メディアとつきあうツール  更新:2003-09-10
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

続・追跡!
放送局の郵政省人材派遣
報道機関をおとしめて
恥じないのは誰か

≪リード≫
放送局が郵政省に人材派遣をおこなっていることが明らかになった。
郵政省の打診に応え、局が若手を役所に手伝いとして送り込み、給与は局が支払う。
監督官庁と報道機関がひた隠す、この近すぎる関係はなぜだ? 
(「放送レポート」1996年01/02月号)

※付記 この郵政省へのテレビ局員派遣という愚劣な慣行、「放送レポート」が出た直後は郵政事務次官が定例記者会見で「問題ないと認識」と述べるなどと開き直り気味にゴマカシてました。しかし、ほとぼりの冷めた後、局ごとに五月雨式に目立たないよう中止したようです。総務省になって復活したかどうかは調べていません。

※後編、ようやく見つけてupしました。

「出向」「研修」の辞令もなく

前編発表後、社員派遣問題を伝える新聞 テレビ局は、見わたす限り、茫々《ぼうぼう》たる荒野である。私たちの前には、ほとんど救いようのない、寒々しい光景が広がっている。

 テレビ局は、阪神大震災やオウム・サリン事件が提起した「報道とは何か」という問いに、真剣に応えようとしているかに見える。だが、局がそんな問題を、熱心に議論すればするほど、滑稽《こっけい》に思えてくる。

 テレビ局が口にする「報道」とか「真実」といった言葉の意味を、局自《みずか》らが貶《おとし》め、空《むな》しくする事態が、一方でどんどん進行しているからだ。

 その事態とは、NHKと民放キー4局から郵政省に対して、職員・社員が派遣されている問題で、各局が見せた白じらしい対応のことである。

 まず、前号にも書いた人員派遣について、新しく確認できた事実を含めて、おさらいしておこう。

 NHKは、1987年6月から職員1名の派遣を開始。翌88年からはもう1人増やして、現在に至っている。TBSは91年から社員1名を派遣し、ほぼ2年の任期で交替。現在は3人目だ。

 日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日の3社は、今年6月の郵政省の人事以降7月から、1名ずつの派遣を始めた。

 派遣した職員・社員の給与は、テレビ局側が社内規定通りに支払い、社員としての身分にも変更はない。辞令が出ないケースがほとんどだが、一社だけ「派遣」という辞令を出している。「出向」や「研修」の辞令が出たケースは皆無である。

 にもかかわらず、これらテレビ局職員・社員のデスクは、霞ヶ関の郵政省にある。彼らは、自宅から郵政省に通勤し、郵政省で昼食を取り、郵政省から帰る。郵政省職員としての名刺を持っており、名刺では、国家公務員と区別がつかない。

 彼らが郵政省でたずさわっている仕事は、本質的に、郵政省の国家公務員、または臨時的任用による非常勤職員が行うべき仕事である。

 郵政省の職員だけでは手が回らない調査や研究を、代わりに行っているのだ。もちろん、役所の権力の源泉である監督、行政指導、免許、その他郵政省がテレビ局や国民に対し秘密にしている分野からは、隔離されているが。

 あるテレビ局の社員は、周囲で一番若いので、「同僚」の郵政官僚たちの弁当(と自分の)を買いに行くのが日課だ。弁当を買いにやらされるくらいだから、コピーだの、資料の仕分けだのも、当然やらされる。

 何のことはない、民間事業者の若い社員が、官僚の手足として、働かされているのである。

 なお、派遣された個人には何の責任もないから、取材は遠慮した。ただし、ある社員を知る人によると、派遣が終わったあと、彼は郵政と局に対する不信感の塊になっていたそうだ。

労務提供は「利益の供与」

 いま行われていることは、監督官庁である郵政省に対する、テレビ局からの「労務の提供」である。派遣した職員・社員の人件費に相当する「利益の供与」である。人件費にすると、少なく見積もっても1社あたり年間1000万円以上の額の利益が、供与されていると思われる。

 この金額を、テレビ局が郵政省に毎年1回現金で支払ったら、世間はおかしな目で見るに違いない。

 特定の職務を担当する国家公務員などに対し、法律上許されない利益を提供すると、提供した側は「贈賄罪」《ぞうわいざい》に、受け取った側は「収賄罪」《しゅうわいざい》に問われる。同じようなことが起こっているのではないかと、疑われるからだ。

