メディアとつきあうツール  更新:2003-07-10
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【鼎談】世界が震撼した
米テロ事件・戦争突入を
日本のテレビはどう伝えたか

≪リード≫
日本時間2001年9月11日午後9時45分、マンハッタンWTC北棟にハイジャック機が突っ込んだ。数分後、2機目が南棟を破壊する。衝撃映像はライブで世界を駆けめぐった。繰り返し流された衝突とビル崩落のシーン。そして10月7日、アフガン空爆というアメリカの戦争が始まる。この一連の歴史的事件に、日本のテレビメディアはどう向き合ったのか?
今村庸一 マスコミ学者
兼高聖雄 心理学者
坂本 衛 ジャーナリスト/GALAC編集長 ※お二人の許可を得て掲載。
(「GALAC」2001年12月号)

米テロからアフガン空爆への時系列年表

CNN、ABCは世界のキー局

坂本 二十一世紀最初の年の9月11日、同時多発テロがアメリカを襲った。これは世界史に刻印される歴史的な大事件であり、テレビというメディアの圧倒的な実力を再認識させる出来事であったとも思う。同時にテレビのさまざまな問題点も噴出している。そこで、同時多発テロ報道からアフガニスタン空爆の戦争報道に至るテレビの役割、その功罪を検証したい。まず、第一報をどう見ましたか。

今村 NHKはそのほとんどが米ABC、テレビ朝日は米CNN映像の垂れ流しだった。私はすぐに画面をCSに切り替え、米CNNと英BBCのライブ映像を比較しながら見ていた。2機目が世界貿易センタービル(WTC)南棟に突っ込む瞬間は、全世界がライブで目撃した。衛星時代の今、衝撃映像がリアルタイムで世界に伝えられることを、あらためて実感しました。

 ビルが倒壊する瞬間はCNNで見ていた。CNNを見て、何分かして日本のテレビ局に切り替えると、さっき見た映像が流れている。速報性という点では、衛星経由のメジャーなニュース専門チャンネルが中核に座り、他の国の放送局はローカル局になっているという図式が認識できたと思う。

坂本 CNN、ABCは世界的なキー局、日本のNHKや民放はその映像を受けるだけの世界的な田舎ローカル局という構図がハッキリしたわけだ。

兼高 私は民放を見ていてテロップに気がつき、NHKに回した。大事件だとわかった後は、CSのCNNを見ながら、パソコンでインターネットにあたってみた。その時点では、早過ぎてまだ情報は流れていない。そのうち情報があふれ出したけど、英語の掲示板はもう誤報の嵐。セスナという話もあったし、ミサイルが突っ込んだという話も出ていた。

今村 最初、小型機が突っ込んだという情報が流れたんですね。NHKのニューヨーク支局も最初は小型機という表現をしていた。各局ともアメリカに支局を置き、特派員が現地からリポートしたわけだけど、現地の記者はCNNを見てリポートしている。それは、われわれが東京で見ている映像と同じもの。特派員が現地にいる意味をなしているのかという疑問が湧いた。

兼高 ニューヨークの情報は日本にいくらでもあるだろうに、「このビルはどこでしょうか」式のアナウンサーの発言が目立った。視聴者はイライラさせられ続けたね。

坂本 私も日テレのドラマを見ていると速報テロップが出たので、チャンネルを回した。1台をNHKにほぼ固定し、2台目を民放やBSなどを切り替えながら見た。10時3分、NHKのABC映像で2機目が突っ込んだのを見た瞬間、旅客機だと思った。なかなか出ないリプレイ映像では明らかに旅客機と確認できたが、テレビ朝日はその時点でまだ小型飛行機とのテロップを出していた。

 しばらくすると、モクモクと黒い煙をあげる低層の建物の映像が映った。私は「ペンタゴンだ、こりゃ戦争だ」と叫んだ。ところがNHK夜10時ニュースのキャスターは「これはどこの映像でしょう?」というので、私は椅子からのけぞり落ちたね。ニューヨークやアメリカに詳しい人が一目見ればわかると思うんだが、そんな的はずれなアナウンスやテロップが目についた。

