メディアとつきあうツール  更新:2003-10-07
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

BS-3b打ち上げ成功で
走り出したハイビジョンへの道
(BSデジタル放送)

≪リード≫
1991年前半、衛星放送は深刻な危機を迎えていた。
NHK2波とWOWOWが乗るBS-3aが出力低下。
急場しのぎの古い衛星BS-2bは燃料切れでダウン寸前。
さらにBS-2X、BS-3Hの相次ぐ打ち上げ失敗。
BS-3bの打ち上げ成功で、危機はひとまず回避されたが……。
成功で全面に出てきたのが、例によって郵政省(現・総務省)。
ハイビジョン(アナログ)の試験放送に大はしゃぎを始めたのだ。
これまた例によって、NHKや民放は陰で文句をいいつつ協力。
こうして社団法人ハイビジョン推進協会ができ、
官僚天下りと放送への介入が進んでいく。

※郵政省(現・総務省)のニーズを無視した利権漁《あさ》りに注目。アナログハイビジョンは、わずか3年後に郵政みずからが「時代遅れ」と言い出したことを忘れてはならない。じゃあその間、使った税金を返せ、という話である。

※文中JSBはWOWOW、SDABはSt.GIGAと読み替えを。

ハイビジョン見直し発言のドタバタ――郵政省お得意のビジョンなき政策

(「放送批評」1991年12月号)

天に祈った放送衛星BS-3b打ち上げ成功

 東京・虎ノ門の第六セントラルビルに入るJSB(日本衛星放送=現WOWOW)の役員会議室には、それは立派な神棚が祀《まつ》ってある。神棚には富岡八幡宮、熊野神社、飛行神社(という名の神社があるらしい)などと書かれた御札、破魔矢、絵馬が並ぶ。いずれも役員たちがBS-3b打ち上げ成功祈願をしてもらってきたという。

 ニューメディアの代表選手の会社が、ハイテクの塊を空に打ち上げるのに神頼みというのも皮肉な話。だが、それも無理はない。

 1990年夏に打ち上げられたBS-3aはNHK2波とJSBの3チャンネルを放送するが、電源回路の不調や太陽爆発(フレア)による太陽電池の劣化によって、夏至と冬至の前後には2チャンネル分の出力しか出ない。そこでお役御免となっていたBS-2bを引っ張り出して急場をしのぐが、2bは燃料切れでいつダウンしても不思議ではない状態。しかも3aの前後の衛星、BS-2XとBS-3Hはともに打ち上げに失敗している。

 今回のBS-3bは、まさにわが国衛星放送の命運を決する最後の”希望の星”だった。

 1991年8月25日午後5時40分、宇宙開発事業団の種子島宇宙センター。わが国衛星放送の現状を象徴するかのように厚く、重くたれこめた暗雲にむかって、BS-bを載せたH1ロケットは上昇を始めた。

 立ち会ったJSB桑田瑞松業務局長は、打ち上げ3分前から”念力”をかけ始め、ロケット第3段から衛星が切り離されるまでのおよそ30分、念力をかけ続けたとか。ほかにも念力をかけた人が大勢いたに違いない。郵政大臣までが天に祈ったというのだから。

 その甲斐あってかどうか、打ち上げは成功した。続く軌道変更や太陽電池パネル展開、機能テストも順調に進んだ。11月下旬にも打ち上げ担当の宇宙開発事業団から管制管理担当の通信・放送衛星機構への衛星引き渡しが完了する見込みだ。

 郵政省放送行政局衛星放送課の解説。
「一概にはいえないが、衛星に不具合があれば初期故障として出てくることが多い。3bはそこはクリアした。BS-3bによって今後はより安定的な衛星3チャンネル放送の運用ができる。また、11月25日のハイビジョンの日からは、3bの1トラポンを使ってハイビジョン試験放送を開始する方針で、現在関係機関と詰めを行なっています」

 BS-3aの3波のうち1波が3bに移らないと安定的な運用とはならないが、これはJSBが移ることで決着した。その際、第3チャンネルから第5チャンネルヘの変更が必要で、告知対策や一部の旧型デコーダーの処理などに費用がかかる。それでもJSBは、移行したほうが安定するうえに寿命も長く得策だと判断した。

 ハイビジョン試験放送を含めると衛星4波体制で、完全に使えるトランスポンダは3aの2つと3bの3つ。”4の5”でバックアップ体制が万全かという疑問は残る。

「もともと事故や不具合がありうるから衛星を2つ上げたわけで、3aの不調は折り込み済みの話ともいえる。しかし補完体制が十分かどうかは今後検討を重ねていく」(衛星放送課)。

 もちろん理想は星が2つ上がっていて、地上にいつでも打ち上げ可能な衛星を1つ確保しておくこと。3bの前にわが国が打ち上げた放送衛星は4機だが、4機とも宇宙に行ってから何らかの故障を起こしている。”経験則”に従えば、3bに不具合が生じても不思議ではない。補完体制の整備は依然としてわが衛星放送の大きな課題である。現実には、万一の事態が生じるまで放っておかれる可能性が大きいが。

ハイビジョンでやりたい放題、郵政省!!

