海風通信 after season...

FLIGHT RECORDER #004 『海蛍島と風の塔』

FILE No.062-17.11.30


▲将来、海上飛行場「海蛍」となるか?
現地調査日:2017年11月19日
対象所在地:東京湾(川崎〜木更津間)
調査の目的:木更津人工島・川崎人工島の上陸及び内部見学。
備    考:カブのイサキ第12話『海蛍』・第32話『須走』参照のこと
        東京湾アクアライン開通日は1997年12月18日。

◆海ほたるPA&風の塔クルージング

 『カブのイサキ』のみならず、『ヨコハマ買い出し紀行』に於いても西関東海(東京湾)の特徴的なランドマークとして、ひっそりとその存在が確認されていた「海蛍島」。現実世界ではもちろんあの「海ほたるPA(パーキング・エリア)」がモデルであり、いつかは訪れてみたいと思っていたのですが、東京湾アクアラインって小さなスクーターは通れないんですよね。通行料もそれなりにするし、どうしようかなぁ?と躊躇っていたら、いつの間にやら早や20年(!?)が経ってしまいましたよ!なんと2017年12月18日で開通20周年を迎えるそうです。いやぁ、時が経つのは恐ろしく速いですねぇ…。
 この20周年記念イベントとして、『NEXCO東日本』が海ほたるPAから出航するクルージング・ツアーを開催するという情報をいただきました。洋上から海ほたる全景を至近に撮影できる貴重な機会だということで、即決で参加を表明。ついに「海蛍島」行きが現実のものとなりました。
▲ツアーで配布された資料や記念品。 ▲海ほたる展望デッキから見る特徴的なロード・ライン。
 ツアーの集合場所はJR東京駅にほど近い鍛冶橋駐車場から。ここよりバスに乗り込み、すぐさま京橋インターから高速道に乗ると、レインボーブリッジを通って川崎方面へと向かいます。考えてみたら、レインボーブリッジを渡るのも私にとっては初めての経験。つくづく都会のスポットに興味がないんだなぁと実感させられます。あ、そう言えば、橋上より彼方に見える東京スカイツリーもまだでした…。
 余談はさておき、このバスの車内では、東京湾アクアラインの簡単な概要を説明したビデオが上映され、参加者には資料や記念品などが配布されます。内容は上の写真にあるように施設ガイドやリーフレット・NEXCOの発行している情報誌・ポッキーにクリアファイル・ボールペン、これに施設内のカフェで使用できる「メロンパン引換券」が付いてきました。中でもポッキーは、ちょっとレアかも?実は海ほたる内の売店では、『海ほたる限定ポッキー』なるものも売られているのですが、アレとはちょっと違う非売品のモノなのですよ。このツアー、NEXCO東日本の主催する特別な記念イベントということで、参加費だけでも破格のお得な料金なのですが、こんなオマケまでつけてもらえるとは嬉しい限りでした。

