メディアとつきあうツール  更新:2003-07-10
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

夜ニュース戦争、勃発す!
NHK「ニュース10」
新設の狙いとは?

≪リード≫
2000年春の番組改編の最大の話題は、いうまでもなくNHK総合テレビの夜の大改革だ。
その目玉となるのが、夜10時スタートの「ニュース10」新設を核とする夜ニュースの改革。
同じ夜10時台に流れる民放ニュースとの視聴率戦争ばかりが話題になるが、そもそもNHKニュース大改革の狙いとは?
つくり手たちは新しいニュースで何を伝えたいのか?

(「GALAC」2000年07月号 特集「夜ニュース戦争、勃発す!」)

視聴者の夜型志向に合わせて
夜10時に「ニュース10」新設

 2000年春の番組改編で夜の”ニュース戦争”が一気に激化した。

 これまで夜ニュースの主戦場といえば、前段が5〜7時の夕方ニュース、後段が11時台の夜ニュースだった。

 民放は夜7〜10時のゴールデンタイムにニュースを流すことを最初から放棄している。だから、NHKの夜ニュース――7時から「ニュース7」1時間、8時45分からローカル枠15分、9時から「ニュース9」30分、さらに9時半から「クローズアップ現代」30分を含めてもいい――は、民放ニュースと激突しない。

 民放ではテレビ朝日が唯一、夜7〜11時のプライムタイムに「ニュースステーション」を流すが、これはNHKニュースが終わり他民放はまだドラマで稼ぎ続けるエア・ポケットのような時間帯。ここでもニュースの激突はない。

 つまり、この2000年3月までプライムのニュースは、NHK、テレ朝、その他民放の三者で、棲み分けができていた。この棲み分けを壊し、新たな挑戦に打って出たのがNHKである。

 今回NHKは総合テレビの夜を大きく変えた。ここ数年20〜30%程度だった午後6時から深夜1時までの改編率は66%で、過去最大規模。その目玉が夜10時に始まる「ニュース10」新設を核とした夜ニュースの大改革である。夜10時に本格的なニュースを流すのはNHK始まって以来なのだ。

 実は、NHKで夜ニュースの改編が話題に上り始めたのは、今から3年ほど前のこと。もちろん報道局内部で、それも非公式にだが、話としては以前からあった。

 それが本格的に検討され始めたのは1999年秋。10月には翌年春から10時台のニュース新設が決まり、12月にプロジェクトチームが編成される。

 NHK報道局担当局長(前・編集主幹兼取材センター長)の御手洗正彦《みたらい・まさひこ》は、その狙いを次のように語る。

 「NHKの夜ニュースには7時台、9時台、11時台(35分)と3つの山があった。私たちが検討したのはこの3山《みやま》でよいのかということ。NHKの生活時間帯調査によれば、全体的に夜型志向になっており、テレビ視聴のピークも9時、10時と遅い時間にずれ込んできている。7時ではまだ帰宅していないサラリーマンなど働く人たちも多い。この人たちが食事を済ませ風呂にも入り、さてゆっくり1日のニュースをみたいという時間は、夜10時頃が適当なのではないか。すると夜ニュースは3山でなくて、7時と10時の2山《ふたやま》ではないか」

 こうして最終的に落ち着いたのが、(1)「ニュース7」を35分と短くし「クローズアップ現代」と合わせて7時台の大きな山を作る、(2)ローカルニュースと「ニュース9」を9時前後に15分ずつ配し小さな山を作る、(3)55分の「ニュース10」で10時台に大きな山を作るという新編成である。

 新設した「ニュース10」のコンセプトは、キャッチフレーズでいうと「今日の日本が、世界が、故郷が見えるニュース」。つまり1日の総まとめのニュースとして、国内外のニュース、国内にあっては中央と地方のニュースをバランスよく伝える。

 「その日の内外の情報をカバーするわかりやすいニュースづくりと同時に重視するのが、”話し言葉”でニュースを伝えようじゃないかということ」(報道局担当局長・御手洗正彦)

 NHKニュースは各方面への気配りが多く、突っ込み不足と感じることもままあるが、その速さ、正確さ、慎重さ、分厚い取材が「NHKらしさ」であることは間違いない。「民放各社が2〜3人なら、NHKは必ず2ケタの人数。車や器材の数も比べものにならない」(民放の報道現場)のだ。

 「ニュース10」はそんなNHKの伝統的な硬派ニュースを、親しみやすい話し言葉を重視する新バージョンで伝える試みといえそうだ。

プロジェクトスタートから
2000年3月27日オンエアまで

 海老沢勝二NHK会長が定例会見で夜ニュースを変える意向を明らかにしたのは1999年11月。このときは大雑把な方向性以外、細かいことは何も決まっていなかった。現在のような番組構成に向けて具体的な検討が始まったのは、報道局にプロジェクトが設置された12月中旬だ。