 さて、BS-3bの目玉はいうまでもなくハイビジョン試験放送である。郵政省衛星放送課のいう通り11月25日には放送開始の見込みだが、実はこれが大問題を抱えている。

 放送の仕組みは、通信・放送衛星棲構が所有する3bのトランスポンダを使う。放送主体は社団法人ハイビジョン推進協会(1991年9月27日設立)で、ここに試験放送の免許がおりる。協会にはNHK、民放、電機メーカー、銀行など117社が参加。年会費はNHKと関連団体が合わせて2000万円、民放キー局が1000万円(地方民放は500〜100万円)、大手電機メーカーが4000万円などとなっている。

 そして協会は機構からトランスポンダを借り、1日8時間のハイビジョン放送を行なう。放送の中身――ソフトはどうするかというとNHKや民放各社その他が、制作費、著作権料、トランスポンダ利用料などを自己負担のうえ供給する。利用料は1時間当たり27万円。この試験放送は1997年3月まで続けられる予定である。

 このやり方に関係者の不満が噴出している。
「試験放送とはいえ、郵政が自らの息のかかった社団法人をでっちあげ、そこに、つまり”身内”に免許を与える。放送の自立も何もない。官僚による放送への露骨な介入だ。しかもソフトは各社自弁で提供せよ、おまけに年会費まで出せという。こんなことが許されていいのか。この悪しき前例はわが国放送の将来に大きな禍根を残しますよ」(民放首脳)。

 実際、このやり方が許されるなら、試験放送から本放送に免許を変える(権限を持つのは郵政)だけで、郵政はやりたい放題の放送ができることになる。

 郵政省は、あくまでハイビジョンの普及促進を図るための仕組みで、放送に介入する意図などないというだろうが、郵政主導でハイビジョン放送という利権を囲い込むことに変わりはない。

 郵政省が今回の試験放送案を関係者に示したのは91年2月。NHK、民放、メーカーがこれに猛反発すると、郵政は提案をしばらく棚ざらしにしておいた。そして3b打ち上げの8月から、急遽《きゅうきょ》実施案を取りまとめにかかつたのである。

「時間切れスレスレで事を起こし、反論する余裕を与えずに形だけを整えてしまおうという作戦。最初から見切り発車のつもりですよ。推進協会の事業計画や収支見通しもロクに検討していないでっちあげ。実際にどれくらいソフトが集まるかもわかりません」
 とは、ある民放幹部の証言だ。

 NHKも、郵政の方針には失望、落胆の色を隠さない。ある衛星放送関係者は、
「私たちは二十数年間、ハードとソフト両面からハイビジョンの開発にかかわってきた。BS-3aでも1日1時間の実験放送を実施してきた。今回の免許も当然取得できるものと考えていました。協会に与えるとしてもNHKにもと思ってましたね。それが実験放送すらできなくなり、単なる番組供給業者と同列。しかもカネを出せでは、何とも残念としかいいようがない」
 と暗くタメ息をつく。

 NHKは1日8時間の放送のうち4時間程度を埋めよというのが郵政省の方針。トラポン使用料と年会費だけで年に4億円近い出費である。しかもハイビジョン番組の制作費は通常の番組より割高になる。

 番組の中身は未定で、たとえば再放送をどの程度入れるかによってもコストは違ってくるが、相当の負担になることは確かだ。

 また、社団法人ハイビジョン推進協会は放送施設を持たないから、衛星にむけて電波を発射する地上設備や要員をNHK(とJSB)から借りることになる。NHKの場合、これは放送法第9条3項に定める業務で郵政大臣の認可が必要。もちろん郵政省は自分の筋書き通りに認可するわけだが、国民から集めた受信料で成り立っているNHKが、郵政の思いのままに”郵政直轄”の放送局に人や施設を貸し出すというのも理不冬。