兼高 NHKには、それがペンタゴンだと思っても、キャスターレベルでは判断しないこと、というマニュアルでもあるんだろうか。

坂本 フジでは記者と安藤優子が「六角形のペンタゴン」をめぐって妙なやり取りをし、木村太郎が「五角形ね」と訂正していた。英語が達者な安藤さんでも、ああいうことはあるんだな。ただ、テレビ朝日の内田忠男のレポートはダントツによかった。

見事にとらえられた衝撃映像

坂本 NHK・BSはABCを流して同時通訳をつけていたが、これが何をいってるんだか全然わからない。英語が苦手な私でも、ムチャクチャな翻訳とわかった。もちろん人によるわけだけどね。会議通訳のプロフェッショナルで「ハリー・ポッター」の訳者でもある松岡佑子から「同時通訳はそもそも不可能。しっかりメモをとり、20分とか時間をずらしてでも正確なものが出すほうが有益だ」と聞いたことがある。その通りだと感じた。

 あと、ビルが崩壊したときの民放女性記者の「逃げて! 逃げて!」の金切り声はありゃなんだ? 現場から相当離れていて、周りの人たちは慌てずに歩いてるのに、もう逃げるわ逃げるわ、どこまでお前は逃げるんだ! ビル崩壊で火砕流は発生しない。できる限り肉薄して伝えようという、ジャーナリスト魂のかけらもない。ありゃマイク持った野次馬と一緒だよ。

兼高 3時間後くらいにはインターネットで、これはどこでどのくらいの被害であるという正確な情報が流れていた。テレビもそれくらいできるはずだが、夜中になっても相変わらず被害の全貌がとらえ切らないまま、衝撃映像の繰り返しに終始していた。

坂本 外国映像のリピートを除くと、NHKがやっていたのは基本的に日本人は無事かどうかばかり。しかも、NHKのいう「安否が心配な邦人」とはリストがすぐに入手できるWTCに入居する企業の社員だけ。外資系に採用されている日本人や日本人観光客は、邦人に入らないんだ。しかも数千人かひょっとして万単位の人が死んだかもしれない、これで戦争が始まるかもしれないというときに、何十人かの邦人が心配という。大手町の富士銀行の看板が何度映ったことか。これは明らかに異常感覚です。

今村 いままで映像はテレビ局が中継車を出し取材してくるものだった。ところが今回、1機目激突の映像はフランスのガンマプレスが配信した仏ジャーナリストによるもの。たまたまニューヨークの消防隊の取材をしていた上空に、飛行機が飛び込んできた。2機目の至近距離映像は、フリービデオカメラマンが撮影。さらに、救出のためビルに入った医師が、倒壊の瞬間を撮影したビデオ映像も流された。つまり、一般人が偶発的に映した映像が、きわめて高いニュース価値を帯び、それがリアルタイムで世界に流されるという新しい局面に入っていることを実証した。

 もう1つは、今回WTCやハイジャック機との間で携帯電話が活躍した。だが携帯の映像はまだ使われていないね。もし写メールやFOMA(第三世代携帯電話)があれば、ビル崩壊の瞬間を中から映す映像や、ハイジャック犯の顔の映像が流れたかもしれない。2〜3年後、また状況は一変しているのではないか。

兼高 もう最期だと覚悟を決め、家族に「愛しているよ」というのが、映像で送られてくるわけか。ものすごい時代に入ってきたね。

衝撃映像の繰り返しは、心理学的にもNO!!

坂本 報道も1週間くらいたつと落ち着きを見せ、中東問題の専門家を呼んだり、座談会が開かれたりという流れになってきた。そのあたりは?