 「ニュース10」の初代編集長を務める堰向直久《せきむかい・なおひさ》に、翌3月末のオンエアへと至るプロセスを聞こう。

 「ニュース10は編集長の下に副編集長が9人いる。これは政治、経済、社会、科学文化、国際部と、スポーツ報道センター、映像取材部(カメラ)、制作回線部(編集)、首都圏センターを代表するデスク。つまり取材現場を全方位360度カバーする専門集団がそれぞれ制作現場に人を出している。これに制作センターの7〜8人が加わり、プロジェクトがスタートした。われわれは、(1)今日の日本、世界、故郷がわかるという基本コンセプト、(2)働く人びとが落ち着いてニュースを見る夜10時スタート、(3)55分といういわば3つの条件のもとでギロンを始めた。そこで、何がNHKのニュースに求められているか、わかりやすいニュースと深く掘り下げたニュースをどう両立させるべきかなど、青臭い議論から徹底的にやり直した」

 1月初めにはメインキャスターに堀尾正明の起用が決まった。「スタジオパークからこんにちは」で人気の堀尾は、いわば「NHKの昼の顔」。それを夜10時の顔にすると決めたのは、海老沢会長のトップダウンだった。

 堀尾に加えて、バンコク特派員の国際派・榎原美樹《えはら・みき》、アナウンサーで気象予報士の森本健成、女性アナウンサーとして昨年夏初めて甲子園を実況中継した藤井彩子の4人が「ニュース10」のキャスターで、1月19日にはそろって記者会見に応じ抱負を述べた。

 プロジェクトの議論も回を重ね、およその番組構成――オープニングで1日の動きを各10秒前後の7項目にまとめて見せ、続く25分程度をニュースゾーンとし、スポーツ10分に気象5分、主要項目に入らないニュースを5分流し、フリーゾーン数分をはさんで経済データなどで締める、というプランが固まっていく。

 上がってきたニュース原稿を各副編集長がすべてリライトしさらにキャスターが自分の言葉に直すという「話し言葉」重視、気象やスポーツコーナーを中心とするCG導入、季節感を出し健康・行楽情報なども含む気象情報の伝え方など、議論百出したイディアも絞り込みが進んだ。

 実際にパイロット版をつくり各部署の意見を吸い上げたのは2月。3月に入ると、月末の放送開始に照準を合わせた準備も加わった。初回放送では、番組告知や話題づくりを狙ってプロ野球開幕を控える巨人軍監督・長島茂雄に出演交渉し成功。

 こうして3月27日、NHK夜ニュースの新しい切り札「ニュース10」は放送を開始した。現在、ニュース10プロジェクトは、正・副編集長の10人、制作スタッフ31人、キャスター4人の計45人に膨《ふく》らんでいる。

キャスターは切り盛り役
視聴者の目線で突っ込む

 さて、「ニュース10」はよくも悪くも、メインキャスター堀尾正明の番組である。番組の柱のコンセプトの一つ「話し言葉のニュース」を担うのも、新しい夜の顔の堀尾だ。

 1月5日の夜にアナウンス室長から夜ニュース起用を伝えられた堀尾は、「とんでもないことになったと思い、しばらくは気持ちの整理がつかなかった」そうだ。

 だが番組スタートの直後から有珠山噴火、小渕首相入院、森新政権誕生、南北北朝鮮首脳会談、横浜小2誘拐、バスジャック、解散総選挙と大事件が立て続けに起こる。新しい環境にどう適応するかなどと思案する暇などなく、いきなり報道現場に投げ込まれ適応を余儀なくされたに違いない。

 いま、堀尾正明は番組での自分の役割を次のように考えている。

 「僕の中でキャスターの定義はいま一つ定かではないが、自分では番組の切り盛り役だと思っている。出稿系の人が取材しレポートを作る。それに対して僕は視聴者の目線で突っ込みを入れ、プレゼンテーションをする。そういうつもりで毎日やっている」

 毎日新聞のインタビューで「一か月めの反省点三つは?」と聞かれ、堀尾は「目線がキョロキョロしすぎ」「時間を気にしすぎ」「話し言葉のニュースという目標未達成」と答えている。 「スタジオパーク」ではゲストと堀尾の対談を横から撮影することが多くカメラを意識することがなかったが、「ニュース10」では正面にカメラがいくつもある。

 時間は、記者とのやり取り、さまざまなコーナーなど、人と人の対話でつくっていく部分で必ず変動する。しかも「週末に来週あたりはニュースが薄いかなと思っても、次から次にニュースが飛び込んでくる。それを詰め込んであるから、毎日巻きが入るけど、延ばすのは1日もない。もう僕はトンボ状態」(堀尾)なのだ。

 話し言葉については、副編集長が直したものに目を通して、自分で直す。たとえば「などしており」「などとして」「するとともに」という表現は、日常会話に出てこないから、なんとか直したい。