 ところが、現金でなく労務が提供されても、やはりおかしいのだ。

 贈賄罪・収賄罪でやりとりされる利益、つまり賄賂《わいろ》は、金銭や動産・不動産などいかにも財産らしい利益だけでなく、有形・無形を問わず、人の需要や欲望を満たすすべての利益を指すからである。

 過去の判例は、金融の利益、債務の弁済、芸子(注:芸者・芸妓のこと)の芸、情交、公私の職務、有利な地位などを、いずれも賄賂と認定している。

 しかも、贈収賄が処罰されるときは、賄賂が実際にやりとりされず、申し込み、要求、約束などにとどまった場合でも、対象になる。

 仮に、現在のテレビ局からの人員派遣に、郵政省が役所として関わらず、役人が誰か1人だけ関わっていたとすればどうか。この場合は、社員が買い物やコピーをやらされていることは事実なのだから、贈賄・収賄罪が疑われて当然である。

 なんの見返りも期待せずに、社員をよそでタダ働きさせる会社など存在しないからだ。

 ただ、今回のように、郵政省が役所として組織的に人員派遣を求めている場合は、私的な利益関心によって職務行為が左右されたことにならず、ただちに賄賂うんぬんという話にはなりにくい。

 しかし、役人が個人でやれば疑われて当然のことを、役所を挙げてやっていることは確かである。

 そして、職員・社員を派遣している5つのテレビ局が、郵政省から、他のテレビ局が入手できない情報を得ていたというような事実が明らかになれば、組織的な贈賄・収賄罪が疑われてしかるべきだ。

 郵政省も、NHKも、民放キー4社も、それほど危ういことをやっているのだということを、もっと自覚したほうがよい。

「援助協力」が一転「研修」に

 さて、前号の記事の締切り直前に郵政省放送行政局総務課の担当者に取材した。このときの郵政省の言い分をまとめると、こうなる。

「(1)テレビ局からの人員派遣といわれているものは、あくまで『研修』である。(2)郵政省がテレビ局に対して、人を出してくれと頼んだり要請した事実はない」

 郵政省は、1996年9月の民放労連との会談では「短期間の援助、協力」と説明していたが、この表現からも、さらに後退した。

 一応、反論を書いておこう。

 まず、(1)の「研修」に関しては、実際に派遣職員・社員の仕事を見ている人物が、研修ではなく郵政省の仕事だと断言している。

 それに「研修」の辞令が1枚も出ておらず、社内公募もしていない。2年間の研修期間も長すぎる。研究テーマを掲げたり、局へ報告書を出している派遣職員・社員も見当たらない。

 さらに、TBSは郵政省から手当て(現金)を受け取っている。わざわざカネを払って受け入れる研修など聞いたことがない。

 (2)の 「郵政省は人を出せと要請していない」というのも大嘘《おおうそ》だ。

 まず、郵政省が派遣を要請してきたという、人員を送り込んだテレビ局側の複数の証言がある。

 郵政省は、人を出せと要請したうえに、複数の派遣候補者の履歴書を提出させ、その中から都合のよい人物を選ぶケースがあったことも明らかになっている。

 また、1995年10月26日付の『朝日新聞』朝刊はこう書いている。
<キー局の中で唯一、郵政省に社員を出していないテレビ東京の浦本紘・広報部長は「日ごろからの郵政省と局との情報交換の場で、郵政省側が社員派遣について暗に『いかがですか』とほのめかした」と、郵政省側からの働きかけがあったことを明らかにした。しかし、「局内で検討した結果、ふさわしい人材がいなかった」ため、見送ったという>

 なぜ、テレビ東京の広報部長だけがこのように発言したかといえば、人員を送り込んでいる放送局には、郵政省から「今回の件については、郵政省が要請したということは、一切ふせてほしい。テレビ局が自発的に研修を申し入れたという線で、押し通してほしい」と、要請があったからだ。郵政省の担当者と各局の担当者間で、口裏合わせが行われ、発 言が封じ込められたのである。

 ある放送局では、労組執行部が会社に説明を求め、「要請され、仕方なくやっていることだ」という説明を受けた。

 その後、正式な事務折衝(団交)で、会社は「局側から研修の打診をした。要請はなかった」と前言を翻《ひるがえ》した。同局の組合ニュースには、翻した後の説明が載っている。労組側が、「話が違うではないか」と突っ込むと、担当者は苦しげな表情で黙って下を向くばかりだった。

