メディアとつきあうツール  更新:2003-07-03
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

GALAC+ism(坂本衛執筆のGALAC巻頭言)2002年分

≪このページの目次≫

※目次の数字は執筆年月。「GALAC」は毎月6日に「翌月号」を発行しますので、掲載月号の「2か月前の20日前後」が執筆時点です。

※このページはスキャナによる読み取りでテキスト化しており、誤植が残っているかもしれません。ご容赦を。

ノーベル受賞の田中さん映像
テレビにあふれるが、大切なことは伝わっているか?

●テレビは北朝鮮から帰った5人と横田さん夫妻と蓮池さんのお兄さんの顔ばかり映している。と思っていたら、今度はノーベル賞の田中耕一さんの顔ばかり映しています。時の人、話題の人であることは間違いない。博士号もないサラリーマンがよくぞ、という気持ちもわかる。おまけに田中さんは「金メダルはチョコより重い」など、思いがけないおもしろコメントをするから大変テレビ向き。

●それにしても、と思います。私たちは田中さんがノーベル化学賞をもらったことは知っていますが、その理由、つまり彼の業績はなんで、それが科学や産業上どんな意味をもつかについてはなにも知りません。田中さんはいつも携帯電話をつけっぱなしで、記者会見の席には奥さんが電話を寄こしたと、極めてプライベートな情報まで知っているのに。考えてみると、なんともおかしな状況です。

●テレビは人に興味を持ちます。人に密着するカメラは、さまざまなおもしろいことを半ば「自動的」に映し出します。だから、どれが大切でどれが些細なことなのかは、テレビの報道者や制作者の側が、よほど自覚的にコントロールして伝えなければならない。会見場でカメラを回すだけではダメなのです。

●私は、どこかの局が「第2の田中さんを探せ」「うちの会社の田中さん」といった企画でも流すかと思ったのですが、一向に見かけません。ノーベル賞をもらった田中さんの会見にはとにかく行く。で、おもしろそうな話は何でもかんでも、それこそ箸《はし》の上げ下ろしまで報道する。しかし、肝心な情報は伝えない。田中さんを出発点に新企画を考えるでもない。弛《たる》んでいる、とは思いませんか。(「GALAC」2003年02月号)

BSデジタル失敗 地上波デジタル失敗も明らか
局は潰される前に立ち上がれ!!

●BSデジタル放送が始まって2年。実に、惨憺《さんたん》たるありさまです。受信機出荷は、プラズマを含む内蔵型テレビと、チューナー単体を合わせてわずか150万台(2002年9月末)。店頭展示品、流通在庫品、初期不良品、製造中止品、モニター・役所・イベント向け供出品を考慮すれば、普及数はその7〜8割以下だと、メーカーも認めています。デジタル方式CATVの普及も10万に達しません。

●高画質テレビの普及にもっとも貢献すると思われ、私たちが生きて2度と経験できない「W杯の自国開催」という世界最大のスポーツイベントをへて、なおこの惨状。もう、普及は300万を超えたなどと、ウソでごまかせる段階は終わりました。民放BSデジタル各社は経営的に成り立たず、キー局本体に吸収される方針が、総務省と関係各局の間で合意されています。衛星波の多様化を目指したBSデジタル放送は、既存キー局に電波を渡しただけで、惨《みじ》めな失敗に終わるのだといわざるを得ません。地方局は、何のためにBSデジタル化に協力したのでしょうか。

●BSデジタルの挫折《ざせつ》は、地上波デジタル放送に決定的な打撃を与えつつあります。すでに「ほかの局が辞めるといえば、辞めたい」と口にする東京キー局のトップもいます。3社そろって総務省に出向いて「うちの地方はデジタル化できない」といい、「じゃ、免許は出しませんから」といわれて引き下がった地方局もあります。なぜ、局は視聴者・国民を味方にしようとしないのか、不思議でなりません。総務省の失政で潰《つぶ》される前に、局は自らの見通しの悪さを認め、デジタル化計画の見直しを提言すべきです。(「GALAC」2003年01月号)

拉致された日本人の一時帰国
5人の動向以外に、伝えるべきことはないのか?

