板皮類

板皮類は頭部~胸部にかけて硬い甲冑状の骨板が覆いっていることから甲冑魚 (かっちゅうぎょ) ともよばれ、学名のPlacodermiはギリシャ語由来の組み合わせでプレート状の皮膚を意味します。

pláx(πλάξ)平らで幅広いもの・プレート、Dérma(δέρμα)皮膚

シルル紀後期の地層から決定的な化石が発見しています。デボン紀に入ると全魚類の75~80%をしめるほど多様化し大繁栄しましたが、それも長くは続かず、海洋生物の82%が絶滅したデボン紀末の大量絶滅で姿を消します。

古生代 中生代 新生代~現在
カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 デボン紀 石炭紀 ペルム紀 三畳紀 ジュラ紀 白亜紀 古第三紀 新第三紀 第四紀

板皮類Placodermi
Acanthothoraciformes
胴甲目Antiarchiformes
節頚目Arthrodiriformes
Brindabellaspida
Petalichthyiformes
Pseudopetalichthyida
プティクトダス目Ptyctodontiformes
Rhenaniformes
Stensioellida

初期種は低層遊泳に適した体高より体幅の広いの縦扁(じゅうへん)体型で、胴甲目、節頸目、PetalichthyiformesRhenaniformesなどのグループにみられます。 底性の無顎類と生活層がかぶりますが、アゴの存在が捕食の多様性を生み出し、それがきっかけで種の多様性につながり、やがて活発に泳ぎ回る側扁体型も登場しました。 活発といっても頭部~胸部にかけて覆う骨板の重みは広範囲を遊泳するには妨げとなっていたため、生活域を狭めた地域固有が促されたようです。 基本的な体構造は、甲冑板から後ろの尾部分はウロコもしくは粘膜質で覆われた長い上葉部分と膜状で構成する異尾ですが、厚いウロコが2~3枚だけの種や小さな菱形のウロコで覆い尽くした種、上下対称の尾ヒレを持つ種なども登場します。 内骨格は軟質で化石と残りにくく類縁関係など不明点も多く、板皮類の代名詞ダンクルオステウスDunkleosteusでさえ尾ヒレ形状が不明のままです。

板皮類のアゴには歯が無く、その代わりアゴの骨に鋭く尖ったナイフのような刃型突起が伸びていました。この突起は獲物を噛み切ったり噛み砕くことには適しますが咀嚼には不向きで、魚や貝類や甲殻類など ほぼ噛まずに丸呑みにして捕食していたようです。

胴甲目Antiarchiformes

デボン紀中期~デボン紀後期

浅い海水域~淡水域まで広範囲に分布。節頸目の次に繁栄したグループで世界中から化石が発見されています。縦扁体型で底面側にクチを持つ底性類、甲冑頭部の頂上に明暗を感知する孔とそれ挟むように眼があります。 代表的なボスリオレピス属Bothriolepisは淡水域に生息するグループで、肺もしくは肺のような呼吸器官を持ち、天候次第で起こりうる溶存酸素不足を補っていたようです。 また胸ビレのような付属肢は甲冑板と同じく装甲され、先端は鋭く尖り、関節によって曲げることもできました。 この構造から上昇や下降の遊泳や、腕のように河川の流れに逆らい留まるために使われていたなど考えられています。

プティクトダス目Ptyctodontiformesのオスに体内受精するための交尾器clasperがあることは分かっていましたが、近年になりデボン紀中期の胴甲目Microbrachius dickiにも交尾器が確認され より初期の段階から体内受精を行っていた事が解明されました。

Asterolepis sp.
Asterolepis sp.Antiarchi, Asterolepididae
デボン紀 / 国立科学博物館
ボスリオレピス Bothriolepis sp.
Bothriolepis sp.Antiarchi, Bothriolepidae
デボン紀 / 国立科学博物館

節頸目Arthrodiriformes

シルル紀後期~デボン紀後期

浅い海水域~淡水域まで広範囲に分布。底性や低層遊泳に適した縦扁体型や、遊泳に適した側扁体型など、節頸目は板皮類の約60%を占めるほど多様です。 節頸目の最大の特徴は、頭部と胸部の甲冑板がボールジョイントのような関節でつながり首のように動かせるところにあります。関節構造があることによって、下顎を開くと自動的に上顎も持ち上がり より大きくクチを開けられるようになっています。アゴにある歯のような刃型突起は獲物を噛み切ったり咀嚼には不向きなため、大きなクチで獲物を捕らえ丸飲みしていました。

節頸目の多くの属は1m未満ですが、デボン紀初期にはHomostiidaeTityosteusが2m以上に、後期にはDinichthyloideaのダンクルオステウスDunkleosteusが10m以上に達するデボン紀最強で最大魚の海水魚となります。 淡水域で活発な遊泳をしていたサイズが数10cmほどのコッコステウス属Coccosteus、ダンクルオステウスの小型版のような姿から、不明点の多いダンクルオステウスの再現図はこれをもとに作られています。

Dunkleosteus sp.
Dunkleosteus sp.Arthrodira, Dinichthyidae
デボン紀後期 / 国立科学博物館
Coccosteus sp.
Coccosteus sp.Arthrodira, Coccosteidae
デボン紀中期~後期 / 国立科学博物館

プティクトダス目Ptyctodontiformes

デボン紀前期~ もしかしたら石炭紀までの可能性も?

甲冑板が著しく退化し頭部のみ、背には鋭い棘を持つ。海水域に生息する体長20cm~30cmの小型グループ。腹ビレがオスとメスで異なり体内受精するための交尾器clasperがオスにあります。 デボン紀後期のプティクトダス科Materpiscis attenboroughiには へその緒でつながった化石も発見され胎生繁殖も行っていたことが分かりました。 プティクトダス目はの現生する全頭亜綱(ギンザメ類)と外見も交尾器も類似していますが直接的な関係はなく、全く系統が異なるグループが進化したら類似した進化あるあるの1つとされています。難しい表現で収斂進化。

その他ざっくり

Acanthothoraciformes

デボン紀前期~デボン紀中期。甲冑板の頭部と胸部が固有で、クチバシ状のクチ、細長い頭部、胸部には1対の大きな棘がある。貝類を捕食していたと考えられ、現生の全頭亜綱(ギンザメ類)と生態学的に類似していたようです。

Brindabellaspida

デボン紀前期~デボン紀中期。扁平なクチ先でAcanthothoraciformesにも似ているが、無顎類の頭甲類 骨甲目osteostracansにも似ているらしい。

Petalichthyiformes

デボン紀前期~デボン紀中期。世界中のデボン紀初期の地層から発見されているので多様性のピークはこの頃だったらしい。胸ビレは広がり全体的にかなり平らな縦扁体型。甲冑板は大量の結節でつながりモザイク状になっている。

Pseudopetalichthyida

板皮類の初期型とされ、甲冑板の結節がモザイク状になっている。

Rhenaniformes

デボン紀前期~デボン紀後期までと他のグループより期間は長いが1科のみ。海水域に生息。 薄く平らでエイのような体型に上向きの大きなクチを持つ底性捕食者。

Stensioellida

板皮類の初期型かもしれない。不明な点が多すぎて単独グループにされている。