 郵政省事務次官の松野春樹は、
「研修や研究の目的で来ていることに特段、問題はないと思う」(95年10月27日付『朝日新聞』朝刊)
「放送局からの要望で研修を受け入れた」(95年11月8日付各紙に掲載された共同通信の配信記事)
 などと、郵政省の担当者と同じことを公言している。だが、「研修や研究の目的」という部分と「放送局からの要望」という部分が、事実誤認、または意図的に事実を曲げた発言である。

 事実誤認ならば、組織の末端で起こっていることが掌握できていないことを意味するから、管理の見直しが必要である。意図的に事実を曲げたならば、記者会見でそんなことはやらないほうがよいと、ご忠告申し上げる。関わった人間が多すぎて必ず底が割れてしまうからだ。

誰のためのNHKか

 さて、郵政省も郵政省なら、テレビ局もテレビ局である。

 以下の関係者の談話は、95年10月27日付『朝日新聞』朝刊、および95年11月8日付共同通信配信記事から引用した。

 いずれも郵政省による「口封じ」の後に公にされたものだが、それを割り引いても、ひどいものだなと思わざるをえない。

 まず、80年代後半から職員を派遣しているNHKの会長・川口幹夫はこう説明している。

「ハイビジョンに関しては郵政省に専門家がいなかったため、連絡しながら研究を進めようということで、詳しい職員を出した。調査研究と研修の一環ととらえており(後略)」

 だが、ハイビジョンに詳しいNHKの職員が、ハイビジョン専門家のいない郵政省で、いったい何を研修するのか。NHKは教える立場であって、学ぶことなど何もないはずではないか。

 しかも、そのNHK職員の人件費は、視聴者の支払った受信料から出ている。郵政省で働く人間の給料が、国民の税金からだけでなく、一部はNHK受信料によって賄《まかな》われているわけだ。

 視聴者はほんの2〜3か月前までは何も知らなかった。NHKからも、郵政省からもそのことを知らされてはいなかった。『放送レポート』の前号でその事実を発表して、そうと知れてからも、口裏合わせて「調査研究と研修の一環」などと口足っているのだ。いったい皆様のNHKなのか、郵政省の神南派出所なのか。はっきりさせてもらいたい。

 そもそも、郵政省が「ハイビジョンは時代遅れ。見直す」と一方的に決めつけた時点で、NHKは職員を引き上げるべきだった。あそこまでコケにされてなお、お上の意向を伺わなければならないとは、「世界最大の放送局」が泣く。

説明つかない民放社長発言

 民放連会長でもあるTBS社長・磯崎洋三は、
「TBSは平成3年から若手社員を派遣しているが、出向ではなく、あくまで研修。さまざまな多角的情報を知り、分析し、人脆を広げるためのプラスになる」
 と述べた。

 では、その通り研修だとして、なぜTBSだけが郵政省から手当てを受け取っているのか。郵政省放送行政局の担当者は、
「TBSの場合は、しかるべき任用手続きがあり、それに従って日当を支払っている。これは委託料のようなものだから、他社のような研修とは違う」
 と明言していた。

 担当者によると、ガードマンや食堂の賄いなどと同様、非常勤職員の扱いがなされ、国家公務員法に基づく正式な任用が行われている。そうでなくては、国庫から一銭たりとも支出はできない。

 だから、金輪際「研修」のはずがないのだ。それをなぜ「研修」と言い張るのか。郵政省に研修に出ているTBS社員に国庫金が支出されていることを、税金を支払っている国民、つまり視聴者には、どう説明するのだろう。

 TBS社長の磯崎洋三は、日本民間放送連盟会長でもある。そして、郵政省は民放連に対しても、人員の派遣を要請し、民放連は出す人間がいないので断っている。そのことを知ったうえでの発言なのだろうか。

 こんなことをいっている民放首脳もある。

「役所は情報の宝庫。マルチメディア化が進む中で、行政が何を考えているかが伝われば」(テレビ朝日社長・伊藤邦男)

