23 名建築を訪ねるー8  横浜三塔   


・平成27年9月19日(土) 横浜市開港記念会館  

 横浜港の近くに建つ、三つの建物の塔に、外国人の船員が愛称を付けて来港の際の目印にしたといわれている。
 三つの建物の塔は、横浜市開港記念会館がジャックの塔、神奈川県庁本庁舎がキングの塔、横浜税関庁舎がクイーンの塔、と名付けられ、横浜市民の間では横浜三塔と呼ばれている。
 今日と明日、横浜三塔を訪ねる。

 JR関内駅を出て、港へ向かって「みなと大通り」を10分程歩く。
 十字路の角に、赤煉瓦に白い花崗岩のバンドを配した、時計塔を持つ華麗な
横浜市開港記念会館が建っている。19世紀ヨーロッパの市庁舎の建物のようである。


横浜市開港記念会館


 大正6年(1917年)建築、鉄骨鉄筋コンクリート造。地上2階、地下1階、塔屋付5階建、高さ約36m。屋根はスレート銅板葺きである。
 三つの隅部に、時計塔の他、角塔、八角塔が立っている。

 昭和20年(1945年)、連合国進駐軍により接収され、進駐軍兵站司令部として利用される。
 同33年(1958年)、接収が解除される。現在は公会堂として利用されている。
 平成元年、国重要文化財に指定される。
 同19年、近代化産業遺産に指定される。

 石段を上がって中へ入る。


玄関ホールから扉を見る


 玄関ホールの四隅に立つイオニア式の柱が重厚な雰囲気を醸し出している。


玄関ホール


 正面扉の向こうは、481名収容の2階吹き抜けの講堂になっている。

 階段を上がり、2階ホールへ入る。


2階ホール


 左手に、三面の美しいステンドグラスが嵌め込まれている。



鳳凰


呉越同舟


箱根越え



 右手の、メダイヨン飾りがある、講堂の2階観覧席の出入口を通って扉を開ける。

2階観覧席出入口


 半円アーチの窓が並び、高い天井には石膏でかたどりされた装飾が施され、豪華なシャンデリアが眩い光を放っている。
 天井を支えるトラス梁と「持ち送り」の並列が美しい。華やかさと共に優雅なものに満たされている。
 横浜市開港記念会館はこれまで何度も訪れた。その度に講堂も見学するが、今までこれ以上の美しい講堂を見たことはない。


講堂


 2階観覧席を出て右へ曲がり、南側の階段を下りる。踊り場に大きな美しいステンドグラスが嵌め込まれている。
 安政7年1月22日(1860年2月13日)、遣米使節団を乗せて横浜を出港したポーハタン号を描いている。


ポーハタン号


 神奈川県庁本庁舎が屋上と一部の部屋を一般公開していることを教えていただいた。思いがけない幸運なことである。明日も実施しているということだったので明日見学することにする。


 横浜市中区本町1-6
 JR京浜東北線 根岸線関内駅  みなとみらい線日本大通り駅下車


同年9月20日(日) 神奈川県庁本庁舎 横浜税関庁舎

 JR関内駅を出る。途中、銀杏並木の「日本大通り」に入り、港へ向かって15分程歩く。
 昭和3年(1928年)建築の
神奈川県庁本庁舎の正面に着く。正面の前の通りでイベントが行われていた。


神奈川県庁本庁舎


 県庁本庁舎は、鉄骨鉄筋コンクリート造、地上5階、地下1階、塔屋4階、高さ約49m。鉄筋コンクリート造の洋式建築に和風の屋根をかけた帝冠(ていかん)様式である。
 しかし、外壁に凹凸があり、ピラミッド状に積み重ねた3層の姿に、古代マヤやアステカ文明の神殿を思い起こす。
 ほぼ全面に褐色のスクラッチタイル、一部にベージュ色のテラコッタ(陶板)、白い石を張り、緑青の軒飾りを設えている。重厚な建物である。平成8年、国登録有形文化財に指定された。

 見学は10時から始まるので、それまで玄関の周囲を見る。
 テラコッタ、銅板張り、石張りを組み合わせ、幾何学的な模様を繰り返し、平面を平らなままで終わらせず凹凸をつけてメリハリのある壁面を造っている。「ライト式」である。


玄関


 スクラッチタイルは、タイルに焼く前に、粘土の表面に縦の筋を付けたものである。
 アメリカ人建築家・
フランク・ロイド・ライト(1867~1959)がスクラッチタイルの前身のスクラッチ煉瓦を日本国内で帝国ホテル建築の際に使用した。帝国ホテルが建築されて以後、ライトのデザインに影響を受けた建物が数多く建てられた。ライトが使用した大谷石、テラコッタ、スクラッチ煉瓦は、建築材料や装飾に広く使われるようになり、「ライト式」と呼ばれるライトのデザインが日本中に流行した。

 「ライト式」については、目次6、平成24年5月19日、目次8、同年11月4日、目次18、平成26年11月15日、目次19、同年12月26日参照。

 10時になったので中へ入る。
 極楽浄土に咲くといわれる幻の花である宝相華(ほうそうげ)をモチーフにしたシャンデリア、中央階段の球形照明や手すりのグリルが随所に見られ、豪華な雰囲気を湛えている。

 エレベーターで屋上へ上がる。観光ボランティアの男性がおられて、周囲の景観を丁寧に解説してくださった。ありがとうございました。

 県庁本庁舎の塔屋が聳えている。塔屋の外壁に使用されているスクラッチタイルとテラコッタを間近に見ることができた。


県庁本庁舎 塔屋


 屋上から見る景観は素晴らしかった。
 昨日訪ねた横浜市開港記念会館の全景が見える。全景が見えることによって、開港記念会館の華麗さが一層際立ってくる。


横浜市開港記念会館


 時計塔も下から見上げるより、その美しさがよく分かる。


時計塔


 横浜市開港記念会館の近く、海岸通りに、港へ向かって建つ横浜税関庁舎が見えた。
 ベージュ色の外壁に、イスラム教寺院のモスクを彷彿させるエメラルドグリーンの塔を載せている。優美な建物である。


横浜税関庁舎


 税関庁舎の前の海岸通りは、椰子の樹の並木になっている。最上階のイスラム洋式の飾り小窓、スパニッシュ様式の連続するアーチの窓と、ねじれ柱、棕櫚(しゅろ)の葉を模した軒飾りなど、横浜らしい明るさに溢れている。 

 税関庁舎の向こうに、風を孕んだヨットの帆をイメージした外観のヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルが見える。これもとても美しいビルである。

 税関庁舎は、昭和9年(1934年)建築、鉄骨鉄筋コンクリート造5階建。高さ約51mである。
 当時、横浜港では横浜税関庁舎が最も高い建造物であった。そのため、横浜を出港する船からは、この塔が最後まで見えて、入港するときは、この塔が最初に見えたと言われている。

 欧州航路の船は、香港、シンガポールに寄港し、インド洋を渡る。紅海からスエズ運河を抜けて地中海へ出る。ベネチア、ジェノバ、マルセイユを廻り、ドーバー海峡を越えてロンドンに着く。約50日の船旅になる。
 
長い航路へ出発した乗客は、船が横浜港の岸壁を離れるとき、デッキに立ち、美しい塔をいつまでも眺めていただろう。




 神奈川県庁本庁舎  横浜市中区日本大通り1
 ・横浜税関庁舎     横浜市中区海岸通り1-1

                  JR京浜東北線 根岸線関内駅  みなとみらい線日本大通り駅下車






TOPへ戻る

目次へ戻る

24へ進む

ご意見・ご感想をお待ちしております。