●小泉首相の訪朝、拉致された日本人8人の死亡、生きていた5人の一時帰国、北朝鮮の核開発と、北朝鮮関連のニュースが相次ぎ、テレビは連日5人の動向を伝えています。こんなときこそ、日本と朝鮮半島をめぐる諸問題について番組を作るべきだと思うのですが、それらしいものは一向に放送されません。

●たとえば1910年の日韓併合以前、日本に朝鮮人は1000人もいませんでしたが、1945年の敗戦時にはその数240万人。朝鮮半島は日本国の一部でしたから、徴兵、徴用、出稼ぎ、留学、移住、日本人と結婚など、さまざまな理由で渡ってきたのでしょう。しかし、この中には自由意志ではなく来日した朝鮮人が相当数含まれます。拒否することができない徴兵は「強制連行」と紙一重、そして強制連行は「拉致」と紙一重でしょう。そんな歴史を振り返る番組やコーナーは見当たりません。

●1973年には金大中・現韓国大統領が日本から韓国に「拉致」され、警察はKCAIの犯行と見ましたが、日韓政府の間で事件はうやむやにされました。70年代には南も北も日本を舞台に「拉致」事件を起こし、日本政府は無策だったという報道もありません。また、過去に北朝鮮を訪れては大歓迎された超党派訪朝団、あるいは赤十字だの外務省だのは、自らの責任をどう考えているのでしょう。そんなインタビューも見かけません。

●ワイドショーどころか定時ニュースまでもが、一時帰国の5人は何を食べた、近所の人や友人はどう歓迎した、どこの温泉に泊まったというレポートを流し続けています。テレビ報道は何を考えているのか。いや、なぜ何も考えようとしないのでしょうか。(「GALAC」2002年12月号)

北朝鮮「拉致8人死亡」で、小泉批判は筋違い
感情的な反応も強すぎる

●2002年9月17日の日朝首脳会談は、まさに歴史的なものでした。北朝鮮総書記・金正日は日本国首相・小泉純一郎に、拉致は特殊機関の英雄主義・妄動によると認め謝罪。「日本政府認定」6人死亡と「日本側が拉致と認めていない」2人死亡を伝達。不審船問題も謝罪。ミサイル発射も凍結。当面の問題はすべてむこうから認め、謝罪したわけです。

●予想外のことが起こると、政府や政治家やマスコミは妙な反応を示します。第1に妙なのが「なんてことを聞いてきたのか」との小泉批判。過去の政府、超党派訪朝団、ほとんどのマスコミが誰一人解明できず、する気もなかったことが首相によって初めてわかりかけたのだから、これは高く評価すべき。とりわけ事実を伝えるのが仕事のマスコミは、どのツラ下げて批判できるんだと呆れます。

●第2に妙なのは、金正日の「発言」は証拠がなければ「事実」と断定できないのに、8人死亡だけを既定事実として感情的に騒ぎすぎなこと。外交はウソのつき合い騙し合い。ワイドショーではないニュースは「金正日がこう発言。事実は未確認」と伝えるべき。この点は首相以下も、ショックで言葉を失うなどあまりにも幼稚と思います。

●第3に妙なのは、8人死亡で「こんな国とは国交正常化するな」という世論の盛り上がり。これは話が逆で「こんな国だから国交正常化して国を開かせ、体制を変えさせる必要がある」のです。小泉首相はそう世論を喚起すべきだし、今回の材料を最大限使って交渉の主導権を握るべきでしょう。ここが「害・無能省」にまかせると、なんとも心配な点ではありますが。(「GALAC」2002年11月号)

国と地方の借金合わせて700兆円を
誰かテレビで解説してくれ!!

●ニュースや経済番組を見ても、どうにも理解できず、それなのに誰もちゃんと解説してくれない問題があります。それは「国と地方の借金合わせて700兆円」なる問題です。

●私の知識でいえば、日本の国家予算は80兆円規模で、国債枠30兆円がどうのという借金分を除く額は、まるめて50兆円。一方、地方予算は90兆円規模で、国からの交付金・補助金や借金分を除く額は、まるめて40兆円。つまり、国と地方を合わせた税収は90兆円(実際は80兆円そこそこ)です。しかも、国は歳出の2割、地方は歳出の1割を、借金の返済(債券の償還)に振り向けています。

●ということは、個人でいえば年収900万円に満たない人が、毎年300万円やそこらを借金の返済に回しつつ、400万円ほど新たに借金を重ね、なお総額7000万円の借金を背負っているような状況でしょう。私の”常識”では、この借金は返すことができず、踏み倒すしかありません。日本の人口はそろそろ減りはじめ、バブル崩壊から10年後なお不良債権が拡大する状況では、税収が劇的に伸びる見込みも薄いはず。逆にいうと、ゼネコンは借金を踏み倒して生き残るのに、なぜ国や自治体の借金は踏み倒せないのか。誰か、テレビで解説してくれませんか。

●グローバル化など「第三の開国」が迫られた日本の状況を、幕末に重ねた人がありますが、私にいわせれば、現在の状況は1840年前後の江戸時代によく似ています。当時、莫大な借金を踏み倒した藩だけが雄藩となって明治維新を主導し、踏み倒せなかった幕府は崩壊しました。私は、この歴史は繰り返すのではないかと思い始めています。(「GALAC」2002年10月号)

ブロードバンド放送がどうのこうのは、
使ってみてからいってくれ!!