 放送法第9条3項は、放送の公共性や中立性を保つために役所の認可という歯止めをかけているのだが、郵政のやりたいことに対しては歯止めにはならない。

 さらに、著作権料の負担や放送・取材上の信義という問題もやっかい。NHKが海外から番組を購入しても、これをそのままよその放送局からのハイビジョン試験放送で流すことはできない。当然、著作権者の許可が要《い》るが、試験放送だからまけてもらえるか、さらにカネを要求されて断念するかだ。

 1時間のハイビジョン実験放送で中継していた大相撲も、NHKの放送として取材しているから、3bでの試験放送で流すには相撲協会にお伺いを立てないとまずかろう。

 NHKの4時間分について、NHKが編集権を確保できるかも問題だ。NHKの自由にさせるとは思うが、介入されたとしても防ぐ手立てはないのである。

 郵政省は、島・前会長の追放劇でNHKに対する支配力を増したが、その後もかさにかかって強権を振り回している印象だ。

社団法人ハイビジョン推進協会は、第二のJSB構想なのか?

 民放各社も今何のやり方にはしぶしぶ付き合うとする。ある民放連の幹部は各社の主張を代弁して次のように語っている。

「さかのぼれば通信・放送衛星機構が通産所管の産業投資特別合計から75億円を積んで3bの1トラポンを所有すると決めたときから、今回の事態は予測できた。当時、ハッキリ反対できなかったのが失敗だったかもしれない。ハイビジョン推進協会ができたいまとなっては、これが実験放送終了時に素直に解散・消滅するかどうかを注視したい。消滅せず、組織変更ぐらいでBS-4段階に本免許を受けるという事態を許してはならない」

 当初の郵政省案によると社団法人ハイビジョン推進協会は、ハイビジョン試験放送第一課、(以下頭のハイビジョンを略して)放送普及課、国際普及課、試験放送第二課、ネットワーク推進課、シティ支援課、利用推進課、それに総務・経理などの管理部門となる。第一課と第二課に分かれているのはNHKとJSBの地上設備を分けて使うからだ。なんとも大仰《おおぎょう》な構えである。

 官僚の世界では、法律であれ組織であれ、一度作ったものは決して手離さず、小さく生んで大きく育てていくのが常識。仕事も予算も増え、利権の拡大につながり天下り先の確保にもなるからだ。だから、推進協会がハイビジョン試験放送終了後も形を変えて存続する可能性は小さくない。

 「郵政省主導の第二JSB構想ではないか」と警戒する声も強い。郵政色の強い民間ハイビジョン放送局に発展解消されるというのだ。そうなると、放送行政局長クラスの天下り先がJSBのほかにもうひとつできる。

 しかし、それでも民放がキー局を中心に正会員17社、賛助会員7社として推進協会に参加するのは、ここで郵政にへタに逆らっては、BS-4の免許獲得に不利になるかもしれないと怖れるからだ。

「協会に参加しても民放には何の見返りも保証されない。BS-4の予約券をくれるわけでもない。しかし参加しないと予約券は永久にもらえないかもしれない。弱みを握ったというか足元を見たというか、郵政の悪らつなやり口に、民放は仕方なくカネを出すんです。ニンジンを目の前にぶらさげて近づけたり遠ざけたりするのが連中の作戦なんだ」(前出の民放連幹部)。

 だから、民放各社はとりあえずバスには乗るがそれなりの付き合いにとどめるようだ。たとえば日テレが、カネがかかるうえに視る人も少ないハイビジョン放送で巨人戦を制作放映するかどうか。しかし、各社が手抜きハイビジョンでお茶をにごしていると普及にも悪影響を与えかねない。「うちだけ抜け駆けすればBS-4段階で有利」とみて走り出す局(系列)があるかもしれない。

 ハイビジョン試験放送では、参加したい放送局すべてに免許を出すのは多重免許で好ましくないとしても、たとえばNHKとSBの2局に出し、同時に連絡調整を行なう協議会を発足させて参加各社の話し合いにゆだねるというやり方もあったはず。

 それにしても郵政省、罪な仕掛けを考え出したものである。

家電メーカー思惑まちまちの、受像機マーケット事情

 メーカーも試験放送のあり方には必ずしも賛成ではないようだ。郵政省はメーカーの年会費は6000万円といっていたが、結局3割引の4000万円まで値切られた。ハイビジョン開発でトップクラスのある家電メーカー担当者はいう。

「当社はハイビジョンのハード開発に莫大な投資を重ねている。できることならハード開発はメーカー、ソフト開発は放送局と分けてもらいたい。ハイビジョン放送局に、メーカーが放送局の何倍もの会費を払って参加するのはどうかと思いますね」

