軟骨魚類 板鰓亜綱(ばんさいあこう)

軟骨魚類の現存種は全頭亜綱Holocephalimorphaのギンザメ目 1目3科6属、板鰓亜綱Euselachiiのサメ類 9目34科105属・エイ類 4目います。 シルル紀の地層から最初期の鱗化石が、決定的となるデボン紀前期の化石ではすでに系統樹が全頭亜綱と板鰓亜綱に枝分かれしていました。

現在のサメ

板鰓亜綱ってい早い話サメやエイです。

さくっとした特徴は、鰓蓋が無く、直接外へ開く鰓裂の中に5~7対のエラ、胃袋があり、胸ヒレが倒せない。板鰓亜綱は進化の過程で大きく3系統に分けて考えられることが多く、まず デボン紀~ペルム紀まで繁栄したクラドドゥスCladodus系統、続いて石炭紀~白亜紀まで繁栄したヒボドゥスHybodus系統、ジュラ紀~現在までの系統となります。

古代サメ クラドセラケ

板鰓亜綱の最初期化石はデボン紀前期のドリオダスDoliodusからはじまり、後期には古生代サメ類の代表格となるクラドセラケCladoselacheの全体化石が発見されています。

クラドセラケは現存のサメ類に似た姿で流線形をしていますが、背ビレが2基あり、クチの場所も頭蓋骨の下ではなく体の一番前にありました。顎関節が非常に弱く、それを補うようにアゴを閉じる強い筋肉が発達していたことから、捕食は噛み切らず丸飲みでした。 尾ヒレの内部構造は異尾で、外見は前方への推進力を得るのに適した上下対称型。根元が広い大きな胸ビレは水中翼として上昇能力や方向転換・ブレーキ機能と急制動の遊泳を可能にできるため、尾ヒレは推進力に徹していたのかもしれません。 クラドセラケは機動力に長けた機敏な捕食者だったようです。

ラブカの多生歯性

海洋生物の生存率4% ペルム紀末の大絶滅を生きぬいたヒボドゥス系統は中生代を代表するサメ類で、クラドドゥス系統に対しクチは小型化しました。遺存種にはネコザメ目ネコザメ科やカグラザメ目ラブカ科・カクラザメ科がいます。 歯の形状は前歯側は捕えるために鋭く尖がり、奥歯は尖っておらず硬餌食に適した形となっています。この2種の歯のおかげで魚や貝類や甲殻類などバリエーション豊かな捕食ができるようになりました。

フチがギザギザ セレーションの歯

ジュラ紀に入ると現在のようなサメ類が登場し、胸ビレは基底が固く長いものから短く柔軟なものへと変わりました。 化石種も現存種も眼が小さく嗅覚器が大きいことから嗅覚に頼って獲物を見つけています。 新生代には頭蓋骨とアゴが独立し、アゴは吻軟骨と発達した筋肉で支えられて後方に位置するようになります。獲物を捕らえる場面でのみエイリアンのように突出する構造となりました。 さらに一生のうち連続的に生え変わる多生歯には切断能力が高い鋸歯状のセレーションがついて獲物を噛み切る能力が飛躍的に増しました。

エイ類

サメとエイの鰓裂位置
ドチザメTriakis scyllium
アカエイDasyatis akajei
京急 油壷マリンパーク

エイ類はジュラ紀にサメ類から派生したグループで、体高より体幅の広いの縦扁(じゅうへん)の底性に適した体型をしています。 胸ビレが体盤の周囲を縁取るように大きく発達した際、胸ビレがエラの上を通ったためエイ類の鰓裂は体の下面に開いています。鰓裂が側面に開いていればサメ類となります。他にも差異はありますがそこは割愛。

レバノプリスティス化石とノコギリエイとサカタザメ(下画像参照)

サメ類とエイ類は外見が似たような姿をしているものがいます。下画像のレバノプリスティスLebanopristisはノコギリザメ目、ノコギリエイとサカタザメはどちらもノコギリエイ目で分類上は異なる系統です。 レバノプリスティスの隣にいるリノバトスRhinobatosは見たまんまエイ。

Lebanopristis sp.、Rhinobatos sp.
左:Lebanopristis sp.(ノコギリザメ目)
右:Rhinobatos sp.(ガンギエイ目 サカタザメ属)
白亜紀 / 国立科学博物館
ノコギリエイ
サカタザメ

淡水に適応した板鰓亜綱

Orthacanthus senckenbergianus
Orthacanthus senckenbergianusXenacanthida
ペルム紀 / 国立科学博物館

シルル紀、もしくはそれ以前の海水域に登場した各魚類群は、淡水域にも生息地を広められるよう体内塩分濃度を一定に保てる進化をしました。 細胞膜は細胞内外で異なった塩分濃度であるとき、水分は細胞膜を透過して濃度の低い方から高い方へ浸透し、お互いを平衡にする半透性の性質があります。 ほとんど塩分のない淡水域では、血液中の塩分濃度の高い体内へ大量の水が体内に次々に流入し、体内が水ぶくれの危険にさらされ発育阻害や死滅を引き起こし、それとは反対に血液中の塩分濃度より体外濃度が高かければ、体内の水分が流出する危険があります。 海水域でのみ進化を遂げた軟骨魚類は、浸透圧調節を行うオズモライトや尿素を体内に大量に蓄積して血液の浸透圧を海水レベルに上昇させて一定に保っています。

現存するトビエイ目には地殻変動などで海水域から切り離され適応進化を余儀なくされた淡水エイがいます。 大型魚アクアリウムで見かけるスティングレイやモトロなどのポタモトリゴン科Potamotorygonと、体盤と尾を含め5m近くに達するアカエイ科のヒマンチュラ チャオプラヤHimantura chaophrayaになります。ポタモトリゴン科とヒマンチュラ チャオプラヤは、それぞれ南米アマゾン河流域とタイ・東ボルネオの河川に生息し、トビエイ目のグループでしか接点はありませんが、どちらも浸透圧調節を行っていた尿素はアンモニアとして排出するため血中に尿素をほぼ含まず、海水域では生存不可になります。

淡水エイを除けば軟骨魚類は海棲種となりますが、河川を遡上するサメがいます。 メジロザメ目メジロザメ科に属するオオメジロザメは淡水域にも現れるサメとして有名で、ニカラグア湖やグアテマラなどの淡水湖にも生息しています。 淡水エイのような適応進化はしていないため、海水・淡水で生息を可能にする浸透圧調節の詳しいメカニズムは未解明のままですが、腎臓でできるだけ尿素を回収することで淡水域に適応しているようです。

軟骨魚類の簡単な特徴

サメじゃない ギンザメ