川越の漢文1(序文など)


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校注武蔵三芳野名勝図会

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「校注武蔵三芳野名勝図会」 校注/山野清二郎 川越市立図書館 1994年 ★★★
 
三芳野名勝図会序  三芳野名勝図会の序

前使鮑叔遂不能知管中、則一匡之耀、九合之馨、徒埋于不忠之下而已、
(さき)に鮑叔(ほうしゅく)をして遂に管中(くわんちゅう)を知ること能(あた)はざらしめば、則(すなは)ち一匡(きやう)の輝(かがや)き、九合の馨(かを)り、徒(いたづ)らに不忠の下に埋(うづも)れんのみ。
交而知之馨、 知而薦之耀、徒隠于不信之中而已、
(まじは)りて知るの馨り、知りて薦(すす)むるの輝き、徒らに不信の中に隠れんのみ。
桜者花之覇也、先与我衆花戦而勝焉、
桜は花の覇(は)なり、先(ま)づ我が衆花と戦ひて勝つ。
朝鮮琉球之花、遠聞香而降焉、
朝鮮・琉球の花は、遠く香を聞きて降(くだ)る。
西土北韃之花、無敢挑色者焉、
西土・北韃の花は、敢(あ)へて色を挑(いど)む者無し。
欧羅之諸蛮、珍奇之花、亦不能対陣也、
欧羅の諸蛮、珍奇の花も、亦(ま)た陣を対すること能はざるなり。
其最大軍巨塁、耀于四海、馨于六合、苟有目与鼻、則無不感眩嬉酔者、為和州芳野也、
其の最も大軍巨塁、四海に輝き、六合に馨(かん)ばしく、苟(いやし)くも目と鼻と有(あ)れば、則ち感眩嬉酔せざること無き者を、和州の芳野と為すなり。
余住京師七年、凡三往、
(われ)京師に住すること七年、凡(およ)そ三たび往(ゆ)く。
始則以候期之緩、故徒観禿叢枯林而已、
始めは則ち候期の緩(おく)るるを以(もつ)て、故(ゆえ)に徒(ただ)に禿(とく)叢枯林を観(み)るのみ。
中則歳寒、
中ごろは則ち歳寒し。
滞於南都、待於旧友之家、
南都に滞(とど)まつて、旧友の家に待つ。
皆曰、珠粒黍點、猶未見些紅、
皆曰(い)はく、珠粒黍(しょ)点、猶(な)ほ未(いま)だ些(いささ)かの紅を見ずと。
乃棄返焉、
(すなは)ち棄(す)てて返る。
終而始得遇不早不晩、無雨無風、至美極栄之辰也、
終りにして始めて早からず晩(おそ)からず、雨無く風無く、至美極栄の辰(とき)に遇(あ)ふことを得たり。
未至一里、狂香浴人、
未だ一里に至らざるに、狂香人を浴す。
余抃手曰、謂之芳、豈誣乎、既至、山腹谷間、尽花矣、
(われ)手を抃(う)つて曰く、之(これ)を芳と謂(い)ふ、豈(あ)に誣(し)ひんやと、既に至る、山腹谷間、尽(ことごと)く花なり。
唯無一株在平地者、
(た)だ一株の平地に在(あ)る者無し。
亦無尋常坦夷之処、
亦た尋常坦夷の処無し。
余傾頭曰、謂之野似不協、
(われ)頭を傾けて曰はく、之を野と謂ふ、協(かな)はざるに似たり。
蓋仮他州善於花地名者矣、
(けだ)し他州の花に善き地名を仮(か)る者ならんと。
辛酉、還于東府、
辛酉(かのととり)に、東府に還る。
河肥中島済美、示其所輯三芳野名勝図会、
河肥の中島済美、其の輯(あつ)むる所の三芳野名勝図会を示す。
且需有言于其首、
(か)つ其の首(はじめ)に言有らんことを需(もと)む。
余問所以呼芳野、則曰、三芳野者、河肥之旧号也、
(われ)芳野と呼ぶ所以(ゆゑん)を問へば、則ち曰はく、三芳野とは、河肥の旧号なりと。
乃昔日之疑、於是乎解、
(すなは)ち昔日の疑ひ、是(ここ)に於(お)いてか解く。
夫武一州尽野矣、
(そ)れ武の一州は尽(ことごと)く野なり。
自上古之時、以善於月称焉、
上古の時より、月に善きを以(もつ)て称せらるるなり。
是必以月掩花者矣、
是れ必ず月を以て花を掩(おほ)ふ者ならん。
今所謂江戸桜、其三芳野之所出乎、
今の所謂(いはゆる)江戸桜は、其れ三芳野の出(い)だす所か。
余又観和芳野竹林院園、園中之名樹、皆江戸桜、
(われ)又和(やまと)の芳野の竹林院の園を観るに、園中の名樹、皆(み)な江戸桜なり。
其自武野移者、亦昭著闡白、
其の武野より移す者も、亦た昭著闡(せん)白なり。
西土人詠我桜詩、如彼牡丹兼海棠者、亦江戸桜而已、
西土人の我が桜を詠ずる詩に、彼(か)の如きは牡丹(ぼたん)と海棠(かいだう)を兼ぬといふ者も、亦た江戸桜のみ。
然人知有西芳野、未知有東芳野、
(しか)れども人、西の芳野有ることを知りて、未(いま)だ東の芳野有ることを知らず。
是其埋隠、何異于管子縲絏之時乎、
是れ其の埋隠、何(なん)ぞ管子縲絏(るゐせつ)の時に異ならんや。
済美挙而顕之、
済美挙げて之(これ)を顕(あら)はす。
是其馨耀、何異干鮑子談説之日乎、
是れ其の馨輝、何ぞ鮑子談説の日に異ならんや。
夫然後芳野之所以為野、江戸桜之所以為江戸、可得而誇焉、
(そ)れ然して後に芳野の野たる所以(ゆゑん)、江戸桜の江戸たる所以は、得て誇るべし。
海之内外、孰敢敵焉、
海の内外、孰(いづ)れか敢(あ)へて敵せん。
余則甚慶三芳野之被済美知、而得尽勝焉、
(われ)は則ち甚(はなは)だ三芳野の済美に知られて、尽く勝つことを得ることを慶(よろこ)ぶ。
且桜与済美与余、皆同生于武州、
(か)つ桜と済美と余(われ)と、皆(み)な同じく武州に生まる。
故作序、又作四句詩、
故に序を作り、又四句の詩を作る。
   桜
春老疎籬篩暖雪
春老いて疎籬(そり)暖雪篩(ふる)
夜闌甘井汲香霞
夜闌(たけなは)にして甘井香霞を汲む
西戎北狄請看取
西戎(じゅう)北狄(てき)(こ)ふ看取せよ
大地球頭第一花
大地球頭第一の花
享和辛酉冬十一月
享和辛酉(かのととり)冬十一月
                               青陵 海保皐鶴万和
                               海門 瀧川亮元弼書

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作成:川越原人  更新:2021/09/23