メディアとつきあうツール  更新:2003-07-11
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

乱立!テレビ情報誌の功罪
――「テレビ番組」あっての情報誌
それ以上でも、それ以下でもない!

≪リード≫
放最近テレビ情報誌のリニューアルや創刊が相次いでいる。
新聞もラテ欄の強化拡充に熱心。デジタル化でEPGも登場。
テレビ情報誌の現在は、どうなっているのか。

【座談会出席者】
田原 隆/入江たのし/兼高聖雄/日比俊久/司会=坂本 衛

※たはら・たかし=大手総合出版社でテレビ雑誌・写真集など芸能関連の編集を歴任
※このサイトに載せるのは差し障りありという出席者はご一報を

(「GALAC」2003年07月号 特集「乱立!テレビ情報誌の功罪」)

司会●今年は放送50年、BSデジタル1000日、地上デジタルスタートと、放送にとっては節目の年。BSデジタルの普及は見込みの5分の1、首都圏の地上デジタルは東京タワーの半径1キロ圏など、「細かい話」は脇におくとしてね。そのデジタル放送では、EPG(Electronic Program Guide=電子番組表)と呼ぶテレビ番組欄が流れてくる。このところテレビ情報誌のリニューアルや創刊も相次いでいる。新聞のラテ欄の強化拡充もある。

兼高●インターネットには番組表がいくつもある。タレントの名前を入力するとその人物が出る番組をハードディスクに何十時間分か録ってくれる録画機も登場してきた。

司会●テレビ番組が始まる前に送られてくる活字によるテレビ情報に、いくつか変化の兆しが見えるわけです。そこで、テレビ情報誌を中心に活字による事前番組情報について、何がどう利用されているか、それはテレビと望ましいかたちで共存共栄しているのかを考えたい。まず、業界事情に詳しい田原隆さん、最近のテレビ情報誌の傾向を教えてください。

リニューアルや創刊で月刊化
1日10円の割安感が決め手?

田原●第1に、テレビ情報誌では月刊誌が比較的好調だということですね。角川書店の「ザテレビジョン」は月刊と週刊があるが、「月刊ザテレビジョン」が全誌の中でダントツに売れている。いちばんの老舗の東京ニュース通信社は、「TVガイド」が週刊、「TV Bros.」が隔週刊、「TV Taro」が月刊と、同じところで異なる発行サイクルのものを出しているが、やはり月刊が悪くないと。

 第2に、リニューアルや創刊の動きがある。たとえば小学館の「telepal f」は既存の媒体をいったん閉めてリニューアルした。前身は「TeLePAL」ですが、昨年、隔週から月刊に変えた。中身もかなり変えて若い女性をターゲットにしている。わりと好調と聞いていますよ。同じ小学館の「テレビサライ」は、社内ブランドの「サライ」を利用して新しい中高年むけテレビ情報誌をつくったもの。ペルシャ語で「宿」という意味の「サライ」は、「わが国初、大人の生活誌」と銘打った雑誌ですが、「テレビサライ」も「大人のテレビ情報誌」が謳い文句。これも月刊です。ぴあもサライ的な大人の、というかオヤジのテレビ誌「テレビ画報」を出した。昔、少年画報を読んでいた世代狙いなのかも。

入江●「テレビサライ」は、最初はテレビ番組表が別刷りでしたね。それはなくなって普通の番組表に変えた。表紙も「サライ」っぽい田んぼの写真なんかだったけど、人物写真に変えた。でも6月号の特集は「ドラマは下町ノスタルジー」と渋い。旅や街ガイドの要素も入れ込んである。

田原●産経新聞社の「月刊TVnavi」創刊も目立ちました。プレス発表時には、これとデジタル衛星放送ガイド誌の二つを同時に出すという話だったが、後者は立ち消えになった。これは売れ線の要素を押さえようとはしているんですが、テレビ誌に多い小ネタというか、細かい連載コラムや企画物をいっぱい入れ込んでいくというのがない。それから産経的な経費節減のせいなのか、基本的に1人のカメラマンでメインの写真を撮影している。どれもテイストが同じで、見ていて飽きちゃう感じがある。やはり蓄積がなく、手が十分回っていないという印象です。この雑誌はちょっとしんどいかもしれない。他誌よりちょっと安めに出すというのが売りのようですが。

