水の白濁

新しく水槽を立ち上げたり、水換えついでに濾過材や底砂を水道水で洗ったり、入れ替えたり、忙しさを理由に水換えせず濾材が目詰まりすると… さまざまな要因で白濁になり なかなか澄んだ水に戻らないこと多いかと思います。 よく、こういった場合を「濾過ができていない」と言いますが、いったいどうしてこのようなことが起きるのでしょうか。
主な要因に以下の3つが関係しているかもしれません。

  • 排泄物・老廃物など目に見えるものが存在
  • 排泄物・老廃物による化学物質が存在
  • バクテリアの排泄物・老廃物など肉眼では確認できないものが存在

これらの要因を取り除く目的として濾過槽と設置しますが、白濁は濾過槽に住み着いた濾過バクテリアの処理が追いつかないとき起こります。 そもそも水槽の立ち上げや濾過材を洗ったときは濾過バクテリア数が少いのは想像の範囲。増えるまで一時的に濁った状態が1~2週間程度続くことでしょう。 かと言って、このまま放置すると白濁どころか嫌な臭いが…。
手っ取り早い対策方法で、エアレーション強化して濾過バクテリアの増殖を促す、水槽設置に余裕があるなら飼育魚を減らす、古代魚には使いたくないけど水質調整剤の使用などがあります。 あとは意外と効果のある水換えリトライ。この場合、濾過材を洗ったり、がっつり換えすぎは元も子もないので限度ある理解が欲しいところ。

上記の要因を取り除くため、さまざまな濾過材を使用して飼育水を管理する必要があります。このうち濾過材料として最も重要視されるのが生物濾過で、これをどう使うかにより水質維持が左右します。

ウールマット、スポンジなど
餌の残り、飼育魚の排泄物、水草の枯れ葉・破片など目に見える水中の浮遊物を濾しとる。 物理濾過を設置することにより他の濾過の負担が軽減します。目詰まりを起こすと腐敗するため 短い期間で洗浄や交換を行う必要がある。 大型魚の飼育では排泄物・老廃物までも大型なので、使い捨てにしたくなる。やや消耗品。
化学濾過
活性炭、沸石(ゼオライト)、イオン交換樹脂、オゾン発生装置など
化学物質の吸着・分解を行うことから吸着濾過ともいう。
活性炭や沸石の内部にある非常に微細な多孔質の構造に様々な物質を吸着させる。水質処理の他に、食品処理や医薬品、環境保全事業などに使用されています。 手に入りやすい活性炭ですが、残念なことに効果は長続きしない消耗品。大型水槽ではコスト面で割に合わない。 イオン交換樹脂やオゾン発生装置は食品産業の水浄水処理や下水・廃水処理、脱臭、殺菌処理などに使われます。
生物濾過
リング状濾材、サンゴ砂、軽石など多孔質素材
濾過バクテリアという生物のチカラを借りて餌の食べ残しや老廃物による水中の富栄養化することを抑えるとともに、排泄した有害物質を無害物質にしてもらう。 飲料水や排水など水浄水処理として幅広く利用される。特に定まった素材は無く、ウールマットや底砂にも住み着く。
より多く住み着かせるために多孔質でざらついた表面、空洞化の内部にするなど表面積を増やすほど効果が得られ、 水が流れることによる通気性と溶存酸素量を増やすことで濾過バクテリアの繁殖を促すことができる。

バクテリアとは

そもそもバクテリアとは深海底、湖沼、土壌、熱水鉱床、氷床など地球上のあらゆる環境を生物圏にしている細菌のことで、ラテン語でバクテリア(Bacteria)という原核生物。
種類は膨大で、病原細菌で有名な穴あき病・赤班病・立鱗病などを引き起こすエロモナス菌、エラ腐れ病・ヒレ腐れ病・口腐れ病などを引き起こすカラムナリス菌などもバクテリアです。 またヒトとも関わりが深く、風邪や食中毒をおこす黄色ブドウ球菌、ビフィズス菌などの腸内細菌、ヨーグルトや納豆菌などの発酵細菌もバクテリアです。
通常、生物分類には基本的に次の7段階層で分類されています。このうち 大まかな分類 界 kingdom は、動物なのか、植物か、細菌(バクテリア)か くらい違っています。

kingdom > 門 phylum > 綱 class > 目 order > 科 family

ここからさらに分類されますが、とても小さい顕微鏡の世界。 見た目ですぐ判断できる動物とは異なり さまざまな形態の特徴、グラム染色性の違い、増殖の特徴、生化学や遺伝子などで分類されます。

