税理士とは

What's税理士?

 税理士として仕事をしていると「計理士さん」や「経理士さん」などと呼ばれることがあります。今まであまりきちんと説明してきませんでしたが、ここで少し税理士の制度と仕事についてご説明しましょう。

税理士と公認会計士の違い

 税理士と名乗るためには、税理士として登録しなければなりません。弁護士と公認会計士は、税理士として登録することができます。これは、戦後の民主化の過程で、アメリカの税制使節団の勧告により、戦前の法律であった「計理士法」や「税務代理士法」が現在のように整備されてゆくなかで決まりました。
 弁護士は、税法という法律に関連して「法律の専門家」としての関わりから、公認会計士は、税金計算の基礎となる帳簿に関連して「帳簿の専門家」としての関わりからです。
 弁護士はさておき、税理士と公認会計士は、自らを仕事上「会計事務所」と名乗り、世間からは似たような仕事をしているように見えます。しかし、その専門性からいえば、税理士は「税金の専門家」であり、公認会計士は「帳簿監査の専門家」ということになります。
 税理士は、他人の求めに応じて租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談等を業として行う者で、「○○税」と名の付くものほぼ総てを網羅する仕事をしています。これに対し、公認会計士は、他人の求めに応じて報酬を得て財産目録、貸借対照表、損益計算書その他の財務に関する書類の監査又は証明を業とする者で、証券取引所に上場する会社等の決算報告書を株主に代わって確認する仕事をしています。

税理士の人物像

 税理士登録している者の数は約7万5千人で、その登録資格の内訳は、おおむね次のとおりです。試験合格者が約45%、税務職員OB等が約45%で、公認会計士が約10%という割合になります。
 ちなみに、弁護士の総数は約3万6千人、公認会計士の数は約3万人弱です。公認会計士については、その内1万人弱が税理士となります。また、税務職員OB等についてはOBでない者も若干含まれています。
 OBは、現在、税務署職員であれば、その勤務期間が23年以上で税理士登録できます。ここで非常におおざっぱな言い方をすれば、公認会計士は、その3分の1が本来の監査業務ではなく税理士業務で糧を得ていることになります。
 上場企業の数が限られており、職域を税理士に求めざるを得なかったからでしょう。また、OBについては、税理士が、税務職員の退官者の受け皿としての側面を持っているとも言えます。

OB税理士

 OB税理士は税務署に顔が利くか」と言えば、「人間関係で顔が効く人もいるかも知れない」ということになります。人脈的なものは確かにありますが、では全員がそうかと言えばこれはそうでもありません。昔の嫌な上司だった税理士に出くわせば仇の一つも取りたくなるのも人情でしょう(笑)
 公務員の中にも労働組合があったりします。それも一つではないようです。当然思想信条により極端に傾いた人なども居ます。年齢は高いが肩書きが年齢にあっていなかったりすることもあります。そうです、組織の中で順序だった地位から外れる人も居るのです。幹部にならない人達がいます。競争がある階級社会ですから組織が持つ基準に合わないこともありますが、辞めずにいようと思えば居残ることは出来る組織のようです。
 昔は税目別の縦社会でした。まあ公務員の中でも税務関係は民間のサラリーマンよりもずっと保守的な縦社会。そして所得税・法人税・資産税・間接税などの課税部門、徴収・管理・総務などの部門では、部門間を横断的に繰り返して担当することがあまりありませんでした。当初の配属が所得税なら退職するまでずっと所得税部門などということも多かったようです。
 それぞれの税目で別々の独立した法律ですから、まず簡単に他の税目の調査官になって即戦力という訳にはいかないのです。ですから退官してもとても狭い範囲でのスペシャリストという経歴の税理士が誕生してしまうこともあります。一般論ですが。私の身の回りでも何件かそういうケースを見聞きしました。相続税は苦手なので知り合いに頼んでやってもらっているなどというような話です。
 所得税や法人税については利益の発生に対する課税で、相続税については資産の移転に対する課税と言うことが出来ます。人が生活して行く上では利益と資産がいろいろと絡み合います。長い目で見ると各税目の関わるバランス感覚も必要になります。各税目のそれぞれに対してそれなりの経験を持っていないということには一抹の不安になることでしょう。
 公務員の社会しか知らなかった人は民間に出てきて戸惑うことがあるようです。調べる側の手の内は知っている、かつて自分が立っていた側ですからそれは良く分かります。でも民間にいる納税者との摺り合わせが上手く出来ない、調査官と一緒になってしまい納税者の側に立てない、そんな税理士の姿もあるようです。
 ただしOBの中にとても優秀な税理士がいるのもまた事実です。退官するときに国税局のエキスパートだった、税務署の担当者を指導していた、そんな人達です。その税目の微に入り細に入り、立法者の意図や細かい通達の適用、通達以外の内部的な慣例などを熟知している税理士がいるのも事実です。現在の調査官にしてみれば雲の上のような存在の人だったということです。
 また、定年の年齢からすぐに無職というのも嫌なので、とりあえず税理士として登録している、仕事にはさほど興味がなく、会合で友人と連れだって遊びに行くというような税理士の姿を見かけたりもします。人情として解る気もしますし、これはOB税理士に限ったことではありません(笑)

