≪あとからのリード≫ (「潮」2000年09月号 「潮市民講座」第173回) |
Q 2000年12月から「BSデジタル放送」が始まると聞きました。どういうものですか?
A 「BS」はBroadcasting Satelliteの頭文字で、放送衛星のこと。
「デジタル」は「アナログ」に対する言葉。テレビ電波などの電気信号がデジタル方式であるといえば、信号は「0か1か」で表されています。これはパソコンの内部で、文字、画像、音声などすべてのデータが「0か1か」に置き換えられ、処理されているのと同じと思ってください。
まとめると、BSデジタル放送は「放送衛星を使い、電波をデジタル方式で伝送する放送」ということになります。
いま日本で普通に視聴できるテレビには、NHKや民放の地上放送(地上波)、NHK第1・第2やWOWOWなどのBS放送、スカイパーフェクTV!などのCSデジタル放送があります(有線のCATVは、以上の再送信も多いので、ここでは除外しておきます)。
このうち地上波とBS放送がアナログ方式。現時点ではCSデジタル放送だけが、通信衛星(CSはCommunications Satelliteの頭文字)を使い、デジタル方式で放送されています。2000年12月からは、二つめのデジタル放送としてBSデジタル放送が始まるわけです。
Q BSデジタル放送のメリットとは、どういう点ですか?
A とりあえず「BS」は脇に置き、「デジタル放送」のメリットをお話ししましょう。アナログ放送と比べたデジタル放送のメリットは、大きくいって次の二つです。
第一に「多チャンネル化」ができます。
信号がデジタルだと「帯域圧縮」《たいいきあっしゅく》という技術を使ってデータを圧縮することが容易になります。たとえば、ニュース番組でアナウンサーがしゃべっているとき、顔は動いても背景は動きませんね。後ろの壁のデータは、動いている顔のデータほどには必要ないわけです。そこで最小限必要なもの以外のデータを除去すれば、全体のデータ量を圧縮できます。
すると、アナログ方式では1チャンネルしか送れない電波の幅(帯域)を使って、デジタル方式なら3チャンネル送れる、という話になります。CSデジタル放送は、帯域圧縮によって二百数十チャンネルという多チャンネル化を実 現しているのです。
第二に、「何でも送ること」ができます。
デジタル方式では映像、音声、その他のデータ(たとえばパソコンで扱うようなデータ)がいずれも「0か1か」に置き換えられるので、どれを送ってもよいのです。受信機側で元の映像や音声やデータに戻せばいいわけです。
すると、ある帯域を全部使って高精細度の映像を1チャンネル送る、同じ帯域を三つに分けて標準的な画質の映像を3チャンネル送る、同じ帯域を使って標準的な画質の映像2チャンネルとデータを送る、ある帯域を全部使ってラジオだけを何十チャンネルか送るといったことが、自由にできるようになります。
こうして、高画質放送やデータ放送も可能になります。CSデジタル放送では、高画質放送はやっていませんが、ラジオ100チャンネルが聴けるチャンネルを流しています。
Q BSデジタル放送には、どんなチャンネルがありますか?
A テレビ放送は表のような10チャンネル。
2000年 7月→8月末 実験放送(沖縄サミット)
2003年 地上デジタル放送がスタート ※この図表は潮編集部が作成したものです。 |
このうち、NHKの第1と第2はアナログBSとまったく同し画質で同じ内容。NHKのデジタルハイビジョンは高精細度で横長(画面比16対9)の映像です。なお、これは現在放送中のアナログBSのハイビジョンとは別の収送です。アナログのハイビジョンは受像機が100万台ほどしか売れず普及に失敗し、2007年に終了予定)。NHKを見るにはアナログBSと同じ受信契約が必要です。契約せずに見ると、画面隅にNHKへの連絡を促《うなが》すお知らせが表示されてしまいます。
WOWOWは、時間によってデジタルハイビジョンや標準画質のテレビ3チャンネルを切り換える予定。スターチャンネルはハイビジョンではないが、画面比16対9で地上波よりやや画質がよい放送。以上二つは有料放送です。
残りは民放5系列で、当面は無料広告放送。デジタルハイビジョンを中心に、地上波とは別の独自編成をする予定です。ただし、BS各局の制作力には限界があり、地上波や系列CS局の番組を使い回すケースもあるでしょう。
これ以外に、BSデジタル放送ではデータ放送やラジオ放送も始まります。データ放送はEPGと呼ばれる電子番組案内(新聞テレビ欄のようなデータ)のほか、天気予報などの情報番組、見ている番組の関連情報(たとえばスポーツ選手の成績表示)などを予定。ただし、実際に放送が始まらないと、どれほど実用的かはわかりません。BSデジタル放送では、受信機と電話回線を結んで視聴者が局に情報を送る「双方向サービス」ができますが、これも始まってみなければ確かな内容はわかりません。
Q BSデジタル放送を楽しむには、どんな機器が必要ですか?
A まず注意してほしいのは、現在のBSアナログ放送とは互換性《ごかんせい》のない、まったく別の放送であること。現在のBSテレビやBS内蔵ビデオでは、BSデジタル放送は受信できません。ただし、現在のBS用パラボラアンテナは、そのまま使うことができます。
BSデジタルチューナーは、2000年9月以降に定価10万円程度で発売される見込みです。BSアンテナとBSデジタルチューナーがあれば、BSデジタル放送はとりあえず映ります。
NHKや民放などほとんどのBS局が行う予定のデジタルハイビジョンを本来の高精細度で楽しむためには、新しいデジタルハイビジョンテレビが必要です。これは定価50万円前後。BSデジタル対応として売られているD3端子を備えたワイドテレビとチューナーがあれば、かなりの高画質で見ることができます。
いずれにせよ、テレビによってBSデジタル放送の映り方が異なりますから、購入は家電店で十分説明を受けてからにしてください。
Q BSデジタル放送の普及の見通しは?
A テレビを所管する郵政省やメーカーは、3年間で1000万台普及するなどと、大言壮語《たいげんそうご》しています。しかし、実際にはその10分の1も普及すれば、大成功だと思います。
というのは、BSデジタル放送はハイビジョンが売り物ですが、その高画質を楽しむために50万円も出す人が、そう大勢いるとは思えないから。並の画質で見るにも10万円が必要では、普通の人ならCSデジタル放送(チューナーとアンテナで3万円前後に毎月の視聴料が必要)を選ぶと思います。データ放送もパソコンや携帯電話で十分と思う人が多いでしょう。
さらに、肝心のBS放送局が、NHKやWOWOWを除いて消極的。企業がテレビに投入する広告費のGNPに占める割合は毎年ほぼ一定です。ということは地上波だけでも、地上波とBSを両方やっても、民放の収入は変わりません。ならばやるだけ損というのが民放の本音。機器の購入は番組を見てからにしたほうが無難でしょう。