日比●価格を見てみると、「月刊TVnavi」が300円。「TV Taro」が320円。「月刊ザテレビジョン」「telepal f」が330円。気持ちだけというか、数パーセント安いですね。月刊誌は300円+アルファが目安で、1日10円でテレビ番組表と関連情報が手に入るというパターン。

司会●戦後最大最悪デフレ不況のなか少しでも安いほうがいい。それがテレビ情報誌の月刊化現象の主な原因なのか。週刊「TVガイド」は240円だから月に1000円弱。月刊「TV Taro」ならその3分の1以下という割安感がある。隔週刊の「TV Bros.」は若者むけだから、180円が2回で月360円と頑張って安くしているが、それよりも買い得。

兼高●毎週ガイド誌を買い、月1000円も投じてテレビを見るというのは相当コアな視聴者というか、よっぽどテレビ好きで、しかも雑誌好きですよね。そっちが多数派とはちょっと思えない。普通はワンコイン、500円玉1個で買えるくらいまででしょう、雑誌の適正価格というのは。

日比●そうそう。ガイド誌ではないが「GALAC」は780円。中身はともかく、この厚みで500円以上するのかと驚く人が多い。

田原●財布のヒモがきつくなったという以外に、たとえば隔週だと2冊目を買うのを忘れちゃう人がいる、月1冊なら忘れないという理由もあるかも。いくつかの理由で月刊化するわけですが、一つ大きな問題が発生する。生が取り柄のテレビは、日々刻々情報が変わる。撮りだめしているドラマなんかでも、月刊では月中くらいまでしか、ストーリー展開を載せられない。発売は25日前後ですが、翌月の第2週目くらいまでの情報しか載らず、第3週と第4週はあらすじなしでタイトルと出演者だけになる。月刊はそれで十分という読者が読んでいるわけです。もっと回転が早いものだと、隔週刊でもフォローしきれない場合はありますが。で、先が半分わからない分、月刊誌ではそれを埋める特集企画が入っている感じ。「telepal f」も街ネタとかファッションネタなど、テレビ情報以外の読み物的なものが厚くなっている。

先行2誌の強みは、
キメ細かい地域版の発行

日比●時間的な問題に対して空間的な問題がありますね。テレビは本来ローカルなもので、テレビのチャンネルは地域によって違う。よく見かけるのは東版と西版、首都圏版と関西版。このあたりの事情は。

田原●テレビ情報誌は1962年、まず「TVガイド」が創刊。これはNHKの受信契約世帯数が1000万の大台に乗りカラー化が進んでいた頃で、アメリカのテレビガイドを日本でもという発想でスタートした。これに次いだのが「ザテレビジョン」で、82年創刊とガイドに遅れること20年。この二つ以外は1980年代後半以降――カネ余りの時代、衛星放送やCATVなど多メディア多チャンネル化の時代以降のスタートです。そこで先行した2誌の強みは、東京版と大阪版だけでなく、全国津々浦々キメ細かく出していること。北海道版とか四国版とか沖縄版とか、たしか「TVガイド」は20地区で出しているはずです。

 しかし、この2誌がやった後は、取次が面倒くさくてやりたくないというような事情もあり、ほかはあまり出していない。「テレビぴあ」が、関東、関西、東海、北海道・青森、福岡・山口の5版です。もっと絞れば、東と西の2版を出すか、首都圏だけにしておくか、ということになる。まあ、テレビ情報誌に限らず雑誌全般、というより書籍全般は、やはり首都圏が勝負所ですけどね。

入江●サライって、大阪のイメージはないですよね。大阪では、出しても全然売れないだろうという感じがする。

内容の多様化
表紙の画一化

司会●中身の差別化、多様化という点については。

田原●1社で何誌も出している東京ニュース通信社を見ると、まず定番正統派の「TVガイド」。音楽、映画、スポーツ、ビデオ、ゲーム、インターネット関連なども盛り込んでコンビニ感覚の若者向けサブカル・マガジンを目指す「TV Bros.」。CSやハイビジョン番組表も扱い映画を中心としたビジュアルなつくりの「TV Taro」。さらに変わり種では二十代の男性をターゲットにした月刊の「B.L.T.」(タイトルはファーストフードにあるベーコン・レタス・トマトの略B.L.T.をビューティフル・レディ&テレビジョンに引っかけてある)。

