メディアとつきあうツール  更新:2003-07-10
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

青少年問題

≪リード≫
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(「時事解説」19??年??月号

きっかけはバタフライナイフ

 ここ数年、テレビの青少年に対する悪影響が盛んに議論されてきた。六月には郵政省、NHK、民放連の三者による「青少年と放送に関する専門家会合」が報告書を取りまとめている。これを受けてNHKと民放は、青少年の視聴への配慮、青少年向け番組の充実といった対応を進めた。

 こうした対応がひとまず出揃うのが、この十月の番組改編だ。番組の編成や内容にどのような変化が見られるのか。さまざまな青少年問題は、それによって本当に改善されるだろうか。

 まず、青少年問題に関して放送局が、番組編成や番組内容にまで踏み込んだ対応を迫られるに至った経緯を概観しておこう。 大宅壮一「一億総白痴化」批判やPTA「低俗番組」批判など、テレビ悪影響論は昔から枚挙に暇がない。しかし最近、異常なまでの盛り上がりを見せたのは、神戸の十四歳少年が少女殺傷事件と「酒鬼薔薇聖斗」事件を引き起こし全国を震撼させた翌年、九八年一月から三月にかけて、刃物を使った青少年事件が頻発したことによる。

 主な事件を列挙すると、大阪で一九歳少年が少女ら三人を殺傷、埼玉で十八歳少年が警官をナイフで刺す、栃木県の中一少年がバタフライナイフで教師を刺殺、茨城県で高一少年が同級生を包丁で刺す、東京都で中学生男女が万引きしナイフをちらつかせて逃走、東京都で中三少年がバタフライナイフで警官を襲う、栃木県で中三少年が包丁を使ってコンビニ強盗未遂、兵庫県で中三少年らがナイフで公務員恐喝、埼玉県で中一少年が別の学校の少年をナイフで刺殺、名古屋市で中二少年が同級生を包丁で襲う、などなど。

 このうち東京で警官を襲った少年が、フジテレビのドラマ「ギフト」を見てバタフライナイフを持ったと発言したことから、これら刃物事件のすべてがテレビのせいであるかのような議論が沸騰した。

 放送に対する行政介入を繰り返してきた郵政省は、これを奇貨として、九八年五月に「青少年と放送に関する調査研究会」を設置。これが年末に報告書をまとめ「いじめ、不登校・学級崩壊、性の逸脱行動、薬物乱用、少年非行の低年齢化現象などの顕在化、とくに少年非行の深刻化」を指摘。テレビに対する七項目の提言を行った。これを受けて具体策を練ったのが「専門家会合」である。

官僚を入れ「自主」規制を検討

 「専門家会合」には、民放連とNHKのテレビ側代表二名、メディア学者二名、教育評論家、弁護士、日本PTA全国協議会と全国子ども会連合会の保護者側代表二名のほか、郵政省から現職の放送行政局放送政策課長が加わった。

 いうまでもなくテレビ局は「言論報道機関」であり、放送の自主・自律を貫いて公権力から一定の距離を置き、そのチェック機能を果たさなければならない。それが、具体的な番組内容規制について話し合う会合を郵政省と共催し、メンバーに現職郵政官僚を入れるとはなんたる不見識かという批判も強くなされた。

 仮に、新聞各社が青少年問題で何ができるか、共同キャンペーンでもやってみようかと話し合ったとして、その集まりを総理府と共催するとか、メンバーに官僚を入れるという馬鹿げたことは考えられない。

 郵政官僚を入れたのは、調査研究会にも参加していた保護者代表のテレビ批判が予想外に強硬だったうえ、政府・自民党筋からのテレビ攻撃も執拗を極め、さらに世論もテレビ害悪論に傾いたため、追い詰められたテレビが「行政も入れて真摯に対応した」という形をつくって世の中の批判をかわそうとしたからだ。官僚も入って練った対応策なら、政治家もPTAも直ちに文句はつけにくい。

 こう判断したのは、日本テレビ社長で民放連会長も務める氏家齊一郎。「郵政官僚を入れ、会合は非公開」というトップダウンの指示は、民放連スタッフも寝耳に水だったが、NHKにも民放にも疑義を呈する骨のある人物は誰一人いなかった。

