海風通信 after season...

FLIGHT RECORDER #006 『鋸山・垂直の峰』

FILE No.064-22.06.07


▲ここ この山の形わかる? ここを目がけて配達して
現地調査日:2022年05月24日
対象所在地:千葉県安房郡鋸南町鋸山
調査の目的:カナヤさんの山小屋探し・車力道、最古の登山道ハイク
備    考:カブのイサキ第15話『給水塔山』参照のこと


◆飛んで行く(!?)より、歩いていこう。

 鋸山といえば関東首都圏からも気軽に行ける観光地として、学校の遠足や町内会の旅行等で訪れたことがある人も多いことでしょう。ロープウェイや『地獄のぞき』、日本寺の大仏や石切り場跡の絶壁などは、すぐにそのイメージが想起できるかと思います。
 けれど今回注目するポイントは、このテッパンの観光エリアの周りに拡がる、『ちょっと知らない鋸山』にスポットを当てていきます。まぁ『ちょっと知らない』とは書きましたが、登山者の人にとっては有名すぎるくらいなのですけどね。私も以前からロープウェイ以外で鋸山にアプローチするルートがいくつか存在することは情報を得ていたものの、実際に歩いてみて、こんなにも変化に富んだ楽しいコースであるとは思いもしませんでした。
 今回、登頂に向けて選択したコースは『車力道(しゃりきみち)コース』『石の階段コース』。『石の階段コース』は後述する問題箇所によりおススメはできませんが、『車力道コース』は多少なりとも山歩きの経験があり、健脚であるなら是非とも行きましょう。カブのイサキに興味が無くとも、また曇天で山頂からの眺望に期待がまったく持てなくとも、このルートならいろいろと見て回れます。実際、私は日本寺エリアよりもこちらのほうが全然興味深く、また楽しみながら歩くことが出来ました。
 では、お馴染みのフィールドである三浦半島・久里浜港より東京湾フェリーに乗り、いざ鋸山へと向かいましょう!
▲この日のフェリーは、ほぼ貸し切り状態!デッキ独り占め! ▲上写真の★部分の拡大。『地獄のぞき』直下の絶壁あたり。

 鋸山はそれほど標高もなく簡単な山に思われがちですが、実は意外と紛らわしい道も多く迷いやすいので、観光案内所で詳しい資料を入手しておくことをお勧めします。ちなみに鋸山の山頂って、観光用のと本来の山頂とで2つあるって知ってました?観光気分の浮かれた服装で来た人が「よし、本当の山頂にも行ってやろう!」と思ったらもう大変、『地獄のぞき』どころか相当の地獄を見ます。グーグルマップの投稿画像とかにもいろいろとカン違いしてアップしている人もいるくらいなので、くれぐれもご注意を。
 このように、旅行パンフレットではたいていがロープウェイや車で山頂まで来ることを前提に作成されているので、登山道はものすごくアバウトに表記されています。できれば、事前にルートトレースをしっかりとして臨んだ方が無難と言えるでしょう。
 というわけで、細かいルート分岐の詳細は地図にお任せするとして、さっそく車力道コースの入口からスタートします。
 四角く切り出された岩が石畳のように並べられた山道が現れてくると、そこが車力道の始まり。かつて鋸山の頂上付近で切り出された石材を運び下ろすために使用されていた道です。『車力』とは、この石を運び出す人たちのことを言い、主に女性の仕事でもあったようです。「ねこ車」を使い石を運んだというその作業は、大変な重労働であったことでしょう。石畳はその摩擦で角が取れ、轍に沿ってスベスベになっていました。
 先人の苦労を偲びつつ登り詰めていくと、不意に『猫丁場』なる案内板が目に入ってきました。なんだか面白そうなネーミングなので立ち寄ってみることにすると、そこはちょっと小ぶりの石切り場跡といった感じ。どん詰まりから海側を振り返ると、そこには小さなトンネルと、その奥に何故かハート型にくり抜かれた岩窓が。これって一体何なのだろう?まさかカップル寄せに安易に作られたモニュメントではあるまいな!?猫要素まるで無いぞー!時間返せー!
 一人憤慨しつつも、何気に石切り場中央に詰まれた石組みに神秘性を感じ、手を合わせていると、なんとなく誰かに見られている感じが・・・。ふと前方を見つめると、そこにはなんと岩壁に彫られた猫の彫刻が!あぁ、これだったのかー。(←矢印とか解説とか出しといてくれよー。)危うく気づかずにスルーしてしまうところでした。ふぅ、ちゃんとお参りしといて良かった。やっぱり敬虔なる気持ちって大事ですね。