 川崎浮島から長い長い海底トンネルを抜けると、そこはもう「海ほたるPA」。…辿り着いた感想は、なんかフツー?駐車場内に降りてみると、いわゆる一般のサービスエリアの雰囲気とあまり変わらないように感じます。まぁ、自分の運転で来ていないという思い入れの違いもあるかも知れませんね。
 施設は1F〜3Fまでが駐車場、4F・5Fがショップやレストランなどの休憩施設となっている多層構造型パーキング・エリア。島そのものは「木更津人工島」と呼ばれ、その上に建つのが「海ほたるPA」というわけです。木更津人工島などというと、『劇場版・機動警察パトレイバー』の一コマが思わず頭に浮かび、「ここがバビロン・プロジェクトの足掛かりに…」などとコメントしてしまいそうですが、きっとコレ、今までの20年間にも数多の人々によって話題にされてきた鉄板ネタなんでしょうねぇ。しかも恥ずかしながら木更津人工島がホントにあるなんてことも、今回のツアーで初めて知りましたよ。
 1時間の施設内自由行動が与えられたので色々と廻ってみると、やはり5Fからの展望デッキの眺めが素晴らしいです。周辺がグルリと一望でき、ここが東京湾のド真ん中にあるのだということを再認識させられます。改めて自分が、「海ほたるに来た!」ということを実感できる場所でした。
 湾内をグルリと見回すと、川崎側の洋上に不思議な三角形の構造物が浮かんでいるのが分かります。それがまさしく「風の塔」、今回のクルージングで向かう、普段は立ち入ることのできないもう一つの目玉スポットでもあるのです。それでは風の塔を目指して、いよいよ洋上へと出航しましょう!
▲防災護岸より船へと向かうツアー参加者たち。 ▲今回使用される船。ちなみに艇名は仏語表記です。
 スタッフの指示に従い、関係者以外は進入できない防災護岸の船着場へと案内されると、そこには今回のツアーで乗船するクルーザーが停泊していました。船名は『OCEAN BLEU(オセアン・ブルー)』。なかなかにオシャレな船なのですが、今回の一番の目的は洋上からの風景撮影でしたので、船内見学や優雅な雰囲気(!?)に浸るのはあえてスルー。真っ先に二階オープンデッキの最後部に向かい、ベストな撮影ポジションを確保しました。
 やがて参加者全員が乗り込むのを確認すると、船は速やかに離岸し、まずは木更津方面へと東進します。
 船上デッキより見渡す「海ほたる」のアングルは、人工島の上に建つPA、そして滑らかなアーチを描く木更津側の橋梁部と、まさしく「これですよ!」という想像通りの洋上風景をマクロに展開して行きます。きっと「海ほたる」に初めて来る人がイメージとして思い描くのは、こういう外観から見る全体像(もしくは上空からの俯瞰像)なのではないでしょうか?私も予想通り…と言うか予想以上の光景に見惚れてしまい、それ以降、デッキから片時も離れることが出来なくなり、結局は一度も船室内に入ることはありませんでした。
▲海ほたるPAより、いざ出航! ▲アーチを描く高架道路と海ほたる。これが見たかったです!
 船は橋脚最高所のアーチの真下をくぐり、今度は風の塔方面へと進路を西に向けます。再び迫り来る、別アングルから見る「海ほたる」。もう、これでもか!と言うくらいに全方位から「海ほたる」外観を堪能させてもらいました。まさに「東京湾に浮かぶ豪華客船」というキャッチコピーは、ここからなら充分に頷けますね。全く見飽きることもなく、ふと背後を振り向けば、いつの間にやら風の塔が眼前へと異様かつ偉容たる姿を現していました。
▲海上に異質な存在感を見せつける風の塔。 ▲いよいよ、風の塔の立つ「川崎人工島」へ上陸!
 海上に固定されたかのように浮かぶ円柱台座の上に、ヨットの帆を模した2本の三角形構造物。「風の塔」は、東京湾アクアラインの海中トンネルへの給排気を制御する重要な施設で、当然のことながら関係者以外立ち入り禁止区域。見学も稀に行なわれてはいるものの、それとて関連分野の視察会のような形をとっているので、一般の人が立ち入れる機会はなかなかないのです。
 今回、この風の塔に上陸し、施設内部まで見学させてもらえるというのが、ツアー最大の主目的でもあります。開通10周年記念イベントのクルージングでは風の塔への上陸は無かったので、「海ほたる」&「風の塔」W上陸というのが、『初』の企画ということになるわけですね。
▲白と青の閉鎖された世界を、人々は歩いていく。 ▲大塔の施設管理用扉から、内部へ。
 工事現場の作業デッキのような船着場に着岸し、直下の海が透けて見える網目状の武骨な階段を上り詰めると、そこには真っ白なコンクリートの床面が円形状に広がっています。この真円に近い陸地が「川崎人工島」、その中心に聳える2本の換気塔が「風の塔」です。塔は微妙に大きさが違い、大塔が90m、トンネル内へ新鮮な空気を取り入れ(給気)、小塔は75mで、汚れた空気を外部へと送り出す(排気)を行なう施設だそうです。