 しかし、中には「……などしており」と表現する以外にうまい言い方がない、という場合もあったりする。あとは時間との戦いで、どこかで切り上げなければならない。

 「毎日、よく最後までニュースを伝えきって終わっているなと、自分でもつくづく思いますよ」(堀尾)とは、NHKの夜10時を背負う新キャスターの本音だろう。

まだ開発途上
低視聴率なんて気にするな

 ところで番組スタート直後の新聞には、「夜十時はテレ朝圧勝」というような見出しが踊った。実際、長島監督を招いた初回はNHK5.5%にテレ朝10.1%。解散直前のSPEEDを招いた第2回は7.1%に12.8%とかなりの差がついた。(数字はビデオリサーチ調べ、関東地区)

 筆者がやや意外だったのは、CMなしで自由に生中継できるNHKが、質量ともに上回る取材体制で――つまり得意技を駆使して臨んだはずのバスジャック事件当日、なおテレビ朝日がNHKを僅差でかわしたことだ(視聴率は17.4%と17.0%)。

 報道局担当局長の御手洗正彦はいう。

 「スタートから2か月もたっていない今は、正直いって発展途上であると思う。しかし、支持や期待、はげましを電話や手紙で寄せてくださる視聴者の声が非常に大きい。堀尾キャスターのよさ、専門性は、インタビューのうまさや親しみやすさだと思うが、それを十二分に引き出す努力を続けていきたい。ニュースを担当するのは久し振りで最初は肩に力が入ったが、最近だいぶ自然体になってきたと思う」

 編集長の堰向直久は、スタート直後から番組をあれこれ手直ししていると解説する。

 「冒頭の7項目は、全体を振り返るにしては短くオープニングにしては長い。そこで3項目に減らした。また、何分ごろどんな項目を流すという情報を細かく出すようにした。スポーツコーナーは最初堀尾・藤井の2人だったのを藤井1人に変えた。同じ3分のニュースを伝える場合でも、アナが原稿を2分読み現場レポート1分というのと、キャスターがフリップを抱えて説明し記者と掛け合いさらに現場とつなぐというのでは、負担の大きさが全然違う。堀井キャスターには、後者のメインの掛け合いをたくさんやってもらう。なにしろまだ始まったばかりで、認知度が薄く、視聴者の視聴慣行を変えるまでに至っていない。勝負はこれからですよ」

 今回取材した中でいちばん意気軒昂《いきけんこう》だったのが、堀尾キャスターである。

 「僕はスタジオパークを5年間やって、最初の1〜2年は全然反応なかったですからね。ようやく見られ始めたなと思ったのは3年目の後半から。それを経験しているから、最初の2か月の数字がどうなんて関係ない。自分でやっていてわかるんですが、けっこういいものを、きっちり出していると思いますよ。だから毎日手応えはあるし。ニュース10は、きっと受け入れられると思っている」

 この元気は大変いい。

 実際、数字を気にしてスポンサーに平身低頭しなければならない民放番組じゃあるまいし、堀井キャスターには視聴率など気にせず、自由奔放にニュースを伝えてほしい。

 1か月や2か月の数字だけをあげつらって勝った負けたと判定するのも、全然意味がない。ここでは性急な判定は控えて、長い目で見守りたい。

小もっと余裕のあるつくりで
キャスターの個性を生かせ

 最後に、しばらくニュース10を見続けて、改善の余地がありそうだと思ったことを3つだけ指摘しておこう。

 第1に、話し言葉で1時間続けるニュースのテンポ、メリハリの利かせ方には、もっと工夫が必要なのではないかということだ。

 ニュース7のようにキャスター、字幕、現場中継という決まった要素を切り換えていくだけだとリズムが出る。民放のようにCMで切れるのも、メリハリを利かせやすい。ニュース10は、コーナーごとにキャスターが立ったり座ったりするなど、目先を変えようと努力する割にはテンポがもう一つだ。

 第2に、見せ方の問題だが、まずCG関係の段取りの悪さが目立つ。これはそのうち習熟すると思うが、似たような問題で字幕の付け方には、明らかに改善の余地がありそうだ。

 誰かストップウォッチで計るといいが、ニュース10の字幕はあっという間に消えてしまう。場所の説明が一瞬で消えた後、記者レポートがえんえん続くので、いま映ってるのはどこなのかわからなくなる。しかも書体や大きさに統一感がなく、縦に出たり横に出たり、記者の名前のほうが取材相手の名前より大きく出たりする。

 第3に、堀尾キャスターのよさを最大限発揮するために、もっと余裕あるつくり方をしたほうがいい。「視聴者の目線なら、そこ突っ込めよ」と思うケースで何事も起こらないことが多いのは、巻きが入っているからに違いない。余った1〜2分、堀尾正明が無駄話をしたっていいと思う。それが話し言葉のニュースではないか。