石畳が敷設された車力道
新スポットである『猫丁場』
何故にハート??
猫のレリーフ

 この『猫丁場』は2021年7月に一般進入許可が下りたばかりの新スポットだということで、それまではガイドツアーに参加しなければ見られない制限エリアだったようです。(だから解説板とかの整備が未だになされていないのかも?)猫の彫刻は石切り職人が遊び心で彫ったもので、鋸山の岩壁にはこの他にもいろいろと絵や文字やらが彫ってあるそうです。これらを探し出してみるのも、面白いかも知れませんね。
 さて、登山はまだまだ序盤・・・ですけれど、ここでまたまた寄り道。車力道コースから少し外れるのですが、『地球がまるく見える展望台』という魅惑的な名前に負けて、本来の鋸山山頂方面へと向かう山道コースへと進路変更をしました。
 ただしこれは、ハイキングコースのような生半可な考えで行くと後悔します。と言うのも、途中にある『絶壁階段』という場所が、もう足の力だけでは到底上がれず、両腕の引き上げる力で補助しなければならないほどの急な階段なのです。難易度はそれほど高くないものの、私はこのコースの情報をまったく用意していなかったので、「いったいこの急階段がいつまで続くのか!?」と不安になり、何度か引き返そうと思ったほどでした。
 苦労して登り詰めれば、そこにはかなりの広視界の展望台があらわれます。たしかに素晴らしい、おそらく鋸山イチの眺め・・・なのだと思いますが、実はこれから向かうコース途中から見える眺望と比較して、劇的にスゴイ!というほどでもないのですね。なのでここは無理に寄り道して来なくてもいいかも知れません。さらにはこの先にある本当の鋸山山頂においては、ここよりも眺めがいいわけではないという登山者の声を聞いていたので、時間節約のためにも本当の山頂行きはスッパリと諦めました。厳密にいうと、これは作品舞台地探索レポであって、登山が主目的というワケではありませんからね。
▲絶壁階段を上り、『地球がまるく見える展望台』到達! ▲展望台からの眺め。東京湾フェリー同士の航跡も見える。

 さて、もと来た道を引き返し、分岐点から車力道コースの観光用山頂方面へと合流します。
 ここからは垂直の岸壁が間近に迫り、このコースの真骨頂ともいうべき魅力的な行程となってきます。『吹抜洞窟』・『観音洞窟』・『岩舞台』といった石切り場跡が連鎖的に展開され、気分は密林のなかの古代遺跡を彷徨っているかのよう。途中、掘削跡の溜水のような池に、何故か緋鯉が優雅に泳いでいるのには笑ってしまいましたけど。何なんだろう?誰かがここまで持ってきて放流したのかな?
 これらの石切り場のどれもが、ほぼ自由に近付けるというのがスゴイですね。「ここは危険だからダメ!」「ここは見せたくないからダメ!」「もうとにかく責任取りたくないから立入禁止!」みたいなものがあまりないのです。(←多少はありましたよ。)あくまで登山者のモラルに任せているのか、はたまた事故ったら自己責任・自業自得なのかは判然としませんでしたが、とにかく自由に動けるというのがすこぶる楽しい!(※もちろん、常識の範囲内で!)ここらへんが鋸山ハイクのリピーターを増やしている理由なのかも知れません。なんか、隠しルートのようなバリエーション・コースが沢山あるような感じがして、思わず開拓心をそそられるのですよ。『猫丁場』なんかも、かつてはその一つだったのでしょうね。


密林のような石切り場跡
掘削跡の水溜まりには鯉が!
石切り場跡(観音洞窟)
岩舞台と呼ばれる場所に着く

 そんな石切り場跡の中でもとりわけ目を惹いたのが、『岩舞台』でした。ここ、山行前に何の予備知識も持たずに行った(実は全く期待も注目もしていなかったのでノーチェックだった。)ので、この場所に出くわした時には、殊更の感動がありました。
 「おぉ!失われた天空の古代文明がここに! すごいぞっ! ラピュタは本当にあったんだ!」・・・って、当方『天空の城ラピュタ』はほとんど観たことが無いのに、思わずこんな言葉を発してしまうほど。そこは山頂付近に明るく拓けた大空間に、かつて使用されていたであろう採石用の機械や重機が錆び付き・朽ち果てながら佇む、冒険映画の舞台のような場所でした。ここは子どもとか連れてきたら、本気で喜びそう。私も小学生時代に鋸山を訪れたことがあるのですが、その時は大仏と地獄のぞきと、もうやたらと階段!くらいしか印象に残りませんでした。ここに来ていたら、きっと思い出も変わっていたことでしょうねぇ。
▲『岩舞台』の全景。 写真が下手過ぎてあまり良さが伝わらないでしょうけど、そのロケーションは感動的なほど!

