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supplement 07 『峠』
『峠』とは、『ヨコハマ買い出し紀行』の後日譚とも呼べる短篇作品。東のどんづまりにあると聞いている一軒の店を目指して、箱根の笹深い峠 道を超えていくという「だけ」のエピソードです。ヨコハマ未見のヒトには何のことやら「??」ですが、これまでヨコハマを通しで読み続けていた方には、 いろいろなイメージが思い浮かぶ、「無限の含み」を持たせた作品でもありますね。 今回の検証は、このエピソードの舞台となった峠道。「えッ!?箱根の峠なんだから『箱根峠』なんじゃない?」と思われるかも知れませんが、そこが 芦奈野センセイの っていない]というモノローグからも、そこが国道1号線上の箱根峠ではないという推測が浮かびます。しかも[谷あいに見えかくれする]という言い回し から、どうやらこの車道を上方視点から見下ろすような感じ。とすると、現箱根峠よりも標高が高い位置を通る未舗装路を考慮する必要がありま す。加えて、これも極めて重要なキーポイントですが、作品中3コマ目に描写された特徴的な山容、あれはおそらく芦ノ湖東岸の『二子山』であろ うと思われ、この二子山を眺望できるという要素も必須となります。 これらの点を踏まえた結果、私が予想を立てたのは、箱根峠より北西に位置する標高941mの『海ノ平』。いろいろと歴史的要素も含めての着 眼だったのですが、それは後述するとして、ともかくこの海ノ平、何やら恐ろしく知名度が低い!私の山歩きの知り合いで唯一、このルートを通ったこ とがある人も、「特に印象が無い。それよりも湖尻峠付近の防火帯のほうが断然良いよ。」と言うので、ネタがこけた時の保険として、芦ノ湖西岸に 続く箱根外輪山ルートを検証の一部に加えました。ただしこのコース、参考歩程時間が4時間40分もあるのですね。登山難易度はそれほどでは ないにしても、コースの途中が地味でひたすら長い。なので駆け足で進めていきましょう。 【コース概要】 桃源台―湖尻水門―芦ノ湖展望公園―目標杭―湖尻峠―三国山―山伏峠―海ノ平―箱根町バス停
…で、実際、トレラン並みに一足飛びで進めていきます!というのも、この日に利用した新宿発の高速バスが工事渋滞に巻き込まれまくり、予 定よりも1時間半遅れの到着となったのです。登山での1時間半のズレは、けっこうな大ダメージ。ですので、今回私が表記した到達ペースタイムは 参考にしないで下さい。撮影ポイントでは時間を割いている一方、休憩時間はほぼ皆無で小走りしているなど、もうメチャクチャです。 では、まずはスタート地点の桃源台から。バス乗客の皆が芦ノ湖遊覧船乗り場に向かう一方、一人湖尻水門へ向けて芦ノ湖北岸を早足で歩 き出します。ちなみに桃源台で食糧・飲料の確保をしないと、山伏峠先のレストハウスまで入手不可能になってしまうので、準備を忘れずに! 水門を抜け、クラブハウスを少し過ぎると、道路の脇に登山道の目印が見つかります。ここからがいきなり尾根分岐に登り詰めるまでの、容赦の 無い急登の始まり。おそらく今回のコースで最もキツい部分ですが、30分も耐えるとクリアできるので、サクッと終らせましょう。8合目あたりまで登る と芦ノ湖の展望も見えてくるので、良い励みになります。 尾根分岐まで到達すると、その後はウソのようにラクな道。公園内の散歩道を歩いているかのような緩い丘陵の繰り返しで、左手に芦ノ湖が常 に見えてくるようになると、程なく『芦ノ湖展望公園』に辿り着きます。ここは左に芦ノ湖・右に富士山という、とてもパノラミックな絶景ポイント。けれ ど、今朝は高速バスに乗っている時からさんざん富士山を見てきたので、「どーせこれから先もジャンジャン富士山見えるんだろ?これくらいで貴様 を何枚も撮らんよバカめバカめ」と高をくくっていたら、その後は怪しげな雲が湧きはじめ、結局は軽い気持ちで撮ったこの一枚が、今回最後の富士 山のお目見えとなってしまいました。思えばこれが、イヤな予感の始まりだったなぁ。
