メディアとつきあうツール  更新:2003-07-10
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

東京メトロポリタンTV(MXTV)の課題

ゾロゾロ出てきた初期不良
MXテレビ経営陣を悩ます問題山積

≪リード≫
ここにリードが入る

(「放送批評」1996年02月号)

ゾロゾロ出てきた初期不良

 臨海副都心のテレコムセンターに入居する東京メトロポリタンテレビジョンを訪ねるには、新橋から片道360円かけて新都市交通「ゆりかもめ」に乗らなければならない。1995年11月下旬、こんなことを話しながら初乗りした。

「これって、バグ取りが終わってない。初期不良が出つくしてないよね。きっとすぐに止まるよ」

「そうそう、絶対に止まる。止まったら軌道を歩かされるんだ。乗務員はいないし高架だし、怖くて寒いぞぉ」

 すると案の定、止まった。最初は、風で飛んできたベニヤ板に衝突して、二度目は、停電でだ。

 ベニヤが飛んでくるなんて思いもよらなかったというのは、言い訳にならない。目で見てブレーキを踏む乗務員がいない以上、代わりに異常を感知してブレーキをかけるシステムが必要に決まっている。カネと暇と技術があれば装備して当然だ。もちろん、それでも予期せぬ障害で止まることがあるから、緊急に停止した場合の対策こそ万全を期さなければならない。

 どうやら、東京メトロポリタンテレビ(MXTV)の経営に関しても、同じことがいえそうである。バグや初期不良がだんだん露出しはじめた。しかし、問題の所在は開局前から明らかで、こんなはずじゃなかったという言い訳は通用しない。

広告収入の6割が自治体

 第一の問題は、MXTVが最後発の東京ローカルであることだ。

 世界的な消費地帯である首都圏には、地上波のNHK、民放キー五局、神奈川・埼玉・千葉のローカル局はじめ、BS、CS、CATV局がひしめいている。NHKや既存民放と同じ土俵に立って視聴率を競っても勝ち目はないから、MXTVは「アナザー・ウェイ」を進むことに決めた。しかし、視聴率を尺度とせずに広告収入を稼ぐ「アナザー・ウェイ」が確立されていないことが問題である。

 MXTVの広告収入は、96年3月までに約40億円。うち東京都からが45%、これに二十三区、市町村からの収入を合わせると57%に達する。残りのスポンサーは、東京新聞、東京電力、関電工、東京ガス、公共広告機構、民放連など。

 つまり、視聴率を問題とせずにCMを打っているのは、都と地元自治体をのぞけば、出資者のうちとくに意欲的な企業、公共機関、それに局への納入業者くらいなものだ。MXTVの開局申請の理由の一つに、中小企業でも安くテレビ広告が打てるローカル局が必要だ、というのがあったが、現実には中小企業は出稿していない。

 中でも東京都は突出している。都がMXTVに支払う広告費は、5か月で18億円。民放キー5局への広告費は年間25億円だ。キー各局への月平均4000万円強に対して、MXTVへは3億6000万円を支払っている計算である。

 細かく視聴率や人口を計算しなければ断定できないが、費用対効果から見て、これはたぶん払いすぎだ。なにしろ、MXTVを「受信できる」(「受信している」ではない)世帯は、放送エリア内の世帯(ほぼ100%が民放受信世帯だ)の3分の1程度なのだから。

 これでは、都は特定の民間放送局むけに広告費をたれ流しているという批判が起こることは目に見えている。税収は最低水準、おまけに臨海副都心に注ぎ込んだ2兆円が回収できず、都の財政は火の車で、放送局を救う余裕などありはしない。公共機関や納入業者の広告も、多くはご祝儀CMだから、今後は減少する。

 新しいスポンサーをどう獲得するのか。MXTVは、まさに崖っぷちに立たされている。

お役所的な普及方策

 第二に、MXTVがUHF局であることが大変なハンデだ。電波が強い場所はアンテナなしで大丈夫という話も聞いたが、基本的にはUHFの専用アンテナがなければ視聴できない。しかも、むきが問題なので、たとえばテレビ神奈川むけに調整したアンテナではダメだ。

 MXTVの受信問い合わせ窓口(パブリックセンター)では、室内アンテナはビルが多かったりすると映らないことが多く「お勧めできない」という。アンテナ本体が数千円から1万2000〜1万3000円、設置代が電気店や状況により2〜3万円だから、合計2万数千円〜4万円以上かかるのだ。これを普及させるのは容易なことではないだろう。