 余談ですが、「ラピュタは本当にあったんだ!」という言葉を何故鮮明に覚えていたのかは、どうやら当時、テレビでジャンジャン流されていた清涼飲料水のCMに影響を受けたようです。ネット検索してみたら動画が見つかって、ちょっと感動してしまいました。だから私にとっては、「バルス!」よりも、こちらのほうが断然印象が強いのですよ。でも、このセリフって作品本編でも使われたのかな?今度観てみることにします。(※本当に余談でした。)
 ↑2022年8月12日初視聴。劇中では「すごいぞおぉ!ラピュタは本当にあるんだ!」でしたね。イメージしてたシーンもちょっと違ってました。
▲垂直の山。カブのイサキの作品世界にも似ている。 ▲朽ち果てた産業遺物の残骸があちこちに。

 ところでここまで、『カブのイサキ』関連の話題をまったくもってしてませんので、ここらで強引に挿し挟んでおきましょうかね。
 この岩舞台にある垂直の崖が、作品中の雰囲気にどことなく似ている気がします。岩壁頂上部の幾分緩やかな傾斜地も、例の「引っ掛けハンガー」を設置する場所としては有望かと。で、吊り下げられた機体を降ろすのに、岩舞台の大きな広場を利用すればバッチリじゃないですか!う〜ん・・・でもいくら広いとはいえ、サスガに離陸できるだけの滑走路スペースは無いんですよねぇ。丹沢大山やメイコンUの時にはなんとなく納得したけど、ここ鋸山ではどのように離陸したのでしょう?まさか、また「ポイ!」なのか!?


ラピュタの壁直下に到着
良い感じの石階段が続く
苔生した岩肌の雰囲気も良し
ラピュタの壁展望台より

 岩舞台を抜けて『関東ふれあいの道』コースの分岐点を過ぎると、次にあらわれるのは『ラピュタの壁』という石切り場跡。ここが何故『ラピュタの壁』と呼ばれるのかは由来が分かりませんでしたが、作品世界のイメージに似ているのですかね?ワタクシ的には先ほどの岩舞台のほうが、直感的にピタリとくるものがあったのですけど。絶壁の垂直部分の壮大さという点では、ここが一番「天空」っぽいと言えば、そう言えるかも知れません。
 ここから先は一気に絶壁の頂上部分へと登りきることになるので、コースはやおら急傾斜となります。それでもイイ感じに苔生した緑の石段道は変化に富んで美しく、途中にある展望台でもリフレッシュできるので、急登はほとんど苦もなくクリアできるはずです。『地球がまるく見える展望台』の絶壁階段を上ったのに比べれば楽勝でしょう。そして岩壁の陰から突然、小さな管理小屋があらわれてくると、ここから先が日本寺エリア(有料)となり、下写真のような場所にたどり着きます。
▲『地獄のぞき』の岩塊を直上に見る、日本寺の北口管理所。小屋の形は全然違うが、作品で描かれた雰囲気はある。

 『小屋があって、絶壁がある』という、ここがおそらく「カナヤさんの山小屋」としての作品設定上、最も条件がそろった場所であろうと思われます。他にも3つほど小屋(管理所)はあるのですが、それらは頂上付近では無かったり、そもそもが絶壁エリアの方角には存在していないのです。
 惜しむらくは、ここからは富士山方面への眺望が一切きかないこと。真上に『地獄のぞき』があるのだから位置的にはバッチリなのに、左手前の岸壁が見事にブロックしてしまい何も見えません。まぁでも、『地獄のぞき』に「引っ掛けハンガー」を設置してもらえば、それに吊り下げてもらって眺めを楽しむという方法も・・・。(←ありません。)


