メディアとつきあうツール  更新:2003-07-10
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

テレビ東京
「火曜イチバン!」
スーパー潜入番組の教訓

≪リード≫
東京キー局上位4社と異なるユニークな番組づくりで、
個性を発揮するテレビ東京。
その火曜夜の情報番組が、
一部スーパーマーケットのとんでもない裏側を見事に暴露した。
見た主婦たちは大騒ぎ。
業界団体は強硬に抗議。
一連の騒動から学ぶべき教訓は?

(「GALAC」2000年11月号)

売れ残りをリパック、再利用
スーパーのあくどい手口を暴露

 2000年8月8日夜、テレビ東京「火曜イチバン!」なる番組を見て、私はいささか驚き、また感心もした。

 テレビ東京を私は、他のキー局と異なる番組を流すというそのことにおいて、高く評価する。

 作りが安っぽく完成度が低い、何でも経済に結びつけすぎ、大事件発生でもすぐ通常編成に戻るのは取材力がないからだなど、いろいろいう人があるが、そんなことは枝葉末節。違うことのほうが重要で、よいことだと信じる。そんな見解を小誌(注 「GALAC」のこと)でも繰り返し表明してきたつもりだ。

 そのテレビ東京が「オッ!?」と思わせる番組を放映した。本来は小誌選奨ページが扱うテーマかもしれないが、あえてここに紹介したい。

 「火曜イチバン!」はジャンルでいえば情報バラエティに入る一時間番組だ。欄外に最近のタイトルを示すが、こんなテーマをテレビ東京得意の旅・グルメ番組のテイストで伝える。

 ところが8月8日の回は、「潜入スーパーマーケットの客ダマし(秘)ワザ公開」と銘打つ硬派路線。カメラがスーパーの裏側に潜入し激撮、登場人物の顔は全員ぼかし入りというドキュメンタリー番組の仕上がりだった。

 冒頭からモノクロ画面でおどろおどろしく「夜10時、閉店直後のとあるスーパー」「特別の許可を得てわれわれは客が帰った後のスーパーがどうなっているのか、客がいないところで何が行われているかを取材することになった」と槙大輔がナレーションする。

 続いてスーパーマーケットの店長が「売れるのは出す商品の10分の1。残りを捨てるわけにはいかないのでリパック――再生する」と証言。

 たとえば、売れ残った「ロース肉」はリパック(再パック)して翌日も売る。売れ残ると翌日「切りおとし肉」にして売る。色が変わったら値引き。翌日にはタレをつけて「焼き肉用」として売る。次は脂《あぶら》を混ぜてひき肉にして、手作り「ハンバーグ」。それでもダメなら火を通して弁当に入れる。

 この店長は「どこのスーパーさんもやってると思う」というのだ。

 タイトルを出した後は、主婦1013人へのアンケート結果を紹介。主婦の関心はスーパーで売られる商品の日付、鮮度、産地、裏で何が行われているかなど。もっとも多い疑問は「売れ残りはどうしているのか」だった。一方、都内近郊418店にアンケートしたが、回収できたのは33件だけ。

 その中で、4人の現役店長が匿名《とくめい》で話をしてくれることになり、店長たちの「売れ残りはリパックするか、加工し形状を変えて出すか、どちらか」という発言が出る。

 次に、ある店長が売れ残り肉をひき肉にし、生ハンバーグにする手順を紹介。ひけば変色はごまかせる、ケチャップを加えて赤みを出す、バラン(=葉蘭。鮨の折詰に入っているイミテーションの葉っぱ)の緑が赤を引き立てるといったワザを明かす。

 では、魚はどうするか。また別の店長が「生イカはイカソーメンに。次はアルミホイルの器に入れて刺身盛り合わせに。変色したシャケの切り身は総菜《そうざい》のシャケ弁に」と語る。

 翌朝は、魚のリパックのからくりを取材。パートの主婦が鮮度チェックするが、なんとこれが「臭いをかぐ」だけ。マグロのさく(細長い切り身)→刺身とぶつ切り→ネギトロ用すき身へと変えていく手順も暴露。400円のマグロぶつからネギトロ用が2パック取れ、1つ350円で売るという。

 総菜は、エビフライやコロッケなど揚げ物を水に濡らして揚げると再生できる。「家庭でやると危険」というナレーションをかぶせたのはよかった。

 野菜は、売れ残りキャベツ1個を半分に切って翌日売る。さらに、市場で仕入れてきた箱詰め野菜を袋に小分けして値札をつけるのだが、中国産ネギは埼玉産に、茨城産ジャガイモは静岡産に、中国産スナックエンドウは福島産サヤエンドウに、ムチャクチャに変えてしまうプロセスを取材する。

 その後「銀ムツ(メロ)」「沖ブリ(シルバー)」などいう名前で売られる魚について、銀ムツや沖ブリという魚は存在しないとレポート。

 番組は残り4分の1になって、突然、保安員が万引きを捕まえる話になり、そのまま終了した。

スポンサー筋が強硬抗議
テレビが学ぶべき教訓は?