試験組税理士

税理士試験

  試験組税理士とは、国家試験である税理士試験科目のうち、税法の3科目と会計の2科目とで全部で5科目の試験に合格し、実務を2年以上経験したという意味合いです。ただしこの3科目と2科目の試験は、大学院で相応の論文を提出していると一部免除になったりします。以前はダブルマスターなどと言われて全5科目免除などという税理士もあるにはありました。税理士試験におけるだいたい各試験科目の合格率は10%前後でしょうか。
 なお全5科目一度期に合格する必要はありません。1つ1つでの合格で5科目に達すればよいのです。そして税法の3科目は1科目だけ必修で残りは受験生の任意です。任意なのです。会計については選択の余地はありません。
 また、会計科目には原価計算や工業簿記という項目が抜け落ちています。だから試験組の税理士であっても受験という洗礼を受けていない税目があり、総ての税目に目が届かない現状があり、会計については製造業の大切な部分に多くの知識を持っているとは限らないとも言えます。
 試験は、概ね論述と計算で構成されています。両者合わせて2時間という時間制限ですので、ペース良く回答してゆかないとまったく時間が足りなくなります。受験の最中に良く考えて回答するという時間がないようにも思えます。それぞれ1時間ずつを割くとして、筆記と計算のそれぞれに充分な時間などかけようもありません。
 受験の専門学校の受験技術に頼らざるを得ない受験生像が浮かび上がってきます。予備校のような受験の専門学校では、本番の試験のための暗記と受験のための技術を伝授してゆきます。
 論述問題については、レジュメと称して過去の試験問題や想定される出題について模範解答が用意されています。これをただひたすら暗記してゆきます。1時間程度で書いて回答するわけですから分量にも限界がありますし、少なすぎても採点者にとって見栄えがしないということが考慮されています。
 つまり受験生は、基本的には税法という法律文にあまり触れずに受験します。丸暗記で40門程度でしょうか。計算問題についても、問題文の中で誤解を生じてもやむを得ない形で出題され、受験生には後で誤解に気づいてもやり直す余裕を与えないような分量が出題されます。問題文の国語の読解に重点が置かれているようにも感じます。
 そして実務上ではまずお目に掛からない分野での計算に労力を捧げます。最終結果として合っているか間違っているかではなく、計算過程を明示して部分点で加点するのです。つまり、その税法に関する実力、つまり税法解釈や租税の論理認識を試すということよりは、どうやって振るい落としてゆくかという試験のように見えます。採点者が約1万人の受験生の回答を採点する、物理的なことや時間を考えても仕方ないということなのでしょう。
 コンピューターに読みとらせてあっという間に採点するという仕組みではないのですから。暗記した模範解答を引出から出して制限時間内にひたすら書き殴って論述を終え、問題文に騙されないように注意深く個々の細かい論点に沿った計算過程を書き電卓を叩いてくる、そんなイメージです。