●わが家に光ファイバーがやってきて半年。まず驚愕したのが引き込み工事の難しさです。電柱間に張ったケーブルから4階ベランダまで引くのに、クレーン車が来て警備員も立つ。光ファイバーは、つなげば電気が流れる銅線と大違い。末端処理にさんざん手こずり、4人で半日がかりの大工事。1戸あたり数万円では無理で、町内をカバーするだけでも1か月はかかりそう。光ファイバー普及が2005年度までに700万世帯とかいう政府予測は、まったくデタラメと断言できます。

●テレビ脇にはHDD付きSTBが置かれ、光ファイバーとつながる。STBは無線式キーボードで操作でき、テレビがインターネットとつながるわけです。AI端末なるタッチパネル式小型パソコンもあって、これも無線で光ファイバーとつながる。私のパソコンはADSLのまま(屋内配線やパソコン設定が面倒くさすぎて断念)ですが、子どものパソコンは光ファイバーで常時接続。ADSLの数十倍は速い感じです。

●と、ここまではすごいが、では子どもがパソコン使いまくりかといえば、そんなことはない。相変わらず地上波ばかり見ている。録画するにもHDDではなくVTRを使っている。私はブロードバンド放送をADSLで見ることがあるが、マッチ箱程度の画面で、しかもアクセスが集中すればブチブチ切れるから、仕事でどうしても必要なものを夜中か明け方に見る以外、まず見ません。

●ブロードバンドが放送に代わるなどという人が少なくありませんが、本当に自分で使ってみたうえで主張しているのでしょうか。実は私は、おおいに疑っています。
※HDD=ハードディスクドライブ STB=セットトップボックス(「GALAC」2002年09月号)

W杯サッカーテレビ放映で
再確認できた「テレビとは?」

●W杯サッカーで、日本が負け韓国が8強入りした翌日に書いています。私事で恐縮ですが、30年以上も前のこと、私は熱烈なサッカー少年でした。クラマーさんや八重樫茂生さんが、本を通じた私のコーチ。サッカー番組は日曜夕の東京12チャンネル「三菱ダイヤモンドサッカー」だけで、岡野俊一郎コーチと金子勝彦アナに、世界のサッカーの見方を教わったものです。1試合を2週に分けた放映で、後半がなんと待ち遠しかったことか。

●当時は少数派だったサッカー少年なら同じ思いでしょうが、日韓共催W杯など夢のまた夢。日本の決勝リーグ進出もそれに輪をかけた夢。眼前で実現しただけで、「よくぞここまで……」というほかありません。

●同時に、今回の中継を見てテレビの本質がいくつか確認できたように思います。まず、テレビは中身であり、画質や画面比やサイズなんてどうでもよい話だということ。道端に置かれた10インチくらいの小型テレビを10人、20人の若者が見つめ熱狂する。それが、テレビであり、ソフトの力なのです。筋書きのない「生」のおもしろさこそ、テレビの最大の魅力だ、とも改めて思います。

●同一映像を同時多数に流して価値観を共有させ、バーチャルな共同幻想に支えられた、しかしリアルなテレビ共同体を生み出す、というテレビ装置の力も、体感できました。若者たちが叫び続けた「ニッポン」は、もちろん主として「日本代表」を指すものの、「日本国」とか「俺ら」の意味も含まれた一種の幻想。その意味の検証や、それを生み出していくテレビの検証が、今後さらに必要だと私は思います。

※クラマー=デットマール・クラマー。東京・メキシコ五輪日本代表ドイツ人コーチで「日本サッカーの父」
八重樫茂生=メキシコ五輪日本代表主将
岡野俊一郎=現日本サッカー協会会長(「GALAC」2002年08月号)

