川越の漢文2(碑文)


<目 次>
川越藩松平大和守家記録2

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「川越藩松平大和守家記録2」 川越市立博物館 2017年 ★★★
武蔵国川越城漏鐘銘并序  武蔵国川越城漏鐘銘并びに序
報時之来尚矣
時を報ずるの来たること尚(ひさ)し。
天下之□□至動之□、苟非日以紀之、時以次之、其何以行焉哉   ※□1、□2
天下の□□(びび)として至動の□(おくふか)きは、苟(いやしく)も曰は以(もつ)て之(これ)を紀(しる)し、時は以て之(これ)に次(つ)ぐに非(あら)ざれば、其れ何を以て行はれんや。
伝曰、漏刻之制、蓋肇軒轅宣於夏商
伝に曰(いは)く、漏刻の制は蓋(けだ)し軒轅より肇(はじ)まり、夏・商に宣(ゆきわた)る。
而報時之起、蓋同于此矣
而(しか)して時を報ずるの起こるも、蓋し此(これ)に同じからん。
上棟下宇、重門撃柝、情其足観焉
棟を上(うえ)にし宇(のき)を下にし、門を重(かさ)ねて柝(たく)を撃(う)つ、情(おもむき)其れ観るに足らん。
且夫朱冠玄膺、奉職歩庭誰知其始也
(かつ)(それ)朱冠玄膺(よう)、職を奉じて庭を歩むも誰か其の始まりを知らんや。
化工之篤材、輔相之開物大哉
化工の材篤(あつ)く、輔相の物を開くことの大なるかな。
夫壺箭致工、伝漏報時、礼儀行焉、庶績熈焉
(それ)壺箭(こせん)の工を致し、漏を伝へ時を報じ、礼儀行はる、庶(もろもろ)の績熈(いさをかがや)けり。
是其於易也、為節之象矣
(こ)れ其の易(えき)に於けるや、節の象(しょう)たり。
而天地之道貞観也、則漏鐘之警人、亦惟示節也
(しか)して天地の道は貞観なれば、則(すなは)ち漏鐘の人を警するも亦(ま)た惟(これ)節を示すなり。
已節之為卦、沢上有水四時行焉、品物生焉
(すで)に節の卦(か)たる、沢の上に水有るは四時行(めぐ)り、品物生ずるなり。
経曰、剛柔分而剛得中、天行之所以健、君子之所以□□、無他斯而已矣   ※□
経に曰く、剛柔分かれて剛中を得(う)れば、天行の健(すこ)やかなる所以(ゆえん)、君子の□□(けんけん)たる所以は、他無く斯(か)かるのみ。
而漏鐘之資以示焉、亦盛也哉
而して漏鐘の資(よりどころ)は示すを以てす、亦(ま)た盛んなるかな。
道有於已、而法制□於時、節也者道之確然不可易、而法之凛乎不可犯者也   ※□(木+曷)
道は已(や)むに有(あ)るに而して法は時を制□(けつ)す。節なる者は道の確然として易(か)うべからざるも而して法の凛乎(りんこ)として犯すべからざる者(もの)なればなり。
是故違道乖法非不知道與法、未嘗知二者之為節也
(こ)の故に道に違(たが)ひ法に乖(そむ)くは道と法とを知らざるに非ずして、いまだ嘗(かつ)て二者の節たるを知らざるなり。
至哉節也
至なるかな節や。
日警時示人、其可不勉邪
(ひ)び時を警して人に示し、其れ勉めざるべけんや。
若夫不節若之嗟若、又誰咎焉
(も)し夫(それ)節若(せつじゃく)たらざるの嗟若(さじゃく)は又(ま)た誰(たれ)をか咎(とが)めんや。
人心之莫知其郷、嗚呼、思哉
人心の其の郷を知る莫(な)きこと、嗚呼(ああ)思はしきかな。
語曰、未之思也、其何遠之有
語に曰く、いまだ之(これ)を思はざるなり。其れ何ぞ之(これ)を遠しとすること有らん。
而鐘之報時世云鐘能廻山、鼓能徹山
而して鐘の時を報ずるは世に云ふ鐘は能(よ)く山を廻(めぐ)り、鼓は能く山を徹すと。
声之致遠物莫加焉
声の遠きに致(いた)るは物の加ふる莫(な)ければなり。
矧金革、為春秋之音万物之以類相動也
(いは)んや金革、春秋の音と為(な)れば万物の類を以て相(あひ)動くをや。
使人儼然気充足有為者、非鐘声乎
人をして儼(げん)然として気充足して為(な)す有らしむる者は鐘の声に非ずや。
