無顎類

カンブリア紀、多細胞生物が飛躍的に進化し爆発的に多様化したこの時代、現生動物の祖先となる動物門のほぼ全てが揃い、最古の脊椎動物で魚類の起源とされている魚類も登場します。 ただ脊椎動物でありながら背骨構造がはっきりしないため、動物の進化系統で初期段階のものは魚類というより、あくまでも魚類の起源。

古生代 中生代 新生代~現在
カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 デボン紀 石炭紀 ペルム紀 三畳紀 ジュラ紀 白亜紀 古第三紀 新第三紀 第四紀

初期の無顎類は2~3cm程度のサイズ。体の構成は頭部~尾を支持する脊索、体表面の皮骨、ひだ状の背ビレと腹ビレといったシンプルなもので、上下の顎が無いためポッカリ開いたクチから海中や海泥底にいるプランクトンを吸い込み、エラで濾しとる「濾過食」を行っていました。

これまでの生物たちは軟体性ばかりでしたが、硬組織を獲得したものが次々に現れるようになって進化の軍事拡張競争がおきます。 つまり捕食者に対し被食者は生き残るための防御力を身につけ、捕食者は防御を上回る攻撃力を獲得し、被食者はその攻撃を上回る防御というような進化競争です。

軍拡競争

進化競争には古生物学者Andrew Parkerが説いた眼の進化も有力説とされています。 眼ができれば対象相手を発見して攻撃できる、被食者は接近をいち早く察知できる、それに対して硬組織で攻撃し、硬組織の防御もできる、速く移動するための足やヒレの進化が促されるといった競争によって短期間のうちに生物進化がすすみ、爆発的に多様化したことからカンブリア大爆発といわれています。

オルドビス紀、強靭な捕食者から無顎類は頭部を甲冑のような外骨格で覆って防御するようになり、体長も大きくなります。 オルドビス紀後期には新たなライバル魚類アゴを持った 顎口類の登場で、無顎類は進化が加速。 頭部は3層構造のより強固な外骨格に、体表面の皮骨は骨質に、遊泳も不完全な対鰭を持つようになり、尾ヒレは上葉に基部のある異尾や下葉に基部のある逆異尾になるなど多様化が進みました。

カンブリア大爆発から飛躍的な進化を続ける生物たちに「ビッグファイブ」とよばれる環境変動が関係した大規模な生物大量絶滅が5回起こります。一番最初はまだ海洋生物のみだったオルドビス紀末に起こり、生物の85%が姿を消しました。 生き延びた一部の無顎類は多種多様に進化して生活圏を海水域から淡水域へと広め、シルル紀~デボン紀に最も繁栄することになります。 そしてデボン紀末に2度目のビッグファイブで海洋生物の82%が姿を消します。何とか生き延びましたがペルム紀末に海洋生物は96%が絶滅。

現生する円口にょろ軍団

その後に続くビッグファイブを乗り越えて円口類(ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)のみが現存しています。

無顎類は頭甲類と翼甲類に大別できますがこれを単系統とする説もあります。

頭甲類

頭甲類Cephalaspidomorphiは骨甲目や欠甲目などが分類されています。

厚い骨質の頭甲が頭部を覆い、その上部に小さな眼と明暗を感じる松果体があります。胸ビレには小鱗が覆瓦状に並ぶ特徴的なものや胸ビレが無いものなど多様です。 1~2基の背ビレ、前上方への推進力を得る逆歪尾の異尾をしています。シルル紀後期~デボン紀前期に生態的地を占めて適応放散したため、多くは湖や河川に生息する淡水魚となりました。 石炭紀には現存するヤツメウナギに似た種の化石が発見されていることから、吸盤状のクチに口床に表皮の一部が硬くなった爪と同じ構造でヤスリ状の角質歯板で噛みつく種がデボン紀末の絶滅で残ったようです。

Stensiopelta sp.
Stensiopelta sp.(骨甲目Osteostracan
デボン紀 / 国立科学博物館
Cephalaspis sp.
Cephalaspis sp.(骨甲目Osteostraci
デボン紀前期 / 国立科学博物館

翼甲綱

翼甲綱Pteraspidomorphiは異甲類・歯鱗類の亜綱などが分類されています。

頭部の外骨格は翼のように広がる突起が左右にあります。 海水域・河口付近など中層を遊泳する紡錘体型や、底性に適した体高より体幅の広いの縦扁(じゅうへん)体型、長い吻を持つグループ、背中に防御用のような棘のあるグループ、ノコギリ状の突起を持つグループなど適応放散を成し遂げました。

小さな甲羅状のものが並ぶオルドビス紀のAstraspisグループのウロコは、表面に象牙質、内部にそれらを形成する象牙芽細胞となっており、発生や構造がその後の進化で取得する歯と類似していることから歯鱗類として分類されています。 軟骨魚類の楯鱗も似たような構造をしていることから歯の起源はウロコが口内に入り込み変形したものと考えられています。

Drepanaspis sp.
Drepanaspis sp.(骨甲目Heterostraci
デボン紀前期 / 国立科学博物館
Drepanaspis sp.
Drepanaspis sp.(骨甲目Heterostraci
デボン紀前期 / 国立科学博物館