 こうして半年間開かれた「専門家会合」が、七項目の提言に沿って打ち出した対応策は、次のようなものだ。

(1)青少年向け番組の充実=民放は週三時間以上の青少年向け番組を設定。すでに充実しているとするNHKは教育テレビ深夜に学校放送の集中編成ゾーンを新設。
(2)メディア・リテラシーの向上=番組などを通じ、視聴者がメディアを選択し主体的に読み解き、自己発信する能力を向上。
(3)青少年と放送に関する調査等の推進。
(4)第三者機関等の活用=すでにある放送番組向上協議会に(仮称)「青少年と放送委員会」を設置し、青少年問題に関する苦情処理対応などをする。
(5)青少年向けに配慮する放送時間帯=民放は午後五時〜九時。NHKはとくに設定せず、青少年が見やすい時間帯を「少年少女アワー」として良質な番組を編成。
(6)番組に関する情報提供の充実=青少年に不適当と思われるシーンを含む番組や、逆に青少年の積極的な視聴を望む番組について、事前の情報提供を充実させる。
(7)Vチップについては引き続き検討。

週三時間のお勧めは?

 さらにポイントを絞り、具体的に見ていこう。まず、民放キー局五社が週三時間の青少年向け番組として出してきたのは、別表の番組二十五本である。これが現時点で各社が自薦する「児童・青少年が好んで視聴する番組の中で、知識や理解力を高め、情操を豊かにする番組」だ。

 もっとも工夫の跡が見られるのはテレビ東京で、四月スタートの「テレタビーズ」「勇気のメダル」ほか十月スタートの「知ってる介!護」など七本を挙げ、それぞれ視聴してほしい年齢層も明示した。同社は「ポケットモンスター」をはじめ多くのアニメ番組を流しているが、敢えてリストからは外している。

 実際、フジテレビは「サザエさん」、テレビ朝日は「ドラえもん」を出してきたわけだが、「だから何なんだ?」という感じは否めない。どちらも長寿番組に属し、九八年の冬に刃物で殺傷沙汰を起こした中学生の多くも、幼い頃「サザエさん」や「ドラえもん」を見ていたに違いないと思われるからだ。

 テレ東以外の新番組は日テレ「モグモグゴンボ」、フジ「力の限りゴーゴゴー!!」「晴れたらイイね!」。あとは青少年を対象とする既存の番組から、時間帯が見やすい、視聴率がよく評判もよい、自社制作でコントロールが利く、わかりやすい内容、堅実な作りで自信をもって推奨できる、といった観点から選ばれたといえる。

 学校に通う青少年が見やすい時間帯は夕方かゴールデンタイム(夜七時〜十時)。夕方は各社とも情報ニュースに時間を割いており、新番組の余地はない。ゴールデンは視聴率で凌ぎを削っており、スポンサーの関係もあってそう簡単に番組をいじるわけにはいかない。

 だから、各社が出してきた番組に既存の番組が多いこと、土日の番組が多いことは無理もないといえる。これは、今回の番組リストが新鮮味に欠ける理由でもある。

五〜九時の表現自粛とは?

 今回の対応の目玉の一つは、民放が業界全体として午後五時から九時までを青少年に配慮する放送時間帯とし、性的シーンや暴力的表現などに気を配る点だ。

 これについて、各社が口を揃えるのは、「午後五時から九時までは、ファミリー視聴を前提とした時間帯で、性的シーンや暴力的表現が問題となる番組はあまり見当たらない」ということである。

 その通りで、親子で一緒に見ていて居心地が悪くなるというような性的シーンは、午後九時以降に始まるドラマに多い。暴力的表現も、アニメの戦闘シーンを除けば、午後九時以降の事件・推理ドラマに多い。

 問題になりそうなのは、TBS「快傑熟女」をはじめ最近やたらに増えた素人参加番組の証言や再現シーン(夫の暴力、異常なセックス、不倫……)。あとは、バラエティ番組で、お笑いタレントが尻を出す、下ネタをいう、売れない芸人をいたぶる、乱暴な口をきく、といった瑣末な問題だ。

 だから、調査によって小学生がよく見ているというのが五時〜九時を自粛する理由だが、実はさしさわりのない時間を設定したにすぎないのではないか、という見方も根強い。

 民放の午後四時はドラマ再放送が多く、一〜二年前に夜九時〜十一時でやっていた番組がそのまま流れる。これには主婦や若者(小学校高学年以上)の支持が強い。しかも、ありものを使って新規の投資が要らないから、局にとってはおいしい。これを維持したいために四時からでなく五時からに設定した、というわけだ。