試験組税理士

 試験の雰囲気がこういったものですから、極端に言うと、税の内容が理解できていなくても暗記していれば合格してしまうとも言えます。受験組の税理士は、実務で顧客と相い対したときに、自分でも理解していない専門用語を使ってしまう、顧客に説明できないというようなことも起こり得ます。
 税法は改正されて変わってゆくものですが、その変化もきちんと自分で咀嚼できない、パソコンのソフトが答えを出してくれるという税理士が出来てしまう可能性があります。
 多くの受験生、つまり税理士予備軍は、税理士の事務所に勤めながらこつこつと1科目ずつ受験をしてゆくのですが、実務としての仕事が出来るようになればなるほど受験が面倒で実務に邪魔なものになっているようです。また、受験を中心に考えていると暗記と受験テクニックに力を注ぎ、仕事としての目の前にある実務が置き忘れられてゆきます。
 実務と受験勉強を上手く調和させるバランス感覚を持たないと非常に歪な税理士が出来てしまうことになってしまう可能性があります。
 税理士の登録に必要な実務経験の2年は、試験の合格後のものに限られていません。試験の状況を考えると、合格後に実務的なものを学ぶべきかもしれません。
 実務的なものとは、社会常識やその業界の常識、民法や商法・会社法、各種営業許可等の決算書を提出する許認可、原価計算、経営学や経済学、そして税理士法や国税通則法、国税争訟法などになるでしょうか。

公認会計士という税理士

 税理士法という制度上のことですが、公認会計士と弁護士は、登録ないしは通知をすれば税理士となります。最近では一定の研修終了者ということのようです。登録とは税理士会に申請する事務手続きだけのことです。実務的には公認会計士という税理士が大多数で、弁護士という税理士を私は知りません。
 公認会計士の主な仕事は監査ということになります。簡単に言えば、経営者が株主に会社の業績を報告するために作成する決算書の信憑性を保証する仕事とでも言えばよいのでしょうか。実務的に一番分かりやすいのは、上場企業の有価証券報告書に、決算書の内容を確認して間違えないというお墨付きを与えることです。
 つまり法人が主たる得意先、上場企業の帳簿等のチェックですから到底1人で出来る仕事ではありません。監査法人という名の公認会計士だけの団体で組織的にあたります。本来の会計士業務はチームワークが前提のサラリーマン的業務とも言えます。
 そして上場企業や上場予備軍のような会社ですから国際的で法人中心です。そうです、大企業の決算報告書や法人税、ないしは国際業務が専門なのです。税理士として見た場合には、中小企業の法人税、所得税や相続税についての知識を制度的に学習していないということになります。
 私達の身の回りにいる公認会計士・税理士という肩書きの人は、ある意味では、公認会計士という試験に合格しているがその試験本来の監査という仕事をしているのではなく、本来は専門でない税理士としての仕事をしているとも言えます。
 他方税理士登録しないと税理士業務も違法になってしまうため、監査専門の公認会計士も税理士登録をすることもあるようです。

弁護士という名の税理士

 弁護士という名の税理士の起源は、税法という法律から来ているものと思われます。そうです、税金は法律によって決まっているのですから、オールマイティに法律の専門家である弁護士が税法という法律から排除されて良いはずがありません。(笑)
 ただし、弁護士本来の仕事をせずに税理士という仕事をしている人のことを知りませんので何とも言えません。
 私が過去に係わった色々な弁護士からは税理士のイメージは想像できません。弁護士の本分は顧客の利益をいかに護るかであり、トラブルの渦中があたりまえ、正義の味方と言うよりは顧客にとって都合の良い権利や利益を最大限主張する、結論は裁判所が出すだけ、裁判所とは証拠と訴訟技術で裁定してもらう仕事場と考えている、とでも言えばよいのでしょうか。
 まあ、法律の用心棒や助っ人が税務の用心棒や助っ人になるかどうかは良く分かりません。なお、弁護士法には社会正義の実現が弁護士の使命と書かれているようです。
 私の感想では、依頼者の仕事をする上で法律と税務が関わる場面で、お互いに依頼者の利益を異なった角度から複眼的に考えるためのパートナーという感じでしょうか。
 ただし、税務の不服申し立てや裁判などで国税当局と争う場面では、税務弁護士がとても大事になる時代が来ています。税務の争いでも弁護士は必要になってきます。