 たった3行(注:初出誌は16字詰め)だが、問題は2つだ。

 第1に、郵政省は情報の宝庫ではない。役所が情報の宝庫なら、郵政省のニューメディア政策があれほど無残に失敗するはずがない。情報がほしいなら、NTTや海外の放送局で研修したほうが断然よい。

 第2に、労務提供(「研修」といいかえても結構)を通じて役所から情報をもらおうというやり方は、言論報道機関のすべきことではない。

 本当にテレ朝に情報が伝わっているなら、人件費を負担できる大企業は特別に役所の情報をもらえて、人を出す余裕のない中小企業は、もらえないことになる。

 これと、役所の情報をカネで買うのと、どこがどう違うのか。研修だろうが出向だろうが、カネのある者だけが得するという話ではないか。

 日本有数の新聞社出身のテレビ局首脳が、こんな発言をするとは、まったくどうかしている。行政との距離をあまりに置かずにきて、どこかひどく麻痺してしまった部分があるのではないか。

 マルチメディアは、郵政省が報告書で強調している内容を信じれば、「2010年に雇用240万人、マーケット123兆円」という巨大な「利権」である。郵政省にへばりついて、その利権情報を人より早く、人より詳しく手に入れることが、ジャーナリズムのなすべきことか。

 全然、そうではない。

 郵政省の報告書のいうような世界が、本当に国民のためになるのか。その世界を実現する過程で、不当に利益をかすめ取る輩《やから》がいないか。それをチェックするのが、ジャーナリズムではないか。

ただちに引き上げるべし

 どこまでいっても空しい、虚偽《きょぎ》となれ合いしか見当たらないテレビの光景を、荒廃といわずして何といえばよいか。私たちは、テレビを、このままにしてよいのだろうか。

 いまからでも、遅くはない。

 NHKと民放キー4局は、郵政省からの要請に従って派遣していた職員・社員を、ただちに引き上げるべきである。そして、郵政省内部で、自らの職員・社員のたずさわっていた仕事について、視聴者に対して説明をすべきである。

 それをした後に、なお局の方針として、郵政省で社員を研修してほしいというなら、きちんと「研修」の辞令を出して、郵政省に申し入れをすればよい。ただし、タダ働きで郵政省に労務を提供したと誤解されないように、何のための研修かを公表して赴《おもむき》き、研修後の成果報告も提出させる必要がある。

 郵政省も、人が足りずに因っているのなら、正々堂々と大蔵省にかけ合い、中途でもよいから採用者を増やすべきだ。それが本当に国民のためならば、誰も文句はいわない。

「研修だから問題ない」か「あきれ果てた話」か
――[放送局の郵政省人材派遣]の是非をきく

 「放送レポート」誌は以上の論考に続き、「『研修だから問題ない』か『あきれ果てた話』」とのタイトルで、識者14人の見解を付しています。そのリードと、本文を除く見出し・筆者名・肩書きを、参考までに掲げておきます。

≪リード≫
小誌が前号でとりあげた「発覚!放送局の郵政省人材派遣」について、郵政省事務次官およびNHK会長、在京民放4社の社長は、10月末に開いた個別の記者会見で一斉にこの問題に言及し、いずれも「研修が目的で問題はない」との考えを明らかにした。
そこで編集部では、<監督官庁と報道機関のこのような関係は本当に「問題ない」か>について、ジャーナリズムやマス・コミュニケーションの研究に携《たずさ》わる人たちに意見を求めた。以下に紹介するのは11月27日までに寄せられた14氏の回答である。(順不同)

疑わしき関係は清算を 佐藤 毅●大東文化大学教授

鼻もちならない尊大さ 新井直之●東京女子大学教授

報道機関の根元的問題 天野勝文●筑波大学教授

「贈収賄行為」の疑いも 渡辺武達●同志社大学教授

放送も"天上がり"とは 斎藤茂男●ジャーナリスト

無給秘書の発想 川崎泰資●大谷女子短期大学教授

報道機関の規範を逸脱 大蔵雄之助●東洋大学教授

免許権限手放すべし 桂 敬一●立命館大学教授

放送局の自殺行為 須藤春夫●法政大学教授

監督官庁へのゴマすり 関千枝子●女性ニューズ編集長

視聴者不在の交流 服部孝章●立教大学教授

公正保つルールもなく 竹内郁郎●東洋大学教授

美しき慣例 鎌田 慧●ルポライター

放送法の精神に反する 青木貞伸●メディア総研所長