展望公園を過ぎても、快適な尾根道は続きます。道の左右は背の高い笹竹に囲まれ、「箱根の峠は、笹が深い!」などと一人で盛り上がりな がら歩きますが、しかしこれって竹なのでは!?そもそも笹と竹の違いって何なのかなぁ?後日ネットで調べた結果ですが、『ハコネダケ』というものはあっ ても、『ハコネザサ』という正式な種名は無いそうです。まぁ、植物に殊更のコダワリはないから、竹っぽいものは竹で、笹っぽいものが笹でいいじゃな いというアバウトな結論を経て、知人からのおススメスポットである『目標杭』というポイントに到着しました。
この『目標杭』、山岳地図にもGoogleマップにも何故か表記が無いのですが、ここから湖尻峠に向かって続く緩やかな下り丘陵の防火帯が、もう とてつもなく素晴らしいロケーションの草原道となっています。眼前の芦ノ湖に向かって飛び込んでゆくような下り坂は、思わず「クララ〜!」とか言っ て走り出してしまいそう(←意味不明)。実際、私は時間が足りないにもかかわらず、ここを3往復してしまいました。もう少し時間が許されれば、ここ でゆっくりコーヒーでも淹れながら、チェアリングを楽しみたかったところですね。 ということで、この草原道は作品の雰囲気にかなり近いものがあり、これで二子山でも見えれば、もうバッチリの候補地であったのですが、惜しいこ とに現実はそう都合良い立地条件とはなりません。残念ながら時間も差し迫っていることですし、先を急ぐこととしましょう。
防火帯の草原道を下ってくると、前方に自動車専用道の『芦ノ湖スカイライン』が見え、湖尻峠でこの車道と交差することになります。ここからは 近からず遠からず車道とハイキングコースが並走するようになるので、断続的にエンジン音が山中に聴こえてきたりして、なんだか雰囲気は今一つに なります。しかもこれから向かう三国山・山伏峠の道中は地味な山行に加え、芦ノ湖側の展望もほとんどないので、以下の小写真の羅列で一気 に駆け抜けてしまうことにしましょう。実際、見るべきところはほとんど無いコースで、三国山頂上に到達しても展望はありません。 私はこの山頂付近で歩きながら昼食を済ませ、遅れた時間をかなり回収しました。今日は午後から天気が徐々に下り坂になる予報。なるべく早 い時間に海ノ平に辿り着く必要があるのです。が、時すでに遅しなのかも?山頂を少し過ぎた辺りでわずかに見えた芦ノ湖対岸の駒ヶ岳に、何や ら大量の雲が積み重なっているような気が・・・・?
静かな樹林帯を抜け、山伏峠を通り過ぎると、眼前の視野が突然拡がりを見せます。なだらかな下り丘陵の先に見えてくるのは、一軒のレスト ハウス。芦ノ湖スカイラインとハイキング道とに併設された茶屋で、ハイカーにとっては唯一のコース途中における食糧・飲料補給ポイントでもありま す。また、スカイライン上でも随一の広視界パノラマポイントでもあるので、平日でも訪れる人はかなりいるようです。 私がここまで来るのに、ノンストップ・休憩無しで3時間。なのに車利用の人はビジネス・スーツ姿でも難なくここに辿り着けてしまっているのが、な んとも複雑な気分。いや!私とアナタ達では、見えている景色がきっと違うのだよ!と言い聞かせつつも、 「いや〜今日は駒ヶ岳が雲でスッポリ隠れてダメだねぇ〜。残念、残念。」とか、そばで余裕顔して言われると、思わずムッとなります。ぐぬぬ、黙 れ黙れ!残念、残念じゃねぇよ!こちとら3時間、汗まみれでココまで来てるんだあぁっ・・・! でも実際、三国山山頂付近で感じた悪い予感は当たってしまって、好条件ならば芦ノ湖を眼下に駒ヶ岳、そして二子山まで見渡せる眺望が拡 がるはずなのに、今は低く垂れこめた重そうな雲が、次々と山頂付近にのしかかっってくるような光景が展開されていました。 「…こういうとき どんな顔すればいいかわからないの。」(レイ) 「笑えば いいと思うよ。」(シンジ) 場所柄、エヴァをパクって一人ボケをしてみましたが、えぇ〜い!笑ってられるかぁ!とりあえず駒ヶ岳は見えなくていいとしても、二子山が雲に隠れ て見えなくなってしまうのは、今回のコンセプト上からも非常にマズイ。 「最悪アレか!?