今村 容疑者たちがアラブ系で、ビンラディンが黒幕とされたことで、アラブの映像一色になり、それがためにアメリカでは、アラブ系住民が暴行を受けた。これもテレビの一面ですね。確証はない段階でもテレビで流されるイメージに支配され、とんでもない行動につながる危険がある。

兼高 今回のテレビの大失敗は、崩壊するビルの映像を繰り返したこと。反復提示されるとどういうことになるのかは心理学では実証されている。反復される情報は無意識に長期記憶に入り、その後の認知に影響を与えるんです。また反復される刺激に対して人は親しみや好感を持つようになる。「慣れ親しむ」というわけですね。あの映像についても好感度が十分に増すほど反復された。きれいだな、と感じるようになった視聴者は少なくないでしょう。

今村 ビル倒壊を「バナナの皮をむくよう」と形容したアメリカのローカルキャスターが、大顰蹙《ひんしゅく》を浴びた。

兼高 ビルから人が飛び降りる映像やビル崩壊の映像が衝撃的すぎると、自主規制も始まった。アメリカは9月14日頃から問題化し、自主規制に入ったけど、遅かったですね。

坂本 日本はCMも自主規制した。ナムコは戦闘シーンのあるゲームの宣伝を規制。これは当日からでしょう。

兼高 『エースコンバット04』ね。角川書店は14日、ビル爆破ゲーム『ビルバク』の販売延期を発表。映画では核の密輸を描いた『ビッグトラブル』、テロリストと消防士が対決する『コラテラル・ダメージ』が公開延期。マイクロソフトは半日後にフライトシミュレーターからニューヨークを外しました。

多民族の国アメリカの共通言語は映像

坂本 アメリカの映像にも引っかかることが多かった。16日に行われたニューヨーク聖パトリック大聖堂の追悼ミサ、ワシントンで行われた公式追悼ミサ、これらは宗教一色。アメリカが政教分離の国ではないことが、今回の事態であらためて確認できた。あれに比べると、日本の戦没者慰霊式なんて本当にサラッとして、世界では例外的に無宗教なんだと。むこうでは神父が「ジョージに神の御加護を」ってやってる。

 これも奇異だったのは、ブッシュがニューヨーク市長と州知事に電話をしている映像。あれは完璧に作られた政治的な宣伝映像ですよ。互いに「あなたみたいなすばらしいリーダーがいてよかった」と誉めあう電話パフォーマンスというか電話ショー。いまどきあんなデカい電話があるかって電話を、絵づくりのためにわざわざ使う。それをテレビが何の批判精神もなく垂れ流す。アメリカのテレビはひどいもんだと呆れた。

兼高 ブッシュがビル倒壊現場を表敬訪問しましたね。作業服を着てやってきて、消防士をつかまえて「お前たちはヒーローだ」。回りはUSAコール。NIFDの合同葬儀はまるで『バックドラフト』の世界。ニューヨーク証券取引所再開の17日、消防士が鐘を鳴らして幕を開けた。演出が細かい。

坂本 これらの映像は論理ではなく人びとの感情に直に訴える、たいへん情緒的なものに終始していた。アメリカのテレビ報道が堕落《だらく》するのは手の打ちようがないが、それを日本で流すときは、垂れ流しでなく解説が必要です。

今村 アメリカは多民族、多文化、多人種、多宗教、多言語の国。映像は唯一そうした文化の違いを乗り越えられる強力なツール。共通言語ですね。国家のアイデンティティ確立のうえで、そういう道具を使ってアメリカ人であることを自覚する。そのためにテレビは大きな役割を果たしている。

坂本 共同幻想を作りあげるのに非常に効果的、効率的、しかも影響力も大きいメディアがテレビ。それは当然だけれども、そのことにアメリカのテレビも日本のテレビも無自覚すぎるね。

兼高 それにしては、日本のテレビはそのことを解説しない。『アメージンググレース』はこういう歌だ、『ゴッド・ブレス・アメリカ』はこういう意味があるのだと、解説してもらわないとわからない。

