV加入者が、BSデジタルを視聴できない。

 日本最大のCATV統括運営会社、ジュピターテレコムの石橋庸敏CEOは「BSデジタルはケーブルでも見られるようにする」と明言していた (「GALAC」2001年10月号)。

 CATVの衛星(BS、CS含む)デジタル放送の伝送方式は三つあるのだが、一つはケーブルを素通りするので、事業者が視聴情報を把握するといった旨味がない。一つは高い。そこで「64QAM方式によるトランスモジュレーション」という方式の導入が検討されてきた。これだとチャンネルあたり400万円と加入者の端末1台あたり数万円のコストで済む。

 しかし、最近になって雲行きが怪しくなってきた。ジュピターテレコムが、これまでの計画を翻(ひるがえ)し、しばらくは様子見という判断を固めたのだ。2001年末に予定される次期CS(東経110度に打ち上げ、BSと共通のパラボラで受かる)をにらんでのこと。最大手の方針転換に、他社も追随するものと見られる。

 現在、アナログBSを見ている世帯は約260万で、全体の4分の1。これが当面はBSデジタル対応にならないのは、大きなつまずきである。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―9
BSデジタルの予想外の弱点が露呈されてきた。

 BSデジタルは、アナログBSのパラボラアンテナで十分映るといわれていたが、そうでもないらしいことがわかってきた。アンテナ径やアンテナ線、地域的な条件によっては、視聴者は新たな出費を強いられる。

 また、デジタルだから、降雨減衰《こううげんすい》が著しい。ある電気店でNHKのBSデジタル実験放送と既存のBS放送を並べて放映し、違いをデモンストレーションしようとしたら、デジタルはモザイク状の画面になり、そのうち映らなくなったという。アナログBSは画質が悪くなったが映っていた。アンテナと衛星の間にあった雷雲や強い雨が原因だ。デジタルはアナログに比べて極端に画質が落ちてしまう。

【BSデジタル1000日1000万】絶望的な理由―10
視聴者は、もうこれ以上テレビを見る暇がない。

 地上波、アナログBS、デジタルCS、レンタルビデオ、ビデオカメラ、LD、DVD、テレビゲームなどは、すべてデジタルBSのライバル。地上波を除けば、最大の驚異は二百数十万まで普及したCSだ。受信機が安く、200チャンネルから好きなものを選べる魅力は大きい。パソコンや携帯電話によるインターネットも、データ放送の強力なライバルだ。

 こうしたメディアが家庭にあふれ、しかも、趣味、スポーツ、旅、ボランティアなどが、ますます重視される世の中になってきた。いくら高画質チャンネルが増えても、視聴者にはテレビを見る暇はないのである。

≪付記≫BSデジタルラジオは意味があるか?

新潟のBSデジタルラジオ聴取者からの意見(要約)

 BSデジタルで既存のラジオを流すのは電波の無駄づかいというが、はたしてそうだろうか? BSデジタルラジオ、中でも文化放送のディレイ放送(BSQR)は、私にとっては大変に嬉しいもの。地上の文化放送は、区域外の新潟ではかなり減衰しフェージングが激しいうえ、韓国KBSが同周波数1134KHzで出力5倍(QR:100KW、KBS:500KW)の放送をしており、聞きたくてもほとんど聞けない状態。番組を通じて知り合ったリスナーの友人にも、AMラジオのディレイ放送を喜んでいる人が非常に多い。

 BSデジタルは全国放送であり、ラジオもテレビでも地方在住の人間が真っ先に期待したものの一つが関東ローカル番組のディレイ放送だ。地上波番組のディレイ放送を聞くためにBSデジタルチューナーを購入した人は、地方には確実に存在する。それなのに「電波の無駄」と言い切るのは、地方のリスナーや視聴者を無視することにならないか。

 関東キー局全国放送のテレビ番組で台風報道を流したとき、台風が東北に抜けた時点でアナウンサーが「台風が去りました」と報じたら、北海道の人が「これから来るんだよ!」とクレームをつけたことがある。とかく関東の人間は、関東のことしか眼中にない発言をする傾向があるようだ。

 BSQRのラジオ番組でも全国区放送であることを忘れ、関東ローカルの話題(ディスカウントショップ「ドンキホーテ」の話)で最初から最後まで盛り上がり、地方リスナーが置き去りにされ、「なにをやっていたのかわからない」というハガキが大量に届いたことがあった(終了したが「Haruna eyed view」という番組)。地方のニーズをちゃんと考えてほしいものである。BSQRオリジナルコンテンツは減少の一方、ディレイ放送や音楽を流すだけの番組が増えていることにも、AMラジオリスナーとして危惧の念を抱いている。