使人油然進而不已者、非鼓声乎
人をして油(いう)然として進みて已(や)まざらしむる者は鼓の声に非ずや。
蕭斉之置于景陽、李唐之県于太史宜也
蕭斉の景陽に置き、李唐の太史に県(か)くるは宜(うべ)なり。
允升謹按国史曰、天智天皇十年、用鐘鼓報時候
允升謹んで国史を按ずるに曰く、天智天皇十年、鐘鼓を用ひて時候を報ずと。
後世因之
後世は之(これ)に因(よ)る。
本藩先侯源姓松平氏、諱朝矩、従四位下行侍従兼大和守、始封侍従姫路侯諱直基之玄孫実為中納言越前侯諱秀康之来孫
本藩の先侯源姓松平氏、諱は朝矩、従四位下行侍従兼大和守、始封は侍従姫路侯諱は直基の玄孫にして実(げ)に中納言越前侯諱は秀康の来孫為(た)り。
温恭容人、視事亮達
温恭にして人を容(い)れ、事を視るに亮達なり。
其在封於上野前橋也、刀祢湍悍城土数壊
其の上野前橋に在封するや刀祢(とね)の湍悍(はやせたけ)くして城土数(しばしば)壊(こぼ)たる。
朝以懇命賜本城、先侯来移于此、初城外有漏鐘小而破矣
(てう)懇命を以て本城を賜はり、先侯来たりて此(ここ)に移るに、初め城外に漏鐘の小にして破(やぶ)れたる有り。
先侯遷移之劇、且従用之、別設漏鼓、更点同報
先侯遷移の劇(いそがは)しければ、且(しばら)く従ひて之(これ)を用ひ、別に漏鼓を設け、更点して報を同じうす。
今侯名直恒、猶幼仰惟先旨遺美之従、今茲明和七年鋳新鐘因命臣銘之
今侯名は直恒猶(な)ほ幼きも仰ぎて先旨の遺美の従はるを惟(おもんばか)り、今茲(ここ)に明和七年新鐘を鋳し、因(よ)りて臣に命じて之(これ)に銘せしむ。
臣惟古者盤盂豆觴銘以誡焉
臣惟(おもんばか)るに古(いにしへ)は盤(さら)・盂(はち)・豆(たかつき)・觴(さかづき)の銘は誡(いましめ)を以てす。
況是不朽之重器乎
(いは)んや是(これ)は不朽の重器なるをや。
而鏗鏗之声報時警事、城市郷野、人省戸警、豈得無思之一有於其間邪
(しか)して鏗鏗(かうかう)の声もて時を報じ事を警すれば、城市郷野、人を省み戸を警す。 豈(あ)に思の一(いつ)として其の間に有ること無きを得んや。
節之義曰、省時察其是於斯矣哉
節の義に曰く時を省み其の是(ぜ)なるを察するは斯(ここ)に於(お)いてなるかな。
 辞曰、
 辞に曰く、
  維天之命於穆不已
  維(これ)天の命於(ああ)(うるは)しくして已(や)まず
  民之秉□維徳有弃     ※□
  民の□(い)を秉(と)るは維(これ)徳弃(す)つるに有り
  寸陰斯愛川上足視
  寸陰斯(か)く愛(を)しめば川の上(へ)も視るに足らん
  美哉宝鐘篆枚爰備
  美しきかな宝鐘、篆(てん)枚爰(ここ)に備はる
  鯨魚一越蒲牢大贔
  鯨魚一(ひと)たび越ゆるも蒲牢(ほらう)大贔(び)なれば
  入虚婉約繚眺四至
  虚に入りて婉約、四至に繚眺(れうてう)たり
  如羽如鱗時時維次
  羽あるものの如く鱗あるものの如く時を時として維(これ)(つづ)
  豈不夙夜各事爾事
  豈に夙夜各(おのおの)に事(つか)へ爾(しか)く事へざらん
  深諮掲勿傾勿□    ※□
  深きに獅オ浅きに掲し傾(かたむ)くなかれ□(つまづ)くなかれ
  勉旃勉旃永求祥瑞
  旃(これ)を勉め旃を勉めよ永く祥瑞を求めよ
   奉命行
   命を奉じて行ふ(は)
      川越国老臣小河原政純
        副事臣下川 元于
        計長臣里見 一貫
         賈人臣内山 正孝
          冶工 小川為勝作
  于時
  時に
 明和七歳次庚寅秋九月
 明和七歳庚寅に次(やど)る秋九月
         川越 儒士臣斉藤允升謹撰
         川越儒士臣斉藤允升謹みて撰す

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作成:川越原人  更新:2021/09/23