 そうはいってもハイビジョンが今世紀最後にして最大の家電商品となる可能性は大きく、普及すればメーカーのメリットは測り知れない。だから値切っての協力となったわけだ。

 コロンビア映画を買ったソニー、MCAを買った松下、タイム・ワーナーに出資の東芝など、メーカーのソフト戦略は大きく動いている。

「BS-4段階にソニー、松下、東芝といった企業が何らかの形で参入を図ろうとすることは間違いないでしょう。そこまで見通せば年に4000万なんて安すぎるくらいでは」(民放連関係者)。

 とはいうものの、最近ハイビジョンに対するメーカーの取り組み姿勢に変化――あえていえば足踏みの姿勢が見えてきたのも事実だ。

 たとえは日本ビクターほかが積極的に売り出したいわゆる横長テレビ。ビクターの商品名は”マルチワイドビジョン”で画面の縦横比9:16とハイビジョンと共通。そしてハイビジョン放送を受信してMUSE信号からNTSC信号に変換するコンバーターが別売で用意されている。本体は36インチ75万円、コンバーターが25万円だから、100万円で走査線525本のハイビジョン放送がとりあえず視聴できる(当然画質は本来のハイビジョンよりも落ちる)。先陣を切ったビクターに次いで東芝、三菱電機などが発売に踏み切る。

 この横長テレビがハイビジョンの将来にとっての不透明要因となりつつあるのだ。

 90年10月に発売した衛星放送チューナー内蔵テレビ”画王”が91年8月までに60万台も売れた松下電器産業では、テレビ本部経営企画室の横田篤副参事が次のようにいう。
「当社は年来商戦にむけて”画王”のニューモデルを発売する。このシリーズはフラットな画面と抜群のコストパフォーマンスが売り物で、クイントリックス(坊屋三郎と外人の掛け合いCMで有名)を上回るもっとも売れたカラーテレビになるのは確実。横長テレビは手がけるとしても来年以降ですね」
 とりあえずメシの種は現行の衛星対応大画面テレビとの考え方だ。

 ソニーでは、映像総合企画部門技術企画部の河上弘巳部長が語る。
「当社は経営トップ以下ハイビジョンを率先して手がけていくとのスタンス。いわゆる横長テレビはあくまでNTSC方式で、その画面を見てハイビジョンの画質と思われては困るなと思う。ただしマーケットの動向次第では参入もありえます」
 ここも年末はフラット画面のBS内蔵テレビ”キララ・バッソ”を投入する。

 NHKのハイビジョン関係者にいわせると「横長テレビは中途半端な商品」となる。

 しかし日本ビクターあたりはかなり強気。現行29インチ大画面テレビと横長テレビは共存可能、あるいは将来は横長テレビに分があるとみての独走だ。横長テレビ対応のS-VHSビデオ(価格は従来品とほば同等)を年内にも発表する。ビデオカメラにも画面比9:16のシネモードを搭載している。

「現在100万円といっている横長テレビは数を1桁多く作れば6割方価格が下がる。やや乱暴な言い方になるが、月1000台を1万台にすれば60万円になる。しかも一方で地上波テレビの高画質化が検討きれており、95年にはクリアビジョンII(第二世代)が登場する。価格数十万円で9:16、クリアビジョンII対応、ハイビジョンもとりあえず視聴可能となれば横長テレビがそれなりのマーケットに育ってしまう可能性は大きい」(あるメーカーのテレビ技術者)。

(左)日本ビクターが売り出した横長テレビ(100万円)と(右)91年12月発売予定のソニーのハイビジョン(230万円)

(左)ビクターが売り出した横長テレビ(100万円)
(右)91年12月発売予定のソニーのハイビジョン(230万円)

 家庭には現行のVTR、ビデオカメラ、LDなどNTSC対応のソフトがどんどん蓄積され続けている現状も忘れてはならない。手持ちの膨大なソフトがあるからこれを楽しむには現行方式で十分となれば、29インチクラスの大画面の次として横長テレビを選ぶ消費者が増え、結果的に本来のハイビジョン受像機の普及が伸び悩むことがありうる。

 すると、家庭用ハイビジョンは先送りされしばらくは通産主導のハイビジョンシアターなど業務用が中心の展開となる可能性がある。

 一方、現在400万円前後しているハイビジョン受像機がこの先300万、200万と順調に値を下げ100万円程度になれば、横長テレビよりはやっぱりハイビジョンとなるかもしれない。NHKでは3〜4年で受信機100万台は十分可能とみている。横長テレビをある程度量産したほうがハイビジョンのコスト引き下げには有利という複雑な事情もあり、ようするに不透明。マーケットの動向を注視する必要がある。