 では、テレビの表現内容にまったく変化がないかといえば、そうでもない。バラエティでは、プロデューサーが出演タレントに「そういうわけだから、よろしくネ」くらいのことは言っている。ナイナイの番組などちょっと前まで「売れない芸人いたぶり番組」の様相を呈していたが、企画変更によって、過激さは薄れてきた。フジの人気アニメ「こち亀」も、エンディングを差し替えた

 テレビ制作者というのは、いいかげんに作っているように見えても、かなり世間の目を気にする。酒鬼薔薇聖斗事件のときは刃物と首をあわてて隠した。バタフライナイフを出したフジのドラマ「ギフト」は封印され、二度と陽の目を見ることはない。別に殺人を教唆しているわけでもなんでもない、全体を見れば極めて良心的な優れたドラマなのに、である。

本当に「テレビのせい」か?

 最後に、今回のテレビの対応が、青少年問題の解決につながるかどうか。

 結論からいえば、郵政省「調査研究会」が指摘した「いじめ、不登校・学級崩壊、性の逸脱行動、薬物乱用、少年非行の低年齢化現象などの顕在化、とくに少年非行の深刻化」には、ほとんど何の効果もない。

 というのは青少年は、両親、その他の家族、友だち、先輩後輩、教師といったさまざまな人間に影響され、テレビ、ゲーム、パソコン、マンガ、雑誌、本といったさまざまなメディアに影響されながら、生きている。この中で、青少年の生き方にもっとも多大な影響を与えているのは「両親」であり、「テレビ」ではないからだ。

 そして、「すぐキレて、他者に見境のない自暴自棄的な攻撃を与える」子どもが先に存在していて、その子どもがテレビを見てナイフを買った(見なかった子どもは包丁を台所から持ち出したか、金物屋で買った)のであり、テレビを見た子どもがそれに影響されて人を刺したのではない。

 閉鎖的な空間での陰湿ないじめは、テレビのない時代から軍隊にも警察にも企業にも地域共同体にもあるから、学校にもあって当然。不登校・学級崩壊はどう考えてもテレビの問題というより親と学校の問題。薬物乱用もテレビにはあまり出てこないから、直接的な影響は考えにくい。

 性の逸脱行動については、テレビは社会の空気を増幅して伝える力があるから、間接的な影響は与えているだろう。

 こう見てくると、テレビの青少年への影響はあくまで間接的なものにとどまる。郵政省は隠しているが、そもそも刑法犯で検挙・補導された少年の数は、一九八三年約三十一万人から一九九八年約十五万人と実に半減しており、青少年は断然よくなってきたとすらいえるのだ。テレビは平身低頭ばかりせずに、青少年問題の真の原因を毅然として追及し、報道するべきだと思う。

東京キー局の青少年向け自薦番組
局(系列) 番組(放映日時)
日本テレビ 伊東家の食卓 (火 19:00-19:58)
モグモグゴンボ! (土 18:30-19:00)
所さんの目がテン! (日 7:00- 7:30)
特命リサーチ200x! (日 19:58-20:54)
知ってるつもり! (日 21:00-21:54)
TBS 筋内番付 (土 19:00-19:56)
どうぶつ奇想天外! (土 20:00-20:54)
世界・ふしぎ発見! (土 21:00-21:54)
フジテレビ ポンキッキーズ (月〜木 16:25-16:30 金 16:00-16:55)
力の限りゴーゴゴー!! (水 19:30-20:00)
晴れたらイイねッ! (土 8:00- 8:30)
サザエさん (日 18:30-19:00)
発掘!あるある大事典 (日 21:00-21:54)
テレビ朝日 万物創世記 (火 20:00-20:54)
ドラえもん (金 19:00-19:30)
新・題名のない音楽会 (日 9:00- 9:30)
100人の20世紀 (日 18:30-18:56)
素敵な宇宙船地球号 (日 23:00-23:30)
テレビ東京 テレタビーズ (月・火 8:00- 8:30 11月から水も予定)
クイズ赤恥青恥 (水 21:00-21:54)
ドキュメンタリー人間劇場 (水 22:00-22:54)
知ってる介!護 (土 10:00-10:25)
テクノ探偵団 (土 18:00-19:00)
大使の国のたからもの (日 8:30- 9:00)
勇気のメダル (日 10:30-11:00)