 と、こんな感じで隙間狙いというかターゲットを絞って、それに合わせて個性を出している。本体の「TVガイド」はほかのものに比べればターゲットを緩くしてあるが、やはり女性を意識している。まあ、ここは「デジタルTVガイド」「スカイパーフェクTV!ガイド」「ケーブルガイド」なんて情報誌も出しているから、テレビのデータベースになるものは何でもやるということでしょうけど。

日比●「TVガイド」は長く独占でやってきたが、「ザテレビジョン」が登場してそちらに客が移った。そこで挽回策として多様化で対抗したという事情もあるんでしょう。長いことA5版で小さかったけど、結局ほかと同じように大きくしたし。

田原●コンビニの棚に置くと小さくて隠れてしまうという問題があった。テレビ情報誌はコンビニを無視してはつくれない。いまは変型A4版ばかり。販路の主流も書店よりはコンビニ。

兼高●キオスクではあまり見ない。駅書店ではみんな買っている。

入江●「TV Bros.」はコラム誌ですね。カルトネタなんかも載っている。ジャンキーというか、カウンターカルチャーっぽい感じ。

田原●ちょっと前に「戦場のピアニスト」に関してユダヤ人をボロクソに書いた記事が出て、大丈夫かなと思いましたけどね。ライターは雑誌が出た翌週降ろされたらしい。

司会●ターゲット・セグメンテーションというか中身の多様化に対して、表紙は多様化しているというか、してないというか。いまここにある(座談会の前に本屋で買ってきた)テレビ情報誌14冊のうち、桜庭裕一郎の表紙が3冊、小雪の表紙が2冊。ま、桜庭も小雪もGALACの表紙になっているから、人のことはいえないけど。

日比●年末年始なんかすごい。全部SMAPの表紙。

田原●どこのテレビ局の番組広報も表紙にしたがるわけですよ、イチオシ番組のイチオシタレントを。その中からこれなら雑誌も売れるというのを選ぶ。あとは、有力タレント事務所との関係性ですね。事務所からこのクールは誰をお願いねというのがきたりする。それを断ると後々困ったことが起こるのはイヤ。たとえば年末年始号はおたくはちょっと……なんていわれたくないから、まあ、もちつもたれつでやっているわけです。

司会●テレビや広告会社はF1F1と盛んにいうが、そこを重視するのはテレビ情報誌も同じですか。

田原●それはそう、半分以上は女性読者でしょう。

日比●昔の芸能誌の役割を果たしている。「明星」や「平凡」の世界ですね。3人娘がどうしたとか、年始号には晴れ着を着て出てくるとか。というか、テレビ情報誌が出てきて「明星」「平凡」がつぶれたという流れかな。女性週刊誌などが扱う芸能情報と異なるのは、芸能人の離婚などスキャンダル情報が載っていないこと。

田原●テレビ情報誌の取材の窓口は、基本的には局の広報だけ。だから、局広報から「お前もう来るな」といわれることはテレビ情報誌はやらないし、できない。

兼高●「明星」「平凡」はタレントそのものがコンテンツ。テレビ情報誌はこのタレントがあれをやるの?という視聴者の見方に応える。すると、タレントそのものだけでなくプロデュースとか演出の裏話とかを載せていく。この意味では、確かに「明星」「平凡」と取って代わったわけですね。

司会●テレビ情報誌の要素を洗い出してみると、どうなりますか。

田原●まず番組表がある。あとはタレントのグラビア(写真とコメント)、番組表と連動した番組解説、特集的な企画、タレントその他の連載(事務所とのパイプが強くなるのと、のちのち単行本にして儲けたい)など。まあ、あんまり代わり映えはしないといえばいえる。出る人もだいたい一緒なわけですしね。4月からのドラマ何本かの主演は何人かしかいないんだから。

司会●テレビ情報誌の業界はどう見ているのか。つまり、代わり映えしない横並びの雑誌がいくつもあってあまりパッとしないのか。それとも10も20も雑誌があって百花繚乱、みんな儲かってハッピーなのか。