 MXTVは、放送エリア内に700万世帯があり、比較的新しい共同住宅(都営住宅や公団・民間マンション)73万世帯、CATV加入世帯54万世帯など、合わせて約250万世帯が受信可能としている。

 そんな共同住宅の何棟を対象に、実際にMXTVを見ているのは何世帯か調べれば、受信世帯数が荒っぽく推定できる。CATVを通じて見ている世帯数もわかる。だが、MXTVがそうした数字を発表しないところを見ると、よほど低い数字なのだろう。おそらくいま実際にMXTVを見ている世帯は、都が負担する広告費を使ってPR誌を編集し、毎月無料で送ったとしても、おつりがくる程度の数だろう。

 しかし、それでは二十一世紀に通用する東京ローカル局をつくった意味がない。UHFアンテナの普及と、どうしたら受信できるかという情報の普及が、緊急の課題である。

 だが、「問い合わせは局のパブリックセンターへ電話で」というやり方一つとっても、二十一世紀をうんぬんする局の手法とは思えない。現行方式は、非効率で古臭い役所のやり方だ。

 問い合わせ電話は、無料でなければダメなのだ。受付時間を平日9時から6時までに限るのもナンセンス。それは「仕事をしているサラリーマンは電話お断り」といっているのと同じだからだ。新しいビデオを買うのが主婦でないように、MXTVに申し込むのも主婦ではない。そんなことマーケティングの常識だと思うのだが。

 公民館でテレビを流しっ放しにし、そばに詳しい受信案内(局の電話ではなく、明日にもアンテナを付けてくれる電気店の電話が載ったパンフレット)を積んでおくくらいのことが、なぜできないのか。まったく不思議だ。

 一日でも早く、まともなマーケティング専門家の知恵を借り、潜在的な視聴者数ではなく、視聴者の実数が増加する手法を採用することが必要である。

経営陣がかかえる問題

 第三に、露呈してきた初期不良を早くなんとかしなければならない。事情通によると、誰も予期しなかった最大のバグは、次のような事態である。

「MXTVの営業幹部に、ラジオ日本の組合つぶしで名を馳せた人物がいる。この人物に振り回され、MXTVはまともな営業活動が一切できない。この一派のやりたい放題で、広告収入の六割を自治体から受け取るテレビ局が、まさに食い物にされている。ある都議の紹介で入社したこの人物は、某政党の議会筋を押さえているともいわれ、誰も手を出せない。MXTV首脳が入院したり、やる気を失ったりというのも、この問題のせいだ。これは、MXTVが某政党の利権と化していることにも関係する」

 事実とすれば由々しき事態である。こんなことが起こっていて、都民に密着だの、二十一世紀のテレビだのという気が知れない。

 MXTVは、開局直前の1995年10月にTBS出身の絹村和夫を副社長に迎え、経営強化を図った。新経営陣がもっとも手を焼く課題は、これかもしれない。

 東京都も議会も、その他の自治体も、民放連も、民放労連も、その他のテレビ局も、この問題については、東京メトロポリタンテレビに対する支援を惜しんではならないと思う。もちろん郵政省放送行政局も、その他のマスコミもだ。テレビ局側も、膿を隠すのではなく、体外に出さなければならない。

 さらに、プログラムや編成上の初期不良も徐々に露呈してきた。たとえば、売り物の映像記者(ビデオジャーナリスト)は、「疲れてます」(MXTV広報)。

 二十数人の映像記者が、それぞれ企画、準備取材、撮影、インタビュー、ナレーション、編集とすべて担当するというのが、そもそも半信半疑だったが、やってみるとやはり難しいらしい。コンピュータによる編集ブースはいつも順番待ちで、記者は次から次へと自分の撮ってきた素材を編集していく。だが、編集まで手が回らず、スタッフ任せにするケースも少なくない。

 しかも、浅草でお祭りを撮るとか、都の主催したイベントを撮るとか、誰かを訪ねてドキュメントを撮るというような場合はまだしも、事件報道まではカバーしきれない。そこで、たとえば「火事は撮るな」ということになっている。

 けれども、地下鉄サリン事件のような大事件が起こったらどうするのか。あるいは、東京大震災が起こったらどうするのか。都民のテレビが、これに触れないわけにはいかない。現在の体制では対応できないから、取材・報道体制の見直しも必要だ。

 こうして見てくると、東京メトロポリタンテレビが抱える課題は山積している。同局は、98年度に単年度黒字化、10年後に累積赤字一掃という目標を掲げているが、局内にもこの数字を信じている者はいない。独立U局でもっとも売上高の大きいテレビ神奈川でさえ、累積赤字解消は開局17年後だったのだ。腰を据えた経営立て直しが急務である。