 施設係員の方の簡単な説明が終わり、いよいよ風の塔内部へと向かいますが、その移動光景もなんだか浮世離れしていて、すごく不思議な感覚を覚えます。真っ青な空に白い地面、奇異な建造物、空には数分と置かず飛行機が飛び交い、周りは360度全部海…。そうした中を、人々がゾロゾロと中心部へ向かって歩いていくのです。この雰囲気、少し例えは強引かも知れませんが、『カブのイサキ』で「須走」から富士山頂へ向かう道中の、得体の知れない施設に案内されて行く、イサキたちが抱いた感覚に近いものがありました。
 「明るいけど なんか ここ……」「うん……不気味だ」……あんな感じ。でも、その思いもやがて好奇心と興奮が勝ることになり、いつの間にやら都合良く忘れることができていました。そして大塔(給気塔)の足元に設けられた管理用の扉に辿り着くと、いよいよ内部潜入です!
▲突然ライトアップされ、塔内部の全貌が浮かび上がる! ▲映像資料の上映と説明会。
 換気塔内部はかなり暗く、先ほどの扉入口から差し込む陽の光だけを頼りに奥へと案内されます。小さい女の子などは入るのを躊躇うほどでしたが、実はこの暗闇は演出の一つでした。ツアー参加者全員が内部に入ったのを確認すると、一気に塔の内部全体がライトアップされるのです!頭上の空間が突如として浮かび上がり、その視界は遥か90m直上にまで拡がります。骨組みが網籠状に上へ上へと連なり、その構造はさながらカイロウドウケツの内部にいるかのよう。思わず参加者一同、「おおおぉっ!」と声を漏らさずにはいられないサプライズでした。
 ここで再び技術記録映像の上映会があり、その後に風の塔概要の説明を聞きました。そもそも風の塔がこんなに奇抜な形状・配色をしているのは、航海・航空交通における、安全上の視認性を高めるためだということです。確かにこのストライプ柄は目立ちますもんね。デザインに携わったのは、日本画家の平山郁夫氏と彫刻家の澄川喜一氏。そしてこの微妙に斜めに傾いた不安を覚える形状にもちゃんと理由があり、給気側は風を取り込みやすい方向に、排気側は汚れた空気が塔外壁に纏わり付かぬよう拡散させるため、ベルヌーイの定理に基づいた流体力学によって計算された構造になっているそうですよ?…良く分かりませんが、オナラが自分周辺に漂わぬよう、角度を計算して放出するようなものですかね?(違います。)
 その他、風の塔のある川崎人工島と海ほたるのある木更津人工島は建設工事中、海底トンネルをシールドマシンで掘進工事する際のマシンを搬入する発進立坑として活躍していたなど、興味深い話もたくさん聞けました。しかし塔の内部探検はここまで。もうちょっと上のほうまで上らせてくれるのかな?とも思いましたが、残念ながらそれはありませんでした。まぁ高所恐怖症だし、「上って良いですよ」と言われても、それはそれで戸惑うだけなのですが…。でも、海底トンネルへと続く地下ルートへは、ちょっとだけ行ってみたかったかなぁ。
▲風の塔全景。大塔下部に内部へと入る扉が見える。 ▲さよなら、風の塔。また来る時はあるだろうか?
 説明会が終わると30分程度の時間が与えられ、塔内部以外の人工島内を自由に行動できるようになります。とは言え、真ん丸の屋上みたいな白い地面しか無いため、特に何をすることも出来ないのですが。参加者の皆さんは色々なアングルから風の塔の写真を撮ったり、360度に展開される湾岸の都市風景を眺めたりしながら、思い思いの時間を過ごします。私は海風によって錆び付いた風向計や用途不明の機器などの写真を撮って、「ヨコハマ的だなぁ」などと感じながら、意味もなく丸い島をグルっと一周ジョギングしてみました。(ホントに意味ないです。)
 やがて集合時間となり、いよいよ風の塔ともお別れです。
 船に乗り込み、遠ざかっていく風の塔を見続けながら、「いつか再び、この島に来れる日があるのだろうか?」と考えると、不思議な気分になりました。たった今、上陸していたばかりなのに、すごく遠い場所のような感覚。やはり現実味が感じられない島なのですね。上陸して施設内部まで入らせてもらったとは言え、上方へも地下にも行けない(案内されない)ことが、かえって神秘性を増したようにも思います。
 そんな気持ちのまま、再び近づきつつある「海ほたる」を視認できるようになると、なんだかホッとさせられました。晩秋の早い日暮れが黄昏色に「海ほたる」を染めた姿は、私にとって、既にちょっと懐かしいという感覚に変わっていたのです。2時間ほど前に初めてその実物を見たばかりだというのに、ヘンな話なのですけどね。
 今から20年後、「海ほたる」や「風の塔」は、どのような変化を遂げているでしょうか?まさか飛行場になるとは思えませんが、幻の構想になりつつある鉄道トンネルなどが着手されていると、それはそれでロマンですよね。
 未来世界の「海蛍島」に想いを巡らせつつ、その時が来たら、またこの地を訪れてみたいと思うのでした。
▲黄昏色に染まる「海ほたるPA」。 ▲南側面全景。建物部分は作中の「海蛍」と良く似ている。