田原●生き残りをかけて必死で焦ってるというような感じはない。まずまずうまく棲み分けているというところでは。いま連続ドラマというのは、GALACには「ドラマがつまんない」なんて記事が載るけど、10年前に比べれば数で2倍くらいに増えている。で、それぞれに客がついて、情報を欲している。ネタはいっぱいあるんです。

日比●学生など新聞を取らない人が増えて、その人が新聞代わりに買っているのじゃないか。

兼高●その場合は、毎月同じ雑誌を買うのかな。

田原●同じ雑誌を継続します。というのはテレビ番組表がある。この文字の大きさや色づかいが微妙に違っていて、慣れたものが見やすいから。

日比●昔「TVガイド」は1日分が二つに分かれていて、それがイヤだという人がいた。「ザテレビジョン」は一覧できるのでよいと。

入江●番組表そのものに違いはあるんですか。新聞は東京ニュース通信社の配信を使えば同じになるわけですが。

田原●各局にテレビ誌の記者席があり、そこで各誌仲よく仕事しているわけです。だから局からの情報の出所は同じ。で、東京ニュース通信、角川、ぴあなど各社が、同じ情報を入力して番組表をつくっている。もちろん、番組表の枠や文字の大きさが違うから、あるドラマでA誌が4番目の俳優の名前まで載せているのに、B誌では3番目までしか載せていないというような違いはよくあります。

入江●僕は番組をつくるほうだからラテ欄に載せてくれと情報を出すんですけど、ラジオでおまけに時間によっては、タイトルをムチャクチャに短くされたり全然載っていなかったりする。新聞のテレビ欄でも深夜なんかは意味不明の短縮語が載っていますよね。

田原●どこをどう省略するかは、各社の裁量でしょう。

ドラマを中心に、
番組と視聴者を結ぶ役割

司会●ドラマを見るのにテレビ情報誌はどのくらい役立っているのか。若者たちの間では、テレビ番組同様、なくてはならないものなのか。

田原●ドラマの先の展開がわかったりするから、友だちとの話題で実はこうなんだぜと話しながら見る。それにはおおいに役立っている。

日比●レンタルCDが出てきたときCDが売れなくなるといわれたが、レンタルで聞いてみてからCDを買う人がいて、CD全体ではプラスになったことがあった。同じように、テレビ誌で情報を出すと、読んで見る気になる人は相当数いるでしょう。テレビ情報誌がドラマの数を2倍に増やしたという側面もあるかもしれない。

兼高●情報誌があるから、1週飛ばしても大丈夫だったりする。

入江●話題の補強効果は間違いない。

田原●録画の予定を立てやすいというメリットもあります。情報誌はGコードを載せていますから。

司会●登場人物の名前入力で連ドラ自動録画予約とか、EPGから一発予約というのが広がってくると、情報誌を調べてGコードを打ち込むというのは面倒になってくるのでは。

田原●テレビ情報誌はどこも、デジタル化によるEPGの普及を将来の脅威と思っているでしょう。ただ、かなり先の話だし、EPGで芸能情報が出るわけではないからそこで勝負できる。

兼高●いまスカパーにはEPGがついていますが、あれを参照するよりは、ガイド誌を見たほうが早い。

司会●あのEPGは一覧性に欠ける。表示に時間もかかるし、実用性は薄いね。寝るまでヒマでCSでも見るかというとき、何をやっているかを見るのに使うくらい。

入江●CSのEPGはチャンネル数が多すぎますよ。

日比●インターネットでテレビ局のサイトを見ると、ドラマごとに情報誌が載せる相関図くらいは載っている。ただジャニーズタレントの写真はなし。これは脅威じゃないのかな。

兼高●パソコンは、ご飯食べながらとか寝ながら参照できないでしょう。情報誌はそれができる。しかも、たどり着くまで面倒くさい。

司会●どうでしょう。テレビ情報誌はテレビ番組を向上させるのに役立っていると思いますか。

田原●いや、別に高めてはいないでしょう。見やすくする、親しみやすくする、身近にする、わかりやすくするという効果は大きいと思いますが。あくまでテレビ番組あっての情報誌だから、局に対してこうしたらと提案することもない。テレビ情報誌の機能とはドラマを中心に、テレビ局がつくるものを視聴者により一層結びつけるということで、それ以上でも以下でもないと思います。

司会●ありがとうございました。(2003年4月25日開催)