鋸山と言えばこの『地獄のぞき』
日本寺の大仏も有名ですね
首無しの石仏
とりあえずの鋸山の観光山頂

 ここで少し、マトモ(?)な考察を。『カブのイサキ』作品中では、何故に鋸山を「1000m以上の垂直の山」と書いたのでしょう?
 鋸山の実際標高は329m。実は大楠山(241m)よりも全然高い山なのです。それなのに、作品世界では大楠山を「2000m級」と表現したのに、鋸山では10倍設定の「3290m」とはしていません。これは、山塊全体ではなく「断崖絶壁部分のみの高さ」を基準としたのかも知れません。
 ではそれはどの部分のことなのか?各石切り場の絶壁の高さは、観光資料によるとだいたい50mくらいで、最長で80mというところもありました。また、日本一を誇るという日本寺大仏や、絶壁に彫られた『百尺観音』はどうかというと、これは30m前後ということで意外と伸び悩み。あれ?10倍設定を適用しても、1000m越えの場所なんて無いぞ??
 苦し紛れに探し出した答えが、【『地獄のぞき』の直下の落差は、100m以上ある】という資料。芦奈野センセイはこれを基に設定を立てたのかも?それでも実際は絶壁の下に山の基礎部分があるわけで、その標高を足して「3000m越えの山」となるハズがそうならなかったのは、まさしくそれが「イサキの記憶」による生成物だったからなのでしょう。イサキは鋸山を「絶壁だけの山」としてしか認識していなかったのです。(←本当かよ?)
 というわけで、ベタな観光スポットとはいえ、『地獄のぞき』周辺は作品舞台地の候補として外せそうにありません。『地獄のぞき』手前にある石造りの展望施設も、ある意味改造すれば作品設定のような小屋になり得るかも?という感じで有望です。(すみません。写真撮り忘れました。)
 ちなみに、小学生時代にめっちゃ怖くて手摺りにしがみつき、ついに先端部まで行けなかった『地獄のぞき』は、オトナになった今ではカメラ片手にスタスタと行けちゃうようになっていました。あの頃、何であんなにビビッてたんだろう?ふっ、バカなヤツだぜ・・・。

 中盤のシメは、やはり山頂よりの眺望から。ほらね、観光用のニセ山頂(そういうコト言うな!)からでも、眺めはスゴく良いでしょう?このような光景が各所で気軽に見られるから、鋸山は今も昔も変わらぬ人気を博しているのでしょう。
 しかしながら今日は一日、とうとう富士山を見ることは叶いませんでした。どこぞのセンパイに、「ピーカン不許可!」とかって言われるくらいの晴天だったのですけどねー。これはまだ、私が「呼ばれていない」ものということで、前向きに解釈したいものです。
▲ロープウェイ山頂駅よりの眺望。さすがに眺めは抜群です。対岸の三浦半島もくっきり!でも、富士山ぜんぜん見えないな・・・。

 さてさて、ここからの下山ルートは『カブのイサキ』とは関係なく、完全なる私のシュミです。
 『石の階段コース』と呼ばれるそれは、鋸山でも最古の登山ルート。しかしながら近年は、いろいろなバリエーション・ルートの登場やロープウェイ乗場に最も近かったという立地条件から、次第に利用されることのなくなった登山道となってしまいました。コースの大半がひたすら「階段ばかり」というのも、地味に敬遠されてきた理由でもあるのでしょう。それでも、分かる人には解る、いわゆる「廃キングコース」なるものが好きな人にはグッとくる、とても雰囲気の良い古道なのです。私は以前から『カブのイサキ』絡みで鋸山を訪れた際には、是非とも併せてここに行ってみようと決めていました。
 そんな折、実写版ドラマ『岸辺露伴は動かない』の「六壁坂」編において、なんと六壁坂を象徴する場所として、この場所が登場しているではないですか!これは何という運命の巡り会わせ・・・やはり「スタンド使いは スタンド使いと引かれ合う」ということかッ!?(←完全に舞い上がっている。)
 というわけで、2つの行きたい要素が重なった今、ようやく重い腰を上げたのが今回の房総行きのきっかけでもありました。
 平日でも人であふれる鋸山の中にあって、訪れる人もほとんどいない『石の階段コース』とはどんな場所なのか?さっそく行ってみます。