BSデジタルの普及数
「言論報道機関」ならば、水増し数字でない「実態」を伝えよ

●BSデジタル放送の普及について、実態と大きく異なる数字が流布されています。4月7日のNHK番組では「266万世帯の方がBSデジタル放送を楽しんでいる」と紹介されました。BSデジタルの普及数は、地上波デジタルの導入に影響します。実態を正確に把握しなければ、国民の税金をドブに捨てるような事態につながりかねないので、私がより実態に近いと思う数字を提示します。

●BSデジタル放送は、直接受信とCATVによる受信の2つがあります。直接受信については、受信機の出荷台数をイコール普及台数と信じている人が多いようですが、これは明らかな「誤り」です。本当に家庭に行き渡った普及台数は、工場を出た出荷台数から、店頭展示品台数、一次・二次問屋や小売店の在庫台数、初期不良による交換台数、役所や局への納入台数などを差し引かなければならない。マイナス分についての正確な統計が存在するわけではなく、詳細を述べる紙幅もありませんが、20万台程度を見込むのが常識です。出荷台数が100万なら、普及台数は80万以下と考えるのが合理的でしょう。

●CATVによる受信については、百五十数万世帯といわれますが、これも2ケタ違う水増し数字。というのは、その大部分はアナログ方式でただ流すだけ。画質は地上波並み、データ放送も楽しめず、絶対に「高画質BSデジタル放送の視聴」ではありません。デジタル方式で見ているのは5万世帯程度です。

●以上加えると、2002年3月末のBSデジタル放送の普及世帯数は、せいぜい八十数万世帯。これが「実態」です。違うと主張される方は、堂々と「反論」をお寄せください。

※紹介するに足る反論は、坂本のより詳細な論考とともに小誌に掲載致します。(「GALAC」2002年07月号) 
≪付記≫「GALAC」は、維持会員である主要放送局百数社に、毎月1社あたり最低10冊は送っており、総務省にも送っていますが、現在までのところ反論はNHKからも含めて1通も届いておりません。

メディア規制3法をつぶすもっとも簡単な方法
全局で報道のたびに「反対」といえ!

●メディア規制3法のうち「青少年」は、すでに脱落した模様です。あまりに穴が多く、対策協会が肥大化して行革にも反するため、自公の良識派が疑義を提出。今国会の上程は断念したと伝えられています。

●最大の問題は、政府が有事法制とともに最優先で成立させることを目論む「個人情報保護法案」。連休明けから論議が沸騰する見込みですが、官邸筋の確かな情報によれば、小泉純一郎首相は作家の城山三郎の強硬な反対を気にして「とても困ってる」。特集の城山論文で、その主張を吟味してください。

●自民党内では、どちらかといえばタカ派や堅物と見られる政治家でも「実は反対」という人が多い。個人情報保護法案を成立断念に追い込むことは、うまくやればそれほど難しくないと、私は思います。その方法はテレビが反対の意思表示をすることです。何もスポットをガンガンやれとはいわない。この問題を報道するとき「なお、私ども××テレビも反対です」といえばいい。露骨すぎると思えば「××放送は、所属する民放連を通じて、反対を表明をしております」でもいい。

●城山三郎は「もう年だしデモには参加できない。でも老骨に鞭打って、できることは全部やり、断固反対する。それが、あの暗黒の時代を生きた者の責任だ」という。放送局の社長以下、若い局員すべてにいいたい。こういう人だけに、自分たちを縛る法案への反対をまかせきりにして恥ずかしくないか、と。「局がそんなことしていいの?」と心配な人へ。大丈夫です。放送局が反対の主張をすべき根拠は、憲法と放送法。その精神からは、テレビは反対しなければいけません。(「GALAC」2002年06月号)

デジタルの「掟」補遺
誰にも破れない多チャンネルの「掟」

●2002年4月号小誌で私は、視聴者の大半が高画質に興味がなく、二十数万円の受像機は全世帯の3割にも普及しないと書きました。多チャンネル(以下ch)化のほうがまだ望みありですが、やはりこれにも原理原則――到底破れない「掟」があると思います。

●「掟1」は、視聴者が常時アクセスするch数には限界があり、絶対に1ケタ以下だということ。日に5時間テレビを見ても1分ずつ300ch見る人はない。30分番組なら番組数10、1時間なら5で、ch数は番組数を超えない。各種調査からも、ヒトの情報処理キャパシティからも、7chがせいぜい。BSやCSは、地上波のch数を削って見られているのです。