強気のJSB(WOWOW)、ドタンバのSt.GIGA

 最後に、現行の衛星放送の動向をみよう。

 まずNHKだが、衛星放送普及台数480万のうち、受信契約が取れているのは約300万件。相変わらず取りっぱぐれが多いが、こんなところか。NHK衛星放送局の岩本健一郎担当局長は、現状をこうみる。

「衛星放送の第一段階――基礎固めは終わった。今後普及台数1000万までが第2段階だと思う。第1段階は地上と違うことを示すために映画マラソンや世界的なスポーツ大会の全試合放映などを目玉にした。しかし第2段階ではよりソフトの多様性が求められる。といっても総合テレビの行き方ではない。”丸ごと主義”とか”丸ごと編成”と呼んでいますが、カットしたりダイジェストしたりせず、素材のよさをそのまま活かす衛星ならではの番組を打ち出していきます」

 JSBは年末ボーナス商戦にむけて、チャンネル変更の告知を兼ねた一大キャンペーンを展開する。

「90年暮れから春先までに二十数億円をかけて開局キャンペーンを行なった。これが功を奏し91年3月の契約は日に数千件もあった。しかし3aと3Hのダブルショック以来、今日まで日に1000件台。二十数億がパーになったわけだが、これをもう一度やります。再びWOWOWブームを巻き起こしますよ」(JSB桑田端松業務局長)。

 1991年8月末で契約件数50万を達成し、年度末100万が目先の目標。同じペースで3年後300万となれば単年度黒字に転換という目算だ。しかしJSB関係者の中にも次のような声があるから油断は禁物である。

「初めの二十数万はマニア。その後伸び悩んでいるのは衛星の不調や失敗が本当の要因かどうか。それくらいしかニーズがないといったほうが正確ではないか。大企業的なカネの使い方では失敗しますよ」
 商社、広告、流通、放送など呉越同舟のJSBだけに舵取りは難しそうである。

 さて、いま一番困難な状況なのがSDAB(衛星デジタル音楽放送=St.GIGA)というのが衆目の一致するところだ。同社は91年9月から月額600円(年一括払いの7200円)の有料化に踏み切った。しかし9月中旬で契約数2万2000〜3000件。2万5000件としても現在までの収入は1億8000万円しかない。

「資本金21億円はとうに食いつぶし借入金30億円、これに通信・放送衛星機構が15億の債務保証を付けているということです。19億円増資しようとしたが取締役会で否決され、9億円でいくことになった。しかし、これも集まるかどうか……」(事情通)。

 SDABの筆頭株主であるJSBが極めて強硬で、増資には一切応じていないようだ。というのもJSBの独立音声チャンネルは、もともと自分のところで広告放送を行なう予定だった。そこに郵政がSDABを無理やり押し込んだのである。

「まさに利権の構造ですよ。郵政とSDABの癒着はひどすぎる」(事情通)。

 SDABが全員にもなっている民放連では「JSBに吸収される形が望ましい」というが、JSBは「そんなものを押し付けられては大変」と拒否の姿勢。メンツもあってSDABをつぶせない郵政が、これはというスポンサーを見付けられるかどうか。極めて苦しい立場に立たされているといわざるをえない。

 SDABの田中聡社長室長は力説する。
「たしかに苦しい。しかし当社は30万件の契約が取れればペイする。衛星受信世帯1000万が射程に入ったいま、これは決して達成不可能な数字ではないと確信している。年度末にJSBの10%で10万件を目標に頑張っています。これまで加入希望者があっても”JSBの手続きをしてそれからお願いします”としかいえなかったが、独自のデコーダーを発売する。法人対象に、まとまった契約が取れると期待しています」

 ホテル、喫茶店、ショールームなどのオープンスペースでSDABの放送を流したくても、映画ソフトなどとのからみでJSBとは契約できない。そこで専用デコーダー3万3000円也を発売するのである。JSBの加入料(デコーダー無償供与)が2万7000円だから、個人で買う客はまずなかろう。

 SDABの新鮮な編成コンセプトは高く評価したい。しかしそれと経営は別。根本的な打開策が必要だが、法人対策が解決につながるかといえば心もとない。依然としてSDABは衛星放送のかかえる時限発火装置(爆弾というと大ゲサ)であり続けるだろう。