 さて、この番組、夕食後の7時55分開始という時間帯も効を奏して主婦層の注目を集め、視聴率8%以上と大健闘。翌日以降しばらくは井戸端会議の格好の話題となり、各地のスーパーが「当店はリパックしていません」という張り紙を出す騒ぎになった。

 これにいち早く反応したのが、ダイエー、イトーヨーカ堂、西友以下大手スーパーが軒並み加盟する業界団体の「日本チェーンストア協会」である。

 協会によると、番組告知などで事前に放映を知り注目していたが、実際に見て驚愕。加盟社からは、テレビ東京にCM引き上げを突きつけて強硬に抗議すべきだという声まで出た。放映は火曜日だが、その週のうちにテレビ東京を訪れ、協会として正式な抗議を申し入れている。協会関係者は、今回の番組についてこう語る。

 「業界の裾野《すその》は広いから、番組が取り上げたことは事実かもしれないが、ごく一部の極端な事例だ。それを番組では、スーパーならどこでもやっているかのように報じた。健全に営業しているチェーンストア全体の慣行と視聴者に受け取られかねない内容だった。これは業界への誹謗中傷《ひぼうちゅうしょう》、営業妨害とすらいえる。番組が視聴者に与えた誤解を解いてもらう必要がある」

 大手スポンサーを含む業界団体の抗議は、テレビ東京を震撼《しんかん》させた。

 局はただちに非を認め、協会宛てに謝罪文書を提出。また、番組販売などもすべて停止し、番組をお蔵入りとした。さらに協会によれば、スーパー業界のイメージを向上させる番組を企画する意向を表明。年末までに1時間番組が放映される見込みという。

 スーパーによっては、局営業にCM引き上げの姿勢をちらつかせ、抗議の姿勢を見せた社もあった。例によって広告会社も事態収拾に奔走《ほんそう》した。

 このような出来事は商業放送では日常茶飯事だが、普通はあまり表沙汰にならない。今回は、家庭の主婦に身近なテーマで内容も衝撃的だったため、世間でも話題になり、スポンサーが強硬姿勢を見せた。だから細かい経緯までが、明るみに出てきたわけだ。

 一連の出来事から、テレビが学ぶべき教訓は、どんなことだろうか。

 第1に、正規の報道部門でなく、いつもは芸能人の豪邸拝見など軟派企画をやる番組が、主婦が強い関心を持つスーパーの裏側というテーマに光を当てたことを、私は高く評価したい。極端な事例であれ、スーパーの驚くべき実態の一端を映像化したことは、称賛に値する。朝や夕のニュース・情報番組はテレビ東京の番組にならい、もっと視聴者に切実な企画を探すべきだ。

 第2に、今回の番組はテーマはよかったが、見せ方に問題があった。制作者に取材の心得が足りなかったことをテレビ局は真剣に反省すべきである。

 まず「事実を扱う番組は、事実だけを並べれば成立する」という考えを捨てるべきである。部分的な事実が全体の事実の中でどんな位置を占めるかを忘れたとき、取材は破綻《はたん》するのだ。

 そして「必ず逃げ道を残せ」という取材の鉄則を忘れるべきでない。今回のケースなら、チェーンストア協会を取材して「これはごく一部。大多数は健全にやっている」というコメントを取り、流すのだ。それが業界の逃げ道になり、自分の逃げ道(ちゃんと話を聞いたとのアリバイ作り)にもなる。

 第3に、センセーショナルな絵で客寄せしたい気持ちはわかるが、ちゃんと提言すべきだ。番組の後ろ4分の1は、まったく不要なヨタ話。ここに、たとえば「10並べて1売れる。だが残りの9を毎日捨てれば、日本中のスーパーがつぶれてしまう。ここまではリパック可という基準を作れ」と問題提起を入れる。その深みがないと、表層の事実を弄《もてあそ》ぶだけの番組に終わってしまう。

 最後に、実はこれがいちばんいいたいことなのだが、局上層部は、スポンサーが怒り出す番組を作ってはダメだと、制作者たちを萎縮《いしゅく》させてはならない。

 社外に公式謝罪をした以上それに見合う社内処分は当然だが、しかしなお、反省すべき点は多々あるが、着眼点もインパクトある映像もよかったと陰で制作者を誉め、再挑戦のチャンスを与えるべきだ。そうしないと、少しでもスポンサーが文句をいいそうな番組は、現場の自己規制でつぶされてしまう。そんなテレビは誰も見ない。

≪参考≫
最近(原稿執筆前後)の「火曜イチバン!」のタイトルは、
建築家と付き合う!(2000年8月15日)
名犬・珍犬・オモシロ犬大集合2(2000年8月22日)
感動一軒家獲得泣き笑い(2000年8月29日)
手軽週末東京ホテル生活(2000年9月5日)
必見有名人こだわりの御殿大公開(2000年9月12日)
壮絶嫁姑ホンネ(秘)バトル(2000年9月19日)など。