硬骨魚類 肉鰭亜綱

肉鰭亜綱の学名は肉質のヒレを意味する古代ギリシャ語由来の組み合わせでSarcopterygii

sarco(σάρξ)肉質、pterygii(πτέρυξ)ヒレ

シーラカンスなどの管椎類Actinistia、名前そのまんま肺のある肺魚類Dipnoi、両生類へのミッシングリンクとされる扇鰭類Tetrapodomorphaの3グループで構成しています。 肉鰭亜綱は潟や湿地帯で待伏せ型捕食を行っていたため、瞬発力を必要とする尾ヒレの硬骨が強化しています。 また上陸進出が進むにつれ、背骨を構成する個々の脊椎骨は条鰭類のような形状から、脊椎骨同士のかみ合わせを強化した四肢動物のような形状に変化し、脊椎骨の強化と共に胸ヒレと腹ヒレが四肢のように進化していきます。

硬骨魚類はデボン紀初期ごろ、ヒレ形状が肉鰭の系統と条鰭の系統に派生し、肉鰭の系統側ではその後すぐ管椎類、肺魚類、扇鰭類にそれぞれ派生したと考えられています。

臭いを感じ取る感覚器官の構造は、条鰭類では外部に開口したトンネル形状の外鼻孔になります。 前方の入水孔から水が入り、出水孔から流れ出るとき、鼻嚢を水が通過するときに含まれる匂いを感じ取る構造で、管椎類も同じ外鼻孔をしています。 これに対し、肺魚類と扇鰭類は外鼻孔と口腔内に開く内鼻孔をもつため口腔内の臭いも感じ取ることができます。 内鼻孔をもつということは両生類以降の進化をたどった四肢動物とも同じ構造でもあり、こちらの系統をリピディスティアRhipidistiaとしました。 このことから条鰭類に近い特徴をもつ管椎類とリピディスティアは条鰭のグループと分かれて比較的すぐ派生し、続いてリピディスティアから肺魚類と扇鰭(せんき)類、そして四肢動物へ派生したというのが有力なようです。

管椎類Actinistia

古生代 中生代 新生代~現在
カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 デボン紀 石炭紀 ペルム紀 三畳紀 ジュラ紀 白亜紀 古第三紀 新第三紀 第四紀

管椎類の内骨格は ほぼ軟質で構成され、内臓を保護する肋骨などが未発達なため、体表面を頑丈な硬いウロコで覆い保護しています。また背骨も完全に発達しておらず、それらを構成する個々の脊椎骨の代わりに体液が詰まった脊柱が身体を支えています。 この脊柱は軟骨性のチューブ管になっていることから管のような脊椎、つまり管椎類となりました。コエラカントゥスCoelacanthus英語読みでシーラカンスの学名も古代ギリシャ語由来で空洞の脊柱を意味しています。

coel(κοῖλος)空っぽ・空洞の、acanth(ἄκανθα)植物の棘・脊柱
Caridosuctor populosum
Caridosuctor populosumRhabdodermatidae
石炭紀 / 国立科学博物館
Coelacanthus banffensis
Coelacanthus banffensisCoelacanthidae
ペルム紀~ジュラ紀 / 国立科学博物館

最古化石は古生代 デボン紀前期のEuporosteusで、肉鰭は基本的に第2背ビレ・胸ビレ・腹ビレ・第1臀ビレにあり、尾ヒレは異尾または葉状の第2背ビレと3葉からなる両尾をしています。 派生初期からグループ内で形態的差異がみられるようになります。特に小型種が多いコエラカントゥス目は多様化し、第2背ビレと第1臀ビレに肉鰭がないミグアシャイア科Miguashaia bureaui、 体の後ろ半分がウナギのように長く伸びたホロプテリギウス科Holopterygius nudusなども登場しました。

管椎類は中生代 白亜紀末の大量絶滅でほぼ姿を消し、コエラカントゥス目ラティメリア科Latimeriaの2種のみ現生しています。 この2種はあの有名なシーラカンスで、2mほどの大型種になります。コズミン層が退化した薄く重なり合う円鱗、完全なエラ呼吸を行うようになり肺は比重の軽い脂肪で満たされたウキブクロに、水深200mの深海に生息するなど特殊的な進化を遂げています。

Coccoderma nudum
Coccoderma nudumLaugiidae
ジュラ紀 / 国立科学博物館
Holophagus penicillatus
Holophagus penicillatuLatimeriidae
ジュラ紀後期 / 神奈川県立生命の星・地球博物館

肺魚類 Dipnoi

古生代 中生代 新生代~現在
カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 デボン紀 石炭紀 ペルム紀 三畳紀 ジュラ紀 白亜紀 古第三紀 新第三紀 第四紀