TKCの税理士

 (株)TKCは東証1部上場企業です。証券コード9746、四季報の解説には、会計事務所・地方公共団体の事務処理受託で首位。回線利用のセンター処理に特徴、などと書かれています。
 税理士業界にシステムを提供している企業には、㈱日本デジタル研究所:東証1部、(株)ミロク情報サービス:東証2部上場があります。また、(株)エヌ・ティ・ティ・データやTAC(株)、上場企業ではありませんが日本ICS(株)も有名なシステム販売会社です。
 これらの企業は、基本的には税理士に、税務申告書作成のためのコンピューターソフトやハードといったシステムを販売しているのですが、TKCだけは異質な営業を展開しています。
 テレビコマーシャルや新聞紙上の広告などでも解るように、税理士を組織する活動に力を注いでいるのです。税理士事務所の看板や名刺などにTKCのオリジナルロゴを入れたりしています。
 税理士の勉強会や税理士事務所の職員研修がその特徴の一つです。巡回監査という独特の業務体系を推奨し、顧客の所へ毎月訪問して領収証などをチェックするノウハウを提供しています。
 顧客の所で、毎月、税務署の職員が調査時に行うであろう作業の予行演習みたいなものとも言えます。税理士の勉強会という側面では、新人税理士などが独立するに当たって楽に開業できる、コンビニエンスストアの店長がチェーンの本部に応募して開業を手助けして貰うのにも似ています。
 職員研修という側面では、税理士自身が自分の職員を教育しないで済んでしまうことになります。ある意味で、税理士は自分の事務所経営の大事な部分、自分の職員が顧客と接するための教育という業務を、TKCという会社が作ったマニュアルにはめ込んでしまう、外部委託してしまっているということもできます。自分で人を育てなくても済んでしまうからです。
 もう一つの特徴として、税理士とその顧客の関係の中でビジネスを積極的に行っている、言い換えれば税理士事務所をあたかも代理店のようにして営利事業を展開しているということです。
 税理士の顧客にコンピューターシステムや消耗品を販売することは元より、積極的に生命保険や損害保険、金融商品等を販売したり斡旋したりしようとしています。あたかもモノを売るために税理士を組織化しているようにも見えることがあります。
 TKCという企業は創業者が税理士だったようです。そして仲間とともにシステムを開発して大型コンピューターの導入を率先して行ったようです。コンピューターがとても高価で個人では簡単に利用できない時代の話です。
 四季報に書かれている地方公共団体の事務処理受託というのは、大型コンピューターを導入した計算センターが出発点だったからです。また、計算センターですから当然税理士の顧客のデータが多数入手できます。そこで業種別・規模別の平均値を電話帳のような本にして経営指標として利用しています。
 データを統計的に処理し経営指標として利用し始めると、今度は集計する各企業の数字に類似性が求められてきます。そうすると今度は統計処理するために画一的な処理が税理士の顧客に要求されるようになります。この会計科目にはこういった内容と性格のものだけ当てはめて欲しい、といった感じです。
 各々の顧客の特殊性や個性が消されて独自の創意工夫の余地が無くなってしまう、処理方法の自由度が無くなり押しつけがましく聞こえることが多くなるようです。
 計算センターが基本でしたからデータ処理をした日時が記録されます。毎月領収証等をチェックする巡回監査と、毎月のデータを処理した日時を証明する、つまり税理士事務所の職員による税務調査の予行演習と、一度処理したら時間的に後から遡って訂正処理をしていないということを公表し、顧客の会計や税務に関する処理が適正であることを主張しようとしています。
 TKCという会社の創業時代には国税当局の権力がとても強く、まだまだ民主的な税務行政が行われていなかった混乱期のようにも聞いていますし、税理士個人では太刀打ちできないような事例が多くあった時代であったとも聞いたことがあります。
 その当時に、個々の税理士ではできないことを税理士が連帯して当たったという側面や歴史が、TKCという会社の成り立ちのようです。