バクテリアが生息できる環境もそれぞれ異なり、酸素呼吸で生育し有機物を分解する好気性、 酸素がなくても生育できる嫌気性 、酸素が存在しても存在しなくても環境に合わせて生育できるものが存在します。 また、増殖に必要なエネルギーは、炭素源を有機物から獲得する従属栄養(有機栄養)、無機物の酸化や光エネルギー・二酸化炭素から獲得する独立栄養(無機栄養)があります。
濾過バクテリアは、酸素呼吸で生育し有機物を分解し、無機物の酸化や光エネルギー・二酸化炭素から獲得する好気性の独立栄養細菌で、 有名なところで ニトロソモナス属(Nitrosomonas)やニトロバクター属 (Nitrobacter)があげられます。 実際には単一属だけで水槽内の環境を整えているわけではなく、水中に生息している多くの好気性の従属栄養細菌による分解と、好気性の独立栄養細菌による分解で浄水処理が行われています。

濾過バクテリアの活動

水槽セットの初期段階にジャリと水入れて、濾過材セットして、水草入れて、サカナを少々。
数日後、いくら濾過を回して循環させても水の濁りが消えなくなります。いったい何が起きているのか。

サカナの食べ残しや排泄物・老廃物は腐敗します。これは好気性従属栄養細菌による分解が目に見える状態である同時に、その分解によってアンモニアが排出していることを意味します。 好気性従属栄養細菌の増殖は異常に早く、酸素を使いつつアンモニアを大量に排出し続けます。また、サカナの代謝によって体内で作られたアンモニアもエラや排泄物から排出されます。 やがて水槽の中はアンモニアで満たされると水槽が白濁します。
この時、水槽内の溶存酸素量が少くなると嫌気性の従属栄養細菌が増殖するようになり、硫化水素が排出され腐敗臭のする水になります。 硫化水素は、血液に含まれるヘモグロビンに作用し体内に酸素を供給できなくなり飼育魚たちは酸欠を起こすほか、皮膚粘膜への刺激や水草の根腐れなどがみられるようになります。

好気性従属栄養細菌によって分解されたアンモニアは毒性がとても強い有害化学物質ですが、比較的無害とされる硝酸まで酸化するバクテリア群 硝化バクテリア、通称 濾過バクテリアが登場します。 このバクテリア群の亜硝酸菌と硝酸菌の分裂は、1日に1回程度とゆっくり増殖するのが特徴です。

まず、無機物であるアンモニアを酸化し亜硝酸にする好気性の独立栄養細菌 亜硝酸菌(アンモニア酸化細菌)が増殖します。 ニトロソモナス(Nitrosomonas)、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)など8属が知られ、 土壌や水処理・排水処理装置など広範囲に生息し、自然環境中の窒素循環で重要な役割のあるバクテリアです。亜硝酸菌は分解によって毒性がとても強い有害化学物質 亜硝酸を発生させます。

次に無機物である亜硝酸を酸化し、硝酸に分解する好気性の独立栄養細菌 硝酸菌(亜硝酸酸化菌)が登場します。 代表種に、ニトロバクター(Nitrobacter)、ニトロスピラ(Nitrospira)などが知られています。 硝酸菌は亜硝酸菌と共存し、土壌や水処理・排水処理装置など広範囲に生息する、こちらも自然環境中で重要な役割のあるバクテリアです。

硝酸は やや無害ですが増え続けると酸性に傾くことから、定期的な水換えを行い水槽外へ排出する必要があります。酸性の飼育環境では、体色変化・目の白濁・ヒレが溶ける症状が出始めます。

有機物を分解する従属栄養細菌も、無機物を分解する独立栄養細菌 硝化バクテリアも好気性であることから、濾過バクテリアには酸素の供給が必要になります。
ところで、これらのバクテリアはどこからやってくるか… 微量ながら大気中に存在してたり、水道水にも潜んでたり、購入してきたサカナや水草、手についてたり。 彼らにとって好条件であれば何もせずとも増殖してくれます。ただ ちょっぴり増殖が遅いので焦らず騒がずエアレーションして寝て待ちましょう。