≪参考≫ (「放送批評」1996年08月号特集「TBS坂本弁護士テープ問題」) |
1996年5月1日、TBS社長磯崎洋三は、坂本弁護士取材テープ事件の責任を取って辞任し、社長室顧問となった。新社長には、事件の処理に関わっておらず、「汚れていない」とされる砂原幸雄が就任した。
また、社内調査に責任者として関わった大山光行常務は辞任。谷田部志津雄、田代功、鴨下信一、鈴木淳生の四人の常務が、本人たちからの「自主的な」申し出により平取締役に降格となった。 つまり、TBSでは常務以上の経営陣が全員入れ替わった。
こうした経営者の「責任の取り方」を見ていると、どうにもジメジメしたやりきれなさを感じる。責任を取っているようで実はまともに取っていない、きわめて日本的なやり方だと嘆息せざるをえない。
TBSというテレビ局は、本当は、視聴者に対して番組を流し続けるそのことによってしか、謝罪することも、責任を取ることもできない。誰のクビを差し出すとか、退職金をカットするなどという話は、二の次三の次のはずだ。
それが、たった4時間の検証番組ひとつ流して「けじめ」となる。関係者が辞め、首脳陣の役がひとつ格下となって「一件落着」となる。深夜番組中止という愚劣きわまりない自粛策を打ち出し、世間に恭順《きょうじゅん》の意を表す。
TBSの番組は何がどう変わったのか。報道体制は、番組制作者たちの意識は、どう変化したのだろう。「問題の」社会情報局を止《や》める、「問題の」なになにを廃止するという以外に、このテレビ局は何を世に問うたか。
常務4人の降格も不可解である。1996年3月11日に出た報告書を役員が見ていないわけはないのだから、彼らはなぜこれが役員会を通ってしまったかを「自主的に」語るべきだ。降格なんてその後でよい。
4人のうち田代前常務が、新たに編成考査局担当となったのも解《げ》せない。考査と名が付くポストに就任するからには、番組ソフトがわからなければ話にならない。
だが、田代取締役は前郵政官僚であって、失礼ながら、テレビ番組に精通しているお方とは思えない。「うちの考査担当は郵政OBにお願いしましたのでよろしく」という、監督官庁に対する卑屈な態度表明としか受け取
れないではないか。
TBSは、もう失うものは何もない。こんなにも反省していますと、世間体を取り繕う必要もない。落ちるところまで落ちたのだ。
つまらない責任の取りっこ、反省ごっこはいいかげんやめにして、新しい番組で生まれ変わったTBSの姿を示してほしい。