二子山は使徒の攻撃に遭って消滅してしまいました、という設定にして結論づけるか…?って、それじゃもっとダメダメじゃん!これ、 『ヨコハマ買い出し紀行』だよ…!?(←それも違う。)」という、自分でも暴走気味の解釈に、ひたすら混乱します。 結局は落ち着きを取り戻すためにレストハウスで小休止をしたことにより、幸いにも天候が若干の回復を見せてくれてきました。また、雲の流れも すごく速いことだし、二子山は雲を引っ掛けにくい比較的低い山ですから、小一時間も歩いているうちに状況が変わってくるかも知れません。という ことで、一縷の希望は捨てずに、ともかくまずは『海ノ平』へ向かって歩いて行くことにしちゃいましょう。そうしましょう。
ここで、冒頭で後回しにした『海ノ平』を舞台地と推測した歴史的要素について述べておきましょう。 三島市のWebページ内にある文化財資料「平安・鎌倉古道」を閲覧すると、以下のようなことが記されています。
ここが『箱根路』として使われていた時代の、越えねばならぬ『峠』として認識されていた地名だったからなのだそうです。 現・箱根峠より標高がある未舗装路の『峠』道、なんだか条件が整いつつあるではないですか!しかも、Googleマップ上の地名クリックから表示 される投稿画像には、この『海ノ平』から二子山がバッチリ写っている写真も見つかるのです。これはガゼン期待も高まるというもの。笹竹の道からス スキまみれの道へと変わってきたことが少し気がかりではありますが、緩やかなアップダウンを繰り返すルートをガンガン進んで行きましょう!
……が!そこは期待をビミョーに裏切る風景となっていました。そもそもが『海ノ平』と表記された道標が見つからず、いつの間にやら次のガイドポス トまで辿り着いてしまい、迂闊にも通り過ぎてしまっているという事実に気づく始末。再び来た道を戻り、入念に辺りをチェックするも、どうしても道標 が見つからない。おそらく明るくひらけた直線の一本道がそうなのであろうなとは思いましたが、どうにも釈然とするものがありません。第一、背の高い 笹竹とススキに道の両側を塞がれ、二子山方面の眺望まるで無し。天候がぁー!雲がー!と言ってる以前の問題です。 これは後日、帰宅してからじっくりと他の人の山行記録を調べて見てからの結果なのですが、『海ノ平』(※実際は『海平』と書かれている)という 道標は、ススキの時季には埋もれて見えなくなってしまうそう。そしてどうやら海ノ平からは、二子山は笹竹と空の隙間に辛うじて稜線部分だけが見 えるという程度のモノらしいです。あぁ、やっぱりGoogleマップの投稿画像は話半分、鵜呑みにしちゃイケないですねぇ。 そして知り合いの、「特に印象に残らなかった」という感想にも納得です。富士山が見える日にはまた別格なのでしょうが、視界の利かない平坦な 直線道は、まるで河川敷のススキ道を歩いているかのよう。ここ、竹藪とかをもう少し刈り込んでくれたら、素晴らしい展望スポットになりそうな可能 性はあるんですけどね。それこそ、海ノ平から湖畔へと下る「平安・鎌倉古道」を復活させたら、あの『峠』道が再現できるかも知れません。
少し落胆した気持ちのまま、箱根町バス停までの残りのコースを消化します。(←「消化」というくらい、面白味のない道中でした。) しかし途中、何の期待もせず立ち寄った『道の駅・箱根峠』の展望テラスで、全く予想もしていなかった光景に出くわします。 「あれっ!?こんなトコからでも、二子山バッチリ見えるじゃん!これまでの苦労は一体……?」 そうなのです、国道1号線上(かつての車道)という矛盾があるとは言え、労せずにべストビューで見られるポイントがあったのですね。しかもここから 改めて風景を見直してみると、作品中3コマ目の視点は、どうやら要害山の稜線のような気も……。 さすがにリベンジでここを調査しようという気は……ない…かな?いや、どうだろう?
参考資料:三島市HP・文化財資料「平安・鎌倉古道」
昭文社 山と高原地図30 箱根 |
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