最古化石はDiabolichthyesでデボン紀の海水・淡水両方の地層から発見されています。化石種含め約55属112種の肺魚類は いずれも進化が安定しているので種をつなぎ合わせると進化過程を再現しやすく、初期はエラ構造に比べ肺が未発達なことから、河口付近の海水域での進化を経て淡水に生息域を広めたことがわかります。 内骨格は主に軟骨でしたが硬骨化も進みはじめ、頑丈で厚いコズミン鱗の硬鱗もデボン紀後期あたりから薄いコズミン鱗に変化しはじめました。

Scaumenacia curta
Scaumenacia curtaPhaneropleuridae
デボン紀 / 国立科学博物館
Scaumenacia curta
Scaumenacia curtaPhaneropleuridae
デボン紀 / 神奈川県立生命の星・地球博物館

現存するのはレピドシレン目Lepidosireniformes2科2属5種と、ケラトドゥス目Ceratodontidae1科1属1種。どちらも淡水域のみに生息し、背ビレ・尾ヒレ・臀ビレが一続きになった退化的な進化がみられます。 レピドシレン目の幼魚期は外鰓が存在し、両生類の幼生にも同様の外鰓が確認できます。 成魚になるにつれ鰓呼吸の鰓薄板が減少し肺呼吸へ移り変わり、取り入れた酸素は両生類と同様に、2心房・1心室に分かれた心臓によって体と肺の2系統の血液循環をします。 レピドシレン目プロトプテルス属Protopterusは水が涸れる乾期になると泥中に自分の粘液で繭を作り雨期が来るまで夏眠を行い、同様の夏眠行動はペルム紀のグナトリザ目Gnathorhizidaeの繭化石で確認できることから、グナトリザ目が直接的な祖先と考えらえています。

これに対しケラトドゥス目‎ネオケラトドゥス属Neoceratodus forsterの幼魚期は外鰓が存在せず、通常は鰓呼吸を行い溶存酸素量が不足した場合のみ肺呼吸を行います。 エラ呼吸や肺・心臓の構造、各ヒレやウロコ形状、夏眠も行わないことからケラトドゥス目は比較的安定した水域に生息していた原始的なグループとされています。 三畳紀中期から白亜紀後期のケラトドゥス属Ceratodusが近縁とされています。

扇鰭(せんき)類 Tetrapodomorpha

古生代 中生代 新生代~現在
カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 デボン紀 石炭紀 ペルム紀 三畳紀 ジュラ紀 白亜紀 古第三紀 新第三紀 第四紀

ペルム紀まで繁栄した扇鰭類は、硬骨魚類以上で両生類未満といった曖昧なグループで、その先の爬虫類・哺乳類・鳥類など四肢動物Tetrapodaへと続くであろう的な存在です。 初期の扇鰭類は20cmほどでしたが、デボン紀中期ごろのオステオレピス目Osteolepiformesエウステノプテロン属Eusthenopteronは最大1.2m、ハイネリア属Hyneria lindaでは2m以上に、 石炭紀になるとリゾドゥス目RhizodontidaリゾドゥスRhizodus hibbertiが7m以上に達する史上最大の淡水魚となって生態系の頂点に立つようになります。

Eusthenopteron foordi
Eusthenopteron foordiEotetrapodiformes
デボン紀 / 国立科学博物館
Eusthenopteron foordi
Eusthenopteron foordiEotetrapodiformes
デボン紀 / 国立科学博物館

扇鰭類のヒレ骨構造は四肢と共通する上腕骨・橈骨・尺骨の3つと肢帯と自在に動く肩関節で接合しているため、遊泳を行うための舵取りよりも、姿勢を安定したまま同じ位置にとどまることに適しています。 また眼は小さく嗅覚器が発達していることから、定位置にとどまり待ち伏せ型の捕食を行っていたようです。

デボン紀後期には自由に動く首の発達や肘関節・手首関節を持つティクターリク属Tiktaalikが登場しますが、体全体が浮力のない陸上移動には不向きで、ヒレも両生類が歩くような前へ出す動作はできず陸上を動き回ることはなかったようです。 また重力から内臓を保護する肋骨も未発達で短く、陸上では押しつぶされる可能性があることや、ウロコ構造が長時間の陸上生活には耐えられず水分蒸発しやすいことから、完全な水中生物とされています。

Eusthenopteron foordi
Eusthenopteron foordiEotetrapodiformes
デボン紀中期~後期 / 神奈川県立生命の星・地球博物館
Osteolepis macrolepidotus
Osteolepis macrolepidotusMegalichthyiformes
デボン紀 / 国立科学博物館

硬骨魚類たちの分岐点

初期の条鰭類 軟質亜綱・腕鰭亜綱

遊泳力に全フリ新鰭亜綱