今村 ほかの国のテレビ映像を見ていると、この事件はアメリカだけではなく自分たちの問題だ、世界中の問題なんだという意識が感じられる。しかし日本のテレビにそれはない。アメリカで起こったアメリカの事件と決めてかかっている節がある。日本との関わり合いの自覚は希薄だった。

海外、民放に優れた映像報告あり

今村 アフガニスタンに容疑者が潜伏しているらしいという状況の中で、アフガニスタンという国に注目が集まりだす。私はそれに関するドキュメンタリーを注意して探した。3つほど特筆すべきものがありました。

 まず9月30日テレビ朝日『黒柳徹子のアフガニスタン報告』。ユニセフ特使としてアフガニスタンに入った黒柳徹子のリポート。子どもの惨状、女性の差別虐待などタリバーン支配のアフガニスタンの悲劇が記録されている。全体として、惨状は伝わるものの、黒柳徹子の存在で成立していて、歴史解説や事実の裏づけが弱かった。北部で子どもたちの歌を聞きほっとしたが、非常に厳しい環境の中での取材だったわりには、惜しまれる。

 2つめはCNNで放送され、後にNHK・BSが放送したドキュメンタリー『アンダー・ザ・ベール』。アフガニスタン出身のイギリス人女性ジャーナリストが決死の覚悟でアフガニスタンに潜入して、隠しカメラで撮った迫力映像。サッカー場のようなところで行われる公開処刑、物乞いする女性たちなど、撮影禁止の場所を隠しカメラで撮った貴重な報告。父親からすばらしいところだと聞かされていた祖国の変わり果てた姿を嘆く彼女の、切々たる訴えは胸に迫った。

 3つめはアフガン空爆が始まる10月7日に放送されたCBSドキュメント。1988年にケニアとタンザニアで同時多発テロが起こる。すぐさまアメリカはスーダンとアフガニスタンにトマホークを撃ち込む。このトマホーク攻撃がアフガニスタンにどのような打撃を与えたのかを検証した。当時のクリントン政権による、きわめて杜撰《ずさん》な攻撃だったことを論証した見ごたえある番組でした。

坂本 私がよくないと思ったのはNHKの映像で、批判精神なくアメリカ製映像をそのまま流す。むしろ民放に、じゃあアフガニスタンはどうなっているのかを伝えようという姿勢がみられた。たとえばフジ『とくダネ!』は、アフガニスタンで医療奉仕する中村哲医師の活動や意見を紹介しながら、むこうの現状を丁寧に伝えていた。

今村 日本人で現地に入っているのはフリーのスタッフばかり。フォトジャーナリスト佐藤和孝が日本テレビと契約し、ビデオフォンで毎日映像を送っている。彼は言葉も堪能で、北部同盟幹部に現地語で取材したりと、たいへんキメ細かい取材活動を行っている。

坂本 アジアプレスもね。日本の既成マスコミは危ないところには絶対行かない。フリーのジャーナリストに行ってくれとも、正面切っては頼まない。何かあった時、矢面《やおもて》に立ちたくないし補償問題も抱えたくないから。自分の責任で行くという人をつかまえては、取材映像をもらうという姑息《こそく》な手段が常態化している。これはどう考えても情けない。最前線に出るフリー記者にこそ手厚い待遇を望みたい。

兼高 民放は、ワイドショーや夕方ニュースで難民救済NGOの人たちに取材したり、日本のイスラム教徒たちに話を聞きにいったり、あるいはゲストを呼び、イスラム世界がなぜ孤立し先鋭化するのかという背景を解説していた。ところが、メインのニュースになるとこの視点がなくなる。それが非常に気になります。

坂本 いくつも逆転現象が起こっている。アメリカ大本営テレビより、他国のテレビのほうが冷静。NHKより民放のほうが冷静。メインのニュースよりワイドショーのほうが冷静。海外支局や特派員より東京の解説者のほうが冷静というようにね。