●「掟2」は、だから視聴者は誰一人として300chなど欲しておらず、300ch分のカネなど出さないということ。視聴者は自分に合う新しいchが3つ4つあればよく、数百chの中にそれが見つかるかもしれないから、多ch化を支持するだけ。この点、役所や業界やメーカーやアナリストの多ch観は、視聴者のそれとまったくズレており、非現実的な空論です。

●「掟3」は、当然の帰結として、多ch化は(メーカー以外)あまり儲かりそうにないということ。テレビ広告費の対GNP比率は一定、家庭の情報関連支出も横ばいか縮小ですから、全体のパイは同じ。それを多ch化でより大勢が分かち合うのですから、一放送事業者あたりの取り分は絶対に減ります。

●多ch化を手がける人には以上のようなことは「常識」だと思いますが、こうした原理原則を新聞やテレビは報じない。なぜか。役所や業界やメーカーやアナリストには不都合な話で、彼らが発表しないからでしょう。(「GALAC」2002年05月号)

「わからない」から「つまらない」ソルトレーク冬季五輪
テレビはもっと「わかる」工夫を!!

●ソルトレーク冬季五輪のテレビ中継を何度か見ましたが、イマイチ盛り上がりません。日本選手の活躍が少なかったせいもありますが、理由はそれだけではなさそうです。

●まず、実質的な参加国が旧ソ連圏を含むヨーロッパと北米に限られ、そのほかは日本など例外的な数か国だけという偏り。雪が降らず氷も張らないアジア、アフリカ、南米の顔は少なく、肌の色も限られます。これは、世界の祭りとしては寂しい。

●雪と氷の上を滑る競技が主で、そりが時速120キロで走り人が130メートル飛ぶというおもしろみはあるが、それが逆に興味を殺ぐことも少なくありません。選手はフルフェイスのヘルメットと空気抵抗の少ないスーツで全身つつまれ、顔の表情、滴《したた》る汗、躍動する筋肉などが見えない。また、大人数が同時に競技できず1人か2人で滑ることが多いため、記録会のようになってしまい、他者との駆け引きの妙、勝った喜びや負けた悔しさなどがストレートに出ない。競技そのものになじみが少ないから、技がどれほどすごいのか、勝負の勘所はどこかなども、よくわからない。

●こうしたことは冬のスポーツでは避けられません。でも、ある程度わかってくればおもしろみは増す。その「わかる」プロセスにテレビはもっと関われるのに、何もやっていない印象を強く持ちました。スピードスケートや一部のスキー競技は、コースの交差やカメラ位置で左右が入れ替わる。日本のスケート選手だけは黒ずくめに日の丸で識別できましたが、それ以外の選手は国名も名前もほとんどわからず、つまらなかった。画質や画面比を変える前に、やるべきことがあると思います。(「GALAC」2002年04月号)

人心を惑わしかねないあいまいで断片的な速報テロップ
報道部門の猛省を求める

●1月18日フジテレビ「笑っていいとも!」を見ていたら、キンコンと鳴り、ニュース速報のテロップが出ました。内容は「世田谷区内の病院で院内感染により患者7人死亡」。時計を見ると午後0時49分前後。ビデオを録っていたわけではないので、一字一句は必ずしもこうではなかったかもしれません。

●見た瞬間、私は「こりゃひどい。フジでテロップをつくり流してる報道の連中は、何を考えてんだ!?」と驚きました。誰に、何を伝えようとして流すニュースなのかが、まったく見えない。しかも、一歩間違えば、いらぬ風評を立て人心を惑わす恐れの強い、あいまいで断片的すぎるニュースだからです。

●これを見た多くの人は「そりゃ大変」と思うだけ。さらに効果があるとすれば、詳報を求める視聴者をNHKやインターネットに移すことくらいでしょう。しかし、これを見たごく少数の人は、病院名を知るため必死になって問い合わせを始めたはず。私の母は世田谷に住んでいますが、地元で入院中だったら必ずそうしたと思います。ならば最初から病院名を公表すべきです。「世田谷のどっかの病院で院内感染」のテロップを流してニュースを速報したつもりでいるスタッフは、報道を1から勉強し直したほうがよろしいです。

●報道は事実を伝えればよいと思っている人がいるようですが、とんでもない大間違い。「区内病院で7人死亡」「都内病院で7人死亡」「国内どこかの病院で7人死亡」――いずれも「事実」ですが、どの事実を、いつ、どう伝えるかは、報道する者の「主観」によります。主観がなく責任も取れない者には、ニュースを伝える資格などありません。(「GALAC」2002年03月号)