R.W.山頂駅の裏手にコースが?
懐かしいビンが次々と・・・
『下山道』の看板を確認
地蔵菩薩の祀られた石祠

 『石の階段コース』の山頂側からの出発点は、ロープウェイ山頂駅の建物裏側に回り込んだところから始まるという、実にマニアックなポイントに設定されていました。ホントに「ロープウェイ関係者以外は入って来ちゃいけない道なんじゃないの?」というくらいの雰囲気です。
 あたりの空気は、それまでの『観光地・鋸山』とは明らかに変わってきました。まだ歩き始めて50mもしないうちに、人の気配が薄れ、湿っぽさが増し、ロープウェイの駆動音だけが山中に低く響いてきます。足元にはゴミが散乱しているのが目立つのですが、それらのほとんどが昭和の堆積物と思えるようなシロモノばかりで、見苦しいとは思いつつも、懐かしさでちょっと感動してしまいました。
 さらに歩いて行くと、ようやくマトモな『下山道』という看板が見つかり、これで少し安心します。道はいよいよ木々に覆われ、山道の気配を深めて来ました。路傍にはブロック塀で囲われた祠に地蔵菩薩が安置され、登山の無事を見守ってくれます。
 何だかほっこりとしつつも、実はここからが少しばかり危険。両側が崖になった痩せ尾根を、ほんの短い距離ながら歩かなければならないのです。慎重に歩けばさしたることはないのでしょうが、きっとこういった要因から、ハイキングコースから除外されていったのでしょう。
 痩せ尾根が始まる手前では、何故かまたしても昭和の匂いのする行先表示の看板が・・・。何なのだ?まさか本当に平成・令和と手が加えられないままの登山道なのだろうか?しかも下山道を示す矢印の方角が、今来た道のほうを指しているッ!これでは設置が完全に逆だ。これは、このまま引き返せという暗示なのか?良く分からないが、とにかく何かヤバいッ!(←ジョジョ口調、いい加減やめい!)
 ・・・まぁ、ここ通らないと石の階段に行けないから、結局は突き進みましたけどね。


こんな旧式看板も!指示が逆!
石の階段道からの展望
苔生した古道感が良い
この階段は、アレじゃあないかッ!

 痩せ尾根を抜けると、そこから先は本当に階段ばかりの、ある意味人工的な登山道。しかも下りだけなので、足元さえ滑らせなければ超快適です。
 コースの雰囲気は石切り場周辺の道と似ているものの、やはり苔生しかたのレベルが数段違う。階段脇だけでなく、段の一つ一つにまで苔がビッシリと、キレイに付着しているのです。そしてこの古道感!これは明らかに人がほとんど踏み込んでいない証拠。先ほどは足を滑らせなければ、と書きましたが、苔を剥ぎ取らないためにも、極力滑ったり、乱暴な歩き方をしないよう心掛けたいものです。
 石段は何層にも渡って続きますが、いよいよ麓へと近くなったところで、見覚えのある構図の風景が見えてきました。
▲写真よりもさらに緑が深く、幻想的な場所です。 ▲これじゃぁまるで、僕が何かしたみたいじゃあないかッ!の道

 この場所、ドラマを観たことがある人なら、もう説明の必要はありませんよね。そうではなくても、この精霊の棲んでいそうな幻想的な森の光景には、只ならぬものを感じるのではないでしょうか?露伴先生は「妖怪」なんて表現をして、森の不気味さを醸し出すようなイメージを演出させていましたが、私にとっては意外なことに、不安ながらも不思議とリラックスした気分に浸れました。鳥のさえずりとか、5月の新緑の爽やかさとか、とにかく天気が良かったということも幸いしたようです。そのせいで、画像にドラマのようなミステリアスな雰囲気は、まるで再現できていませんが・・・。
▲素晴らしいッ!この場所に前から来てみたかったのです。予想以上に雰囲気のある美しい古道でした。

 こうして無事麓まで下りてきましたが、不思議なことに道中、誰一人の登山者とも出会うことはありませんでした。いくら公式のコースから除外されたとはいえ、山中に設置された地図掲示板には、しっかりと『石の階段コース』が明記されているのに、です。
 その謎は、下山してからようやく分かりました。実は麓側からの『石の階段コース』は、「コース整備不良により通行禁止」だったのです。(一応、自身のフォローのために書いておきますが、山頂側からは「禁止」標示や規制ロープなどは一切ありませんでした。)※2022年5月現在。
 どおりで、誰ともすれ違わなかった訳ですね。日本寺エリアでのあまりの人の多さから一転、全くの無人状態でしたから、ホントにどこか異世界にでも迷い込んだのかと、『コトノバドライブ』のような気持ちになりましたよ。また後日調べて分かったことですが、このコースではマムシと遭遇する可能性があるようです。たしかに、棲息していそうな雰囲気は充分にありました。うわぁー、これ知っていたら、一人で行くのはきっと躊躇していただろうなぁ・・・。
 そう言えば、山中ではたびたび、何かが逃げる気配を感じていました。あれはタヌキかリスくらいのものだと思い込んでいましたが、まさかマムシだったのではあるまいな・・・?あるいは、もっと別の「何か」が・・・・・。

でもそれは、僕がどうにかするべきことじゃあない。僕は学者じゃなく、ジャーナリストでもない。たんなる「旅人」だからな。



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