歴史を伝えない皮相なカタログ報道

今村 今回のことが起きるまで、アフガニスタンがどんな国でどんな歴史があるかを知っていた日本人はどれだけいたか。少なくとも1979年のイラン革命以降、ソ連、アメリカという大国に翻弄《ほんろう》されてきたアフガニスタンの歴史は知らなければならないが、あまりにも語られてこなかった。

兼高 もう一方の当事者アメリカについても、たとえば潜在的に持っている反イスラム主義などもちゃんと伝えるべきですね。

今村 イスラム原理主義に対する理解もめちゃくちゃ。原理主義は過激派ではない。コーランの教えに忠実になろうという発想。その中の一部が過激派になっているだけです。このあたりは学校教育でもキチンと扱うべきだ。

坂本 今回、アメリカこそが原理教だとつくづく思った。イスラム原理主義をいうならアメリカも原理主義。どちらも砂漠の地に生まれた教典の民、唯一一神教同士が衝突していると。砂漠の思想には塔の思想がある。WTCをバベルの塔のような象徴的存在と見なして突っ込んだ。ああ、砂漠の民の戦いが始まったと思った。片方だけを原理主義と指差すことに、私は違和感を覚える。そうした歴史背景を解説してくれる人がいないのが残念ですね。

 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」というが、アメリカはここ数十年の経験でしか動いていない印象を強く受ける。アフガニスタンはアレキサンダー大王が通りモンゴル(元)も出ていった。要するに文明の十字路で、他民族に翻弄《ほんろう》された長い歴史がある。パレスチナも朝鮮半島もそう。人びとが行き交う十字路に位置する国の歴史は、行き止まりに位置する日本とは全然違うものだろう。そういうことをきちんと押さえないで、戦争のドンパチ映像だけでは正しい理解は進まないと思う。今こそテレビの教育機能を発揮してもらいたい。

兼高 B1はこんなふうに飛ぶとか、イギリス製の最新鋭偵察機は160キロ先から新聞が読めるとか、メディアはそういう情報が好き。どうしてもイケイケドンドンになる。

坂本 でも、メディアのあつかうのは皮相なカタログ情報。たとえばトマホークは地上百何十メートルかを這うように進む。そのための最新の地形データは、宇宙飛行士の毛利衛がエンデバーに搭乗して集めた情報ですよ。毛利さんは「二十一世紀の子どもたちのため」と胸を張ったが、それで民間人が死んでいる。あれは軍事ミッションだったが、そういう報道は皆無。おかしいじゃないか。

今村 タリバーンはもともと日本に友好的だった。「日本はアメリカに原爆を落とされ、大量の人間を殺されている。それが今回、なぜアメリカに味方するのか」――彼らはそういう歴史認識でいる。こうした感情を日本はもっと敏感に感じ取らないといけない。

坂本 日本のメディアはアメリカのいう「ショー・ザ・フラッグ」を「軍艦をインド洋に出せ」と要求されたかのように報じて煽った。後でアーミテージがそんな意味じゃないと否定している。ズレまくっているね。

情報には必ず出典を明示せよ

今村 空爆開始後の報道についていえば、注目されるのはカタールのテレビ局アルジャジーラ。中東のCNNといわれている。アフガニスタンのカブールやカンダハルにカメラを据えて、空爆の様子がアルジャジーラ経由で世界に流されている。かつて湾岸戦争の時CNNがやったことを、今回は中東の放送局がやっている。しかも、CNNだけだと情報がアメリカに偏るが、アルジャジーラの存在で中東諸国の様子がわかる。複数の視点から検証することができる。

兼高 ビンラディンのインタビューも流した。テロリストであろうと言い分は聞こうという姿勢。タリバーン幹部の出演も多い。

今村 タリバーンを見ていると、太平洋戦争時の日本の大本営発表と一緒だと思う。日本も数十年前にやっていたことで、決して人ごとではない。独善的なドグマに陥り、国民は盲目的に従った。その点でも日本は、もう少し自分たちの問題に引き寄せて考えてもいいんじゃないか。