税理士と名乗れない人(〇〇崩れな人)

 税理士法では、税務の仕事を税理士が独占することになっています。現実的かどうかは別にして、税理士や納税者本人以外が他の納税者の申告をしてはならないのです。
 公認会計士や弁護士も登録によって税理士になれますが、登録をしていないと違法になってしまいます。これらの税理士の仕事は有償無償に係わりがありません。
 申告とは、申告書を書いて出すということになりますが、書くという行為が代書だけで有ればこれに該当しないようです。しかし税務の判断を含む場合には、たとえその判断を無償としても違法になってしまいます。従って、判断を含まない申告書の代書というのは現実的には無さそうなのです。
 にせ税理士などという言葉もあります。まったくの無資格です。元々の申告書は、申告納税制度として、納税者が自分の税金を自分で申告するという建前の元に出来ていますので、ちょっとした知識が有れば書いて出せるものだと思います。
 このにせ税理士の実体は、ほとんどが、元税理士事務所の職員のようです。門前の小僧のように実務に精通した人は、昨年の申告書等を見本にすれば、納税者の数字にも税法の規定にも大きな変動がなければあっさり出来てしまうのではないでしょうか。
 所得税の事業所得も法人税の申告書も基本は簿記や会計になります。簿記も会計は誰でも習えるし、この知識は資格であって免許ではありませんから、誰かの帳簿を作成することは何の法律にも違反しません。税理士の本業は、この簿記や会計に精通して、出来上がった帳簿に基づいて申告書を作成することです。
 そして申告書自体は申告納税制度を元にして出来ているですから気が利いた人には無理難題ではありません。非日常的に起こることや勝手知らない新しいことが起きたときに立ち往生する可能性は大なのですが。
 税理士も歳をとって引退しますしその税理士の事業は基本的に個人に帰属するものですから跡継ぎという問題があります。うまく後継者が試験に合格して後を継げればよいのですが、後継者が後を継ぐ前に他界する税理士もいます。無資格事務所が出てしまう可能性があります。2代目が引き受けられないからです。
 こういった場合には他界した税理士の友人などが、2代目が後を継げるまでバトンタッチするための空白期間を埋めるべく事業そのものを預かる場合があります。この中継ぎ税理士がきちんと預かれれば問題はありませんが、場所的に事務所が離れていたりすると支店のような格好になってしまうこともあります。
 1人の税理士は事務所を1つしか運営出来ません。名義貸しなどとも言われてしまいます。税理士も法人化できるようになりましたが1営業所には1人の税理士が必要なのです。
 税理士法の違反に問われるケースに、無資格者が資格者を雇うとか外注に出すというような方法もあるようです。帳簿の依頼を受ける者がその延長線で税務もすると便利、税理士を雇たり税理士に外注すというシステムが出来上がります。記帳を引き受けますといって事業が成り立つのであれば起こり得ることなのです。税理士は、非税理士と業務提携をしてはならないことになっていますが、実際にはこれ自体は一概に違法合法と形式的に判断できないのでしょう。
 現在の税理士制度が良いか悪いか色々な見方があるでしょう。今までの標準的な税理士の仕事の仕方が、今後は出来なくなるかも知れませんし、続くかも知れません。規制緩和という時代の流れの中では、専門家同士の競争社会とも言えますし、依頼者自身が専門家を評価して自己責任で選択するという意味合いもありますから、無償独占という仕組みが必ずしも良いものではないのかも知れません。
 しかしながら、帳簿作成は誰にでもできることですから、会計業務を有償とし税務業務を無償という非税理士の存在を認めることになり、その瞬間から税理士制度は崩壊してしまいます。すると、納税者にとって税務は全くの自己責任ということになってしまうのです。