注)以上は坂本による要約です。メールでは住所氏名を名乗っておられますが、ここでは公開しません。この方への返信をもとに、一般向けに書き直したのが以下の見解です。

以上の意見に対する坂本衛の見解

 「全国波のBSデジタル放送に、関東ローカル番組が流れることを期待する地方の人がいる。そのニーズに応える放送を『電波の無駄づかい』と言い切るのはいかがなものか」との趣旨はよくわかる。しかし、そのニーズに応えるために、わざわざハイビジョン規格のBSデジタル放送をやるのであれば、まさに「電波の無駄づかい」だ。新しい機器を買わずにすむアナログの電波でやればよいからである。

 BSデジタル放送は、そのような地方のニーズなど考えていない東京キー局が、ただ衛星波を自分の系列で占有したいという理由から始めたこと。そこにオマケのようにデジタルラジオがつくことになった。しかし、流すソフトがないから、穴埋めのため、何も考えずに「ありもの」や「手抜き番組」を流す。広告も取れないから制作費を削り、音楽だけを流してお茶をにごす。――そんな放送局のやり方は(始める前から)おかしいと、私は批判している。何も考えず「ありもの」を流した結果、地方に「それこそ待ち望んでいたソフトだ」と受け止める人が当然いるわけだが、だからといって、放送局が何も考えずにやっていることがよいことだという話にはならない。

 この「BSデジタル放送1000日1000万台が”絶望的”な10の理由」は、BSデジタル放送が始まる前に書いたものだが、総務省・全メーカー・全放送局の見込みはハズれ、普及の現状は私の予想通りの展開。すでにBSデジタル局は(NHKを除き)「独自では成り立たないから、キー局で面倒見てくれ」と泣きついている。BSデジタルラジオも「もうからない」という理由で撤退する局が、いつ出てきても不思議ではない。そうなれば、東京の番組を楽しみにチューナーを買った熱心なリスナーを裏切ることになってしまう。そんな危ない計画を無定見に始めたことこそ、「電波の無駄づかい」だと私は思う。

 私は東京・神楽坂の住人だが、何年か前、大阪に出張していたときのこと。ある朝NHK7時のニュースをつけたら「首都・東京に大雪」がトップ項目で、東京の人間である私ですら、朝っぱらからこんなニュースが全国でトップに流れるのでは、地方の人はたまったものではないなと思った。また、地方で東京の番組にアクセスできないのとは逆に、東京で地方の良質なドキュメンタリーを見ることができないといった問題もある。

 こうした東京キー局と地方局の問題は、日本のテレビにおける大問題の一つ。東京一極集中と地方という日本全体がかかえる大問題でもある。放送分野では、経済が悪く、しかもお先真っ暗の地上波デジタル化投資を始めたため、経済力が段違いのキー局主導が強まっており、地方が東京に振り回されているのが現状。地上波デジタル化でも、地方切り捨ては今後の大問題として必ず浮上する。なにしろ現在の見通しでは、全国4700万世帯のうち2割近くの世帯(大都市圏から離れた地方が中心)に、デジタル地上放送(NHKを除く民放のもの)を届ける手段が見つからない!!からである。そんな話は聞いたこともないという方が多いだろうが、NHKや民放連や総務省の担当者はわかっている(が言い出せないでいる)。そのうち新聞が気づいて書きはじめるから、見ているといい。

 それでも国や放送局は「2011年に地上アナログ放送を止める」と言い張っているのだから、常軌を逸した馬鹿げた国策としか論評しようがない。仮に現時点でBSデジタル放送を打ち切っても、迷惑がかかるのは100万世帯余り(それでも地上放送は映る)。しかし、2011年段階でアナログ地上放送を打ち切れば、(全世帯が対応する受信機を買ったとしても)数百万世帯に迷惑がかかる(地上放送が映らない)。もちろん、全世帯が対応する受信機を買うはずもなく、受信できる世帯は日本全国では少数派にとどまる。多数派を無視できないから、2011年に地上アナログ放送を止めることはできない。地方の視聴者を切り捨てているのは誰なのか、おわかりだろう。(2003年3月記)

≪付記の付記≫BSデジタルラジオ撤退へ(2005年11月)

 2005年9月末、19チャンネルあったBSデジタルラジオ(静止画をつけることが可能)のうち10チャンネルがひっそりと放送を終了した。

 終了したのはBS日本ラジオBS朝日ラジオBS-iラジオBSジャパンWOWOWデジタルラジオ(テレビ系の各2チャンネル)。なお、JFNは2005年11月末、ニッポン放送や文化放送なども2006年3月をメドに撤退する見込みだ。

 既存のテレビ局やラジオ局が片手間かオマケのようにやったラジオには、スポンサーが付かず、客もつかなかったわけである。私は、これは総務省(旧・郵政省)の失政(免許方針の失敗)であり、電波のムダづかいであったと断言する。

【参考リンク】
BSデジタルラジオの部屋