坂本 もちろん、湾岸戦争のときのイラクの映像同様、すべての映像は検閲されていると思ったほうがいい。同時にアメリカ側の「空爆は成功し85%を破壊」なんて発表も大本営発表。85%は、目標箇所数の割合か機能を推定しているのか不明で、「だいたいやっつけた」っていってるのと同じ。なんで、そういう解説をつけないんだ。

今村 一国の報道だけを見ているんじゃなく、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、中国、シンガポールと見られるかぎりの国の報道を見たほうがいい。別の視点がないかチェックしてほしい。多チャンネル時代の報道は、てそうあるべきですよ。

坂本 あと、映像の出所は逐一伝えるべき。どこのどいつがどういう条件の下で映したものなのかを。日本のテレビはニュースソースを明かすと他人の情報丸写しがバレちゃうのがイヤなのか、出典を明示しない。

今村 10月7日にアメリカ国防総省は「8か所を爆撃した」と発表した。日本のテレビはそのとおり伝えた。翌日、「実は30か所でした」と訂正される。じゃあ最初の発表は何なのか。テレビは何の疑問も呈さず、何のチェックもしていない。発表されたものの垂れ流し。

兼高 CNNでも「これは国防総省がそういっているだけだ」という伝え方を必ずする。ところが、その部分を日本は翻訳段階で抜く。

坂本 「警察はこういってる」「厚生省はそういってる」と必ずつけないと、後で報道陣が恥をかくんだ。松本サリン事件も、エイズ報道もそう。

兼高 正しくは「アメリカは8か所を空爆したといっている」。「アメリカは8か所を空爆した」という報道は正しくない。報道のイロハじゃないかな。

歴史を大局的に見る目を養え

今村 現地からの報道に、全然意味がない。各局、イスラマバードから毎日中継しているが、同じホテルの屋上で伝える内容も一緒。あれだけの人数が必要なのか。イスラマバードに記者を送り、日本から情報を伝えて中継で送り返させるという愚行が、現実に行われている。

坂本 NHKアメリカ総局長とワシントン支局長はスタジオ外にいる映像を見たことないけど、あれも不思議。あの役割なら東京のキャスターでいい。

兼高 そうそう。「先ほど現場を見てきましたが」っていうんだけど、なんで現場から生中継しないかな。

坂本 そろそろまとめましょう。

今村 WTC奇襲、アフガニスタン空爆は絵で見せられる。問われるのはこれからですね。派手なドンパチが終わった後、目に見えない心理的後遺症、文化的影響をいかにテレビはフォローしていくのか。それが与えられた重い課題でしょう。

兼高 絵になったもののリピート映像ばかりでは、視聴者にはなんのプラスもないことは明らかだしね。

坂本 ちゃんと検証を続けるべきだ。1週間後の検証、1か月後の検証、1年後の検証、100年後の検証があっていいはず。アメリカは「ならず者国家」というが、日本はそれを真《ま》に受けて報道していいのか。成り立ちから見れば、失礼ながらアメリカこそ「ならず者国家」。1492年、南北アメリカには9000万以上の人が住み、メキシコ国境以北に1000万人がいた。それを少数民族にして反省しないのがアメリカだ。もっと自分たちの歴史を考えろといいたいね。これは日本の報道陣も忘れてはならない視点だと思う。

 テロ撲滅《ぼくめつ》はいい。しかしテロリストを殲滅《せんめつ》すれば「はい終わり」とはならない。パレスチナ建国もありというようなことをアメリカはいい出しているが、それをやらないとイスラム圏の支持は得られない。そこで歴史が大きく動くかもしれない。そこまで見通して日々の報道に取り組んでほしい。(2001年10月上旬開催)