納税協力団体

 青色申告会や法人会という組織は、税務署からは納税協力団体と呼ばれています。税務署と納税者をつなぐ広報的な形で始まったようです。協力関係にあります。これに対して税務署サイドからは反税団体とも称される納税に関する組織もあります。主義主張や立場が変わると敵対的な組織も対抗的にできてくるものです。税務署に申告書を提出する折りに申し合わせて団体で押し掛けたりします。

青色申告会

青色申告会は個人事業者が所得税の申告をするための記帳の補助をしています。源泉所得税の納付書の作成や帳簿の記帳を、原則として半年に1度実施しているようです。こういったきめ細かな納税者に対するサービスはなかなか税務署の窓口ではできないということでしょう。
 まあ税理士に頼む程の規模でもないし、納税者自身がちょっと努力すれば何とかなる部分を応援しているとでも言えばよいのでしょう。
 しかし、確定申告時期になると、青色申告会の職員が税理士のように決算書や申告書を作成する様なことも見受けられます。そして税理士会もこの青色申告会に税理士を派遣したりします。
 個人の確定申告時期に空いた時間のある税理士が派遣を希望して出かけてゆきます。この時期に時間に余裕があるという税理士とは、まだ自分の事業が軌道に乗っていなかったり、少しでも顧客を増やそうとする営業活動の一環とでも言えば良いのでしょうか。 
 税理士にとってのボランティア活動の一つとも言えないこともありません。私も独立したての頃に出かけていき今でもお付き合いのある顧客があります。

法人会

 法人会も青色申告会と似たようなことをする組織で、対象は法人です。法人は決算期が一定していませんから一年中決算説明会や新設法人説明会などを開催しています。
 講師には税務署の職員や税理士があたります。主に決算時に注意する会計処理や税務における決算の考え方の講習がなされます。また法人の経理担当者向けに簿記の講習会なども行われています。
 青色申告会の会員、法人会の会員ともに申告書を提出する際には、その会員である旨の表示がされた申告書が提出されます。だから何か良いことがあるかと問われると特別なことは何も無いようです。
 とりあえず税理士に頼んでいなくても申告や納税について前向きであるという程度の意思表示でしょう。税務に関する情報を正しく知る情報チャネルの一つとも言えます。

大きな事務所と小さな事務所に税理士法人

 税理士が開業するためには、「仕事場」として事務所か必要になります。1人の税理士が机一つでも事務所として登録されていますし、また、オフィスビルのフロアを占めるような従業員か大勢いる大人数の事務所も有ります。
 1人の税理士が雇用して監督する従業員の数に制限はありません。極端な話は、税理士が1人の事務所に資格のない従業員が100人いても構わないのです。従業員やその従業員の仕事を管理さえ出来ていれば。宅建業法の宅地建物取引主任者のような規制はありません。
 私の知る限り、一番大きい事務所で総勢で20人位でしょうか。経営者としての税理士が1人、従業員としての有資格者が1人ないし2人、従業員としての社会保険労務士が1人だったでしょうか。
 これは希なケースで、経営者としての税理士が1人で、後は数人から10人程度の資格のない従業員が勤務しているケースがほとんどです。私が独立した時の事務所もそんな形でした。
 余談ですが、従業員が資格を取ってしまうと独立してゆくケースが多いのです。最近は独立が難しくなってきていて勤め人として働き続けたいという人も多くなってきてはいます。まあ、私自身も最初から独立志向ではありませんでした。
 当時資格を取得した従業員として勤めていたわけですが、担当していたとある顧客の社長からの影響が非常に大きかったのです。「独立できる自由という切符を手にしているのに独立しないのはおかしいし、独立して初めて責任の有る良い仕事が出来るというものだ」そんな言葉に後押しされて独立しました。
 従業員は、税理士の資格が無くても担当者として顧客の所へ行って仕事をします。帳簿の仕事であれば資格の縛りはありませんが、税務の仕事が絡んでくると、原則として税理士の所へ持ち帰って、税理士に相談してから回答しなければなりません。それが資格に関しての規制になります。
 あくまで従業員は補助者として働かなければならないのです。従って、大きな事務所ほど、税理士と顧客の間が遠くなってしまう傾向にあります。
 たとえば10人の従業員が各25件の顧客を担当していてとすれば、250件の顧客があることになります。顧客の全てにおいて何の問題もなく平穏無事に時が過ぎていたとしても、その全ての内情から現状の全てを1人の税理士が把握していることは不可能に近いのではないでしょうか。
 たとえば、ある顧客を訪問するときには、その直前にその顧客のことを調べて、一夜漬けの試験勉強のようにしてから、出かけるのではないでしょうか。それさえも出来ないようであれば、世間話だけをしに顧客の所へ足を向けることになってしまいます。
 年に一度の決算をまとめて申告書を作成する場合に、経営者と税理士の確認作業が必要になりますが、その時の面談が年に一度きりで、その他の仕事の日常は担当者だけが顧客の事情を把握しているというケースが多いのだと思います。
 私が勤めていて担当者であったときに顧客から言われたことがあります、「先生はうちのことを良く知らないようだし、決算の打合せや説明は担当者のあなただけで良いよ、先生と話さなければならないことは何も無さそうだから」と言われた記憶が何度かあります。担当者としては顧客に認められ評価されているという意味で嬉しい反面、何か組織としての矛盾を感じたものでした。
 特別なときだけ税理士に相談、ないしは担当者では手を余す場合だけ税理士に間接的に相談ということになりがちです。現在の私の顧客でも、「以前は年に一度でも会えば良い方で、最初に仕事を依頼するとき以外には税理士に会ったことがなかった、仕事は担当者とだけで、担当者は税理士のメッセンジャーだった」と仰る方もいます。
 大きい事務所でも、従業員の全員とは言わないまでも有資格者が多いとか、資格者の従業員が担当者であれば、顧客は良いサービスを受けることが出来る可能性があるのだと思います。大きい税理士事務所というのは、大きいという安心感の裏側に、顧客にとって快適でないデメリットの要素が含まれています。勿論、組織対組織としてお付き合いするにはメリットとして考えられることも当然ありますが。
 大きな事務所で税理士が少なく、担当者は有資格者でない、税理士と担当者の連絡も密でない、税理士と顧客も直接に相談することがほとんど無い、そんな場合には、大きな事務所の利点ではなくデメリットのみのサービスの提供になってしまうでしょう。
 有資格者が多い事務所で担当者も税理士、その上司もその他にも税理士が何人もいて、複数の専門家の意見を聞くことが出来る場合には、インフォームド・コンセントのような複眼的価値観による検討というサービスの提供を受けることができるのかもしれません。

税理士法人

 税理士法人というのは、複数の税理士が1つの法人格を持つ企業を成しているという側面のある事務所です。複数の税理士がパートナーの関係を持って、言い換えると、共同経営者のオーナーとして、かつ、税理士として働く、法人格の組織です。
 ただし税理士は互いに職務上で無限責任を負うことになります。最低2人です。税理士1人では法人格は貰えません。
 税理士の職務環境を見た場合に、1人では対処できないような大きな案件や、専門性を持ち寄るような案件が考えられるようになってきたことと、企業としての永続性が必要などが考慮されて法人格を与える制度が出来ました。2人いれば1ヶ所でも2ヶ所でも事務所を開設できますが、それは小さな事務所が2つで一つみたいなもので、さほどの意味はないのではないでしょうか。
 税理士も複数で企業的に活動する場面が出てきたという側面はあります。給与所得の課税や退職所得の課税制度などの課税負担を軽くする意味合いもあるようです。公認会計士や弁護士、司法書士などにも法人制度がありますので、無い物ねだりの制度改正をしたという側面もあるのかもしれません(笑)